〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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今回の話では、ラカムの強さが垣間見えます。


※2023年5月19日 ラカムの技名を変更しました。


第31話〝クロエVS.(バーサス)カイドウ〟

 カイドウと戦争の約束をしたクロエ達は、おでん城に案内された。

「馬鹿か貴様」

「何だと!?」

「ゴメン、そこは私も同意する……」

 呆れ返るクロエに憤慨するおでんだが、エマはクロエに同意した。

 彼の口から、カイドウとオロチと交わした契約の事を聞いたのだ。

「脇が甘すぎる。戦争で犠牲になる人間は出なくても、ワノ国の滅亡を目的とするオロチが悪政をやめる訳ないだろう。見守りの巡回をしていたようだが、それでも裏で犠牲者が出たら助けられないのは火を見るよりも明らかだぞ」

「うっ……そ、それは……」

「何より時間を掛ければ掛ける程、カイドウ側の戦力も肥大化するし、オロチもおでんの戦力となる連中を始末しに動くに決まってるだろう。その場の口約束を信じて踊り続けるなんて愚の骨頂だぞ」

 ボロクソに言われるおでんは、意識が遠のきそうになった。

 一連の流れを見ていた彼の家臣達も、こればかりは賛同しているのか無言で頷いていた。

「まあまあ、国を守る為だったんだからその辺で許してやってよ。一人で抱え込んで正常な判断が出来なくなってたのかもしんないし、まず治世者として相性最悪だったんだし」

「ぐはっ!!」

「お前も中々の毒を吐くじゃないか」

 擁護どころか止めを刺すエマに、胃に穴が空いたのかおでんは倒れた。

 妻のトキや息子のモモの助は駆け寄るが、おでんは青い顔で「大丈夫だ……」とか細く返事した。

「それより、お前はどうするおでん」

「……?」

「百獣海賊団の迎撃は前提として、戦力だよね……私とクロエたちは行くけど、オロチも戦力があるからそっちも警戒しないといけないし」

 エマの言葉に、おでんは悩んだ。

 この国の軍権を握ってるのはオロチであり、各郷の大名はともかくその部下達はカイドウに畏縮している。花の都でも何が起こるかわからないし、オロチがカイドウの支援の為に進軍するとなったら、屈強な侍達も人質の件で従わざるを得なくなる。

 そうとなれば、九里もまた危険に晒される。前回のようにトキが傷つくことがあってはならないし、家族に手を出されないようにせねばならない。

「花の都は、ヒョウさんがいるから問題ねェ。〝流桜〟の扱いに長けた豪剣使いだからな」

「おでん様、九里は我々にお任せを」

「本来なら私達も出陣すべきでしょうが、いたずらに戦力を割く訳にも行きません」

「クロエ殿達とおでん様がカイドウと戦い、我々は残って民衆を守るのが一番かと」

 家臣である錦えもん、お菊、雷ぞうが意見を述べる。

 いずれも全員で動くのはオロチに隙を与えてしまうとの事で、おでん自身も同様に考えていた。

「……それはそうと、クロエ殿の実力は?」

「おでん様の足を引っ張っては困りますぞ!」

「いや、むしろおれの方が足引っ張るかもしんねェ……一対一(サシ)()ると、下手したらおれが負けるかもしんねェぞ」

 おでんの呟きに、錦えもん達は絶句した。

 あの光月おでんを越える猛者だというのだから、無理もない。

「おでん様でも負ける……!?」

「お主、カイドウと引けを取らぬ怪物なのか!?」

「おれ達が束になっても勝てないって、人間かあんた?」

「失礼な家臣だな。私は普通に人間だ」

 クロエはちょっぴりイラっとしたのだった。

 

 

           *

 

 

 三日後。

 ついに約束の日が訪れた。

「――とはいえ、戦力これっきりはねェだろ……」

 ラカムはタバコを咥えながら項垂れた。

 というのも、百獣海賊団との戦争で迎え撃つ戦力は、クロエとエマ、ラカムとおでんの四名だけなのだ。

「レッドフィールド達に船番を任せてるし、おでんの家臣もオロチ側の動向を気にしてるんだ。これぐらい我慢しろ」

「我慢にも限度ってモンがあるだろ!! たった四人で迎え撃つなんて正気か!?」

「その内の三人は元ロジャー海賊団だよ? 大丈夫だって!」

「ったく、ウチのツートップは……」

 頭を押さえながら重い雰囲気を醸し出すラカム。

 三人の実力を疑ってる訳ではないが、不安は感じてはいるようだ。

 すると、巨大な気配が近づいてくるのを感じ取った。

「この気配……!」

 丘から見下ろすと、眼下には数百人以上の海賊の軍勢が待ち構えていた。

 そして、雲の中から巨大な青龍――カイドウが現れた。

「……約束通りに出向いてくるとは」

「ウォロロロ……!! 新しく建ったばかりのおれの屋敷を、戦場にしたくねェんでな」

 律儀に答えるカイドウに、クロエは真面目な奴だと心の内で評した。

 そのやり取りの中、ラカムが口を挟んだ。

「おい、部下が少ない内にって話じゃなかったのかよ」

「私の見積もりではあと一、二年ズレてたら千人は超えてるぞ」

「ちなみに私の見聞色だと、500は超えてるよ」

「……マジかー」

 これは骨が折れるぞ、と溜め息を吐くラカム。

 すると、おでんが怒りを露にしながらカイドウに叫んだ。

「カイドウ!! あの日、お前たちと交わした約束は全部ウソだったんだな!!」

「そうだ……ウォロロ、全部ウソだ。あの時、おれ達は分が悪いと踏んだ」

 カイドウは、帰国直後におでんがヒョウ五郎と手を組めば、ワノ国中の侍と侠客が敵に回り、苦しい勝負を強いられる事になっただろうと独白した。

「……話の素振りからすると、そのまま勝負してもよかったと言いたげだね」

「まァな。だがおでんはオロチの言葉を信じた」

 おでんは甘い奴だと、カイドウは嗤う。

 その嘲りにおでんはどうでもよさそうな表情で「話を未来に続けようぜ」と二刀を抜いた。

「……で、ちゃんと私の相手をしてくれるんだろうな」

「当然だ……おれと戦いたければ、ここまで来てみろ」

「ああ、今行く」

 

 ドンッ!!

 

 刹那、クロエの身体から恐ろしい量の覇気が放たれた。

 その覇気にあてられた海賊たちは次々に泡を吹いて倒れていき、あっという間にカイドウの軍勢の過半数が意識を失った。

「っ……!! これが〝鬼の女中〟か……!!」

 カイドウは冷や汗を掻くが、嬉しそうな声色だ。

 しかし、いきなり過半数の兵力が覇気で気絶させられるのは、カイドウとしても想定外。海賊界きっての女傑と戦えるのは喜ばしいが、相手がたった四人でも苦しい戦いを強いられる覚悟も求められるようだ。

 それは、カイドウの脇を固める二人も例外ではない。

「おいおい、何だ今の覇王色……!! こっちの兵力は800人だぞ!?」

「過半数がもってかれたか……!」

 丘の上から一瞥するのは、クロエの覇気を耐えた百獣海賊団の幹部。

 一人は、縦縞のオーバーオールを着てサングラスを着用した、金色の弁髪が特徴的な肥満体の大男・クイーン。

 もう一人は、背中の巨大な黒い翼から炎を噴き出す、刺々しい鎧が付いたレザー製のダブルスーツを着用した剣士・キング。

 二人とも、百獣海賊団及びカイドウを支える実力者だが、彼らですらクロエの覇王色の強さに驚きを隠せないでいた。

「クロエ、作戦通りに動くぞ」

「ああ。カイドウは私がやるから、残りは頼む。――行くぞ」

 四人は一斉に駆け、百獣海賊団に突っ込んでいく。

 百獣海賊団もまた、クイーンの号令を受けて津波のように押し寄せた。

「雑兵はおれがやる」

「!」

 クロエが斬撃を放とうとしたが、ラカムが前に出て戦鎚に覇気を纏わせた。

「〝撃退鎚(アイムール)〟!!」

 

 ドォン!

 

『ギャアアアアアアアッ!!』

 戦鎚を振るい、武装色の覇気を纏った飛ぶ打撃を放つ。

 十数人の海賊をまとめて吹っ飛ばし、その影響で道が開けた。

「何だ、あいつ!?」

「気を付けろ!! 只者じゃねェ!!」

 まさかの遠距離攻撃に、海賊達は警戒を強め、銃を構えて弾幕を浴びせる。

 ラカムは見聞色で弾道を見切りながら接近し、戦鎚を片手持ちで振るい、空いた手を武装硬化させて応戦。無駄のない動きで一人、また一人と的確に倒していく。

「ガハハ、中央突破か?」

「囲い込めェ!!」

 海賊たちは四方を囲い、一斉に襲い掛かる。

 ラカムは冷静に覇気を戦鎚に纏わせ、柄尻の石突で地面を割ると、衝撃波が発生して周囲を弾き飛ばした。

「あのハンマー野郎、(つえ)ェぞ!?」

「怯むな! 数で押せェ!!」

 想定外の強さに、海賊達は四苦八苦する。

(やるじゃないか、ラカム)

 船医の大活躍を称えながら、クロエはカイドウの元へ向かう。

 すると、彼女が通り過ぎたところでクイーンとキングが動いた。

「行かせねェぞ!!」

「貴様らの相手はおれ達だ」

「……手強いのが来たな。お前の相手はおれだ!!」

 すかさず二刀を構えて斬りかかるおでんを、キングは迎え撃つ。

 互いに斬撃を何度もぶつけ合い、互角に斬り結ぶ。

「〝おでん二刀流〟!!」

「ぬっ!」

「〝桃源白滝〟!!」

 おでんは二刀を勢いよく横一文字に振るい、強力な斬撃の一閃を繰り出す。

 キングは得物を武装硬化させ、真っ向から受け止めたが、おでんの方が強いのか弾かれてしまう。

「〝(ガン)擬鬼(モドキ)〟!!」

「ぐっ……!」

 目にも留まらぬ速度で無数の突きを繰り出す。

 だが、おでんはある異変に気づいた。

「……何て硬さだ……!」

 キングの身体が、異常なまでに頑強なのだ。

 しかし服の下からは血が滲んでおり、掠り傷に等しいがノーダメージではなさそうだ。

「やはり貴様の覇気は厄介だな……!」

「背中の翼も炎もそうだが、お前は一体何なんだ……!?」

「少し特殊な種族だ……!」

 キングの特異体質に翻弄されるおでんだが、強力な武装色と無双の豪剣で互角に渡り合う。

 それを見ていたクイーンは、ニヤリと笑った。

「ムハハハ、あいつと一対一(サシ)なんて正気か? その内バテてゲームオーバーだな!!」

「達磨さん、こっちに集中!!」

 

 ガンッ!

 

「おわァ~~~~!?」

 エマは腰に差していた片手用ライフルを抜くと、銃身を持って鈍器のように振るい、クイーンの頭を殴りつけた。

 強力な武装色を纏った一撃に、クイーンは悲鳴を上げた。

「いでで……この(アマ)ァ!! いきなり殴ってくんじゃねェ!!」

「そういう女々しいことは言わない、のっ!!」

「うおぉぉっ!!?」

 エマは問答無用に顎を狙うが、クイーンも見聞色で見切り、紙一重で躱す。

 立て続けに武装硬化した手足で蹴りや掌底、裏拳を仕掛けるが、見かけとは程遠い身のこなしで回避される。

 当たる時は当たるが、肥満な体格に覇気を纏わせることである程度の衝撃は緩和されているようで、決定打には至らない。

「ムハハハハ!! さっきは油断しちまったが、今度はそうはいかねェよ!!」

「じゃあ、ギアを上げるだけだね!!」

 直後、バリバリという音を立てながら、エマはライフルを振りかぶった。

 嫌な予感がしたクイーンは咄嗟に避けると、フルスイングした瞬間、赤黒い稲妻と共に強烈な衝撃波が発生。後方の木々を薙ぎ倒し、大岩を木っ端微塵にした。

 エマは覇王色を纏った攻撃を放ったのだ。

「ちょ、待て待て待て待て!! 冗談だろ、お前もかよ!?」

「私は()()()!! クロエ抜きでも一味を支えられるくらい強くないとダメでしょ?」

 予想だにしない攻撃に、クイーンの顔から余裕が一瞬で消えた。

 おでんよりも軽そうな雰囲気だからと高を括ったら、まさかの覇王色。しかも覇王色を纏うという、一握りの強者が辿り着ける領域に至っており、明らかな格上だ。

 やはり人を見かけで判断してはならない。

「さァ、あなたは私に引き金を引かせられるかな?」

「っ……図に乗んなよ小娘!」

 クイーンは顔に青筋を浮かべながら、エマに襲い掛かった。

 

 

           *

 

 

 同時刻。

 オーロ・ジャクソン号が停泊している洞窟にて、レッドフィールド達はある集団を壊滅させていた。

「これが〝忍者〟なる武人か……弱いな」

「かはっ……!!」

 レッドフィールドは表情のない目で、サングラスをかけた僧侶のような恰好の男を見下す。

 彼の名は福ロクジュ。オロチに仕える忍者隊「オロチお庭番衆」の隊長だ。どうやら忍者部隊が総出で奇襲をかけたが、やはり海賊王世代の大物には敵わず、虫の息で壊滅してしまったようだ。

「とはいえ、流石はワノ国。そこらの海賊や海兵とは基礎戦闘力が違う」

「まさか武装硬化できるとはな……少し骨が折れたぜ」

 マクガイ達は、多少の手傷を負いながらもピンピンした様子で話し合った。

 侍と違い、忍者達は意表を突く戦法や搦め手嵌め手を遠慮せず仕掛ける、まさしく暗殺者の一面を持っていた。ある意味では世界政府の諜報機関である「サイファーポール」を彷彿させた。

 クロエの扱きで覇気を鍛えている自分達と渡り合う技量は、強国の戦士に相応しく、レッド以外は苦戦を強いられた。

「それにしても、船長達は大丈夫か……?」

「心配は及ぶまい。ロジャーの部下となった程だ、心配するだけ無用というもの」

 レッドはドーマ達を諭す。

 我を容易く超えた〝鬼の女中〟が、この程度で倒れるような柔な女ではない――そう確信しているし、信用もしているのだ。

(……我が気に掛かるのは、黒炭の一族だ)

 レッドにとっての不安要素は、カイドウよりもオロチ達だ。

 聞けば、今の将軍の目的はワノ国の破滅であり、それを阻害する者はあらゆる手を尽くして徹底的に排してきたという。それ程の実行力と権力を持っているのなら、クロエとカイドウの戦争に横槍を入れることすら意にも介さないだろう。

(何事もなければ良いが……)

 そんな不安が的中することになるなど、レッドフィールドは知る由も無かった。

 

 

           *

 

 

 クロエたちと百獣海賊団の戦争は、佳境を迎えていた。

 雑兵たちの戦線は、ラカムの奮戦により崩壊。

 キングとクイーンは、おでんとエマの想像以上の強さに苦戦し、劣勢になりつつあった。

 そして肝心の、クロエとカイドウの一騎打ちは、壮絶なものだった。

「グオオーーーッ!!」

 咆哮が雷に変わり、クロエに襲い掛かる。

 だが、クロエは避けるどころか刀身で受け止め、雷が迸る化血で斬撃を放った。

 斬撃はカイドウの頬を掠め、皮膚を裂いた。

「おれが発した雷を纏いやがった……!?」

「〝武装色〟の覇気は、応用すれば自然物も纏うことができるのを知らないのか?」

 クロエは続けざまに、雷を纏った飛ぶ斬撃の連撃を繰り出す。

 カイドウは咆哮と共に多数のかまいたちを発生させ、全ての斬撃を相殺するが、その隙にクロエは跳躍し、覇王色を纏った斬撃を放った。

「ぐうっ……!」

 身体をくねらせ、紙一重で回避してから火の玉を吐き、クロエにぶつける。

 全身に覇気を纏わせどうにか耐えるが、衝撃に押され地表に叩きつけられる。

「がっ……!」

「〝(かい)(ふう)〟!!」

 畳み掛けるように、先程と同じようにかまいたちで攻撃。

 クロエはすかさず起き上がって回避すると、刀身に覇王色の覇気を集中させた。

「〝錐龍〟!!」

「ぬっ!!」

 急激な覇気の高まりを察知し、カイドウは目を瞠った。

「〝熱息(ボロブレス)〟!!!」

 カイドウは口から強烈な火炎を放射。

 山肌すら消し飛ばす威力を誇る熱攻撃が迫るが、クロエは一切動じず、地面を割る勢いで踏み込んで跳躍した。

「〝錐釘〟!!!」

 

 ドォン!!!

 

「おわァ~~~~~~ッ!!!」

 クロエが覇王色を纏った平突きを繰り出し、火炎を突き破る。咄嗟にカイドウは龍の巨体を翻したが、斬撃を躱しきる事はできず腹を抉られた。

 これには流石に悶絶し、身体中から脂汗を流しながら轟音と共に地表に落ちた。

「カイドウさん!?」

「無敵のカイドウさんに傷を!?」

 キングとクイーンは、尊敬する総督の窮地に動揺する。

 常軌を逸した肉体強度と生命力ゆえに「無敵」と語られるカイドウが、深い傷を負わされたのは初めて見るようだ。

「スゲェ……」

「やったか!?」

「いや、まだ浅い!」

 歓喜するラカムとおでんだが、見聞色の覇気でカイドウの気配と覇気が強まったのを感知したエマが、顔を強張らせた。

 次の一撃で、全てが決まるかもしれないのだ。

「ぬぅおおおおおおおおっ!!」

「ああ、これで終わりだ!!」

 カイドウは天に向かって雄叫びを上げると、金棒に全開の武装色を纏わせた。

 クロエは化血の刀身に、再び覇王色を纏わせた。

「「おおおおおおおっ!!」」

 同時に地面を割る程の勢いで踏み込み、一気に距離を詰めた。

 その時、予期せぬ出来事が。

「助けて、クロエさん!!」

「!?」

 聞き馴染みのある声が、耳に届いた。

 それと共に、視界に映ってしまった影に、クロエは動揺した。

 何と、おでんの妻であり共に航海をした間柄であるトキが、海賊に人質に取られているではないか。

(トキ!?)

「クロエ!! 罠だーっ!!」

「っ!!」

 エマの必死の叫びに、ハッとなる。

 どこの馬の骨か知らないが、横槍を入れてきたようだ。

 だが、カイドウの金棒は、目と鼻の先にまで迫っている。

(クソッ!!)

 そして――

「ぬぅあああああああっ!!!」

 

 ガンッ!! ドゴォン!!

 

 カイドウ渾身の一振りが、クロエに直撃。

 クロエは物凄い勢いで吹っ飛ばされ、崖に叩きつけられた。

「クロエーーーッ!!」

「……っ!?」

 エマの悲鳴にカイドウはハッと我に返り、狼狽した。

 あのままクロエの一撃が入ってたら、間違いなく敗北していた。それほどの気迫と覇気がこもった一太刀を繰り出していたのに、彼女は直前で気を逸らした。

 何があったのかわからず、立ち尽くすカイドウだったが……。

「ニキョキョキョキョキョキョ!! そうはさせないよ!!」

 その場に現れたのは、オロチの参謀である黒炭ひぐらしだった。

 彼女は〝マネマネの実〟の能力者で、あらゆる人物に変装することができる。顔立ちだけではなく、声や体格、傷痕や性差に至るまで全てコピーすることが可能なのだ。

 ひぐらしはトキに化け、クロエの油断を誘ったのだ。

「あんたが勝っちゃあ困るんだよ、〝鬼の女中〟!! ニキョキョキョキョ!!」

「っ…………」

「貴様らァ~~~~~!!!」

 ひぐらしの嘲笑が木霊すると、覇王色の覇気を放ちながら怒髪天を衝いたおでんが斬りかかった。

 ――よりにもよって自分の愛妻に化けて横槍を入れてくるとは!!

 呆然としていたカイドウに刃が届く瞬間、おでんの二刀は見えない壁によって阻まれた。

「あの時のバリアか……!!」

「カイドウの。クロエを倒せばあとは疲弊しきったおでんたちだけでさァ」

 両手の人差し指と中指をクロスすることで、凄まじい耐久力を誇るバリアを張れる〝バリバリの実〟の能力者である黒炭せみ丸が、おでんの攻撃を防いだ。

 せみ丸はひぐらしの隣に移動すると、カイドウに止めを刺すよう催促した。

 だが、カイドウは身体を震わせたまま一切動かない。

「……どうしたカイドウ? 止めだよ!」

「カイドウさん……?」

 ひぐらしだけでなく、クイーンも怪訝そうに見つめる。

 刹那、カイドウは金棒を振り上げた。

「……てめェら…………てめェらァァァァァ!!!」

 

 ドゴォン!!

 

 突如として怒り狂ったカイドウが、全力の一撃をひぐらしに叩きつけた。

 が、その場にせみ丸がいたのもあり、ひぐらしは無傷だ。

「なっ……何を!? これで邪魔者は消えたんだよ!?」

「うぅあああああああっ!!!」

 ひぐらしは援護のつもりで介入したんだと必死に弁明する。

 だが、それはカイドウをさらに刺激するハメになり、怒り任せで何度も殴りつけた。酒も飲んでないのに狂乱するカイドウに、キングもクイーンも手を止めて唖然としてしまい、対立していたエマ達も戸惑いを隠せない。

「……ゼー……ゼー……ゼー……」

「カイドウさん……」

 ひとしきり暴れたからか、段々と冷静さを取り戻すカイドウ。

 キングは、カイドウの悲壮に満ちた顔を見て声をかけづらくなってしまった。

 自分に()()()()()()()()()女傑との戦いに水を差され、不服の勝利を得てしまった。それがこの上なく苦しく辛いのだ。

「……クロエは死んだ……降伏を宣言し――」

「勝手に殺すな、阿呆が……!!」

 泣きそうな声色で降伏を促した時、森から声が響いた。

 全員がハッとなって目を向けると――

「バ、バカな!!」

「なぜ立っていられる!?」

「クロエ……!!」

 何と、頭から血を流しつつもクロエが戻ってきた。

 これにはひぐらしもせみ丸も想定外だったのか、まるで死者が蘇った光景でも見ているかのように驚いている。

「ちょ、ちょっと大丈夫なの!?」

「ああ、ギリギリ覇気が間に合った……あと少し遅れたらダメだった」

 血を流しつつも、ニッと笑みを浮かべる。

 クロエは金棒が当たる直前、咄嗟に武装色を全身に流して防御したのだ。しかしカイドウの一撃は強力な武装色の防御を強引に突き破ったため、弾き返す事もできず食らってしまったのである。

 多少なりとも威力を殺す事はできたので立ち上がっているが、結構なダメージを負ったようだ。

「……すまねェ……先に奴らを皆殺しにしなかったおれの責任だ」

「ハァ……ハァ……それはお互い様だ……横槍を入れてはこないと思い込んだ私の油断が招いたんだ、謝るな」

 その言葉に、カイドウは安堵したように笑った。

 無法の海賊稼業に卑怯という言葉はないとはいえ、あのような決着は武人肌の一面を持つカイドウにはかなり堪えた。だからこそ、クロエが立ち上がり、戦意を漲らせてくれたのがとても嬉しかった。

「とりあえず、ゴミ掃除を済ませようか」

「……ああ」

 そう言うや否や、クロエは一瞬でひぐらしに迫った。

 

 ザンッ!!

 

 クロエはひぐらしの首を刎ねた。

 ゴトッと首が転がると、残った身体もゆっくりと倒れた。

「ひぐらし!!」

 ひぐらしの突然の死に驚愕するせみ丸。

 その隙をカイドウは見逃さず、両手持ちで金棒を振り下ろした。

 

 グシャッ!!

 

 バリアを張る暇すら与えられず、せみ丸は脳天を潰されて粛清された。

 心なしか、クロエもカイドウもどこか胸がすいたような様子だ。

「……()()で勝ちたくなかった。立ってくれてありがとよ、クロエ……!!」

「私も、あんな負け方は御免なんでな……カイドウ……!!」

 クロエが刀に覇気を流すと、カイドウの身体に変化が生じた。

 角が増え、長大な龍の尻尾が生え、全身が青い鱗模様に覆われる。

 その姿は、竜人や青鬼を想起させる禍々しい姿だ。

「何だ、あの姿は!?」

「〝人獣型〟……! いよいよ切り札を切ったか……」

 驚くおでんに、ラカムは冷や汗を流した。

 悪魔の実の動物(ゾオン)系能力者は、〝人獣型〟という形態に変身できる。人獣型は人の特性と実の動物の特性の両方を発揮でき、しかも動物(ゾオン)系自体が自らの身体能力を純粋に強化できるという特性があるため、白兵戦では最強とも称されているのだ。

 カイドウのような猛者が人獣型になれば、巨大な龍の姿の時よりもはるかに強くなるだろう。

「心配しないで、クロエなら勝てる。ロジャー船長が認める女だもの」

 エマは微笑むと、クロエも釣られるように笑い、目の前の竜人に目を向けた。

「カイドウさん!!」

「お前ら、何があっても絶対に手ェ出すんじゃねェぞ!!」

 カイドウの言葉に、キングとクイーンは足を止めた。

 この戦争は、大将同士の一騎打ちで終わらせるつもりだと察したのだ。

「仕切り直しだ……! 心を込めて貴様を倒そう、カイドウ!!」

「ああ……決着(ケリ)をつけようぜ、クロエ!!」

 

 ――一対一(サシ)で勝った方が、この戦争の勝者だ!

 

 ワノ国を懸けた戦争は、ついに最終局面を迎えた。




カイドウさん、よかったね……。(涙)
ババアとジジイはその場で死んでもらいました。ザマァ。

そして、ようやく活躍したラカム。
ラカムは戦鎚による直接的な打撃と飛ぶ打撃、覇気を利用した衝撃波攻撃を得意とします。覇王色の使い手ではないですが、覇気の練度はかなり高めです。

ちなみにエマはベックマンと酷似した戦い方ですが、王直の教育のおかげで覇王色も纏えるので、海軍大将と同格と考えて下さい。得物は片手用ライフルだけでなく、拳銃もあるので、最終形態は右手に片手用ライフル、左手に拳銃の二挺拳銃スタイルです。

次回はクロエ姉さんとカイドウさんの一騎打ち第二幕です。
乞うご期待!

……えっ? オロチ?
あいつは知らん。(笑)
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