翌日、クロエ達はカイドウ率いる百獣海賊団のワノ国からの撤退を見送った。
焔雲で拠点としていた島を飛ばすという、ダイナミックすぎる撤退劇に一同は絶句した。
「あばよ、クロエ」
「ああ、お互い出直したら
「ウォロロロロロロロ!!」
ワノ国から離れていく島が見えなくなるまで見届けると、クロエは仲間達に新入りを紹介した。
「今日からウチに入るカイドウの娘のヤマトだ」
「ヤマトです!! よろしくお願いします!!」
「ほう、カイドウの娘か……」
快活に挨拶するヤマトに、レッドフィールドは顎に手を添え興味深そうに見つめる。
が、それ以外の面々はエマを除いて驚きを隠せない。
「せ、船長……これ大丈夫なのか!?」
「百獣海賊団との再戦を条件にカイドウが許した……と言う方が正しいな」
「ウソだろ、あの化け物屋敷とまた戦うのか!?」
ガッデム!! と言わんばかりに頭を盛大に抱えるラカム。
今回は雑魚掃除を担当したが、あの〝鬼の女中〟と互角に立ち回るカイドウの強さに圧倒されており、平然と再戦を望むクロエが恐ろしく感じた。
「クク……諦めろラカム。海賊とはこういうものだ」
「それは
「とはいえ、百獣海賊団も成長途中なのだろう? 十年、二十年後はどうなることやら……」
「それはおれ達にも言えることだけどな!!」
豪快に笑うドーマに、クロエ達も笑った。
カイドウの一味はこれから大所帯になるだろうが、クロエの一味は対極の少数精鋭。そもそも傘下勢力の拡大やナワバリの支配とは無縁なので、彼女の方針上はどんなに増えても30人以下だろう。
だからこそ、クロエ海賊団の今後はメンバーなら誰でもわかる。かの海賊王の一団のように、個々の力が驚異的に高く、計り知れない影響力を持つ勢力になると。
「……まあ、私達は割と緩くやってるから、肩の力は抜いていいよ」
「歓迎するど、ヤマト!!」
「今日からよろしくな!!」
「うん!!」
温かく迎えられ、ヤマトは目を輝かせた。
後に彼女はクロエ海賊団の主戦力の一人として、〝
そしてその夜、ワノ国では国を挙げて盛大な宴が催された。
黒炭の一族による支配からの解放、百獣海賊団の撤退、光月おでんの将軍就任……クロエ海賊団の上陸から二週間も経ってないが、劇的な変革を遂げた鎖国国家はお祝いムードだ。
が、すでに用事を済ませたクロエとしては長居する義理もなく、出航する旨をおでんに伝えた。
「もう行くのでござるか!?」
「もっと一緒にいようよ!!」
少しばかり成長したモモの助と日和が泣きそうな顔で見つめ、トキも眉を落としながら尋ねた。
「時間はまだありますよ。ゆっくりしていって下さい」
「あのな……そもそも私は最初から長居するつもりはない。本来の次の目的地は〝
仲間達と共にオーロ・ジャクソン号に積み荷を載せるクロエは、おでんにそう答える。
確かにワノ国の荒廃ぶりに想うところがあったのは事実だが、黒炭オロチの失脚と百獣海賊団の撤退という形で事が収まった以上、あとはおでん達の仕事である。
海賊が政治にかかわる義理など無いのだ。
「クロエ、ラフテルにあった〝宝〟が何か教えようか? 祖国を救ってくれた礼だ」
「生憎、〝
クロエはバッサリと切り捨てた。
あらゆる海賊達が海賊王の称号あるいは〝
「なら、ウチにある〝
「残念だが、思い出の品としてロジャーが遺した写しはとってある」
「何ィィィィ!?」
おでんは口をあんぐりと開けた。
何とロジャー海賊団時代に写した〝
当然、その中に〝ロード
「何もいらない。所詮は気まぐれだ、いちいち気にするな」
「しかしだな……」
突っぱねるクロエに対し、おでんはかなり食い下がる。
いい加減しつこいと思い始めるクロエだが、そこへトキがおでんに声をかけた。
「おでんさん、クロエちゃんの気持ちを酌んであげましょう」
「クロエの気持ち?」
「ええ……彼女達は
「……」
トキの言葉にクロエは頬杖を突いて目を逸らした。
反論しないという事は、彼女の言葉は当たりなのだろう。
「クロエ……」
「――そういう事だ、わかったら早く都へ戻れ。民衆は冷めやすいぞ? それとおでん、ワノ国の開国はやめておけ。カイドウは手打ちに応じたが、世界政府はそうはいかないぞ」
「っ! ……ああ、肝に銘じておく」
「イヤそう……」
思いっきり顔を顰めるおでんに、エマは顔を引き攣らせた。
だがクロエの言う通り、カイドウは彼女の強さに免じて引き揚げたのに対し、世界政府は是が非でも手に入れるべくあらゆる手段を使うだろう。それこそ、オロチよりも非道なマネをしでかす可能性もある。
ましてやワノ国は今、オロチの暴政で国力が落ちている。今は世界政府にワノ国の現状を知られてないからいいものの、もし発覚すれば世界政府との戦争になり、それこそ国がガタガタになる。
(……確かに今は、開国よりも国力の強化が先だな……)
「おでん、お前こそシャンクス達に何か伝言はないのか?」
「!」
「私なら、海賊やってるあの子達には会える確率が高いぞ。レイリーよりもな」
それを聞いたおでんは、せっかくだからと注文をした。
「赤太郎達には「いつでも来い」と言っといてくれ。それと虫のいい話かもしれねェが、
「わかった、「来たら裸踊りを見せる」と伝えとこう」
「それだけは言わないでくれ!!」
『ワハハハハ!!!』
顔を赤くするおでんに、一同は大笑い。
それから程なくして、クロエ海賊団は出航。おでん達に見送られながらワノ国を後にした。
*
翌日。
クロエ海賊団に新しく加入したヤマトは、マクガイと手合わせをしていた。
「とりゃーっ!!」
「筋がいいぞ!!」
「これは近い内に相当な猛者になりそうだな……!!」
「おれ達も負けてられないど!!」
五歳児には思えぬ高い身体能力に、エマ達は満面の笑みを浮かべた。
クロエと互角に渡り合ったカイドウの娘なだけはあるようだ。
「そう言えば、ロジャーも子供を二人船に乗せていたな。幼少の身で、実力差を物ともせず我に啖呵を切っていた」
「ヤマトちゃんも、将来は大物だね。おでんさんより強くなるかも」
「ホント!? ――うわっ!!」
レッドフィールドとエマの言葉に気を取られて隙を与えてしまい、ヤマトはマクガイに足を掴まれ宙づりにされた。
「おれ達がお前に期待しているのは本当だ。だが……戦いの最中に余所見は禁物だぞ」
「はいっ!!」
マクガイは手を放すと、受け身を取ったヤマトは拳を構える。
「よし! もう一回だ!!」
「うむ! どこからでもかかって来い!!」
ヤマトの腕白さに、口角を上げる一同。
悪名高き〝鬼の女中〟の一味とは思えない、仲睦まじい光景だ。
そんな中、
「ところで、船長はどこだ?」
「海だよ」
「海?」
タバコを吹かすラカムが、親指で海を差した瞬間。
ドォン! という水柱が上がり、欄干にクロエが降り立った。
「船長!」
「久しぶりにやったからか、苦労した。ほら、ロープ」
「え?」
抜き身の化血を鞘に収めながら、ラカムにロープを渡す。
それを見たエマは「アレかー……」と遠い目をしつつ、全員で引っ張って引いた。
暫くすると、海中からボコボコにされた巨大な魚が浮き上がった。
「ええええええっ!?」
「な、何だこれ!?」
「おい、あんたまさか海中で仕留めたのか!?」
海中で海王類を仕留めたクロエに、ヤマトだけでなくラカムやドーマ達も絶句した。
「先に風呂へ入る」
「クロエ、貴様は一人海賊の頃からやってるのか?」
「鍛錬も兼ねてな」
レッドフィールドの問いに、クロエはずぶ濡れのコートを絞りながら答える。
水泳は有酸素運動の中でも特に運動強度が高く、体力や心肺機能の向上、全身の筋力アップができ、バランスよく鍛える事ができる。幼少期から受けてきた修行の一つであり、クロエが今も重宝している鍛え方だ。
また、海中及び水中に慣れておけば、海王類との戦いは勿論、魚人や人魚との戦闘においても優位に立てる。水中戦においては水そのものを武器にする「魚人空手」や「
「ラカム、それで飯を作れ。医者なんだから食事療法も通じてるんだろう?」
「これをどう解体しろってんだ……」
「とりあえず、血抜きと鱗をどうにかしねェとな」
ワイワイと海王類をどう調理するか会議する仲間を他所に、クロエは一人浴室へと向かった。
「……で、何で一緒にお前らまで来た」
「別にいいでしょ? ヤマトちゃんも汗かいてたんだし」
「ふあ~……」
湯船に浸かるクロエは、ジト目で視線の先のエマとヤマトを見た。
オーロ・ジャクソン号の浴室は、ノズドンやサンベルのような常人の倍以上の体躯を持つ者でも寛げるよう、大きめに作られている。ゆえに長身のクロエでも足を延ばして入る事ができ、入浴は彼女の数少ない癒しなのだ。
ただ、エマとヤマトも一緒に湯船に入ってきたせいで狭い。長身だからこそ足を延ばしたいのに、それができないのが少し腹立たしい。
(そう言えば、シャンクスとバギーがうっかり入ってきたことがあったな)
ロジャー海賊団時代を思い出し、クスッと笑う。
クロエが入っていることを露知らず、全裸のお見合いをしてしまった時の二人の反応は愉快だった。シャンクスは文字通りの赤太郎となって鼻血を出し、バギーに至っては絹を裂くような高音を上げて目を隠したのだから。あの後、傍を通ったレイリーが鉄拳制裁したが、何気に顔を赤くしてチラ見したのに気づいたのもいい思い出だ。
懐かしい記憶に思いを馳せていると、エマの視線に気がついた。
「……」
「……何だ急に」
「いや、こうして互いの裸見るの初めてかなって……ほら、服で隠れてたからさ」
エマの言葉に、クロエは「確かにな……」と呟いた。
クロエもこの世界ならではと言える豊満な胸の持ち主だが、幼少期から鍛錬をしているためか、腹筋は割れていて無駄な脂肪がなく、筋肉質だが全体的に引き締まった身体だ。傷痕も顔に刻まれた複数の切り傷と左前腕の十字傷だけでなく、胸や肩、腰にも刀傷があり、足に至っては銃創もある。
かくいうエマも、ストイックな気質であるクロエよりは筋肉質ではないが、グラマーでありながら薄っすらと腹筋も割れてるし筋肉も付いている。傷も右頬の傷だけでなく、二の腕の銃創や太腿の大きな十字傷も目立ち、くぐり抜けた修羅場は相当な数だと嫌でもわかる。
(……まあ、ヤマトもこれくらい鍛えないとやってけないな)
目を細めるクロエ。
すると、エマが彼女に次の目的地について訊いてきた。
「そう言えばさっき、〝
「師匠のところに顔を出そうと思ってる。〝
「そっか、クロエって〝花ノ国〟で育ったんだよね。お師匠の世代の人は色々知ってるけど、〝錐のチンジャオ〟は初めて会うな~」
ムフフ、と楽しそうに笑うエマ。
それに対し、クロエは「お前こそどうなんだ」と言葉を返した。
「お前も師である〝王直〟に会おうとは思わないのか?」
「もう少し経ってからでもいいかな……お師匠も
敬愛する恩師に気を遣い、エマは再会は延期に決めた。
この大海賊時代は、世界中で野望ある者達が海へと繰り出す時代。海賊達にとっては夢の時代だが、それは海賊王世代から見れば「宝目当ての世間知らず」がのさばる時代でもあり、野心や度胸だけで彼らに挑む愚か者が増え続けることを意味するのだ。
ゆえに世界中で名乗りを上げる海賊達の相手をせねばならず、開幕から数年の内は王直が拠点とするハチノスも忙しいだろう。
「……その次は考えてたりする?」
「別に。……まあ、行ったことのない未知の土地へ行くだけだろ」
「よかった……世界政府と全面戦争とか言い出すかと思ってた……」
「それは
さらっと言ってのけた言葉に、エマは驚愕した。
もし世界政府が本気で自分を滅ぼす気なら、こっちも世界政府を滅ぼす気で迎え撃つ――そう聞こえてならないのだ。
そんな訳ないだろうとは思いつつ、念の為に一度尋ねた。
「クロエ……マジ?」
「二言はない。私の自由を邪魔する者は、心を込めて滅ぼすだけだ」
エマは引き攣った笑顔を浮かべた。
――せめてそれだけは二言であってほしかった。
「エマさん、大丈夫?」
「え? あ、うん、大丈夫……アハハ……」
エマはついに笑い声すら引き攣り始めた。
あまりにも前世の反動が凄すぎる。
(ロジャー船長……もしかしたら私じゃあ御せないかも……)
ロジャーの偉大さを改めて思い知るエマであった。
ちなみにシャンクス達は、以下の状況に置かれてます。
◦シャンクス…ベン・ベックマンと邂逅し、赤髪海賊団を結成。クロエの〝神威〟とロジャーの〝神避〟を習得しようと切磋琢磨。
◦バギー…海軍の目を欺きながら仲間を集め、例の宝の地図に記された場所を捜索中。ひとまず〝
◦バレット…バスターコール迎撃中。クロエのおかげで覇王色も纏えるので、ガープとセンゴクは被害のデカさを鑑みて中止を検討中。
おおむね原作通りですけど、細かいところが違いますね。その細かいところで今後の展開が変わるんですけど……。
さて、「不都合のバーゲンセール」ことクロエ海賊団の今後の予定は、まあ色々とやらかしますね。
バスターコールとか、奴隷船のテゾステとか、氷の大陸とか、ビッグ・マムとか……大海賊時代開幕直後は色々とネタがあって扱いやすいので、思いついたら躊躇い無く執筆します。
そして今回は、イラストを公開します!!
ただ、クロエ達のイラストはもう少し調整してから出したいので、先にクロエ海賊団の「海賊旗」をご紹介します。
【挿絵表示】
旗の背景は黒寄りの赤、愛刀の化血を模したソードクロス、ちょっと目つきが鋭いドクロという、オーソドックスでシンプルな海賊旗となっています。
原案はクロエ、デザイン担当はエマです。