〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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原作のオマージュも込めた個人的神回になりました。(自画自賛)
ちなみにこの話のテーマ曲は、REDのクライマックスで流れた「おれたちの新時代」です。


第27話〝新時代への宣誓〟

 ロジャー海賊団の解散宣言の直後。

 六年に及ぶ決闘の日々に終止符を打つため、ロジャーとバレットはある島で衝突した。

 その島は、かつて海軍基地があったが海賊との戦闘の末に廃墟となった無人島。互いに全力で暴れるに相応しい「戦場」だ。

「今日こそは貴様を倒す……!!」

「おう! いつでも来い!」

 不治の病の末期というハンデを背負ったロジャーと、肉体が全盛期を迎え始めたバレット。

 名実共に世界一となった海賊と、その強さを継ぐ若者の、正真正銘最後の喧嘩。

 先手を打ったのは、バレットだった。

「――〝鎧合体(ユニオン・アルマード)〟!!」

 バレットの両腕から紫紺の輝く物質が放たれ、ガシャガシャと音を立ててオーロ・ジャクソン号以外の瓦礫や廃墟を浸食し、変形と合体を繰り返していく。

 ガシャガシャの実の能力だ。触れた無機物を合体・変形・融合できるチカラで、様々な物体を組み合わせてより強力な武器を生み出すことができる。

 ガシャガシャと変形を繰り返し、ついにバレットは光の中へと消えた。その代わりに現れたのは、巨大ロボット……バレットが操縦する〝鉄巨人〟だ。

『デッケェーーーー!!!』

 いきなり度肝を抜く展開に、シャンクス達は大興奮。エマも初めて見るバレットの悪魔の実(ガシャガシャ)の能力に「まさかこの世界でロボット見れるなんて……」と驚きを隠せない。

 だが、バレットの真髄はここからだ。

《おれの強さを身を以って知れ!! ロジャー!!!》

 鉄巨人が拳を振り上げると、その拳が黒く染まった。

「あの状態で武装色を纏えるの!?」

「バレットの真髄は覇気だからな。規格外なのはロジャーも同じだがな」

 そう、バレットは覇気の達人だが、海賊王はそれ以上に極めている。

 ロジャーは愛刀エースに覇王色の覇気を纏わせ、両手で振るい真っ向から迎え撃った。

 

 ドォン!!

 

 軍艦より大きな黒い鉄拳と、ロジャーの愛刀が〝触れない鍔迫り合い〟を繰り広げる。

 互いの覇気が反発し、拮抗する。

 その衝撃の余波で、島は地震に襲われたように震え、海もうねり出した。

「ぬんっ!!」

《ぐっ……!!》

 ロジャーは一歩踏み込み、バレットの覇気を弾いた。

 鉄巨人は大きくよろめき、地響きと共に一歩後退った。

「〝神避〟!!!」

 すかさずロジャーは斬撃を飛ばし、鉄巨人の右手を吹っ飛ばした。

 オーロ・ジャクソン号で眺めていた船員達は唖然とした。ただでさえデカいのに、あの鉄巨人は全身に覇気を纏っている。強固な鎧に覆われてるも同然なのに、ロジャーはいとも簡単に斬り落としたのだ。

 だが、バレットは動じない。むしろ歓喜していた。

《カハハハハハ!!! それでこそロジャーだ!!!》

 すると、鉄巨人の左腕が武装色で硬化し、さらにバリバリと黒い稲妻を放ち始めた。

 覇王色だ。バレットは鉄巨人の腕に覇王色を纏わせ、とてつもない破壊をもたらすつもりなのだ。

《これこそ、おれが辿り着いた至高の領域……!!!》

「おいおい、マジか!?」

 これには流石のロジャーも危機感を覚えた。

 ただでさえ巨体ゆえに一撃の威力が尋常ではないのに、驚異的な破壊力を生む覇王色を纏えば、ロジャーでもモロに食らえば命の保証はない。

 バレットは勝ち誇ったように笑い、鉄巨人を動かし拳を振るった。

 

《〝ウルティメイト・ファウスト〟!!!》

 

 究極の拳打――武装色と覇王色を纏った、質量も威力も別次元の一撃が襲う。

 未来を視たロジャーは咄嗟に覇王色を纏い、真横から鉄巨人の拳を攻撃して軌道を逸らした。

 

 ドゴォォォォン!!!

 

 鉄巨人の拳は、何と島を割った。

 その衝撃は、火山の噴火や隕石の落下と同じ天災級の威力。砂塵が舞い、瓦礫と岩盤が飛び散り、その一部がオーロ・ジャクソン号にまで飛んできた。

「ギャアアアアアアアッ!! こっち来たァァァ!!」

「バレット、やり過ぎだってのーーーー!!」

「くそ、数が多すぎる!!」

 バギーとシャンクスが絶叫し、おでん達も慌てだす。

 レイリーは舌打ちしながら剣を抜くが、それよりも早くクロエが跳んだ。

 腰に差した化血を抜刀し、武装色の覇気を纏わせる。

「――〝(へき)(ふう)〟」

 クロエは化血を振るって斬撃の嵐を放ち、瓦礫と岩盤を次々と細々に斬り刻んだ。

 風神が起こす暴風のような攻撃で砕け散った破片が、水飛沫を上げて海岸に降り注ぐ。

 オーロ・ジャクソン号は無傷。船体はおろか、帆や旗にも傷一つついていない。

「おおっ……!」

「大した奴だぜ、全く……」

「撃ち落とす必要はなかったね」

 ギャバン達はホッとした表情を浮かべ、エマも構えていた銃を下ろした。

 

 

           *

 

 

 同じ頃。

 海軍本部が置かれているマリンフォードの一室にて、サカズキが手配書を睨んでいた。

 手配書の写真は、海賊王となって55億6480万ベリーの史上最高懸賞金額となったロジャーではない。その部下である20億越えの女海賊――クロエだ。

「……あの小娘……!」

 手配書をグシャリと握り、マグマの熱で燃やす。

 ここ最近だが、サカズキは夢を見ることがある。海軍とCP‐0の大失態として語られる、あの「18番GR(グローブ)事件」の夢だ。

 

 ――あんな腐り肥えた豚共の言いなりになってる時点で、正義も軍の体面も何もないだろう。

 

 蹲る自分の首元に切っ先を突きつけ、表情のない目で告げたクロエの一言。

 今思えば、あの言葉は侮蔑というより憐みの意味が込められていた。

 天竜人は、自分に逆らう者は誰であろうと()()。それは海兵も例外ではなく、ロックス海賊団を撃破したガープやワールド海賊団討伐に貢献したゼファーなど、厚い人望と多大な実績を持つ者以外は闇に葬られてきたのだ。

 海賊に同情されるなど、海兵として我慢ならない。

「あの時、刺し違えてでもぶっ潰すべきじゃった……!!」

 サカズキは、海賊という悪を滅ぼすためならば、どんな犠牲も厭わない。

 市民であろうと世界のバランスや秩序を脅かす可能性を残していれば容赦なく始末するし、逃せば強大な敵となる可能性を残す相手は勇み足になってでも潰す。当然、その為に己自身を犠牲にする覚悟もあるし、それが海兵としてあるべき姿と捉えている。

 だからこそ、あの時クロエを仕留められなかったのは、「徹底的な正義」を掲げるサカズキにとっては痛恨事であった。彼女の強さと影響力、何より()()()を考えれば尚更だった。

「わしは逃がさんぞ……徹底的正義に懸けて、必ず討ち取るけェのう……!!」

 燃えた手配書を灰まで焼き尽くす。

 ――いつか必ず、自分の手で〝鬼の女中〟を倒す。

 青きその先を見据えながら、サカズキは己の正義に懸けて誓いを立てたのだった。

 

 

           *

 

 

 ロジャーとバレットの決闘は、ついに佳境を迎えようとしていた。

《まだまだだぞ、ロジャー……!》

 バレットは鉄巨人を操り、ロジャーに猛威を振るう。

 山のような巨体の攻撃だ、避ければ避ける程に足場も逃げ場もなくなる。

 これは短期決戦しかない。

「ふんっ!!」

 ロジャーは跳躍し、覇気を纏った飛ぶ斬撃を何度も飛ばす。

 しかし、同じ手は何度も食らうわけもない。鉄巨人は先程よりも強く覇気を纏っているため、斬撃の効果はいま一つだ。

《カハハハ!! その程度か〝海賊王〟!?》

 ドンッ!! と鉄巨人の強烈な平手打ちがロジャーを襲い、地面にクレーターができる勢いで叩きつけられた。

 幸い、咄嗟に全身に覇気を纏ったので、ダメージはさほどではない。だが戦場では、それが一瞬の隙であり勝敗を決する。

《終わりだ……!!!》

 鉄巨人が右足を振り上げ、ストンピングを仕掛けた。

 武装色に加え、ダメ押しに覇王色も纏っている。勝負ありかと思われたが――

「詰めが(あめ)ェぞ、バレット!!」

《あァ?》

 ロジャーは覇王色の覇気を纏った斬撃を放ち、鉄巨人の足を付け根から抉った。

 バランスを崩した鉄巨人だが、バレットは動じない。

《カハハハ!! それがどうした!?》

 ガシャガシャの実は、合体の能力。たとえ切断されようが、再構築を始めれば千切れた箇所を結合させることができる。

 だが、バレットはそれに気を取られ、纏っていた覇気の鎧を僅かばかり緩めてしまった。

 その隙を逃さず、ロジャーが〝見聞殺し〟を発動しながら跳び、斬り込んだ。バレットやクロエよりも強大な覇王色の覇気を纏いながら。

「おりゃあっ!」

《何っ!?》

 バレットは咄嗟に緩めた覇気を先程以上に強く纏う。

 しかし、遅かった。その時にはロジャーの愛刀が鉄巨人に刺さっていた。

 

 ドォンッ!!!

 

《ぐわあああああっ!!!》

 刃に貫かれた鉄巨人の巨体が爆発し、ガシャガシャの実の能力が解除されていく。

 ロジャー渾身の一撃は最強の鎧を破壊し、内部にまで強烈な衝撃を与え、覇気を消耗したバレットはモロに食らって吐血。大ダメージを負いながら宙へ放り出された。

「スッゲェーーーッ!!!」

「流石船長だ!!」

「ウソだろ、あんなもん一撃で破壊できねェだろ!?」

 戦局が変わり、一気にロジャーが優勢になった。

 船の甲板から観戦していたシャンクス達の盛り上がりも、最高潮に達した。

「こっからが本番だぞ、バレット!!」

 ロジャーは叫ぶ。

 一瞬、意識が飛んだかのように見えたが、すぐさま鬼気迫る表情でロジャーに肉迫した。

「ロジャーァァァ……!!」

 バレットの表情に余裕はない。

 武装色と覇王色を長時間纏い続け、覇気を激しく消耗したバレットに、ガシャガシャの実の能力を発動する余力はない。残った覇気を纏っての格闘戦しか残されてない。

 だが、それこそがバレットが最もチカラを発揮できる戦術だ。

「バレット、かかって来い!!」

「上等だ……! どっちが本当の世界最強か、白黒つけてやる!! これで最後だァ!!!」

 バレットは残った全ての覇気を解放する。

 バレットの筋肉はパンプアップし、武装色によって身体全体が青黒い紺色に染まる。そして今までと違うのは、両腕から黒い稲妻が迸っていることだ。

 最も得意とする武装色で全身を、膨れ上がった両腕に覇王色を纏わせる、最強を超えた究極のダグラス・バレット……それをロジャーにぶつけるのだ。

「「おあああああっ!!!」」

 二人は咆哮し、斬撃と打撃による神速のドツキ合いを繰り広げる。

 ロジャーもバレットも、全力で屠りに来ている。最後の決闘だからか、六年間に及び決闘の日々の中で一番苛烈さを極めていた。

 その結果がどうなるかは、天のみぞ知る。

「うおおおっ!!」

 ロジャーは突きを放った。覇王色の覇気を纏った、強烈な一突きだ。

 だが、それはバレットの身体に届くことはなかった。

「こざかしい!!」

「っ!?」

 ロジャーの一太刀は受け止められた。白刃取りだ。

 バレットは渾身の力でロジャーから得物を奪い取り、放り投げた。

「くたばれ、ロジャー!! 〝最強の一撃(デー・ステェクステ・ストライク)〟!!!」

 バレットは最後の攻撃に出た。

 己自身で鍛え続けた肉体、そしてクロエから教わった覇気の高度技能……それらが合わさった、バレットが自負する最強で、ロジャーを倒すのだ。

 得物を手放したロジャーもまた、全身に覇気を流して身体の外に大きく覇気を纏って防ぐが、バレットの全身全霊の攻撃は反撃の隙を与えず、苦い表情を浮かべた。

「おれは世界最強になる男……!! ダグラス・バレットだァァァ!!!」

 ついに武装色のガードが破れ、〝鬼の跡目〟の渾身の一撃が〝海賊王〟の顔面に入った。

 終わりだ。

 バレットは確信した。覇王色を纏った拳で何十発殴ったと思ってる……!

 ついに海賊王の称号を得たロジャーが、敗北を――

「ちょっと待てよ……終わりにするにはまだ(はえ)ェぞ……!!」

「!!」

 ――喫しなかった。

 ロジャーはなおも立ち、ドゴッ! と拳を振るった。

「ぐおぉ……!」

 バレットの身体が、大きく揺れた。

 覇気を纏ったロジャーの拳が、次々とバレットに叩き込まれる。

「るおおおおおおおっ!!」

「貴様ァ……!」

 だが、バレットもタダではやられない。

 これは最後の決闘。限界の限界まで、己の全てを振り絞らねばならない。

 六年前のあの日の誓いを、果たすために。

 

 ロジャーも。

 バレットも。

 すでに肩で息をして、膝に手を突いて身体を支えていなければ、立っていることもできない。

 鍛錬も戦略も覚悟も、意味を成さない。二人を突き動かすのは、気力だけだ。

「「うおおおおおおおおっ!!!」」

 

 ドゴォ!!

 

 互いにノーガード。

 バレットの拳が、ロジャーの顔面を抉る。

「ぐぐぐっ……!!」

 ロジャーは歯を食いしばる。

 決して引かず、むしろ一歩前に出てバレットの顔を穿った。

「ぐあっ……!!」

「うおおおおおおおっ!!」

 武装硬化した拳で、バレットの胸や顎、鳩尾を穿つが、ガクッとロジャーは膝をついた。

 それを見て笑ったバレットもまた、どうっと仰向けに倒れた。

 互いの全てをぶつけた最後の決闘は、両者ノックダウン。引き分けに終わった。

「ハァ……ハァ……」

「ハハッ……強くなったなァ、バレット……!」

 どうにか自力で立ち上がったロジャーは、大の字で倒れるバレットに最高の賛辞を呈した。

 初めて出会った頃のバレットは、図体ばかり立派なガキだった。そんな彼が、勝利も敗北も武力以外のチカラも知り、いつの間にか自分に追いつく程に強くなった。

 それが嬉しいのだ。仲間を誰よりも愛するロジャーにとって、若輩の成長はこの上なく喜ばしい事なのだから。

「船長! バレット!」

「ったく、ギリギリの戦いをしやがって……」

 両者の決闘に、仲間達は呆れ果てる程の称賛を送る。

 するとバレットは、肘を支えに体を起こし、ロジャーに尋ねた。

「……ロジャー……一つ、答えろ……おれは、誓いを果たせたか……?」

「……ああ、果たせたぜ。()()()()()()()()()()()()()

 その言葉に、バレットは「物は言いようだな」と呆れた笑みを浮かべた。

 六年間に及ぶ決闘の日々は、ロジャーの勝ち逃げで終わった。不治の病に冒されても、最強のままだった。心底悔しいが、自分はロジャーに勝てなかったと認めざるを得ない。

 だがあの時だけは……ロジャーが自分より先に膝をついたあの瞬間だけは、心から笑えた気がした。約束を果たせたと、誓いを守りきれたと、そう思えた。ロジャーもそれに気づいていた。

「……ロジャー、おれはまだ諦めねェ…」

「!」

 血と汗に塗れた顔を拭い、バレットはロジャーに新たな誓いを立てた。

「白ひげも、ガープも、クロエも……!! この海で最も(つえ)ェ奴らを全員超えて、おれこそが〝世界最強〟だと証明してみせる……!!!」

 バレットは宣言する。

 世界最強とは、自称するような安い称号ではない。そのチカラを目の当たりにした万人が、口を揃えて伝説として語り継ぐ事で、初めて得られる称号だ。だからこそ、この海で名を馳せる豪傑達を超えねばならない。

 その豪傑達の中には、自分を打ち負かしたクロエがいる。それだけじゃなく、彼女が期待するシャンクスも、避けて通れないだろう。バギーは論外だろうが。

「……()()()()()()()。またいつでも来い」

 余命僅かなロジャーは、不敵な笑みを向けた。

 

 海賊王は、もうすぐ死ぬ。だがその生き様と死に様は語り継がれ、人々の記憶に残り続ける。

 死んだ人間は生き返らないから、亡くなった人の影を追うなと誰もが言うだろう。

 しかし、人は死のその時まで、信念ある限り戦う事ができる。人々がゴール・D・ロジャーの名を忘れない限り、バレットはロジャーに挑む事ができる。

 

 憧憬した男が発した一言の意味を酌んだのか、バレットは「次は勝つ」と笑った。

 憑き物が落ちたような表情に、クロエもどこか安堵したように微笑んだ。

 

 

           *

 

 

 壮絶な決闘の後、そのままロジャーは過去最大とも言うべき宴を開いた。

 まだ痛々しい箇所も目立つが、本人は至って元気。クロッカスもお手上げだ。

「そういやあ、おでん。おれァ死ぬ前に白ひげに会うつもりだ。イゾウもワノ国に帰すか?」

「いや、あいつはあの船に馴染んでいた。「白吉っちゃんを頼む」と伝えてくれ」

「へへっ!! わかった!!」

 肩を組みながら、ロジャーはおでんと酒を飲み交わす。

 ロジャー海賊団の最後の宴ともあり、盛り上がりは最高潮。

 レイリーもギャバンもジョッキの酒を煽り、仲間達も飲み比べを始め、シャンクスとバギーも無礼講だからと楽しんでいる。

「それにしても、酒強いなクロエ!! 前世も強かったのか?」

「結構強かったよ。ベロベロになったところ見たことないもの」

「お前が先に泥酔したからだろうが……」

 飲み比べでユーイやブルマリン、ジャクソンバナーを撃破したクロエに、シャンクスは舌を巻いた。

 思えば、彼女が酔っ払った姿を一度も見たことがない。深酒をしてもシラフと変わらないし、顔が赤くなることもない。彼女も相当な酒豪なのだろうか。

 そんなことを考えていると、クロエは徐に立ち上がった。

「トイレへ行く、少し席を外すぞ……」

「……? おいクロエ、トイレは反対だぞ」

「……? そうか……」

 船員(クルー)の一人・バンクロに指摘され、クロエは踵を返してトイレへと向かった。

 それを見たロジャー達は、唖然とした。クロエも何だかんだ酔ってはいたのだ。

「あいつ、顔に出ないタイプだったのか!?」

「全然知らなかった!!」

「六年間、同じ船に乗っててもまだ発見があるとは……!!」

 CBギャランやミレ・パイン、MAXマークスがそれぞれ驚きの声を上げる。

 そんな中、タロウが思い出したように呟いた。

「そういやあクロエの奴、完璧に見えて変な短所持ってるよな」

『…………ダーッハッハッハッハ!!!』

 数瞬置いてから、爆笑の渦が起こる。

 思い返せば、確かにクロエは割と短所も多い。

 新人歓迎ではシャンクスのイタズラに二回もハメられてるし、空島から青海へ戻る時の落下では唯一吐きそうになったし、料理する時は稀に「レンジ、レンジ……」とか言ってキョロキョロしたりする。

 要するに、非の打ちどころのない女傑に見えて、どこか抜けているのだ。だからこそ親近感が湧くのだが。

「おいおい、あんまり茶化して半殺しにされても責任取らんぞ」

「わっはっはっは!! まあいいじゃねェか相棒!!」

「いい訳あるか!! あいつは冗談が通じない時あるんだぞ!?」

 大笑いするロジャーに、レイリーは頭を抱えながら酒を飲み干した。

 

 

 最後の宴が終わり、甲板で大の字になったり欄干に凭れながら眠りに落ちる。

 そんな中、ロジャーは飲み足りないのか、酒瓶を片手に船首楼甲板へ向かった。

 階段を登り切ると、視線の先には意外な人物がいた。

(クロエ……?)

 クロエが、潮風を浴びながら酒を嗜んでいる。

 どうやら自分と同じ気分なのだろう――そう思って近づいて、気づいた。

 彼女は、泣いているのだと。

「……泣いてるのか」

「……ロジャーか」

 涙声で返すクロエ。

 ロジャーは目を細め、悠然とした足取りで近づくと、クロエがゆっくりと振り返った。

 琥珀の瞳は揺れ、涙が止まらない。

 

「……もっと、()()()航海(たび)を続けたかった……!!!」

 

 クロエはか細い声で本音を吐露した。

 生きることに嫌気が差して命を絶った前世を持つ彼女にとって、ロジャーと過ごした六年間は幸せだった。

 自由や自分らしさを得ることができ、気ままに振る舞えた。社会貢献もへったくれもない稼業で生きているが、充実感はあった。

 ――ただ、もう少しだけロジャーと一緒にいたかった。

「……死ぬのか、ロジャー……」

「ああ。もう永くねェ」

 ロジャーはクロエの顔にそっと指を這わし、涙を拭う。

 ――やっと、女らしい顔になれたな。

 ロジャーはその言葉を口にはしなかった。ここで失言してシバかれ、目も当てられない姿で仲間達と別れるのは御免だ。

「ロジャー……ありがとう」

「いいってことよ、仲間だからな!」

「……ああ」

 ニカッと笑うロジャーに、クロエも涙を堪えるように微笑んだ。

 

 

           *

 

 

 翌日、ロジャーはある島で船を降りることとなった。

 最古参のレイリーに言葉を掛け、クロエにオーロ・ジャクソン号の譲渡を宣言し、クロッカスから大量の薬を受け取った。

 ロジャーは港に降りてから、苦楽を共にした仲間達に手を振って別れた。

 レイリーも、ギャバンも、おでんも、シャンクスも……船員達は涙で顔をグシャグシャにしながら見送った。

 

 それからおでんが船を降り、一人、また一人と降りていく。

 クロッカスも、ギャバンも、レイリーも船を降りた。

 ついに残ったのは、若輩五人だ。

 

「ついに五人になったな」

「クロエとエマはこの船で自立するんだろ?」

「かーっ!! 派手に羨ましいぜ!!」

 軽口を叩き合いながら談笑する五人。

 しかし、次の島に着けばシャンクス達は船を降り、独り立ちする。クロエとエマも、三人の門出を見送れば一から海賊団を旗揚げする。

 この時間こそ、五人にとってのロジャー海賊団としての最後だ。そして今日で、クロエ達の()()()()()()()が終わる。

「ロジャーが最期を迎えれば、世界は大きく変わる……新時代がすぐそこまで迫ってると考えると、感慨深いものだな」

「よし!! じゃあ新時代の到来を前に宣誓式しよっか!!」

「いいなァ、それ!」

 エマが酒樽を取り出すと、全員が不敵な笑みを浮かべた。

 ロジャーへの感謝を込め、各々の独立宣言だ。

 

「私は自分の人生を完成させる」

「おれは世界最強の男になる…!!」

「クロエの海賊団を世界一に!!」

「おれは自分の船で世界を回る!!」

「お……おれは世界中の財宝を手に入れてやる!!」

 

 クロエ、バレット、エマ、シャンクス、バギーの順に樽に片足を乗せながら目標を告げる。

 

 前世では全うできなかった一生を今度こそ貫く為。

 憧憬した男に誓った野望を叶える為。

 親友を船長にした海賊団を世界一にする為。

 自由な冒険で世界中を見る為。

 誰よりもド派手な大海賊になる為。

 

 海賊王の想いや強さ、信念を受け継いだ五人の、最初で最後の宣誓式。

 最後の言葉は、年長者のクロエが締めくくった。

 

「行くぞ、新時代!!!」

「「「「おうっ!!!」」」」

 

 一斉に踵を落とし、威勢よく酒樽を割った。

 

 〝鬼の女中〟クロエ・D・リード。

 〝魔弾〟エマ・グラニュエール。

 〝鬼の跡目〟ダグラス・バレット。

 〝赤髪〟シャンクス。

 〝千両道化〟バギー。

 

 彼ら彼女らは、宣誓通りに世界屈指の大海賊に成長し、大海に君臨するようになる。




何か最終回みたいな展開になっちゃいました。(笑)
あくまで第一章終わりで、次回から大海賊時代です。
本作はまだまだ続きますよ!
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