〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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ついに本作も50話に突入しました。
執筆を始めて約1年3ヶ月、皆様のおかげで本作は盛り上がっているので、心から感謝します。
これからも面白さを維持できるよう努力しますので、今後ともよろしくお願いいたします。

ちなみにクロエからは「これからもよろしく」、エマからは「小説も漫画も読んでる時の楽しさが命だよね」というメッセージを受け取っております。

それにしても、記念すべき第50話がマリージョア襲撃だとは。(笑)



第50話〝聖地マリージョア襲撃事件・前編〟

 フィッシャー・タイガーは、その光景に目を疑った。

 冒険家として世界を旅していたが、人間に捕らえられて聖地マリージョアで奴隷にされた彼は、同じ生き地獄を味わっている者達を解放するべく一人で「赤い土の大陸(レッドライン)」を()()()()()()()侵入した。

 自分が侵入する頃は、ほとんどの人間が寝静まっていている頃だろう――そう思っていたのに。

「こいつは……」

「……何だ、貴様は」

 何と、すでにマリージョアは戦場と化しており、先客もいたのだ。 

 しかも、その正体はゴールド・ロジャーの最強の部下として知られる〝鬼の女中〟だった。

「……なぜここにいる、クロエ・D・リード……!?」

「どこにいようが私の自由だ、フィッシャー・タイガー」

 タイガーの質問に、ぶっきらぼうに答えるクロエ。

 ビックリするぐらい愛想のない対応に、思わず顔をしかめた。

「……おれを知ってるのか」

「名の知れた冒険家としてな。……()()()()()()はついている、貴様のことは特に詮索はしないから安心しろ」

「っ……!」

 その言葉に、タイガーは息を呑んだ。

 故郷で親しくしている弟分達にも帰還前の過去を話さなかったのに、彼女はマリージョアへ来たという状況だけで把握してみせたのだ。実際は見聞色の覇気で感情を読み取っただけなのだが。

「……タイガー、魚人島は今どうなっている? ロジャーの部下だった頃、一度魚人島に行ったことがあってな。魚人街の一部の連中に勝手に祀られて迷惑したんだ」

「……少なくとも、お前は英雄扱いされてねェのは確かだ。アーロンの野郎がマッチポンプだの何だの言いふらしてな」

「それはよかった。意志なき者共に祀られるのは不快極まりない」

 安堵の笑みを溢すクロエ。

 するとそこへ、衛兵の増援が一気に押し寄せてきた。

「いたぞ、あそこだ!!」

「敵は魚人と……お、〝鬼の女中〟!?」

「まさか、そんな……!!」

「怯むな!! 海軍大将さえ来れば、数でどうにかなる!!」

 武器を構えつつも、目に見える程に恐怖を覚えている衛兵達。

 勇気を奮い起こす彼らを、クロエは容赦なく牙を剥いた。

「失せろ」

 一言告げて、鋭く睨んだ。

 たったそれだけで、見えない衝撃が襲い掛かり、あてられた衛兵達は泡を吹いて全滅した。

「――私は仲間を連れ戻せればそれでいいが、貴様はどうする?」

「……ここは、手を組んだ方がよさそうだな」

 不愉快そうなタイガーに、クロエは微笑みながら「好きにしろ」と短く返した。

 人間との決別を決意した彼にとって、その為に人間と一時的な同盟を組むことになるとは不本意極まりない。だが目的はあくまでも奴隷解放であり、今も人として扱われない奴隷達が解放を求めている。

 何より相手は、魚人島をナワバリとして守護してくれる〝白ひげ〟と肩を並べる大海賊……戦ったら間違いなく負ける。

「ひとまず、ガスパーデ達と合流するか。作戦の修正がひ――」

 必要だ、と言い切ろうとした時だった。

 突如として強大な覇気を感じ取り、クロエは上を向いた。

 視線の先には、莫大な覇気を拳に纏わせたガープの姿が。

「ガープ!!」

「とうとうやりおったな、このじゃじゃ馬がァ!!」

 未来視を使わなくとも、明らかに大技を仕掛けてくる構えのガープ。

 クロエは武装色と覇王色を化血の刀身に集中させると、石畳で舗装された道を砕く程の強力な脚力で跳び上がり、覇気の稲妻が迸る英雄の拳を狙った。

 

「〝拳骨衝突(ギャラクシーインパクト)〟!!!」

「〝錐龍錐釘〟!!!」

 

 ドン!!

 

 同時に技を放った途端、轟音と共に互いの覇気が激突した。

 刀の切っ先と鉄拳は触れずにせめぎ合い、空中でぶつかっているのにもかかわらず天地が震え、衝撃波が全方位に発散し、建物を次々と破壊していった。

 タイガーは自慢の腕力でどうにか吹き飛ばされないようにしがみ付いていたが、頭上で起こっている攻防に言葉を失っていた。

 

 ボコォン!!

 

「がっ!!」

「ぬおっ!?」

 覇気のドツキ合いは、引き分け。

 互いに後方へ吹っ飛ぶと、地面に着地して距離を詰め、再びぶつかった。

 覇気を纏った拳と刃が、火花を散らして鍔迫り合いとなる。

「……てっきりゼファーが来ると思ってたぞ、ガープ。貴様の豚共への態度を考えれば」

「フフ……わしとて別にあんなゴミクズ共を庇うために来た訳じゃないわい!!」

 ガープの拳骨が、顔面目がけて繰り出される。

 すかさずクロエは額を武装硬化させ、覇気を流し込んで受けた。

 拳が額に触れた瞬間、ドパァン! という音と共に弾かれ、ガープは仰け反った。その隙にクロエは鞘を構えて飛ぶ打撃を打ち込む。

(成程のう)

 斬撃だけでなく、打撃も飛ばすとは。しかも一撃一撃に覇気が纏っており、衝撃が重い。だが、それで伝説の英雄が怯む理由にはならない。

 ガープは笑みを浮かべながら突撃し、強力な覇気を纏わせた拳骨を振るった。クロエは見聞色の覇気で見切ると、刀を逆手に持ち替えながら柄頭を武装硬化させ、顎を思いっきり穿った。

 あまりにも凄まじい打ち合いに、タイガーは呆然とする他なかった。あの二人の周囲は、もはや異次元だ。

(これが、人間の戦いなのか……!?)

「何をしている、フィッシャー・タイガー!!」

 立ち尽くすタイガーに、クロエは肩越しに叫んだ。

「貴様の役目を果たせ!! 目の前の敵に集中させろ!!」

「っ!!」

 タイガーはハッとなり、奴隷達が囚われているであろう天竜人の居住区へ向かった。

 が、この数秒のやり取りは、ガープにとって反撃するには十分だった。

「隙ありィ!!」

「むぐっ!?」

「〝海底落下(ブルーホール)〟!!!」

 

 ドカァン!!!

 

 一瞬で距離を詰めたガープは、クロエの顔を鷲掴みした後、地面に叩きつけた。

 在りし日のロジャーとも渡り合った圧倒的な覇気と腕力により、彼女は石畳と赤土を砕き割りながら奈落の底に落ちていった。

 

 

           *

 

 

 その頃、〝赤い港(レッドポート)〟ではクロエ海賊団と海軍本部による壮絶な激闘が繰り広げられていた。

「流石に本部が近いと増援が来るのも早い、なっ!!」

 ラカムは覇気を纏った戦鎚の柄尻で地面を思いっきり叩き、衝撃波を発生させて海兵達を吹き飛ばす。

 クロエ海賊団は二手に分かれているゆえ、この場にいる面々は猿のバンビーノを含めて七人と一匹。対する海軍本部は、将官クラスをこれでもかと投入して掃討せんとしている。

 片や自分達は剣や銃。片や敵軍は圧倒的物量と高火力。この面子と武装でよく渡り合えるものだ。

 そんな事を思っていると、阿吽の仁王――巨人族の海兵が立ちはだかった。

 身長は10メートル以上ある、山の如き巨体。手にした巨大な斧や刀を覇気を纏って振るえば、軍艦すら真っ二つだろう。

「――うおォォォォォォ!!」 

 地鳴りのような雄叫びと共に、覇気を纏った斧が振り下ろされた。

 ラカムは戦鎚に覇気を流し込み、横薙ぎに振るって応じた。

 

 ガァン!!

 

 激突した瞬間、巨人は大きく弾かれた。

 身長こそ数倍の体格差があるが、覇気の量と練度はラカムが圧倒的に上回る。よろけた斧の巨人は、後ろに控えていた刀の巨人とぶつかり、たじろいだ。

 その隙を見逃さず、マクガイとドーマが斬り込んだ。彼らもクロエに扱かれており、武装色の練度は高く、剣も相当な腕前だ。

 電撃を帯びた剣と、強力な逆手二刀流の前に、巨人達は鮮血を吹き出して倒れた。

「やるじゃねェか」

「お前の能力も助かるぞ、エルドラゴ」

 仲間同士で健闘を称える。

 比較的新参のエルドラゴも、ゴエゴエの実の能力で大声をレーザービームのように放てる。その大咆哮で薙ぎ払えば、多くの海兵を一網打尽にできる。

 悪魔の実の能力者は、弱点より〝利〟があるものなのか――ラカムがそう思った時だった。

「っ!! 全員、その場から退避!!」

 エマの焦った声が響いた。

 見聞色の覇気でマズい未来を視たと判断し、ラカムも仲間達に呼び掛けながら後退した。

 次の瞬間!

 

 ズッ!!

 

 金色の巨体が突如降り立ち、伸ばした右手の掌から覇気を纏った強力な衝撃波を放ったのだ。

 数秒でも遅れていたら巻き添えとなっていただろう。エマの見聞色の覇気の精度の高さに感謝するばかりだ。

 こんな芸当ができる者など、海軍では一人しかいない。

「〝仏のセンゴク〟……!!」

「あっちゃー……来ちゃったね」

「貴様ら、ついにここまでに至ったか……!!」

 憤怒の声を放つのは、この海で最も胃痛に悩まされている者の一人――海軍本部大将のセンゴク。

 彼に続くように、新しい増援がドッと押し寄せた。

「副船長、マズいぜこりゃあ……!!」

「どうするんだど……!?」

「ついに来やがった……!!」

 伝説の海兵まで乗り込み、狼狽える仲間達。

 しかし不利な状況下でもエマとラカムは冷静だった。これぐらいの事態は想定内だからだ。

「前代未聞だぞ、世界政府の中枢を襲撃した海賊など……!!」

「いやー、それがウチのヤマトちゃんがクロエを怒らせるようなマネしてさ。こればっかりは不可抗力なんだよね~」

 やれやれと言った様子でエマは眉を下げた。

 聞き慣れない名前に、センゴクは訝しんだ。

「ヤマト? そいつが原因だと言うのか?」

「あの子、カイドウの娘なのに海兵みたいな正義漢なの。人身売買に憤ってわざと捕まってマリージョアへ来たっぽい」

『ええええ~~~~!?』

「な、何だとォォォ!?」

 エマはヤマトの素性を事の経緯ごと暴露。海兵達は絶叫に近い悲鳴を上げた。

 センゴクも汗だくで目が飛び出る程に驚いたが、ステューシーの潜入捜査の件を知らされている分もあり、余計に驚いた。

「で、クロエはカイドウとワノ国で戦争して、その縁で養子みたいな感じで引き取ったって訳」

「副船長、これ以上爆弾投げるなっての」

「分割払いの方が残虐でしょ。こういうのは一思いに全部やるのが親切だよ」

「どっちかと言うと余計なお世話だろ」

 軽口を叩き合う古参船員(クルー)を他所に、センゴクは立ちくらみしそうになった。

 クロエの部下の一人が、カイドウの実の娘。しかも――一応表向きとしては――世界中で禁止されている人身売買に怒りを露わにする程、根が真面目で正義感もある。

 この時点で頭痛が収まらないのに、その奴隷達を救うべくマリージョアに侵入し、それが遠因で意思を持ったサイクロンみたいなクロエを呼び寄せてしまった。

 もはや誰に怒鳴りつければいいのか……怒りの行き場を失ってしまったセンゴクは、わなわなと震えるばかりだった。

「まあ、それはどうだっていいからさ……どいてくれない?」

 エマはセンゴクに銃口を向ける。

 ノリが軽くてフレンドリーなのが副船長の第一印象だが、今の彼女は冷徹な狙撃手の眼差しで。

 発散される覇王色から、彼女は決して脅しで言っているのではないと嫌でも理解できた。彼女は本気でセンゴクを撃ち殺すつもりだ。

「センゴクさん。私達とこれ以上戦うと、リアルガチで取り返しつかないよ? 私達はヤマトちゃんさえ無事に取り戻せればいいんだからさ……ねっ?」

「驕るな小娘が!! 海軍の()()()()()をここまでコケにされて退ける訳などない!!」

「……クロエが最も嫌う言い回しだね」

 ビリビリと覇気で威圧するセンゴクを、エマは目を細めて睨んだ。

 彼女がこの場に居たら、即座に「反吐が出る」と侮蔑するだろう。この世の秩序を守るべき存在が、天竜人の横暴を許す矛盾――その欺瞞を彼女がどう思うのか、想像に難くない。

(私もクロエも、平和な世の中の闇を見た……もうこれ以上見るのは嫌なんだよ)

 エマは前世を思い起こした。

 

 クロエがまだ黒江沙織だった頃――書き置きすら残さず命を絶った親友を救えなかった無力さに打ちひしがれた。

 そして彼女を死に追いやった者達が、人生の勝ち組になるのが、あまりにも悔しかった。

 一人の人間を遠回しに殺しておきながらのうのうと生きている彼女の元家族を殺そうと思っても、どうしても思い留まる自分が憎かった。

 

 今は違う。

 己の生死も他者の生死も自己責任で、力ある者が生き残り力なき者は淘汰される。

 だからこそ、エマ自身も海賊という修羅の道を踏み入る事ができた。同じ事を繰り返さない為に。

(……いや、前世(まえ)のことはもうどうでもいいか)

 エマは笑いながら片手用ライフル銃の撃鉄を起こす。

 自分の仕事は、クロエ達が帰還するまで海軍を足止めする事。それさえ達成できれば、クロエがどうにかしてくれる。

 そう信じ、銃弾に覇気を込めていく。

「そう簡単にはいかなさそうだな……」

「わっしにお任せください、センゴクさん」

 刹那、ストライプスーツで帽子を被り、海軍のコートを羽織った海兵がエマに迫った。

 まるで光速と呼ぶに相応しいまでの圧倒的な速さだが、それに対応できる者が間に入り、戦鎚で彼の蹴りを受け止めた。

 海兵の正体は、破壊の光を操る〝ピカピカの実〟の能力者・ボルサリーノ中将。そしてその攻撃を受け止めたのはラカムだった。

「〝天叢雲剣(あまのむらくも)〟」

 ボルサリーノは光の剣を生み出し、振り上げた。

「ほいっと!」

「ふんっ!」

 光の剣と覇気を纏った戦鎚が激突する。その衝撃で空気が割れ、地面が抉れた。

 互いの一撃の重さでよろめくも、ボルサリーノは軽やかに身を翻した。対するラカムは戦鎚の重量に振り回されながら、それを利用し、回転しつつ体勢を立て直した。

「そんな鈍重な戦鎚(ぶき)で、わっしの速さは捉えられるのかい~?」

「生憎、あの怪物船長に扱かれてるんでね……!!」

 互いに距離を置き、間合いを測るボルサリーノとラカム。

 エマはそれを尻目に発砲。センゴクは咄嗟に覇気を纏った手で受け止めるが、その隙に持ち手を銃把(グリップ)から銃身に変え、覇王色の稲妻を迸らせた飛ぶ打撃を放った。

「ぬぐっ!」

 その衝撃に、センゴクはたじろいだ。

 まるで至近距離で大砲を受けたような衝撃。武装色を全身に纏って耐えたが、そのガードをぶち破る勢いだ。

「流石に丈夫だなー……ロジャー船長と戦っただけある」

「まさかこの形態でも堪えるとは……!」

 大仏の姿で一筋の汗を流す。

 動物(ゾオン)系悪魔の実は、自らの身体能力と戦闘力が純粋かつほぼ安定して向上する事が最大の特性であり、覇気や六式との相性は抜群である。ゆえにセンゴクのような百戦錬磨の猛将ともなれば、変身した上で鍛え抜いた覇気を全身に纏えば、並大抵の攻撃では為す術なく弾かれる。

 だが、覇王色の覇気を纏うという、覇気を用いた戦闘における至高の領域に至った者の技量なら、その鉄壁の防御を打ち砕く事も可能だ。ましてやこの世界で最強の覇気使いと目されるクロエの右腕ともなれば、彼女に扱かれた分もあって桁外れの練度……いかに最高戦力とて心してかからねばならない。

「よし! 全員集中! もう一踏ん張りだよ!!」

『おうっ!!!』

 エマは不敵に笑いながら、仲間達を鼓舞した。

 我らが船長が、いつも通りの仏頂面で帰ってくるのを信じて。




ちなみにガープがわざわざマリージョアに来たのは、クロエと戦えばドサマギでゴミクズを吹っ飛ばせるからです。
この話でも描写はありませんが、天竜人は結構巻き添え食らってますのでご安心を。
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