個人的には劇場版キャラのシュライヤが好きなんですよ。容姿に性格、シャベル使った戦闘とか……STAMPEDEでも一瞬出てますし……。
あれで覇気覚えたら……うへへ。
海賊王の処刑から三日後。
〝
ロジャーの名が刻まれた墓標は、噴火口の跡のようなすり鉢状の湖の淵にある。そこから見える景色は、三方に分かれた運河と彼が制覇した大海原。
クロエは彼が生涯掲げ続けた海賊旗を立てると、弟分達が様々なお酒を供えた。無類の酒好きだったロジャーの事だ、酒が無くては死出の旅路も退屈だろう。
「……バレット、お前には礼を言う」
「フン……見送りぐらい静かでもいいだろ」
「違いない」
クロエは墓前でクスクスと笑う。
この島の名は「デルタ島」と言い、今のバレットがアジトとしている島だ。
デルタ島の外周は高波や強風の被害が大きいため、人の居住には不向きであり、中々に過酷な環境だ。元々無人島なので居住してるのはバレット一人であり、資源も少ないので海軍が補給に来ることもない。
世界政府の目を欺くにはうってつけの場所だ。この島へ案内してくれたバレットには、感謝してもしきれない。
「……なァ、クロエ。レイリーさん達を呼ばなくてもいいのか?」
「ロジャー船長もその方が派手に喜ぶと思うぜ」
「いや……場所は教えるけど、各々で墓参りに行くようにするべきだよ。解散したロジャー海賊団の元
「エマの言う通りだ、ここは身内だけが知る程度でいい。……こんな記事も出回ったしな」
クロエが見せたのは、新聞のある一面。
その見出しには、「ロジャーとクロエ、鴛鴦夫婦か」というとんでもないことが書かれていた。
記事によると、クロエがロジャーの遺体を奪い去った処刑の日、彼女は息絶えた海賊王を優しく抱き締め口づけをしていたため、何らかの
「この記事のせいで、世界政府は私とバレットを消すのに必死らしい。存在自体が不都合な上、私に至ってはロジャーの子を身籠ってると思われてるらしい」
「おれとクロエは、名を上げたいカス共にとって都合のいい標的だからな」
「分を弁えない痴れ者には困ったものだ」
クロエとバレットは、悠然と笑う。
海賊王の元
特にクロエは、天竜人の殺害や先日のロジャーの一件もあり、この海で最も不都合な存在となっている。バレットも一度はゴールド・ロジャーを継ぐと称されたので、多くの人間から首を狙われているが、クロエはそれ以上に狙われている立場なのだ。
それでも笑えるのは、海賊界でもトップクラスの実力を有しているがゆえだ。
「……今後しばらくは、この島の出入りは気を付けろ。バレたらバスターコールをされるかもしれない」
「い、いやいやいや!! 何もそこまで――」
「する可能性がかなり高い。掘り起こすよりも地図から消した方が都合がいいからな」
クロエは断言した。
世界政府が海賊王の痕跡を消すことに躍起になってる以上、今度はロジャーにまつわる全てを滅ぼす腹積もり。このデルタ島がロジャーの墓と知られれば、是が非でも島を沈めるだろう。それに〝
ならば、この島のことを秘匿し続けた方がいい。海賊王ロジャーの安らかな眠りを、何者にも邪魔されないために。
「あっ、そうだ! これを皆に渡さないと」
エマはコートの裏ポケットから、一枚の紙を取り出した。
「〝ビブルカード〟! お師匠から教わったんだ」
エマはニヤリと笑いながら説明した。
ビブルカードとは、呼ばれる人間の爪の切れ端を混ぜて作られる特殊な紙で、「命の紙」とも呼ばれている。紙に混ぜられた爪の持ち主がいる方角と生命力を啓示し、持ち主の生命力が低下すると焼滅を始めるが回復すると元に戻り、千切った一部を平らな場所に置くと持ち主の方向へジワジワと動く性質があるという。
そしてこのビブルカードは、クロエの爪を混ぜてあるという。
「シャンクスとバギーは、もしもの時の為に」
「ありがとな、エマ!!」
「無くしたらハデにマズいな……」
エマからビブルカードを受け取ると、シャンクスは麦わら帽子に挟み、バギーは懐に大切に仕舞い込んだ。
「バレットもどうぞ」
「チッ……何でこんな紙切れを……」
「またクロエに挑むんでしょ? 肝心のクロエがどこにいるかわからないと本末転倒じゃない?」
エマの言葉にぐうの音も出ないのか、バレットはしかめっ面で受け取った。
確かに相手の所在を把握できなければ時間の無駄だ。
「……じゃあ、私達はこれで行く。強くなったらいつでも来い」
「ハッ、せいぜいくたばらねェこったな」
ぶっきらぼうに言葉を返すバレットにクロエは表情を綻ばせると、言葉はいらないと言わんばかりに無言を貫き、オーロ・ジャクソン号へと戻っていった。
クロエに続き、シャンクスも彼からもらった麦わら帽子を被り直し、バギーと共に涙ながらに別れを告げた。
後にデルタ島には、シャンクスから預かった麦わら帽子を被った海賊が訪れる事になるが、それは遠い未来の話。
*
ここは大監獄インペルダウン「LEVEL6」。
別名〝無限地獄〟と呼ばれる、超大物や伝説級の危険人物が幽閉されているフロアのある独房で、大海賊〝金獅子のシキ〟は嬉しそうに笑い声を上げていた。
理由は一つ。クロエがロジャーの遺体を奪い去ったことだ。
「ジハハハハハ……!! やってくれたじゃねェか、ベイビーちゃん……!!」
口から出た言葉は、シキなりの最大級の賛辞だった。
シキは思想の違いから、ロジャーとは長年戦争に近い対決を繰り広げており、適合することはなかった。だが同じ時代をやってきた者として、誰よりもロジャーを認めていた。ゆえにロジャーが海軍に捕まったのは今でも信じられないし、あまりにも不甲斐ないと失望した。
そしてロジャーは、〝
そんな鬱屈した中で飛び込んだ、ロジャーの遺体を元
「海軍や政府のカス共から、よくロジャーを奪い返した……!!」
笑みを浮かべながら、シキは初めてクロエと出会った日々を思い返した。
当時の彼女はロジャーの部下ではなく、一匹狼のルーキー海賊。だが彼女はシキが見下すミーハーではなく、ロジャーや白ひげと同じ「本物の海賊」の気配を纏っていた。しかも覇王色の覇気の覚醒者で、とんでもないポテンシャルの持ち主でもあった。あの日以来、シキは彼女のことを何となく気にするようになり、その動向には注視していた。
次に会ったのは、新世界エッド・ウォー沖。クロエがロジャーの部下となり、初めて本格的に戦った時だ。最初に出会った頃とは比べ物にならない強さと覇気を得て、世間でロジャーを継ぐと言われる〝鬼の跡目〟と共に艦隊を蹂躙した。その時の強さを目の当たりにし、シキはクロエを一目置くようになった。
そして、今回の大事件。シキの中でクロエの好感度は鰻登りだ。
彼女もまた、ロジャーにこだわる人種なのだろう。
「見てろよ、ロジャー……!! ジハハハハハ……!!」
一度は牙を折られたシキは、ひとまず先日の傷を癒しながら、今後の計画を人知れず描き始めるのだった。
*
数週間後。
〝
「ぐっ……」
「……私の勝ちだな、レッドフィールド」
切っ先を突きつけるクロエの前で倒れるのは、黒と赤を基調としたマントや衣装を纏い、胸に青色の薔薇を付けた長身細身の男。
男の正体は、〝赤の伯爵〟パトリック・レッドフィールド――かつてロジャーや白ひげ、金獅子と同じ時代をやってきた大海賊の一人であり、誰とも組む事なく渡り合った事から〝孤高のレッド〟とも呼ばれる超大物だ。
「ハァ、ハァ…………我の〝見聞色〟が通じないとは……」
「〝見聞殺し〟で無効化したんだ、大した方だと思うぞ?」
化血を肩に担ぎながら、クロエはレッドフィールドの実力を称えた。
初対面ではあるが、クロエはレッドフィールドの噂は度々耳にしており、レッドフィールド自身も一人海賊として暴れ回っていたクロエを意識していた。いきなり戦闘となったが、こうして対峙するのは孤高の海賊としての運命とも言えた。
その戦闘も、当初こそレッドフィールドの強力な見聞色で気配をカモフラージュされて苦戦したが、〝見聞殺し〟を発動した事で形勢逆転。覇王色の覇気を纏った攻撃で猛反撃して一気に彼を追い込み、一瞬の隙を突いて鳩尾を八衝拳で殴って悶絶させ、〝降伏三界〟で飛ぶ打撃を叩き込んで勝利を収めた。
「……私はもう気が済んだ。ここまでにしておいてやる」
「……フィ~」
「ったく……手当てするからこっち来い、船長」
戦いを見届けたエマは安堵の溜め息を吐き、ラカムは呆れ返った。
クロエは大人しく治療を受けていると、レッドフィールドが声をかけてきた。
「待て、〝神殺し〟……!!」
「……あまり無理するな」
「我は全て捨ててきた……!! ロジャーや白ひげに勝つ為、仲間も情も捨てたというのに……!! 我は、貴様にも勝てなかった!!」
血反吐を吐く勢いで、レッドフィールドは叫ぶ。
圧倒的を通り越して、異次元とも言うべき強さを有したロジャーと白ひげ。その絶対的な力の差を前にレッドフィールドはこの海の王者になる夢を諦めた。だがそのまま海賊稼業から退く事はせず、せめて最後にと自らと同じ「孤高の海賊」であったクロエを倒し、再起を図ろうとした。
だが、レッドはクロエに敗北した。凄まじい力の差を見せつけられて。
「貴様はロジャーの傍に居ただろう……!? 我はロジャーやニューゲートと、何が違う!? なぜ奴らはあんなにも強い!? 答えろっ!!」
「捨てようとしなかったところだろう」
クロエの即答に、レッドは目を大きく見開いた。
「全てを捨ててきた貴様と、一度も捨てる事をしなかったロジャーとニューゲート……その時点ですでに実力差はついたんだ」
「何、だと……?」
「大事なモノを全部守りたいから、ロジャーとニューゲートは強いんだ。……パトリック・レッドフィールド、貴様にとって大事なモノは何だ?」
クロエの言葉に、レッドは何も言えなくなった。
全てを捨てるということに、大事なモノ――仲間や情けも含まれていたのだ。
野望の為に仲間を切り捨てたレッドと、仲間と共に野望を叶えたロジャーとでは、そもそもの海賊としての在り方の時点で勝敗が決していたのだ。
「私が一人海賊としてやってたのは、別に仲間は弱さだと切り捨てたんじゃない。単に性に合ってたからだ。そしてロジャーとぶつかって負けて、成り行きで仲間となった」
「貴様が一人海賊だったのは……我の思い違いだったのか……」
「バレットはまた別だがな。……まだ
笑みを溢すクロエに、レッドフィールドは「我も気は済んだ」と笑った。
「ロジャー亡き今はニューゲートの時代……そして我はロジャーを継ぐ者にも負けた。もはやこの海に思い残すことはない……」
「ウソだよ」
自嘲したレッドの言葉を、エマは一蹴した。
いつものノリの軽さは鳴りを潜め、眼差しは真剣そのものだ。
「……何を言う、王直の娘」
「自分の名をこの海に知らしめて、ロジャー船長のように時代に名を残す海賊になりたいって、まだ顔に残ってるもの」
エマの言葉に、レッドは青筋を浮かべて睨みつけた。
それでも、エマは一切怯む事はなかった。
「レッドさん……何ですぐ夢を捨てるの? 実力差がありすぎたから? それを言うならクロエやバレットだってロジャー船長に負けてるし、私だってお師匠にまだ及ばないよ! そうやって安易な道を選んでるからじゃないの!?」
「黙れ、王直の娘!!!」
「誰が黙るもんかっ!! ロジャー船長は不治の病を患っても、それを言い訳に世界一周を諦めたりはしなかった!! 夢を追うことの楽しさと苛酷さから目を背けなかったロジャー船長に、夢を安易に捨てるあなたが敵いっこない!! 必死に夢を追う人間を侮辱するな!!!」
覇王色を放ちながら感情を爆発させたエマに、前世も含めて怒ったところを見た事がないクロエは息を呑み、ラカムもその気迫を前に一筋の汗を流した。
一方のレッドは、圧倒的な力を持っていたロジャーが不治の病を患っていたという事実に、衝撃を受けていた。
本当ならその時点で夢を諦めてもいいのに、ロジャーは諦めずに必死に命を繋ぎ、前人未到の世界一周を成し遂げたというのだ。それに対し自分は、肉体は全盛期を過ぎようとしているが限界を迎えたわけではないし、心も燻ぶっているというのに、夢を追う気を捨てようとした。
確かに、エマの言う通りだ。
「ハァ、ハァ……」
「落ち着け、副船長」
「……それで、我をどうするつもりだ……」
ラカムが息を荒くするエマを宥める中、レッドはクロエに質した。
海賊の世界では、負けたら命までとられても文句は言えないし、卑怯という言葉も通用しない。ゆえに海賊の世界の勝者は、敗者の生殺与奪を握り、煮るなり焼くなり自由なのだ。
クロエは悪名高き〝鬼の女中〟。世間では非常に攻撃的な海賊として知られ、海賊王の船員の中でもとりわけ危険視されていたという。彼女が噂通りの女ならば、ここで自分を葬ってもおかしくない。
だが、彼女が発した言葉は耳を疑うものだった。
「レッドフィールド、私の船に乗れ」
「何っ……!?」
「「ハァッ!?」」
クロエは何と、レッドフィールドを自分の一味に入るようスカウトした。
いくら負けた相手を煮るなり焼くなりできるとはいえ、あまりにも突拍子もない。
「……理由を、聞こうか」
「私はロジャーに負けたから仲間になった。自分から申し出たわけじゃない。……ならば私に負けた貴様も、私の言葉に従う責任が生じるだろう。ちょうど仲間集めの最中だしな」
「え~? 本当はロジャー船長を直接知る人を減らすのが嫌なんじゃないのォ?」
ぶっきらぼうに返事するクロエを、エマはニヤニヤしながら茶化した。
クロエはロジャーに対する想いが強いから、若い頃からロジャーを知る人間を仲間にしたかったのではないのか……エマはそう考えているようだ。
「そこんところ、どうなの? 教えてよ、クロエ船長」
「エマ……今日の夕飯、お前の皿にだけタタババスコかけてやろうか」
「すいませんでしたっ!!」
クロエに睨まれ、エマはキレイに頭を下げた。
ただ反応としては、エマの指摘は一理あるようだ。
「レッドフィールド、嫌なら結構だ。それもまた自由だ」
「……我を従え、海の支配者を目指すか?」
「的外れもいいところだな。海賊に支配なんてものは似合わないだろう」
クロエの言葉に、レッドフィールドは無意識に
誰よりも自由を愛し、誰よりも支配を嫌っていた、かつてのライバルを。
(面白い女だ……)
ロジャーの生き様を見続けてきた女の返事に、〝赤の伯爵〟は口角を上げて気を失った。
*
翌日、レッドはオーロ・ジャクソン号に乗船した。
完全に傷は癒えてないのか、今のレッドフィールドは包帯をあちこちに巻いた痛々しい姿だが、それでもなお威厳を損なわないあたり、流石と言えよう。
そんな中、全員で食事を摂っているとラカムが口を開いた。
「……船長、あんたは世界転覆でも考えてるのか?」
「急にどうした?」
突然のラカムの言葉に、三人の視線が集中する。
「よく考えろ、この
「え? どこが?」
「政府からしたら不都合のバーゲンセールだろ、この面子」
ジト目で呟くラカムに、その意味を察したクロエとレッドフィールドは愉快そうに笑い、エマは顔を引き攣らせた。
現状たった四人だが、その内の二人は元ロジャー海賊団で、先日加入したばかりのレッドフィールドも元を辿れば海賊王世代の大物。しかもクロエはガープとも戦った〝錐のチンジャオ〟に拾われて成長し、エマに至っては〝王直〟の寵愛を受けてきた。
クロエ海賊団は、ロジャーだけでなくロックスの系譜も引いていたのだ。この事実だけで懸賞金が一気に跳ね上がるだろう。
「おれなんか覇王色持ちじゃないし、ボンボンな経歴でもないし……」
「案ずるな、我も覇王色の使い手ではない」
「ハァ~……伝説の海賊の英才教育は違うな……」
そうボヤいた時、水兵帽を被って首から新聞の束を入れた赤いカバンをぶら下げたカモメが降り立った。
世界政府が広報のために新聞配達を行わせているニュース・クーだ。金さえ払えば誰でも新聞を購入することができるため、世界情勢を知る上では欠かせない情報源だ。
「……やっぱりな。一面で載ってるぞ」
金を払い、一面に目をサッと通してクロエに見せつける。
一面には、「〝孤高のレッド〟、クロエ海賊団加入」という見出しが載っていた。情報が出回る早さに、レッドとエマは感嘆とした。
記事によると、悪名を轟かせるクロエの首を取らんとしたレッドフィールドが返り討ちに遭い、彼女に従いクロエ海賊団に加入したと書いてある。あながち間違いではないので、真っ向から否定はできない。
「……これで我に逃げ場はないという事だな」
レッドフィールドは諦めたように笑うと、クロエを見据えた。
「……こうなった以上、責任は取ってもらおうか。クロエ・D・リード」
「ああ……クロエ海賊団へようこそ、パトリック・レッドフィールド」
クロエとレッドフィールドは握手を交わす。一味最年長の正式加入だ。
エマはニカッと笑うと、嬉しそうに声を上げた。
「やったね! じゃあ宴しようよクロエ! 新しい仲間の為に!!」
「今はそういう気分じゃないから、また今度な」
「我も同じく。病み上がりだ」
「おれも。少し新聞を読みたい」
要望を三人に一蹴され、エマは「ノリ悪すぎない!? この一味!!」と頭を抱えたのだった。
エマちゃんも一度キレると中々に荒ぶるんです。(笑)
次回あたりから、クロエ海賊団が本格的に暴れます。
カイドウとワノ国を懸けた戦争とか、バスターコールかけられたとか、脱獄した金獅子の来襲とか……色々ネタはあるんで、乞うご期待。