〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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クロエの異名がまた増えます。(笑)


第51話〝聖地マリージョア襲撃事件・後編〟

 聖地マリージョアで勃発した、クロエとガープの戦いは苛烈を極めた。

 非常に強大な覇気の応酬は聖地を揺るがし、パンゲア城や神々の地にも甚大な被害を与えた。

 「「ハァ……ハァ……」」

 血を流し、体力と気力を消耗させ、肩で息をする両者。

 二人は、ニッと笑っていた。

 ロジャーの部下だった女傑と、ロジャーを追い詰めた英雄によるマリージョアでの決闘。大海賊時代開幕以来、この戦いは後世に語られる程の激戦となるだろう。

「あの頃の小娘が、随分と強くなったもんじゃな」

()()()()()のおかげでな」

 口角を上げ、愛刀に武装色と覇王色を纏う。

 

 クロエが世界最高峰の大海賊の一人となれたのは、強大かつ非常に練度が高い覇気に胡坐を掻かず鍛錬し続けたストイックさもあるが、一番は〝出会い〟に恵まれたことだ。

 師匠であるチンジャオを始め、ロジャーや白ひげ、ガープにセンゴク、カイドウにビッグ・マム……泣く子も黙る怪物級の猛者達と戦い、勝利も敗北も経験し、自由で在り続けるために強さを求め続け、今に至るのだ。

 終ぞ勝てなかった相手は、ロジャーだけだ。

 

()()は出会いに恵まれてなかったが……今回は違う!」

「?」

 意味深な呟きに、ガープは怪訝な表情を浮かべた。

 その時、どこからか罵声が飛んできた。

「おい、ガープ!! こんなに屋敷を破壊しおって!!」

「クロエを殺さなかったら死刑だえ!!」

「そうだえ!! その女は晒し首にするんだえ!!」

(鬱陶しいわ、早く失せんかゴミクズ共め!!)

 群がっていたのは、危機管理能力ゼロの天竜人だった。

 逃げも隠れもせずに文句を言う天竜人に、ガープはキレそうになった、その時だった。

「――やかましい」

 その言葉と共に、天竜人達は薙ぎ払われた。

 クロエが斬撃を飛ばしたのだ。彼女は冷静であるにも関わらず、凄まじい怒気と凶悪な殺気を放っており、ガープはかつての宿敵と姿を重ねた。

「…………ああ、イライラする」

 クロエは何度も化血を振るい、天竜人や衛兵達を飛ぶ斬撃で一掃する。それでも彼女の腹の虫は収まらず、彼らが所持する屋敷すらも斬撃で破壊していく。

 自分が敬愛し心から慕うロジャーと違い、実力も器量も伴わない腐敗した権力者。信念も覚悟もない、()()()()()()()()()()()()()の人間達。その程度の豚共が、身の程を知らずに自分やガープに指図する。

 これを不快以外に何と思えようか。

「……貴様ら豚共が築いた800年も、この世界の均衡も、〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟も、心底どうでもいい」

「クロエ、貴様……」

「然るべき者が然るべき場所に立ち、然るべき者が敗北し倒れる……そうだろう、ガープ」

 ダメ押しに覇王色を纏った斬撃を飛ばし、パンゲア城も攻撃する。

 逃げ惑う天竜人達は、瓦礫に巻き込まれて潰れていく。

「仕切り直しと行きたいところだが、ここで失礼する」

「何じゃと?」

 ふと、クロエの下に二人の男が馳せ参じた。

 ガスパーデとレッドフィールドだ。

「見つけたぞ」

「……」

 ガスパーデが差し出すのは、顔をバツが悪そうに歪めたヤマト。

 今回の件の、ある意味で元凶であった。

 ほぼ無傷であるあたり、カイドウの娘として生まれクロエに扱かれてきただけはあるが。

「……あとで覚えてろよ」

「……はい」

 短いが死刑判決でも下すような声色のクロエに、ヤマトは冷や汗が止まらない。

 相当お怒り気味のようだ。

「ハァー……目的は果たした。撤退するぞ」

 クロエはもう用はないと言わんばかりに溜め息を吐き、刀を鞘に収めた。

 聖地を荒らしつくして気が済んだのか、戦意と覇気が鎮まっていく。

 そんな彼女に、ガープは声を掛けた。

「……クロエ。その娘は」

「カイドウの娘のヤマトだ。縁あって私が育てている」

「――ぶわっはっはっは! 成程……こりゃあ明日の朝刊が楽しみだわい!」

 ガープは豪快に笑う。

 ヤマトの素性は、海軍はおろか政府中枢も把握していない。これで判明すれば、政府はおろか世界情勢も大荒れだろう。懸賞金もとんでもない額になるのも明白だ。

 あのアホウドリの新聞屋が狂喜する光景が目に浮かぶ。

「そういう訳だ。奴隷だった者も随分と解放されているようだし……少しは胸がすいた。引き際だ」

「おう。……それにしても暇潰しにゃあ丁度いい連中ばっかだったな、レッド」

「フン、あの程度の腕前では我も退屈するというもの。本当にマリージョアを護る気があるかどうかすら疑う」

 そんな雑談を交えながら、ボンドラ乗り場へと去っていくクロエ達。

 すぐさま応援に来たマリージョア駐在の海兵達がクロエ達の追跡を要請するが、ガープは制止して負傷者の手当てを優先するよう命じた。

「……ロジャーめ」

 一方的に戦いを切り上げた〝鬼の女中〟の背中を見つめ、宿敵が涙を流して大爆笑する顔を思い出すガープだった。

 

 

           *

 

 

 〝赤い港(レッドポート)〟の大混戦は、さらに激化していた。

 徹底抗戦するエマ達だが、徐々に疲弊していった。一方の海軍も甚大な被害を被り、センゴク達も状況が好転せず歯痒い思いをしていた。

「ハァ…ハァ…流石は智将〝仏のセンゴク〟……徐々に押されてきたかな……?」

「仕方ねェだろ……地力が違う……!!」

「戯言を……」

 弱音を吐くエマとラカムだが、大仏姿で見下ろすセンゴクはそれは嘘だと見抜いた。

 もし自分達が優勢なら、クロエの仲間の一人や二人を無力化できている。しかし現実は消耗こそさせても一人としてダウンしていない。

 ――噂通り、個々の実力が高い。ロジャーとロックスの系譜を継ぐだけはある。

 センゴクは内心、クロエ海賊団を高く評価していた。

「さて、どうするべきか……っ!!」

 エマは覇王色の覇気を纏うが、見聞色の覇気である気配を感じ取り、銃口を下ろした。

 すると、一隻のボンドラが降下してきて、そこから女性の声が木霊した。

「者共!! 目的は果たした、撤退するぞ!!」

 その声に、全員が顔を明るくして上を見た。

 クロエ達が、ヤマトを無事に連れ戻せたのだ。

「殿は私がやる!! エマ、任せるぞ!!」

 クロエはボンドラのリフトから飛び降り、右足に武装色と覇王色を纏わせ、踵落としの構えを取った。

 それを見たエマは血相を変え、必死に「全員船に戻ってーーーー!!」と叫び、センゴクもクロエが大技を仕掛けようとしていると見抜いて身構えた。

「〝武脚跟(ブジャオゲン)〟!!」

 

 ドン!!

 

『うぎゃあああああ~~~!!!』

 足に込められた莫大な覇気を上空で振り下ろし、覇気を爆発的に拡散させる。

 ガープの〝拳骨衝突(ギャラクシーインパクト)〟を彷彿させるそれは、眼下の海兵達を軒並み吹き飛ばし、港の建物も破壊した。

 さらにクロエは見聞殺しを発動させ、月歩(ゲッポウ)を駆使しながらセンゴクとの距離を詰め、化血を抜刀。武装色と覇王色を纏わせ、バリバリと稲妻を迸らせた。

「っ!! クロエ!?」

「〝神避〟!!」

 

 ドンッ!! ボゴォン!!

 

『うわあああああああ!!!』

 海兵がこれから撤収するというところで、クロエはロジャーから受け継いだ剣技を炸裂。

 とてつもない衝撃波がセンゴクを襲い、吐血しながら周囲を巻き込んで倒れた。

「センゴク大将ーー!!」

「ぐっ……ゲホッ!!」

 血反吐を吐き、どうにか起き上がるセンゴク。

 ふと正面を見れば、クロエが刀を構え、刀身を覇気で黒く染めていた。

「いかん!!」

 センゴクは咄嗟に武装色の覇気で全身を硬化させ、巨大な盾となった。

 そして、覇気を伴った斬撃の乱れ撃ちが周囲を襲う。

 クロエの斬撃は地面を抉り、建物を破壊し、全ての存在を薙いでいく。センゴクが仁王立ちして体を張り、海兵達の損害はどうにか抑えられたが、黄金の巨体への負担は大きい。

「船長!!! 出港するぞ!!!」

「すぐ行く」

 粗方薙ぎ払ったところで、クロエは宙を駆けながらオーロ・ジャクソン号へ帰還。

 そのまま脱出しようと舵を取るが、そうはさせないと言わんばかりに軍艦が動き出し、四方を囲まれた。

「喫水線の下を狙え、気を抜くなよ!!」

 クロエは退路を断たれても、毅然とした態度で指示を出す。

 船長が帰還して数十秒で大砲が火を吹き、覇気を纏った斬撃と銃撃が放たれ、突破口を切り出されてしまう。まるで軍隊のように早い動きで攻撃する〝鬼の女中〟の一味に、ボルサリーノは「あれじゃ手の打ちようがないねェ」とボヤいた。

 そして、その光景を人知れず聖地を脱出したタイガーが、息を呑んで見守っていた。

 

 

           *

 

 

 翌日、〝赤い港(レッドポート)〟を脱出したクロエ海賊団は、シャボンディ諸島でコーティング作業をしていた。

 普通に考えれば現場が近いので愚策に思えるが、海軍は昨日の件で色々な後始末に追われており、シャボンディ諸島の海兵達も応援として駆り出されていたのもあり、島内は静まり返っていた。その隙にコーティングを終え、新世界へ向かおうという魂胆だ。

 そんな中、クロエはというと……。

「……で、何か言いたいことは?」

「全然アリマセン……」

 ヤマトを説教していた。

 絶対零度の眼差しで正座する彼女を見下ろす姿は、鬼というより魔王のようで、鳥肌が立つ程の威圧感があった。いわゆる「マジギレ」である。

「豚共の栄枯盛衰など、どうなろうが関係ない。私達は海賊であり、ヒーローじゃないからだ。確かにウチは自己責任だ……奴隷解放自体は止めやしないが、わざわざ養豚場まで迎えに行くこっちの身も考えろ。船長たる私をコケにした落とし前、つける気あるだろうな?」

「……はい……」

「おい、目を逸らすな。どこ見てる」

 角を鷲掴みにし、鬼の形相で睨みつけるクロエ。

 声を荒げない分、圧迫感が半端じゃない。

 こればかりはエマも「今回はさすがに庇い切れないよ……」と苦笑いするしかなかった。

「フン……罰として次の島に着くまで、間食も含めて船内での食事は禁止だ」

「そ、そんな……」

「それが自己責任だ。飲水を許されてる分ありがたく思え」

 クロエはそう告げて自室へと戻っていった。

 ヤマトは罰を科せられてヘコんでいたが、ふと気づいた。

 船内での食事はダメだが、それ以外は許される。ということは、船を離れていれば問題ないのだ。

(これって、結構甘い?)

 思わずニヤついてしまうヤマト。

 しかし、そこへラカムが呆れた表情で忠告した。

「ヤマト。言っとくが次は魚人島だ。海底1万メートル下まで潜航する。船から出たら水圧で潰れて圧死だから、妙なマネは起こすなよ」

「……うぅ……」

「悪いな、今回は誰もお前を庇えないんでな……」

 ヤマトはさらに落ち込み、どんよりとした空気を纏い始めるが、仲間達はそっと見守る事しかできないのであった。

 

 

 カイドウの娘・ヤマトのマリージョア潜入を発端とした、クロエ海賊団と冒険家フィッシャー・タイガーによって起こされた「聖地マリージョア襲撃事件」。

 この歴史的大事件は全世界を震撼させ、主犯格のクロエを〝史上最恐の女海賊〟として更なる悪名を轟かせる事となる。




クロエも、船長として然るべき罰を与えたりします。
身内には甘いですが、締める時はきっちり締めるんです。

次回以降は、久しぶりの百獣海賊団にしようと思ってます。
カイドウはクロエのライバル的立ち位置なので、またドンパチさせたいから……。

あ、ウタとのエレジアの前に再会も兼ねてクロエとシャンクスの手合わせもやります。
まあ、クロエの圧勝でしょうけど。(笑)
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