〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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原作のセラフィムを見て思ったんですけど、ロジャーの血統因子っていうか、クローンとかはさすがにないですよね……?

ハンコックのセラフィム、ルフィを見たら態度が乙女になったら面白いかも。


第22話〝18番GR(グローブ)事件〟

 海軍本部。

 シャボンディ諸島で再び起きた前代未聞の事件の報告を聞き、大将センゴクは頭を抱えた。

「またあの小娘か……!! 今度は民衆と海兵の前で爆殺とは、どういう神経をしとるんだ!?」

「つっても、さすがに今のロジャー海賊団と全面衝突するのはキツいぞ」

 怒気を露わにするセンゴクに対し、同じ大将のゼファーは冷静に……というか、どこかやる気なさげにボヤいている。

 〝鬼の女中〟の異名で恐れられるクロエは、ロジャー海賊団の中でも世界政府――厳密に言うと天竜人――に対する攻撃性が高く、戦闘狂のバレットとは違った意味の問題児。むしろ中枢の一部からはバレット以上の危険人物と認識されており、彼女を御せるロジャーに感心する者もいるくらいだ。

 そんなクロエが、またまた天竜人絡みの大事件を引き起こした。胃薬が友達になりそうだ。

「現在、サカズキ中将とクザン中将が応戦し、天竜人警護の任務中だったCP-0と共闘中!! しかし〝ワノ国の海賊〟の乱入もあって苦戦し、被害は拡大しつつあります!!」

「光月おでんか……」

 センゴクは胃がキリキリと痛むのを覚えつつも、伝令将校の報告を一言一句聞き、必死に対応を考える。

 今のロジャー海賊団は、はっきり言って大将一人では到底抑えることは不可能だ。ゴッドバレーの時の戦力のままならどうにかなったが、急成長したバレットとクロエに加え、凄腕と噂される侍も相手取らねばならない。その上にロジャーとレイリーなので、正直言ってキツすぎる。

 そうとなれば、やはり同期を連れて行くのが一番――センゴクはそう判断し、同じ部屋にいるもう一人の同期に声をかけた。

「おいガープ、ロジャー海賊団となれば貴様も出張れ」

「おれパス。ゴミクズの命令でロジャーをとっ捕まえたくないわい」

 嫌そうな顔でせんべいを頬張りながら要請を蹴ったガープに、センゴクはキレそうになった。

 ガープは誰よりもロジャーの拿捕に情熱を燃やすが、同時に大の天竜人嫌いでもある。海賊相手に同情の余地無しとはいえ、それ以上に非人道的な天竜人達の為に宿敵と戦うのは、あまりにもやる気になれないのだ。

 また私情かと溜め息を吐くが、ガープはそれだけではないと二つ目の理由を言った。

「ゼファーも言ってたが、()()()()今のロジャー海賊団を潰すのはキツい。クザン達が頑張っとるとはいえ、奴らと()り合えるのは一握り……民間人への被害や後始末も考えれば、分が悪いのは海軍(こっち)だ」

 そう、ロジャー海賊団は強くなりすぎているのだ。

 ロジャーとレイリーは言わずもがな、厄介なのはバレットとクロエ。二人は一味でも抜きん出た実力を持っている上、性格が性格だった。

 バレットは無益な破壊を躊躇わず、サイクロンのように暴れ回る。クロエは自分の自由を邪魔する人間は容赦せず、〝敵〟に対する攻撃性はロジャー以上に高い。しかも二人揃って覇王色の覚醒者で、総合的な戦闘力は大将にも引けを取らない。

 天竜人が皆殺しにしろと言っても、甚大な被害を被って痛み分けが精一杯だろう――長年ロジャーとその仲間達と激闘を繰り広げたガープだからこそ、そう結論づけることができた。

「まあ、天竜人への言い訳なんぞいくらでも言える。テキトーなところで切り上げときゃいいだろ。しかし爆殺とは一本取られたな、てっきりぶった斬ってくれるかと思ったわい。そのままゴミ掃除続けてくれねェかな……」

「ガープ!!!」

「ぶわっはっはっはっ!! すまんすまん、つい本音が出てしまった!!」

「おめェは昔から隠す気ゼロだろうが…」

 爆笑するガープに、ゼファーも釣られて不敵に笑った。

「仕方あるまい、行かねば面目が立たん」

「そうだセンゴク、ボルサリーノを連れてけ。あいつは能力に頼りすぎてるからいい機会だ、戦力としても申し分ねェだろ」

「……わかった、お前らは他の海賊の動向に注視しとけ」

 正義のコートをなびかせ、センゴクは出動した。

 

 

 シャボンディ諸島では、クロエ達が激闘を繰り広げていた。

 クロエは海軍を、おでんはCP-0を相手取り、戦線は膠着していた。

「〝(いぬ)(がみ)()(れん)〟!!」

 腕から流れ出すマグマを、犬の形に模して突撃させるサカズキ。

 クロエはそれを〝神凪〟で対応し、犬の形のマグマを真っ二つに両断。一瞬で間合いを詰めて至近距離で〝神威〟を放つが、間一髪でサカズキは回避する。躱された斬撃は建物を両断し、ヤルキマン・マングローブの幹を大きく抉った。

「〝氷河時代(アイス・エイジ)〟!!」

 すかさず、クザンが能力を使って凍りつかせようとする。

 クロエは一切慌てる素振りを見せず、地面に掌底を打ちこむ。八衝拳の衝撃が伝導し、地面を大きく揺らしてあっさりと迫る氷を砕いてしまう。

「八衝拳、厄介だな~~……!!」

「昔の私だったら、完封負けだった、さっ!」

 クロエは刀を構え、距離を詰めてクザンに迫る。

 クザンは〝アイス(ブロック) 両棘矛(パルチザン)〟で矛型の氷塊を無数に飛ばして迎撃するが、その全てを斬り落とされ、懐まで潜り込まれる。

「――っ!」

 ふと、クロエがいきなり後退して距離を取った。

 それを見たクザンは、「あーあー……」と残念そうに頭を掻いた。クロエが懐に潜り込んだところで、〝アイスタイム〟で抱き着いて凍結させようとしたのだが、見聞色の未来視で察知されてしまったようだ。

「完全に読まれちまってんなァ……」

「氷が効かんなら焼き尽くすまでじゃあっ!! 〝(めい)(ごう)!!!」

 サカズキはマグマと化した腕でクロエの体を焼き抉らんと、格闘を仕掛ける。

 正拳突き、掌底、連打……一瞬でも掠れば命取りになる灼熱の連撃を、クロエは未来視を駆使しながら的確に捌いていく。

「甘い!!」

 クロエは刀を逆手に持ち替え、柄頭で胸を穿った。

 サカズキはバランスを崩して数歩後退り、一瞬の隙が生まれてしまった。

 

 ズンッ

 

「ぐおっ……!?」

 刹那、距離を詰めたクロエの左手が、サカズキの鳩尾を抉った。

 武装硬化と八衝拳を駆使した、渾身の一撃だ。覇気でマグマの体を実体としてとらえ、そこに防御不能の衝撃波を打ち込んだのだ。

 ロジャー海賊団屈指の覇気の達人の拳に、サカズキは吐血しながら膝を屈した。

「サカズキ!!」

 クザンは焦った。

 クロエの格闘の強さは、想像を超えていた。剣術と覇気はクロエが圧倒的優勢だが、殴り合いでならマグマグの能力を持つサカズキが優勢だと思っていた。その考えが、一撃のもとに覆されたのだ。

「負ければ命までがこの世界……だが私はお前に恨みはない。一度はこれで許す」

「ゲホッ!! おんどれェ……!!」

 蹲るサカズキの首元に、刀の切っ先を突きつけるクロエ。

 殺意は感じ取れないが、有無を言わさない一言。それは、続けるなら殺す気で行くという宣告に他ならない。

「……言っておくが、貴様ら海軍の面子など私にとってどうでもいい話だ。その命すらな」

「な……何じゃ、と……!?」

 サカズキは睨み返すが、クロエは意にも介さず表情のない目で告げた。

 

「あんな腐り肥えた豚共の言いなりになってる時点で、正義も軍の体面も何もないだろう」

 

 クロエの辛辣な一言が、その場を支配する。

 天竜人によって、どれだけの人間が苦しめられ癒えぬ傷を負い、どれだけの犠牲を強いられたか。それに加担したのは正義の軍隊である海軍であり、諜報機関のサイファーポールも同様だ。

 その真実は、決して覆らない。この世の秩序を守るべき者達が、この世の民衆を苦しめる者達の横暴を見て見ぬフリをしているのだから。

(……自分の命は、どこまで行っても自分のモノだ。あんな外道の為に使うべきではないだろうに……)

 やりたい放題の権力者に付き合わされる海軍を憐れむクロエ。

 その同情にも似た眼差しに、サカズキは怒りに震える。

「あ~らよっとォ!!」

 すると、おでんが豪快にクロエの隣に着地。

 どうやら相手取っていた世界最強の諜報員達を撃破したようだ。

「……おでん、終わったのか」

「珍妙な術を使ってきたから、ちと手古摺ったがな。何なんだろうな」

「覇気や悪魔の実とは違う、〝六式〟という武術だ。政府側の面々の実力者は、大体習得している」

 曲者揃いのCP-0をも蹴散らし、能力者の海軍中将も制圧に近い形に持っていったクロエとおでん。

 とはいえ、レイリーからは余計なマネはするなと釘を刺された身。無理な相談だと言いつつも善処するようにしたつもりだが、いくらシャンクス達が狙われたからとはいえ、上陸早々に大事件を起こした以上、海軍と政府の報復をあと二日は耐えねばならない。

 これは参ったなと頭を掻いた、その時だった。

「〝八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)〟~」

 間延びした渋い声が聞こえたかと思えば、凄まじい数の光弾が降り注いだ。

 クロエは刀を振るい、覇気を纏った斬撃で弾き返していく。おでんも二刀流で捌き、難なくやり過ごした。

「ボルサリーノ……!」

「おォ……これはひどいね~、二人共ォ」

 現れたのは、灰色のスーツを着こなし帽子を被った、タバコを咥えた海兵。

 どう見ても堅気に見えない見た目だ。

「新手か……」

「さっきのは何だ!? 光の弾丸の嵐だったぞ!!」

 警戒心を強めるクロエに対し、未知の能力にどこか興奮気味のおでん。

 それを建物の上から眺めていた海兵――ボルサリーノは、「わっしは〝ピカピカの実〟の「光人間」だよォ」とあっさり返答した。

(……掴み所の無い奴だな)

 飄々としてるから腹の底が読めないな――クロエはボルサリーノをそう評し、見聞色の覇気で未来視をした。未来視をすれば、光速で動く相手であっても捉えることができるからだ。

 意識を集中させ、精度をさらに高めた時、クロエは顔色を変えた。未来視で、おでんが頭を蹴られて吹っ飛ぶのが視えたのだ。

「おでん、避けろ!!」

「は?」

「おォ……ちょ~っと遅かったねェ~」

 

 ドゴンッ!!

 

 覇気を纏った、光速の蹴りがおでんの頭を直撃。流石の彼も光への対応は困難だったようで、建物を次々に突き破りながら吹っ飛んだ。

 ボルサリーノはそのままクロエに容赦なくレーザー光線を放つが、未来視による先読みで躱されてしまい、逆に距離を詰められてしまう。

 クロエは至近距離で〝神威〟を放ち、斬撃を飛ばす。ボルサリーノは身体を光の粒子にして回避し、再び距離を取って構えた。

 

 チャキッ……

 

「あまり仲間が傷つくと、ロジャーがうるさい。悪いが、手出し無用で頼む」

 刀の切っ先を、ボルサリーノの喉元に突きつけた。

 その直後、クロエは自分に近づく冷気を感じ取った。

「!」

「〝アイスBALL(ボール)〟!!」

 

 ガキィン!!

 

 一瞬の隙を突き、クザンは冷気でクロエを氷塊に閉じ込めた。

 並大抵の海賊なら、これで勝負あったも同然だ。しかし三人はこの程度で捕らえられる相手ではないと判断しており、次の手を打てるよう構えている。

 その予想通り、十秒と経たない内に氷塊は至る所に亀裂が一瞬で生じ、バリィン! と音を立てて砕けた。

「だよなァ……覇気が尋常じゃねェからな」

 クザンは引き攣った笑みを浮かべた。

 クロエは冷気に呑まれる寸前、全身に覇気を薄い膜のように張り巡らせて冷気を遮断して防いだのだ。そして氷塊を覇王色を放出して砕き、難なく脱出してみせたのである。

「甘い!!」

 クロエは覇気を纏った一振りを放つが、ボルサリーノが〝天叢雲剣(あまのむらくも)〟と唱えて光の大剣を生み出し、真っ向から受け止めた。

 覇気の稲妻が迸る鍔迫り合いを演じていると、「ぐおっ……!」っという声と共に見慣れた大男が落ちてきた。バレットだ。

「バレット?」

 口から血を流し、傷を負っている弟分の姿に、クロエは眉をひそめた。

 その時、地響きと共に金色の巨大なナニかが降り立った。

「そこまでだ…!!!」

「センゴク大将!!」

「センゴクさん……!!」

 現れたのは、海軍本部の最高戦力〝仏のセンゴク〟だ。

 智将とも呼ばれる程の頭脳を持つセンゴクは、ヒトヒトの実の幻獣種・大仏に変身できる能力者であり、巨体を活かした肉弾戦や掌から発する強力な衝撃波で数多の大物海賊を相手にしてきた。

 その正義の鉄槌は、クロエにも向けられた。

「ぬんっ!!」

「ハァッ!!」

 センゴクは右手の掌から衝撃波を発すると、合わせるようにクロエが覇王色を纏った一振りで受け止めた。

 黒い稲妻が迸り、刃と掌が触れずに拮抗する。その間にバレットがブリッジの姿勢から起き上がり、センゴクの胴を思いっ切り殴りつけた。

「うぐっ……」

 一瞬顔を歪めるが、耐え切ったセンゴクは左手で拳を作り、バレットを殴りつけた。

 が、一度喰らった攻撃は二度も喰らうわけもなく、バレットは武装硬化した両腕を十字に構えて防御した。

「……随分と生傷が多いな。どこかで転んだか?」

「カハハハ……てめェこそ疲れが見えるぜ。走り込みでもしてたのか?」

 軽口を叩き合いながら、それぞれ拳と刀を構え、四人を見やる。

 クザンとサカズキは消耗しているが、余力が十分に残っているセンゴクとボルサリーノがいる以上、骨が折れる戦闘となるだろう。

「……さっき、おでんが伸びてるのを見たぞ」

「光の速度で蹴られたんだ、その程度でよく済んだものだ」

 クロエは刀に、バレットは武装硬化した両腕に覇王色を纏わせ、黒い稲妻を迸らせる。

 言葉はいらない。やるべきことはただ一つ。目の前の海兵共を叩き潰して船に戻る。

 その鉄の意志を目の当たりにしたセンゴクは、目を細めながら気迫を高め、大気を震わせた。センゴクもまた、覇王色の持ち主なのである。

「よく持ち堪えたな……立てるか、お前達」

「ええ……何とか」

「ここで折れる訳にゃあいかんので……!」

 センゴクは背後の若き戦力達を労いつつ、ロジャー海賊団の双鬼と呼ばれる若い海賊を見下す。

「狂犬共、容赦はせんぞ……!!」

「貴様らこそ、()()()なら私らも本気で潰しに行くだけだ」

「カハハハ……狼煙を上げるぜ……!!」

  

 ドォン!!! バリバリバリィッ!!!

 

『!?』

 全面戦争になる直前、桁外れの覇王色の威圧が襲い掛かった。

 この感覚を、クロエは知っている。このシャボンディ諸島において、これ程の規格外の覇王色を有する者など、彼以外にいない。

「おいおい、シャボンディ諸島を沈める気か二人共?」

「ロジャー……!!」

 愛刀(エース)を抜いたロジャーが、凱旋する将軍のように悠然とした足取りで現れた。

 怪物級の武力を有するクロエとバレットをも従える大海賊の登場に、ボルサリーノ達も一筋の汗を流した。

「久しぶりだなァ、センゴク」

「ロジャー、貴様……!!」

「クロエがおめェんトコの若い衆二人と揉めた件はともかくよォ……おれの仲間を奴隷にしようとしたゴミクズ共の肩をまだ持つってんなら、いくらおれでも黙っちゃいねェぜ」

「ぬぅっ……!!」

 周囲の建物に亀裂が生じる程の覇気を放つロジャーに、センゴクは唸る。

 ロジャーは仲間への侮辱や危害を非常に嫌う事でも知られ、その時の鬼のような苛烈さは凄まじく、場合によっては一国の軍隊すら潰す事もある程だ。

 今回は天竜人とは別件でクロエがまず騒動を起こし、その件については彼女が自分の責任は自分で取る主義である事を尊重して放置していたが、天竜人絡みで大事な見習い二名が奴隷になりそうになった。偶然戦闘中に居合わせたクロエによって爆殺されたが、仲間が天竜人の奴隷になる危機に見舞われたとなれば、それだけでロジャーは動くのだ。

「てめェらの道理に首は突っ込まねェが……これ以上()るならおれもやる。――っていうか、()らせろ!! 久しぶりなんだしよ!!」

「貴様は何をしに来たんだ」

 止めたいのか暴れたいのかよくわからない。

 クロエは「本当に読めない気風だな……」とボヤいた。

「……いや、おれもお前らとここで戦う気はない」

「何だと?」

「そもそもおれは既成事実を作る為にこの諸島へ来たんだ」

 センゴク曰く。

 今回の件は、冷静に考えれば海軍の全戦力でも投下しないと今のロジャー海賊団を壊滅させるのは不可能な上、一番血の気の多いガープや海軍随一の正義漢であるゼファーが乗り気じゃない。海軍を最前線で牽引する立場の二人が消極的である以上、センゴク一人では手に負えない。

 事実、シャボンディ諸島に向かってる最中にコング元帥から「あまり深追いするな」と告げられた。万が一にも大将が返り討ちに遭ってしまえば、海軍の面目が丸潰れになり、政府への信用問題につながるからだ。

 そこでセンゴクは、わざとロジャーを動かすことでシャボンディ諸島そのものが危険に晒されるという事態にさせ、撤退の口実を作った。海軍もCP-0も、表立ってロジャー海賊団とぶつかるつもりはないし、驕り高ぶる天竜人を騙す事自体もそう難しい事ではないのだ。

「……ちっ」

「ロジャー、それはどういう意味だ!!」

「何でもねェよ」

 舌打ちしながら愛刀を鞘に収める。

 どうやら本気で戦うつもりであったようだ……。

「仕方ねェ。帰るぞ、バレット、クロエ」

「おでんは?」

「すでにノズドン達が回収してるから、心配すんな」

 ロジャーは踵を返し、バレットとクロエを引き連れて立ち去っていく。

 本来なら、海軍は追撃せねばならない。天竜人をまた殺したクロエに、惨たらしい最期を与えねばならないからだ。

 しかし、それをするにはクロエは()()()()()()()()()()。〝神殺しのクロエ〟がロジャー海賊団の一員となり、ゴールド・ロジャーの部下として暴れるようになったことで、〝鬼の女中〟というおいそれと手出しできない存在になってしまったのだ。

「……センゴクさん」

「負傷者の手当て、被害状況の把握をするぞ。これ以上の戦闘は無益だ、「上」への報告は私に任せろ」

 溜め息を吐きながら、センゴクはロジャー海賊団への追撃を中止し、指示を飛ばした。

 

 この事件は、後に「18番GR(グローブ)事件」と呼ばれ、クロエの悪名をさらに轟かせると同時に、海軍とCP-0の大失態として語られる事となる。

 

 

           *

 

 

 ガンッ!

 

「っ……!!」

「跳ねっ返りが過ぎるぞ、クロエ」

「……フンッ」

 船内に戻ったクロエは真っ先に正座させられ、船員達に見られながらロジャーの拳骨――それも覇気を纏っている――を喰らった。

 クロエは甲板に上がる前から嫌そうな顔だったが、反抗する気持ちを抑えながら甘んじて受け入れた。ちなみにバレットは勝手にセンゴクに喧嘩を吹っ掛けていたらしく、その件で一足早く殴られ、反抗してボコボコにされた。

「弟に手を出そうとした豚共が悪い」

「その前の海兵共の件についてはどうなんだ?」

「……私の首を取りにきたから、返り討ちにしようとしただけだ」

 タンコブができたクロエは、そう言って不貞腐れた。

 海兵と戦闘になったのは、自分の自由を害したから。天竜人を爆殺したのは、弟に手を出そうとしたから。――それがクロエの言い分だった。

 海賊にとっての自由が、いかに価値のある事か……ロジャーは「自由」の信念を掲げている為、それがよくわかる。そして弟のように可愛がる仲間を奴隷にしようとしたゴミクズに、手を出して大ごとになってでも守りたいのも理解できる。

 そこばかりはクロエも譲れないのだろう。それを察したのか、ロジャーは「よくやった」と言ってニィッと笑った。全員無事だったからそれで良しとしたらしく、レイリーも「次は気を付けろ」と小言を言うだけで済ましてくれた。良くも悪くも器の大きい連中が揃っている。

 なお、おでんは頭を蹴られ吹っ飛んでいたが、身体が物凄く頑丈な為すぐ立ち上がったという。ただ、その時にはロジャーが動いた為、おでんは妻子を安心させるために船に早く戻ったらしい。

「……クロエ、お前何でおれの拳骨をそのまま受けた?」

 ふと、ロジャーはクロエを質した。

 他人に指図されたり命令されるのを嫌う彼女が、嫌な顔をしたとはいえ、なぜあっさりと拳骨を受け入れたのか。

 それについて、クロエはこう返答した。

「自由とは自己責任だ、自分の責任は自分で取る」

 その言葉に、ロジャーは「成程な」と笑った。

 

 それから二日後、コーティング作業を終えたロジャー海賊団は、魚人島を目指して出航した。




次回あたり、ワノ国まで触れられるかな?
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