〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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今回は二本立て。
前半は竹中ボイス、後半は櫻井ボイスです。


第40話〝いいセンスじゃないか〟

 ビッグ・マム海賊団との抗争が引き分けに終わったクロエ海賊団は、バレットとチンジャオ達に別れを告げ、花ノ国を出発した。

 流石のクロエも無傷とまではいかず、腕や首には包帯が巻かれ、顔には絆創膏やガーゼが貼られていた。大海賊時代以前から海に君臨していた海賊女王を相手に、この程度の傷で済んだのはスゴいことなのだが。

「……私もまだまだだな」

「贅沢言うぜ、誰も死ななかっただけでも大したもんだろ」

 眠るヤマトを胸に抱えながらクロエはボヤくが、ラカムの言葉に仲間達はうんうんと頷いた。

 傘下を連れて来なかったとはいえ、海賊界でも一大勢力であるビッグ・マム海賊団の本隊が相手だったのだ。クロエ自身はバレットの乱入で勝敗が決まったものだと不満気だが、ビッグ・マム海賊団を追い払えたのは奇跡としか言いようがない。その代わり、海軍と政府上層部の胃の方は壊滅的被害を受けてる可能性があるが。

 ちなみに花ノ国のラーメン王は、戦況が膠着した時点で海軍に救援を呼ぶ必要性はないと判断し、どっしりと構えていたらしい。流石国王、胆力が尋常ではない。

「まあ、そのおかげでいいモノをもらえたがな」

「当分は食っていけるぞ!」

「ウキキッ!」

 マクガイやドーマ、バンビーノは嬉しそうな表情を浮かべる。

 その時、エマが慌てた様子でクロエの元へ駆けつけた。

「クロエ、一大事だよ!! 見たこれ!? 今日の世経の号外!!」

「ん?」

「〝金獅子のシキ〟がインペルダウンを脱獄したんだって!!」

『!?』

 慌てて号外を突き出すエマに、クロエは目を細め、ラカム達は驚いた。

 見出しには「インペルダウン初の脱獄者 海賊艦隊提督〝金獅子〟のシキ」と載っている。

 シキはかつてロジャーと渡り合い、クロエとは二度顔を合わせた狡猾な大海賊だが、あの処刑の日の一週間前に単身海軍本部に殴り込み、ガープとセンゴクの手によってインペルダウンに投獄されたはずだ。

 記事によると、シキは海楼石の足枷に繋がれていた両足を切断し、フワフワの実の能力で空中を動いて脱獄したという。頭に舵輪が突き刺さったり、両足を斬り落としたり、豪胆さに見合ったイメチェンをする男だ。

「ロジャーのストーカーか……もうロジャーは死んだというのに、何をするつもりなんだ?」

「これは私の予想だけど……金獅子はお師匠と同じ一味だった頃から世界征服を目論んでたから、私達を利用しようとしてるんじゃないかな? この海で私達は多分一番〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟に近い存在だし、古代兵器の事もちょこっと知ってるからさ……」

「あり得るな。奴の執念深さと強欲さを考えれば、我らをつけ狙うのは火を見るよりも明らかだ」

「最悪」

 また面倒なのが、とクロエは眉を下げた。

 彼女は〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟に興味はないし、最後の島・ラフテルに至っては行き方がわかってる為、暇な時に寄ればいい程度の価値でしかない。そもそもクロエは世界をどうこうするつもりはなく、自分の自由を守る為なら戦争も辞さないだけに過ぎない。

 しかし、ロジャーに触発された新世代の海賊達や、シキをはじめとしたロジャー世代から見れば、クロエは冗談抜きで次の海賊王に近い海賊の一人だ。〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟や海賊王の座を求める者ならば、誰もが狙いに行くだろう。

(全く……どいつもこいつも〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟しか目がないのか? ――まあ、まだ幼いヤマトにはいい経験になるか)

 新世代の海賊達を経験値扱いするクロエだったが……。

「――っ!? 全員、構えろ!!」

 クロエは北東から迫るモノを見て、腰に差した化血の鯉口を切った。

 一同は何事かと思ってクロエの視線を追うと、水平線の彼方から巨大な何かが迫ってきていた。

 目を凝らしてよく見ると……それは、浮遊するオンボロの海賊船だった。

「海賊船が浮いてる!?」

「何だありゃあ!?」

「おい、グラニュエール……」

「うん……あんなマネできるのは、この海では一人しかいない」

 ヤマトや(アー)(オー)が目が飛び出そうなくらい驚いている一方、レッドとエマは顔を強張らせた。

 噂をすれば影が差すとは、まさにこの事だろう。

「ジーッハッハッハッハァ!! 久しぶりだなァ、ベイビーちゃん!!」

『金獅子!!?』

 海賊船から顔を出したのは、インペルダウンを脱獄したばかりのシキだった。

 ロジャーと海の覇を競った超大物の乱入に、船内に緊張が走るが……。

「フフッ……アッハハハハハ!! シキ、いいセンスじゃないか!! アッハハハハハ!!!」

「笑うんじゃねェよ!! ぶっ殺されてェか!?」

 頭の舵輪のことを笑われながら指摘され、顔中に青筋を浮かべるシキ。

 クロエに続き、同世代のレッドは喉を鳴らしてニヤつき、エマに至っては涙目で吹き出しそうになるのを堪えている。

「笑うなって……鏡を見たのか!? 鶏みたいな頭の獅子がどこにいる!? アハハハハ!!」

『ブフォッ!!!』

 腹を抱えて笑うクロエの一言に、ついにドーマ達も吹き出した。

 ワナワナと身体を震わせるシキだが、彼は両足が愛刀の義足である上に二年のブランクがある。多くの猛者達とぶつかったクロエ海賊団を相手取るのは厳しいし、そもそもシキは計画性を持って行動する主義だ。クロエ一人ならともかく、一味総出となるとシキとて()()()もあり得る。

 無論、そんなつもりは毛頭ないが……せっかく脱獄したのにいきなり敗北という幸先の悪いスタートは御免だ。

「ゴホンッ! ……まァいい、おれァ何も戦争しに来たわけじゃねェ」

「じゃあ何しに来たんだ、金獅子」

「ジハハハハ……!! 海賊同士の付き合いってヤツだ」

 ラカムに睨まれながらも、シキは葉巻の紫煙を燻らせながら不敵に笑った。

 

 

「ロジャーのいねェ海はどうだ?」

 シキは「任侠」という銘柄の酒を飲みながら、クロエに尋ねた。

 クロエが静かに「痴れ者しか海に出てこないな」と返すと、シキは大笑いしながら葉巻の灰を落とした。

「ジハハハハ!! そうか、おめェもそう思ってたか!! ……おめェも思ってる通り、宝目当てのミーハー共が海にのさばったところで邪魔なだけだ」

 シキはロジャーがいた頃の海を懐かしんだ。

 ()()()()の海賊達は、自由や支配などの揺るがぬ信念を掲げ、それを求め貫く事で海に君臨した。しかし今時の新世代の海賊達は、誰も彼もがロジャーが遺した〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟目当てばかり。宝探しで海に駆り出す若者達など、世間知らずもいいところなのだ。

 そういう点では、まだ二十代とはいえ「自分の為だけの人生を行く」という信念を掲げるクロエは、シキの言う「本物の海賊」だった。

「……その為だけに来たのなら帰れ」

「ジハハハハ! 相変わらず無愛想で安心したぜ」

 するとシキは、目を細めながら意味深な発言をした。

「――しばし姿を消そうと思う……」

『!』

 シキの言葉に、クロエだけでなく見守っていたエマ達も驚いた。

 まるで表舞台から身を引くような言い回しだ。しかし、シキの悪い笑みからして、どうやら海賊家業を引退するわけではなさそうだ。

「生温いこの時代に、()()()海賊の恐さを見せてやる」

「……そうか。せいぜい脳味噌を雑巾みたいに絞るんだな」

 ぶっきらぼうに言葉を返すクロエ。

 そんな彼女に、シキは「一応最後に聞くぞ」とある質問をした。

「クロエ、おれの右腕に――」

「〝神鳴神威〟!!」

 

 ドォン!

 

「うおォォォォォ!?」

 右腕にならねェか、と勧誘した瞬間、クロエは覇王色を纏った斬撃を飛ばした。

 明確な拒否反応だ。

「っぶねェな!」

「シキ、エッド・ウォーの時も言ったはずだ。私はロジャー以外の人間の下には付かないと」

 それは、クロエが何があろうと絶対に譲れないものだった。

 ロジャーはクロエが抱える秘密も想いも、一度も無下にせず全てを受け止めた。それ故にクロエはロジャーにだけは心を許し、海賊としても一人の人間としても深く愛した。それ程クロエにとって大きい存在なのだ。

 ロジャー以外の人間に、クロエは従う気はないし、魅了される事もない。〝鬼の女中〟を動かせる者は、ゴール・D・ロジャー以外にいないのだ。

「私もロジャーも自由を尊ぶ。お前の信念とは相容れない。それでも私の自由を奪うというのなら――死ぬ気で来い!!!」

 クロエは覇王色の覇気をまき散らす。

 エッド・ウォーの時とは比べ物にならない強大な覇気に、シキは冷や汗を垂らした。

「そうカッカするなよ。気の(つえ)ェ女は嫌いじゃねェがな」

 在りし日のロジャーを思わせる、恐ろしい量の覇気。

 野犬のように鋭く睨みつけるクロエを見て、シキは自分が誰よりも認めた男の影を見た。

「まァ気が向いたらいつでも言ってくれ。おれの右腕として、()()()()()()()()()()()()もてなしてやろう!!」

「生憎、お山の大将を気取ってた方が楽だ。――とっとと失せろ、下郎が」

「ジハハハハ!!」

 シキは高笑いしながら、浮遊する海賊船に乗って去っていった。

「……そう言えば、あの船どっから持ってきたんだろうね」

「その辺の雑魚の船でも襲ったんだろう」

 シキからもらった酒を呷りながら、クロエは溜め息を吐くのだった。

 

 

           *

 

 

 シキとの再会から一夜明け、クロエは次の目的地に関して仲間達と会議をしていた。

「次、行きたい場所はあるか?」

 仲間のリクエストに応えたい、とクロエは告げると、一斉に声を上げ始めた。

「ドラム王国だな。医療大国には興味があるし、学べる技術も多そうだ」

「魚人島に行ってみてェな!!」

「アラバスタ王国はどうだ?」

「みんなでハチノス行こうよ!! お師匠に会いたいし!!」

 ワイワイと騒ぐ仲間達。

 副船長のエマだけ危険地帯であるが、リクエストに挙がった島はどこも行ったことがないため、欲を言えば全部行ってみたい場所だ。

 となれば、現時点で最も近い場所を目指すのが道理だろう。

「近場となるのは、ドラム王国だな」

「ラカム君、よかったじゃん」

「ドラム王国に着いたら、センゴク宛に胃薬を処方してもらうか」

「船長、マジで勘弁してやれよ…」

 クロエの冗談に顔を引き攣らせるラカム。

 確かにセンゴク達は胃に穴が開いてるだろうが、胃薬届けにマリンフォードに行けばそれはそれで穴が広がる一方な気がする。

 少しは休ませてやれよ、と心の内でラカムはボヤいた。

「船長、前方に船が二隻! 片方は世界政府の船だど!」

 ふと、見張りをしていたデラクアヒの声に一同は立ち上がる。

 世界政府の船という事は、何かしらの取引の最中という事だろうか。

「……衣類と飯は足りてる。物資のやり取りならば素通りするぞ」

「……!? 待ってクロエ、あれは奴隷だよ!!」

 エマの言葉に、船内の空気が凍った。

 利権や天竜人絡みで中々無くならない人身売買だが、どうやら瀬取り――船同士の荷物の積み替え――で奴隷を世界政府の船に受け渡すというルートもあるようだ。海上での取引ということは、かなり大きなネタなのだろう。

「……世界政府の衛兵もいるな。覇気使いの気配も感じる」

「それって、天竜人も乗ってる可能性があるって事じゃ……!」

 船の大きさや護衛の()から、おそらく相当な有力者が乗っている。

 世界政府の有力者と言えば、やはり天竜人。世界貴族が乗ってるとなれば、大抵の海賊は躊躇するが……。

「どうする? クロエ」

「どうするって……見え透いた事を訊くんじゃない」

 クロエが呆れた笑みを浮かべた瞬間、砲声が鳴り響いた。

 すかさず覇気を纏った斬撃を飛ばし、真っ二つにして破壊する。

「豚共には力の差というものを推し量る眼が無い。――者共、戦闘準備だ!」

 クロエの一声により、人身売買に手を染める者達の運命が決まった。

 行き先は、あの世一択だ。

 

 

 人身売買の場は、あっという間に制圧された。

 少数ながら圧倒的な武力を有する精鋭海賊団に、護衛達は為す術もなく壊滅させられ、同乗していた天竜人もクロエによって斬殺された。

 神に等しい存在である天竜人を平然と斬り伏せるクロエに、エマとレッドフィールド以外は寒気を覚えたが、そもそも彼女は〝神殺しのクロエ〟と呼ばれた海賊――天竜人殺しで名を轟かせ、聖地では今もロジャー以上に恐れられている程の怪物だ。心の底から侮蔑嫌悪する連中にかける慈悲などないのである。

「船長、リストに載ってる奴隷達は全員確認できたど!!」

「状態はどうだ、ラカム」

「全員青痣ダラケ。……まあ、一通り診たが骨折や内臓の損傷はねェよ。首輪のおかげだろうな」

「皮肉だね~……」

 ラカムからの報告を聞きながら、クロエとエマは奴隷の首輪を次々と覇気を流した両手で握り潰し、海に放り投げて爆発させる。

 爆弾付きの首輪は、外そうとした瞬間カウントが始まって爆発する代物。船上で首輪をいっぱいつけた奴隷達に乱暴をして、うっかりスイッチが入ったらシャレにならない。人権もへったくれもない商品扱いしても、細心の注意を払ってはいたようだ。

 おかげで余計な治療行為をせずに済んだがな、とラカムは呟いた。

「待ってくれ!! あんた船医だろ!? 彼女を助けてくれ!!」

「?」

 そこへ、緑色の髪の青年が女性を抱き抱えながら叫んだ。

 ラカムは真剣な眼差しになると、その場で女性を横にさせ、診察を始めた。

「君、名前は?」

「おれはテゾーロ。ギルド・テゾーロだ。ステラ……彼女とは人間屋(ヒューマンショップ)で知り合って……」

 青年テゾーロの話に、エマは耳を傾ける。

 ふと、診察中のラカムは、ステラの歯間乳頭に発赤がある事に気がついた。それは、船乗り達を恐れさせた〝ある病気〟の疑いがある事に他ならない。

「……壊血病を起こし始めてるかもしれない」

「壊血病って、ビタミン不足でなるアレ?」

「そのアレだよ。――お前、彼女と知り合ったのはいつだ?」

「三年前だ……おれが解放しようとしても金が間に合わなくて……」

 テゾーロの話を聞き、ラカムは「世の中ゴミばっかだな」と半ギレ気味に吐き捨てた。

 貧困と飢餓は、純真無垢な子供すら犯罪者に変える。政府非加盟国で育ったラカムは、そういうのをイヤという程見てきたので不快感丸出しだ。

「……船長……迷惑かけちまうが、おれはこいつらを放っておけねェ」

 困った表情を浮かべ、頭を掻きながらクロエに申し出る。

 ラカムは「目の前で傷を負った奴を治療する()()は医者としての正義」を信念とする男である。過酷な海で命を預かる船医として、奴隷としてマリージョアに送られそうになった者達を不健康のまま放すのは、彼の医者としての信念に反するのだ。

 もっとも、治療を受けた相手が危害を加えに来たら「医者の善意への侮辱」と見なし、容赦なく戦鎚で叩き潰すが。

「……治療は好きにしろ。ただし責任はお前が持て。無法の海賊稼業は自己責任だ」

「っ! ……恩に着る!!」

 クロエも思うところがあったのか、ラカムの申し出を承諾する。

 元奴隷達は歓喜の声を上げるが、エマがそこへ待ったをかけた。

「待って待って、クロエ!! 食料どうすんの!? 見聞色使ったけど、百人はいるよ!?」

「飯なら私が素潜りで海王類仕留めればいい話だろうが」

「わー、すっごい脳筋みたいな発想……」

 転生してから女子力が物理的な方に方向転換したクロエに、エマは引き攣った笑みを浮かべたのだった。

 

 後日、クロエ海賊団による奴隷船及び天竜人の帆船の襲撃が大きく取り沙汰され、世界政府にとって不都合な事をやらかしまくるクロエに、ついにコングの胃に穴が空いた。

 治療が終わるまで元帥の代理としてセンゴクが指名され、〝仏〟の異名とは正反対の不動明王のような顔つきでセンゴクは了承し、ガープは爆笑、つるとゼファーは溜め息を吐いたのだった。




シキは原作通りにメルヴィユに引きこもり、テゾーロはステラと幸せになります。

次回か次々回あたりで、シャンクスとの再会とウタとの出会いをメインにしようと思います。
バギーはもう少し先かな?
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