※どっかの猿王と同じ名前ですが、一切関係はありません。
カイドウとの戦争から一年が過ぎた頃。
新世界を逆走していたクロエ海賊団は、修行の一環として〝
澄み渡った青空が広がる中、クロエはヤマトを扱いていた。
「やあああーーーーー!!」
ヤマトは金棒を振るい、クロエに襲い掛かる。
今まで様々な武器を持たせてみたが、一番身体にあったのが金棒だったようだ。蛙の子は蛙である。
対するクロエは、何と風呂を焚く時に使う枝薪で応戦。ただし彼女の覇気で武装硬化しており、そこらの鈍器よりも頑丈だ。
「たあーっ!!」
ガン! と金棒と枝薪がぶつかる。
ヤマトはめげずに攻め立てるが、クロエはその場から一歩も動かず捌いている。
このままでは埒が明かないと、ヤマトは背後から攻撃しようと切り替えたが――
「フンッ!」
ゴンッ!
「ふぎゃっ!?」
クロエの一振りが、顔面に直撃。
すっ転んだヤマトは、両手で顔を覆った。
「いたた……」
「まだまだだな。今の攻撃も、見聞色の覇気を鍛えれば確実に躱せるぞ?」
「う~~~っ!! じゃあ覇気を覚えて、痛い目に遭わせてやるっ!!」
ムスッとした顔でクロエを睨むヤマト。
二人の手合わせを見ていた仲間達は、愉快そうに笑った。
「まだまだ修行が必要だね、ヤマトちゃん」
「まあ、海賊王の元
「六歳のガキにしては上等だぜ!」
「ウッキィ!!」
揶揄うことはせず、努力と健闘を称える一同。
ドーマの相棒となった猿のバンビーノは、ヤマトにタオルと水を渡した。
「よし、このまま花ノ国に向かう。私の師匠からも何かヒントが得られるはずだ」
「うん! ……そう言えば、クロエさんはどんな修行をしてたの?」
ヤマトの疑問で全員の目がクロエに釘付けとなった。
あの〝鬼の女中〟が幼少期、どのような修行をしていたのか、スゴい気になる。
クロエは指を折りながら、数えるように語り出した。
「んーと……私が七歳かそこらだった頃から、山を登って来いと言われて登ってる最中に山頂から石を落とされたり、水中戦に慣れておけと川に放り込まれたり、実戦経験を重ねる為にと丸腰で財宝泥棒と戦わされたり、手合わせでは容赦なく師匠は奥義使ってくるし、それと――」
「いや、おかしいだろォ!!!」
ラカムは目が飛び出る勢いでツッコんだ。
修行というより拷問の類に近い。年齢が一桁の子供にやる教育ではない。
するとエマも、海賊島で過ごした頃を思い出したのか、昔を語り出した。
「私はハチノスの外には出れなかったから、基礎体力強化としてドクロの岩山を素手で登らされたり、如何なる時や場所でも冷静でいられるようにと風船に括りつけられて飛ばされたり……うわ、思い出すの嫌になってきた……」
「愛情の裏返しってレベルではないな……」
項垂れるエマに、マクガイは同情した。
重い空気を纏う親友を他所に、ラカムは船内から持ってきた地図を広げた。
「地図によると、オハラという島が近い。肉類はこないだの海王類が残ってるからいいが、野菜と果実が足りなくなってきたから、ここで少しでも調達したい」
船医としての観点から、ビタミンCの欠乏によって生じる壊血病などの対策予防も鑑みて、食料を確保したいと語るラカム。その意見にクロエも同意し、オハラに停泊して物資を少し補給することに決めた。
そんな中、一番の年長者であるレッドフィールドがオハラについて語り出した。
「オハラか……よもや考古学の聖地に寄るとはな」
「考古学の聖地?」
「世界中から集められた、歴史的に貴重なありとあらゆる文献を保管していると聞く。風の噂では、〝
レッドの言葉に、色めき立つ一同。
その中には、夢やロマンを駆り立てる文献もあるだろう。行ってみて損はないはずだ。
「決まりだね!」
「ああ。――目的地を変更、物資の調達の為にオハラへ進路を変える!」
クロエの船長命令に、仲間達は応じた。
これが、後の世に語り継がれる大事件につながるとも知らずに。
翌日、海軍本部の元帥室で、コングは溜め息を吐いた。
「そうか、バスターコールが発令されたか……」
伝令将校の言葉に、何とも言い難い表情を浮かべる。
「考古学の聖地」と呼ばれる島で有名なオハラは、島の研究チームが世界政府から禁じられている「空白の100年」の研究に手を出している事、島外へ派遣されたチームが〝
五老星としても苦渋の決断だったと聞くが、発令された以上は仕方がない。今後の世界の為に、見せしめとしてオハラを消さねばならない。
ロジャーが死んでから散々だな、と感慨を抱いた時だった。
「失礼します!! コング元帥、クロエ海賊団の居場所が判明しました!!」
「!」
その言葉に、元帥室に緊張が走る。
今の海の覇者たる存在である白ひげを差し置いて、世界政府が最も動向を警戒するクロエ海賊団は、数ヶ月程前から行方不明となっていた。
その一団の動きをようやく掴む事ができたのだ。一言一句聞き逃せない。
「よく調べがついたな。それで、あの小娘は今どこに?」
「クロエ海賊団は、現在〝
「〝
将校の報告を、コング元帥は一切動じずに分析した。
クロエは攻撃的ではあるが、人間関係は割と律儀なタイプの海賊だ。大方、大海賊として成長した自分を、師匠であるチンジャオにその目で見せるためだろう。
となれば、彼女の目的地は自ずとわかる。花ノ国だ。
「……花ノ国が目的地とわかった以上、奴らは監視だけで構わん。こちらから刺激しなければ、話のわかる女だからな」
「げ、元帥……そ、それなのですが……」
「どうした?」
伝令将校の狼狽ぶりに、コングは怪訝な顔をした。
「それが……巡回中の軍艦の報告から奴らの進路を計算したところ、オハラの近海を通過するという結果が出まして……!!」
「――な、何ィ!!?」
その報告に、コングは嫌な汗が止まらなくなった。
オハラには現在進行形で、バスターコールでオハラを消す為に海軍の軍艦が10隻が到着し、今しがた集中砲火が始まったところだ。
「さ、最悪の場合……クロエ海賊団と艦隊が接触し、戦闘となる可能性が……!!!」
「本当に何て最悪なタイミングなんだ……!!!」
コングの顔から血の気が引いた。
クロエはロジャーの影響を大きく受けてる為、民間人に危害を加える事はしないが、彼女の厄介なところは
下手に刺激しなければ穏健な海賊ではあるが、常に細心の注意を払わなければいきなり攻撃的になり全滅させられる――それが〝鬼の女中〟の世界政府及び海軍の認識だ。だからこそ、バスターコールが発令されたオハラの傍を通るのは想定外の事態だったのだ。
「一刻も早く通達しろ!! バスターコールは中止!! 全責任はおれが取る!! 艦隊がクロエに壊滅させられる前に、あらゆる手段を使って砲撃を止めさせるんだ!!!」
「りょ、了解!!」
コングは切羽詰まった表情で命じる。
オハラに派遣された艦隊では、クロエはまず倒せない。それこそセンゴクやゼファー、ガープを派遣しなければならない。が、三人は今現在任務中でオハラへは行けない。状況はかなりマズい。
しかも今回のバスターコールにはクロエと因縁があるサカズキが参加している。徹底的な正義を掲げる彼の性格からして、クロエと遭遇したら間違いなく戦闘になり、クロエもまた本気で暴れ出し、結果的に海軍の被害が甚大なものになる。
クロエ海賊団との全面戦争は、是が非でも避けねばならない。たとえ手遅れであったとしても、元帥である自分の命令が届けば、その先の状況は全く違うはずだ。
だが、現実は非情であった。
「スパンダイン長官! コング元帥から緊急の要請が」
「うっせェ、そんなモン蹴っとけ!! 今それどころじゃねェだろ!!」
コングの元帥命令は、一人の出世にがめつい政府高官のせいで届く事はなかった。
*
オハラ近海にまで来たクロエ海賊団は、目の前の光景に言葉を失った。
「こ、こりゃあ……」
「島が、攻撃されてる……!?」
海軍の艦隊が、オハラに向けて集中砲火している。
ただの研究熱心が過ぎる平和な島だと思っていたのに、まさかの戦場。
どういうことだと戸惑う中、レッドフィールドは口を開いた。
「やはり、こうなったか…」
「え? それって……」
「あれは〝バスターコール〟……海軍本部中将5人の指揮の下、軍艦10隻の大戦力で無差別殲滅攻撃を行う軍事作戦だ。学者達は、見せしめに滅ぼされるようだ」
クロエは目を細め、炎に包まれてゆくオハラを見つめる。
おそらく、オハラの研究は世界政府にとって
「補給は諦める。このまま花ノ国へ向かうぞ」
「で、でも! これじゃあ何の罪のない人達も……!」
ヤマトは泣き出しそうな顔を浮かべる。
無差別攻撃という事は、無関係の市民が紛れていようがお構いなしという事だ。
このまま見捨てるのは惨いとでも言いたげな彼女に、エマが優しく声をかけた。
「ヤマトちゃん、安心して。バスターコールは攻撃前に避難の猶予が与えられてる。市民の避難も認められているよ」
「本当……?」
「ウソなんかつくもんか! そうでしょ? クロエ」
「ああ。その証拠も見える」
クロエが指差す場所には、多くの民間人を乗せた避難船が。海兵も何名か乗っており、世界政府なりの人道的配慮だと想像がついた。
ヤマトはその光景を見て表情が幾分か和らぐがそれでも表情は未だ暗いままだ。荒くれ者の海賊ではなく、ただ歴史探求をしている学者に対しての攻撃に、六歳の少女が納得するはずもないだろう。
「私達もオハラの学者も、世界政府の規範から見ればれっきとした無法者……厳罰の対象だ。あの島の学者達は、それを承知の上で法を破ったんだ」
「わかってて……?」
「私としては、この世界の「闇」はもう少し時間を掛けて教えたかったがな……酷だったな」
「ううん、大丈夫」
ヤマトはニカッと笑うが、それが無理に笑ってのものだとすぐにわかる。
クロエは優しく頭を撫で、愛おしさと憐れみを抱きながら「偉いぞ」と呟いた。
その時だった。
キィィン……!
「――っ!? 総員、戦闘準備!!」
「船長!?」
「エマ!! 私に代わって指揮を執れ!!」
突如、クロエは一筋の汗を流し、船を飛び出し月歩で宙を駆けた。
彼女は未来を視たのだ。多くの民間人が乗った船が、救助に当たっていた海兵と共に軍艦の砲撃で沈められるのを。
(遠すぎる……!!)
軍艦までの距離が、遠い。
砲撃の阻止は間に合わないと判断したクロエは、避難船へ放たれた砲弾を破壊する為に覇気を纏った化血を振るった。
「〝神威〟!!」
軍艦の大砲が火を噴くと同時、宙を駆けながら斬撃を飛ばす。
砲弾はクロエが飛ばした斬撃に斬られ、一斉に爆発する。飛び散った破片が避難船の帆を突き破るが、乗船しているオハラの一般市民と救助に当たっていた海兵達は全員無傷だ。
「何をしちょる!? 沈めろと言ったじゃろうが!!!」
砲撃を指示したのは、バスターコールに参加していたサカズキだった。
万が一にも避難船に学者が潜んでいたら、〝
部下の不手際かと思って声を荒げたが、海兵の一人が青ざめた顔で報告した。
「サ、サカズキ中将!! 〝鬼の女中〟です!!」
「――何じゃと!!?」
海兵の報告に、サカズキは驚愕する。
海賊王の部下だったあの女がこのオハラに来ており、避難船を守ったのだ。
(一体どういう風の吹き回しじゃあ……!!)
サカズキが困惑している一方、避難船の欄干に降り立ったクロエは軍艦を睨んだ。
「どういうつもりだ、サカズキ……!!」
――あの豚共の言いなりの上、軍務上は不問としても仲間ごと堅気に手を出すとは……!!
クロエは額に青筋を浮かべながら跳躍。
軍艦へ直行し、化血に覇王色を纏わせた。
『〝鬼の女中〟!?』
(避けられん!!)
サカズキは冷や汗を流しながらも、迎撃するべくマグマの拳を構えた。
が、サカズキが攻撃する前に先手は打たれてしまった。
「〝神避〟!!!」
ドォン!! ボゴォン!!
クロエは化血を横薙ぎに一閃。とてつもない衝撃波がサカズキを襲った。
それと共に付随する覇王色の覇気が爆発するように拡散。衝撃は凄まじく、軍艦のマストはへし折れ、砲台が破損し、海が大きく震え、海兵達は次々に吹き飛ばされて海に落ちる。
「……!!!」
覇王色を纏った強大すぎる一撃を食らったサカズキは、クロエが納刀すると同時に吐血し、仰向けに倒れて気絶した。
不意打ちに近いとはいえ、海軍でも抜きん出た実力者である中将が秒殺。この海で最も恐れられる海賊の一人である〝鬼の女中〟の
「うわあああ!! サカズキ中将の部隊がーーー!!」
「そ、そんなバカな……!!」
「本物の〝鬼の女中〟だァァァ!!」
他の軍艦の海兵達は悲鳴を上げるが、悠長に悲鳴を上げている場合ではない。
あのオーロ・ジャクソン号の船首砲が海兵たちに対し火を吹いた。
「クロエ海賊団だ!!」
「〝魔弾のエマ〟!! 〝赤の伯爵〟!! 全員揃ってます!!」
「救援要請だ!! 本部に繋げろ!!」
ソードクロスの赤い海賊旗を見た海軍とサイファーポールは、海戦の準備を始める。
もはやバスターコールどころではないのだろう。感情が無いのではと思われる程に冷徹だった彼らの焦り様は、尋常ではなかった。
それをオハラの海岸線で見ている者達の心も驚愕と困惑に晒されていた。
「……海賊……? でも、避難船を……」
「クロエ海賊団……一体、どういう風の吹き回しだで……!?」
「サカズキ、くたばっちゃいねェだろうな……!!」
考古学者の母を持つニコ・ロビンと巨人族の元海軍中将サウロは、世間では攻撃性の高い女海賊として恐れられる〝鬼の女中〟が避難船を救け、砲撃をした軍艦の海兵達を壊滅させた事実に、戸惑いを隠せないでいた。
一方、上記の二人を捕縛する為に動いていたクザンも、クロエの乱入に言葉を失っていた。サカズキには避難船への砲撃について文句の一つや二つは言いたかったが今はそれどころではない。
(サカズキ、無事だよな……!?)
同僚の安否を気にしていると、サカズキの軍艦からクロエが跳躍し、高速で迫った。
「っ!! 〝アイス
これはマズいとクザンは巨大な雉の氷塊を飛ばすが、クロエは覇気を纏った化血で両断。一太刀で斬り崩して距離を詰め、切っ先を喉元にピタリと突きつけた。
「久しぶりだな、クザン」
「……何でいんのよ、あんたら……」
「里帰りの道中に、たまたま見かけてな」
両手を挙げて、顔を強張らせるクザン。
今のクロエは、額に血管が浮き出ており、かなりお怒り気味な様子。
「……随分と怒ってんじゃないの……」
「犠牲の伴わない正義はないとしても、サカズキのあの判断は頭に来るぞ」
クロエは殺気立ちながら答える。
無法の海賊稼業に身を投じているが、堅気への手出しを禁忌とするロジャー海賊団の掟を色濃く受け継いでいるクロエは、無関係の民間人を巻き込むのを良しとしない。それゆえに、クロエはサカズキに怒りを覚えたのだ。
見損なった、と。
「……理解できても納得いかないってヤツか?」
「平たく言えばな」
――プルプルプルプルプル!
ふと、クザンの懐から電伝虫が鳴った。
クロエは化血の切っ先をゆっくりと下ろした。電話対応は許すそうだ。
「……あー、こちらクザン」
《クザン中将!! 五老星の許可の下、コング元帥よりバスターコール中止との伝令が入りました!! バスターコールは中止です!!!》
「……クロエ海賊団は?」
《それが、コング元帥の伝令が来た瞬間に攻撃を止めまして……!!》
その意味を、クザンはすぐに理解した。
エマが見聞色の覇気による未来視で事態を察知し、一旦は引く事にしたのだ。
そして、選択肢を与えたのだ。このまま引くか、それとも残った兵力でクロエ海賊団と戦争をするかを。
「……わかった、すぐそっち戻るわ」
電伝虫の通信を切ると、クザンはこれ以上の長居は無用と判断し、背を向けた。
「クザン……!!」
「サウロ……さっきも言ったが、お前の〝正義〟を責めやしない。お前らは見守らせてもらう。だが忘れんなよ、
クザンは振り返ることもなく告げ、その場から消えた。
クロエは見聞色でクザンの気配が遠ざかるのを確認すると、化血を鞘に収めた。
「……何をしている? せっかく拾った命を無駄にする気か。私も長居はしないぞ」
「でも、まだお母さんが!!」
ロビンはクロエに訴えるが、サウロは沈痛な面持ちで「もう誰も助からんでよ……!!」と告げた。
ロビンの母――ニコ・オルビアは、オハラの学者として滅びゆくこの島に残る事に決めたのだ。世界中から集めた文献を、未来へ届くように残す為に。
その気になればサウロはオルビアも一緒に連れて行こうと思えば出来たが、彼女の意志を尊重し、ロビンだけでも逃がす事にした。サウロとロビン以外は助からない運命だと悟ったのだ。
だが、クロエは燃え盛る炎に包まれる巨木を見やると、ロビンの頭を優しく撫でた。
「……事情はわかった。任せろ」
「え?」
「な、何をする気でよ!?」
サウロに問われるもそれを無視しクロエは月歩で宙を駆け、島の中心にある「全知の樹」へ向かった。
バスターコールは中止となった為、これ以上の砲撃はないが、炎に呑まれている以上は一刻を争う。見聞色でかなりの数の気配を感じ取ったクロエは、すぐさま化血を抜いた。
その直後。
バキバキバキ……!
「ああっ!! 全知の樹が!!」
ついに炎に耐え切れなくなった全知の樹が、嫌な音を立てながら倒れ始めた。
しかし、それこそがクロエが待っていた好機だった。
「〝劈風〟!!」
クロエは化血を振るって覇気を纏った斬撃の嵐を放ち、倒れ始めた全知の樹を斬り刻み、燃え盛る炎もかき消す。
そのあまりにも衝撃的な光景に、ロビンとサウロをあんぐりと開け唖然とし、全知の樹の内部の図書館から見上げていた学者達は突然のことに感情の整理が追いつかず呆然とする。
「……悪くないな」
化血を鞘に収め、学者達の前に着地するクロエ。
放心状態の学者達に、「とんだ災難に遭ったものだな」と口を開いた。
「あなたが、全知の樹を……!?」
「お前がニコ・オルビアか……いかにもそうだが、マズかったか?」
「いえ………ありがとうっ!!」
オルビアは泣き崩れ、彼女に続くように学者達は涙を流した。
まだ生きられる。まだ、真実を知る為の研究が続けられるのだ。
「ありがとう! 本当にありがとう!」
「何と礼を言うべきか……!」
「あなたはオハラの恩人だ!」
学者達に涙ながらに感謝され、クロエは「やめろ、気持ち悪い!」としどろもどろになるのだった。
そして同時刻。
クロエが全知の樹を斬り刻み、その残骸を吹き飛ばしたのを目撃したクザン達は、オハラからの撤退を始めていた。
「クザン中将!! サカズキ中将が!!」
「わかってるよ。……ったく、徹底的な姿勢が仇になっちまったな」
未だ意識が戻らない同僚を心配しながら呟く。
これはセンゴク達も後始末が大変そうだ。バスターコール中にクロエ海賊団の襲撃に遭い、交戦の末に撤退させられるとは。
胃薬でも買って渡してやるかと、上司達の胃を心配したその時だった。
「クザン中将!! 〝鬼の女中〟と学者達が!!」
「!」
一人の将校の言葉に、クザンは目を見開き視線を飛ばす。
視線の先には、焼け落ちる木々に斬撃を飛ばして逃げ道を作るクロエとその道を通って燃え盛る森から脱出する学者達の姿が。そして、その一行と合流する少女と親友の姿も。
「……オハラの勝ちだな、こりゃあ」
クザンはゆっくりと口角を上げた。
島はもうすぐ焼け野原となり、図書館も研究資料も全て灰と化すだろう。だがそれでも、学者が世界の理不尽を相手に生き延びたのなら、彼らの勝利と言える。
《クザンさん、何をしてるんですか!! 早く攻撃を!!》
「ハァ?」
その時、電伝虫から通信が入った。
CP9――正式名称は「サイファーポールNo.9」――のトップである、今回のバスターコールを発令したスパンダイン長官からだ。
《これで学者達が生き残ったら、今回の作戦が全部無駄に終わるんだぞ!?》
「あのさ、この状況わかって言ってんの? 今のおれ達にクロエ海賊団を相手取れねェ。それこそセンゴクさんやガープさんが来てくんねェと勝てないの。サカズキ秒殺した化け物におれが敵いっこないでしょ」
《ハァ!? ふざけんな!! それじゃあおれの面目丸潰れじゃねェか!!》
抗議するスパンダインだが、権力にがめつい彼の事だ。どうせ構っても無駄だと遠い目になるクザンだったが……。
バリバリ……!!
「!? 全艦、衝撃に備えろ!!」
「クザン中将!?」
「
海軍中将の言葉に、海兵達は動いた。
衝撃に備えろと言うことは、この後に来るであろう攻撃は避けられないという事。
全員が手すりや欄干にしがみつくが、スパンダイン達は海兵達の行動の真意を汲み取れるわけもない。
「腰抜け共が、いきなりどうした?」
「スパンダイン長官!! アレを!!」
「あん?」
部下の一人が、慌てた様子で指を差す。
その先には、スパンダイン達に拳銃の銃口を向けるエマの姿が。
「エマ・グラニュエール!?」
20億近い懸賞金を掛けられた大物が、殺気を向けてきている。
撃鉄を起こした彼女を見て、スパンダインはさすがにマズいと感じたようだが、すでに手遅れだった。
「ねえ、お役人さん。海軍は中止命令が出たから手を引いたのに、まだ引き金引くつもり?」
「あ、いや……!!」
「……それって、私に撃ち抜かれたいって事でいいよね?」
エマは青筋を浮かべると、構えていた拳銃の銃身から、バリバリと黒い稲妻が迸り始めた。
銃口は、スパンダインではなく軍艦の艦体――船の要である竜骨に向けられる。
そして、エマは引き金を引いた。
「〝
バァン!! ドゴォン!!!
『うぎゃああああーーーーー!!!』
エマは弾丸に覇王色を込めて発砲。
黒い稲妻を迸らせる弾丸は、軍艦の砲撃すら軽く上回る破壊力と貫通力を宿し、スパンダインが乗った船に着弾。弾丸に込められた覇気が暴発し、竜骨を破壊してサイファーポールの船を文字通り真っ二つにした。
「スパンダイン長官が!!」
「早く救助しろーーーー!!」
海兵達は政府高官であるスパンダインの救助活動を急ぐ。
クロエ海賊団は、それを追撃する事をせず、オハラの海岸へと向かい舵を切る。艦隊には自分達と戦う兵力も気力もないと判断されたようだ。
(……すまねェな、クロエ)
――オハラ壊滅の責任は、お前に全て擦りつけられるだろうよ。
世界政府の隠蔽体質を知るクザンには、なんとも言えない気持ちでクロエを見つめる事しかできなかった。
サカズキはちゃんと生きてますのでご安心を。
スパンダインも、悪運は強いので息はあります。
オハラの学者達は、命は助かりましたがこれからが大変。
焦土と化した故郷には居られないので、どの道オハラは地図上から消されますし、身を守る術もないので。ドラゴンとベガパンクがどう動くかですね。
そしてエマの必殺技として登場した、覇王色を纏った銃撃で対象を撃滅する〝
技名はスタームルガー・ブラックホークが由来です。