ちなみにラカムの持ってる戦鎚、あれは「
クロエ海賊団とビッグ・マム海賊団の抗争が激化する中、レッドフィールドとカタクリは壮絶な一騎打ちを繰り広げていた。
「くっ……!」
「流石に手強いな、リンリンの息子……!」
片膝をつき、汗を流すカタクリ。それに対しレッドフィールドは、不敵な笑みを浮かべて傘の石突を突きつける。
両者は共に〝見聞色〟に特化した実力者で、互いに見聞色を極限以上に鍛えているので未来視を可能としている。しかし未来視の時間単位という点で言えば、カタクリが劣勢だった。
カタクリは鍛え続けた末に、現時点で大よそ3秒先の未来を視れる。だが生まれつき強力な見聞色をもって生まれているレッドフィールドは、クロエ海賊団加入後にクロエやエマとの手合わせによる鍛錬もあり、
当然、その分集中力を高めなければならないという短所もあるが、戦闘においては数秒先の未来を視れるのは生死を分ける。ましてや、視れる未来に明確な時間差があれば、どちらが優勢かは明白だ。
「ハァ、ハァ……だが、貴様とおれとでは、もう一つ明確な差がある……!」
「っ!」
カタクリは甲板の木材を餅の触手に変え、先端に武装色の覇気を纏わせる
レッドはそれが降り注ぐように攻撃するのを未来視で見切り、その場から退避する。
「〝覚醒〟か……!!」
レッドは眉をひそめる。
悪魔の実は、稀に能力が進化して更なる性質が追加される「覚醒」が起こる。能力者の心身が悪魔の実の能力に追いつく事で、より強大な能力を行使できるのだ。
事実、クロエとエマの元仲間であるバレットは、ガシャガシャの実の能力を覚醒させた事で生物以外のあらゆる物質との合体・融合・変形を可能とし、末期の病だったとはいえロジャーとほぼ互角に戦える程になった。
そしてカタクリは、餅を生み出して自在に操り、体を餅に変える事もできる〝モチモチの実〟の能力者。特殊な
「おれはお前を侮っちゃあいない!! 〝モチ
愛用の三叉槍「
が、その高速回転を見切ったレッドは、穂先の刃と刃の間に武装硬化した傘を刺し込んで受け止めた。
「いかに必殺の一撃とて、当たらねば無意味だ」
「ぐうっ……!」
「我の見聞色の前では、貴様の覚醒も通用せん。――振り出しだな」
レッドフィールドは大きく踏み込んで押し出し、カタクリの体勢を崩す。
崩れた隙に首元を狙うが、カタクリはモチモチの能力で身体を効率よく変形させて回避。すぐさま身体を餅にして後方へ退避する。
「流石は〝赤の伯爵〟だな」
「クククク……こいつも中々の強者だが、おれ達を二人は荷が重かったようだな……ペロリン♪」
「くそ、能力が厄介すぎる……!!」
一方のラカムは、ペロスペローとオーブンの二人を相手取っていた。
体から高熱を発する事ができる〝ネツネツの実〟の能力者であるオーブンは、相手の持つ武器を熱して握れなくしたり、ただ睨むだけで対象に高熱を与えて発火させるなど、様々な応用が利く。キャンディを生み出し、操る事ができる〝ペロペロの実〟の能力者であるペロスペローは、飴ゆえに熱が弱点だが、加工次第で防御壁や拘束具などを生み出せるので物量戦にも強い。
対するラカムは、高精度の覇気と戦鎚による強力な打撃と衝撃波攻撃だが、厄介な特性の能力者を二人も相手取るのはキツいようだ。
「……どうした船医、足の小指をタンスの角にでもぶつけたような顔だぞ」
「キツいジョークだな、大海賊」
ラカムは戦鎚に覇気を纏わせ、武装硬化させる。
覇気の練度はラカム達が上だ。覇気を駆使し、相手を倒すしかない。
「三対二……分が悪いのはそっちだ。勝負あったな」
「さて、どう料理してやろうか……ペロリン♪」
「――っ!! 避けろペロス兄!!」
悪い笑みを浮かべる兄弟に、カタクリは焦った顔で叫んだ。
しかし、その時には空中から落下してくる巨体の
「〝武頭〟!!!」
「ぐばっはァ!!?」
甲板がへこむ勢いの頭突きを食らったペロスペローは、一撃で沈黙。
丸い禿げ頭の頭頂部が武装硬化した大男――チンジャオの到着に、オーブンとカタクリは冷や汗を垂らす。
「ひやホホ、ようやくここまで来れたわ!!」
「遅かったではないか、チンジャオ」
「流石はビッグ・マム海賊団……我が八宝水軍の
血に塗れた両手を合掌させ、覇気を高めるチンジャオ。
引退したとはいえ、やはりロジャー時代の大物の進撃は兄弟姉妹でも厳しかったようだ。
「……ええい、クソが……!!」
「ペロス兄!!」
「生きてたか!!」
「危なかったぜ、〝キャンディアーマー〟すら容易く破壊しやがった……!!」
体中から血を流すペロスペローは、眼前のチンジャオ達を射殺すように睨む。
どうやら、頭突きが直撃する寸前に高い硬度のキャンディを全身に纏ったようだ。それでもチンジャオの頭突きを受け止めきれずに食らってしまったのだから、これがかつての錐頭だったら命の保証はなかっただろう。
「ロートル二人とケツの青いハンマー野郎に後れを取るビッグ・マム海賊団じゃねェ……ん?」
ふと、その場にいるはずのラカムが消えていることに気がつくペロスペロー。
一体どこへ消えた……? ペロスペローは辺りを探すが、影も形もない。
「クソッ!! ペロス兄!!」
「なっ!?」
ペロスペローは、切羽詰まった表情のカタクリに押し出された。
何事かと思っていると、真上でラカムが戦鎚を振り回しながら降下してきた。
戦鎚の頭からは、バリバリと覇気が溢れるように迸っている。いくらカタクリでも、アレを食らえば……!
「〝
ドカァン!!
稲妻のように走る戦鎚の強烈な一撃が、カタクリを襲った。
その衝撃は凄まじく、クイーン・ママ・シャンテ号を貫通して海面を大きく揺らす。
「まだそれ程の覇気を……!?」
「おれも、あの怪物船長に扱かれてるんでね……!!」
すんでのところで身体を餅にして回避に成功したカタクリは、ラカムの武装色の強さを目の当たりにし、感心した様子を見せた。
「だが、お前達の船長はママには勝てん……!!」
「それはどうだかな……何せ海賊王ロジャーも認めた猛者だぜ、ウチの船長は」
ラカムは煙草を咥え直し、不敵に笑う。
その一方で、クロエとリンリンの戦いは激化していた。
「ママママ!! 手古摺ってるねェ、お前の部下は!!」
「そう簡単に倒せるような連中とは思ってないさ……!!」
するとクロエは、突然愛刀を投擲。
リンリンの心臓を射抜かんと迫るが、鉄の風船と称される程に異常に頑強な肉体には通じず、そのまま弾かれてしまった。
「どうした、ヤケクソかい……ん?」
リンリンは、クロエの気配が完全に消えたことに気づき、驚きを隠せない。
あれ程の強大な覇気を、見聞色の覇気を発動してるのに全く感知できないのだ。
一体、何が起きている……!? 焦るリンリンだったが、すぐそばでいきなり強大な覇気を感じ取り、ハッとなった。
何とクロエが、武装硬化した鞘で平突きの構えを取っていたのだ。
「食らえ、リンリン!!」
ドォン!!
「ボヘェ~~~~!!!」
鞘が鳩尾に減り込むと同時に、凄まじい衝撃がリンリンの全身を襲った。
愛刀・化血の投擲はリンリンの気を逸らす為の囮であり、真の狙いは〝見聞殺し〟でリンリンの見聞色を封殺しながら懐まで潜り込み、覇王色の覇気を纏った鉄拵えの鞘による攻撃を巨体に叩き込む事だったのだ。
「ゲボッ!!」
『ママ!!?』
リンリンの子供達は、無敵のはずの母親が膝をついて血を吐いた光景に我が目を疑う。
だが、〝鬼の女中〟の攻撃の手が緩むことはなく、弾かれた化血を回収しながら再びリンリンに迫る。
「図に乗んなよ、小娘ェ!! 〝
リンリンは怒り狂い、燃える巨剣を振るうが……。
「――ロジャー!?」
急接近するクロエの姿に、リンリンは自分達を出し抜いて海の覇者となったロジャーの影を重ねた。
次の瞬間!
「〝神避〟!!!」
ドォン!!!
「……!!!」
〝無錐龍無錐釘〟をも上回る衝撃波攻撃に、リンリンがもんどりを打った。
海賊王ロジャーから受け継いだ剣技の直撃を受け、仰向けに倒れた。
『ママーーーッ!!!』
クロエは愛刀を鞘に収め、リンリンはピクリとも動かない。
――まさか、あの大海賊ビッグ・マムが敗北を喫したのか?
ラカム達は笑みを浮かべ、カタクリ達は焦燥に駆られるが……リンリンは死んでいなかった。
「……こんなに
「まだ立つか……!」
威圧感が増したリンリンに、クロエは睨み返した。
互いに覇王色を全開にしたことで、周囲の半端者達は次々と倒れていく。
「クロエ・D・リード……!! おめェをおれの
「……そうか」
「さァ、かかって来なァ!!」
バリバリバリ!!
『!!?』
突如、何者かの覇王色の覇気が襲い掛かった。
不意打ち気味に放たれたそれに、ビッグ・マム海賊団のチェス戎兵や下級の戦闘員は軒並み全滅した。
「お前達!? ……どこの馬の骨だァ!!?」
大気を震わす咆哮を上げるリンリン。
その声に応えるように、サプレッサーイヤーマフを装着した黒い軍服の男が、覇気をまき散らしながら現れた。
「バレット…!?」
「……ロジャーんトコの合体小僧か!!」
『〝鬼の跡目〟だァーーーーー!!!』
現れたのは、クロエの弟分の一人であるダグラス・バレットだった。
二年前に別れた時よりも覇気も肉体も鍛え抜かれており、バスターコールでの傷痕が生々しい。
「なぜ、ここにいる……?」
「カハハハ…!
「フッ……お前らしいな」
戦闘狂のバレットらしい言い分に、クロエは笑った。
「クソッ……「ロジャー海賊団の双鬼」が揃うと、流石に分が
「ママ……かなり言いにくいが、これ以上は……」
オーブンとカタクリの言葉に、リンリンは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。
万全の状態であるバレットまで相手取るとなれば、ビッグ・マム海賊団の被害は甚大なものになる。欲しいものを妥協するなど海賊らしからないが、引き際を見誤れば何も得られないどころか、失う物が増え続けるだけだ。
怒りで顔を歪めながらも、リンリンは苦渋の決断を下した。
「仕方ねェ、今回はここで引き上げてやるよ……おれも手放したくねェモンがあるしなァ……!!」
「……そうか」
「お前達、戻って来なァ!!!」
リンリンの号令を聞き、子供達が次々に戻っていく。
抗争はここで手打ち――そう判断したクロエも、オーロ・ジャクソン号へと帰還した。
クロエ海賊団及び八宝水軍とビッグ・マム海賊団の抗争は、引き分けという形で決着を見た。
*
戦いが終わり、どうにか花ノ国を護り抜いたクロエ達。
ラカムの手当てを受けたクロエは、二年ぶりの再会となった
「……バレット、追撃しなかったな」
「疲弊した連中を叩き潰すのは、世界最強に相応しくねェ」
――万全の状態の強者を真っ向勝負で倒してこそ、ロジャーを超えられる。
そう語るバレットに、クロエはクスクスと笑った。
「何がおかしい」
「いや……本当に似た者同士だなと思ってな」
「……
仏頂面で返すバレットに、クロエは柔和な笑みを浮かべる。
それを眺めていたクロエ海賊団は、動揺を隠せないでいた。
「何か、お姉さんやってんな……」
「あれが本来の為人というヤツなんだろうな」
「とっても楽しそうだね!」
〝鬼の跡目〟と〝鬼の女中〟の会話に、仲間達の感想はマチマチ。
そんな二人に、エマも割って入った。
「バレット、二年ぶり!!」
「……エマか。ちったァ強くなったか?」
「ちょっと、今は戦う気になれないんだけどー……」
「ちっ……」
その場にいる全員に聞こえるくらいの舌打ちに、クロエとエマ以外は肝を冷やした。
――目をつけられたら、戦うハメになる!
かの〝鬼の跡目〟に勝てるのはこの場ではクロエしかいないが、肝心の彼女は傷を癒す事に専念してるので、庇ってくれるどころか「日頃の成果を見せるいい機会じゃないか」とか言いかねず、下手に反論できない。
すると、クロエが目を細めて提案をした。
「バレット、もし暴れ足りないならカイドウのところに行け」
「カイドウだと?」
「少し前に
「ほう……」
クロエの言葉に、バレットの目が底光りした。
彼の碧眼を目の当たりにし、ラカム達は自分の背中が冷や汗で濡れたのを感じる。
あれは完全に獲物を見る目だ。そんなヤバい奴と同じ海賊団で同じ釜の飯を食い、鍛錬として何十回とぶつかり合っていたのだから、やはりクロエは実力も胆力も伝説級だ。
「私は用は済んだから、この海を離れて〝
「ハッ……じゃあ、とっとと傷を治せ。次こそおれと決闘だ」
「ああ、また今度だ」
バレットの申し出を平然と受理するクロエ。
そんな親友の態度に、エマは「段々ロジャー船長に似てきたなァ」と微笑むのだった。
何かシャンクスが政府側だとか元天竜人だとか言われてますが、仮にそうだとしても本作のシャンクスは「世界政府とクロエ、どちらを敵に回すか」と問われたら、間違いなく世界政府と答えます。(笑)
姉に勝る弟はいないんです。(震)