〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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ついにクロエが海賊として名乗りを上げます!
ただ、バレットと同じ「一人海賊」ですけど。


第3話〝初陣初勝利〟

 クロエは真の自由を得るため、鍛錬を続けて「女」を捨てた。

 それによってか、身体の変化はそこらの女性とは一味違った。

 

 体は華奢ながらも程よく引き締まり、腹筋もくっきりと割れている。身長は十代前半ながらも二メートル以上の長身となり、短かった髪の毛は腰まで伸びたため、首のあたりで一つに結んだ。過酷な修行によって顔にはいくつかの傷が刻まれ、女子というよりも歴戦の女傑と例えるのが相応しい。

 服装も動きやすさを重視し、群青色のシャツと灰色のズボン、赤い腰巻を巻いたカジュアルな出で立ちに。スカートやワンピースは拒み、自分ならではの戦装束で身なりを整えた。

 最近ではチンジャオの口調がうつったのか、一人称はいつも通り「私」だが二人称が「お前」に加えて「貴様」を口にするようになった。

 

 元々無愛想な方であったクロエだが、鍛錬と共に成長して無愛想ぶりに拍車がかかったことに、チンジャオの部下達は嬉しいが複雑な気分であった。

 

 そして、チンジャオの下に身を寄せて六年。

 ついに運命は動き出した。

 

 

           *

 

 

(……!)

 瞑想で見聞色の鍛錬をするクロエは、目を開けた。

 海賊チンジャオに拾われて六年。スパルタ修行で心身共に鍛えた彼女の見聞色は、ついに数秒先の未来を予知できる程にまで成長した。

 そして先程見た未来は……刀を手にしたチンジャオの来訪だ。

(……何で刀なんか……?)

「クロエよ!」

 バンッ! と威勢よく扉を開けるチンジャオ。

 クロエは徐に立ち上がると、チンジャオに顔を向けた。

「……約束は果たしてもらう」

「ああ……だがその前に、お前に私からの〝餞別〟をやろう」

「?」

 チンジャオがそう言ってクロエに渡したのは、一振りの刀。

 抜いてみると、その刀身は異様なまでに赤黒く、まるで血を吸ったような文字通りの「人斬り包丁」と言える。

「真っ赤な刀……!?」

「その刀は妖刀〝()(けつ)〟!! まるで血を吸ったように赤黒い刀身を持つことから、生き血が化けた刀とも呼ばれている業物だ。斬れ味と強度は抜群の名刀だぞ? 気になるなら試し斬りでもするか?」

 チンジャオの言葉に頷き、クロエは外に出た。

 するとどこからともなく、彼の部下である海賊達が大岩を乗せた台車を引っ張ってきた。

「まずは振ってみよ」

「……ふん」

 クロエは無造作に化血を縦に一閃した。

 

 ズパンッ!

 

「んなっ!?」

 たった一振りで、大岩はいとも容易く真っ二つ。

 それどころか、台車ごと両断してしまっているではないか。

「何だ、今の手応え……!?」

 クロエは手にしている刀の斬れ味に度肝を抜いた。

 真っ二つにした大岩は、台車の上とはいえ身長が二メートルを超えた自分でも見上げる程の大きさ。当然、その分当たった時の手応えは感じるし、覇気も纏わせず無造作に振ったので刃こぼれもありえた。

 が、化血の刃は欠けてるどころか一ミリも曲がっておらず、鈍く赤く輝いている。

「主人の斬りたい時にだけ斬れるのが名刀。しかしその一振りは妖刀……意味は解るな?」

「……()()()を寄越したのか?」

「フフン!」

 チンジャオは不敵に笑う。

 この刀は、おそらく()()()()()斬ってしまうのだろう。持ち主を死に至らしめる……というわけではなさそうだが、曰く付きといえば曰く付きだと断言していいレベルの代物だ。もしかすれば、この特性が化血を「生き血が化けた刀」と噂される理由かもしれない。要は弱者には絶対に扱えない刀なのだろう。

 だがこれを餞別に渡したのは、チンジャオがクロエを一端の強者と認めたことに他ならない。

「お前ならば〝偉大なる航路(グランドライン)〟前半の海賊海兵など恐れるに足らんだろう。だが上には上があることを忘れるな。〝王の資質〟を持つ者など、この先の海にはザラにいると思え」

「……相手が何者だろうと、私は全員蹴散らす」

 クロエは化血を納刀し、左の腰に差す。

 彼女は財宝への欲や世界の王などの野心は持たない。あるのは「自由で在り続ける」こと。何者にも束縛されない、思うがままに立ち振る舞う一生こそ、クロエ・D・リードという女の望むモノなのだ。

 そして、それを阻む者は誰であろうと容赦なく蹴散らす覚悟だ。それこそ、神であろうと。

「師範……六年間、世話になった」

「ひやホホ……貴様の武運長久を祈るぞ」

 深々と頭を下げるクロエに、チンジャオは激励の言葉を掛けた。

 

 

 花ノ国の港に、一隻の小船が停泊している。クロエがチンジャオから貰った八宝水軍の避難船の一つだ。

 その甲板にて、クロエは海図を広げていた。

「……ひとまずは〝偉大なる航路(グランドライン)〟を目指すか……」

 一般常識が全く通用しない海賊の墓場である、世界一周航路。相応の強さを得たクロエにとっても、レベルとしては問題ないだろう。

 そもそもクロエは、自由気ままに生きることを重視するため、財宝や支配に一切興味はない。海賊である以上、欲しいモノは力づくで奪うのが道理だが、その欲しいモノが思い浮かばない。船や金は道中で手に入れられるし、仲間も今は必要ない。

 強いて言えば……世界中を旅してみたいぐらいだろうか。

(でも、ようやく……ようやくスタートラインに立てた。ここから()()()()〟が始まる)

 そう、ここから海賊クロエ・D・リードは始まるのだ。

 前世で自由の無い生き方に心身共に疲弊しきって自ら命を絶ち、何の因果か海賊の物語の世界へと誘われ、そこで王の資質にも目覚め……この世界でも自由で在り続けられるほどのチカラを得た。

 そしてこれから、彼女は強さで自由を阻む全ての存在に抗い倒すことが許される。非道なれど仁義がある海賊の世界へ、これから殴り込むのだ。

(……私の強さは、私が自由で在るためにある)

 そう強く決意し、クロエは大海原へと漕ぎ出した。

 己の思うがままに。己の満足がいく、後悔のない航海(たび)へ。

 

 

           *

 

 

「とは言ったものの、どうしたものか……」

 うーんと唸りながらオールで船を漕ぐクロエ。

 航海を始めて、早一週間。彼女は今、〝凪の帯(カームベルト)〟のド真ん中にいた。

 〝凪の帯(カームベルト)〟は〝偉大なる航路(グランドライン)〟の両脇に沿って存在している無風海域。この海は巨大な海洋生物「海王類」の中でも数百メートル級の巨大さを有する大型海王類の巣――普通に考えれば超危険地帯で、うっかり迷い込んで襲われたら一巻の終わりだ。

 しかし、この海域を渡ってはいけないという法律があるわけではなく、航海すること自体は自由だ。現に海軍の軍艦は船底に「(かい)(ろう)(せき)」という海が固形化したような鉱物を敷き詰めており、海王類の目を誤魔化して比較的安全に航海している。

 そして、これは本当に抜け道中の抜け道なのだが……刺激さえしなければ小さすぎる船は認識外となり、攻撃してこないということがある。クロエの船は定員が数人分で、大型海王類から見ればアリやハエのような大きさだ。いくら凶暴獰猛な海王類でも、そんな小さな存在をわざわざ攻撃する必要性はない。

 というわけで、クロエは超危険地帯でものんびりと航海することができていた。ただし無風なのでオールで漕いで移動するしかないのだが。

「まあ、これはこれでいい修行になるか」

 クロエはオールを引き揚げ、寝っ転がった。

 彼女はこの無風海域に来てから、常に見聞色を発動している。海王類が接近したら刺激しないようにその場にとどまってやり過ごし、離れたら漕いで進めるを繰り返して移動する方が比較的安全だからだ。

 その上、いつ海王類に襲われてもおかしくない状況下は短時間の修行にはピッタリ。緊張感をもって鍛えることができるのはある意味で得がある。

(! 通り過ぎたな……)

 海王類が離れていくのを感知し、クロエは再びオールで船を漕いだ。

 

 

           *

 

 

 それから数日後、ついにクロエは〝偉大なる航路(グランドライン)〟へ突入。

 リスキーレッド島という島に上陸し、とある海賊団と衝突した。

「うっ……」

「ああっ……」

「――これが〝偉大なる航路(グランドライン)〟の海賊の強さ? 弱すぎる」

 クロエは壊滅状態となった海賊達を見下した。

 ――世界中の海賊が集まり、悪魔の実の能力者も数多く存在すると聞いているのに。

 〝覇王色〟の覚醒者である大海賊(チンジャオ)のスパルタ教育で育ったクロエにとって、自分と敵対した相手は骨が無さすぎたようだ。

「……下らない時間を過ごした気分だ」

 愛刀を収め、どこか不満げに溜め息を吐く。

 これが初陣にして初勝利だというのに、拍子抜けもいいところだ。

 せめて何かしら戦利品で持ってこうかと、船長だった男に目を向けた。

「……このコートを頂くか」

 クロエは男から黒の海賊コートを分捕り、肩に羽織った。

(……まだ時間が掛かりそうだ)

 クロエは腕に嵌めた球形のコンパス――〝記録指針(ログポース)〟を見据える。

 特殊な磁気を含む鉱石を多量に含むがゆえに磁場が狂いまくっている〝偉大なる航路(グランドライン)〟において、記録指針(ログポース)は必要不可欠な専用アイテムだ。滞在地の島の磁気を貯めることで次の島を指し示す仕組みであるため、これが無いと実質生存不可能に等しい。

 なお、記録指針(ログポース)は〝偉大なる航路(グランドライン)〟の外では入手困難なのだが、クロエはチンジャオから後半の「新世界」を渡るための分もちゃっかり受け取っている。

「……一応貰っとこうか」

 クロエはついでに予備として敵の記録指針(ログポース)も奪い取り、コートに仕舞った。

 何事も念には念を入れるものだ。

(さて……次はどうしようか)

 ログが貯まるまで船でくつろいでるか――そう思った時だった。

「……!」

 一際強い気配を感じ取り、クロエは目を見開いた。

 すかさず見聞色を発動し、集中力を高め感覚を研ぎ澄まし、()()()にまで効果範囲を広げる。

 そして港の方で、その気配を探知した。

(ひい、ふう、みい……大よそ百人。その中でも群を抜いて強い気配がする)

 大方、その強い気配がリーダー格だろう。

 海賊ならば船長、海軍なら将官クラス。

 もしかすれば、先程大暴れした自分のことに勘づいたのかもしれない。

(しかも私の船にたむろってるなんて)

 最悪だと、思わず舌打ちする。

 よりにもよって自分の小船の傍にいる以上、鉢合わせる羽目になった。

 何事もなければそれでいいが、黙って見過ごしてくれるような気の利く相手とも限らない。

 下手をすれば、海賊だと判断するなり殺しに来るかもしれない。

(まあ……私の自由を阻むのなら、蹴散らすまでだ)

 そう、すでに心に決めたのだ。

 己の自由を侵害する者は、一人残らず蹴散らすと。

「……相手が誰であろうと、私は止まらないからな」

 独り言をボソリと言い、クロエは鋭い眼差しで港へ向かった。




ちなみにクロエの愛刀である化血は、「封神演義」に出てくる〝化血神刀〟がモデルです。
見た目は通常の日本刀ですが、刀身の白刃の部分が真っ赤になってます。煉獄さんの日輪刀ぐらい白刃が真っ赤です。

次回、クロエと激突するキャラは誰がいい?

  • サカズキ
  • クザン
  • ボルサリーノ
  • ガープ
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