〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

55 / 122
ガスパーデ達の戦闘描写を詳しくするため、デッドエンドの冒険の小説を買いました。
普通に読んでも面白いので、おすすめです。


第55話〝ヤマト事変〟

 聖地マリージョア襲撃事件から一年が経った頃、クロエ海賊団にも変化が訪れた。

 何と、船員が新たに二名増えたのだ。

 一人は、羽飾りがついた毛皮の帽子を被り褒章がついた黒い軍服を着た、顔を横断する傷がある男――南の海(サウスブルー)出身の〝首はね〟スレイマン。かつては「ディアス海戦の英雄」と呼ばれていた程の軍人だったが、戦犯として国を追われ、現在は闇の世界を渡り歩く人斬りとなっている。彼はクロエと戦って惨敗したものの、彼の過去に思うところでもあったのか仲間として迎え入れた。

 もう一人は、太い鎖を首に幾重にも巻き、縞模様の革ジャケットを来たシャチの魚人・ウィリー。彼はガスパーデ直々のスカウトを受けてオーロ・ジャクソン号に乗った、一味で初めての人間以外の種族だ。魚人島出身のならず者で、タイヨウの海賊団のメンバーの中でも気性の荒い〝ノコギリのアーロン〟とはライバルだったという。

 屈強な曲者強者を仲間にしながら、クロエ海賊団は自分達に戦いを仕掛ける全ての者達を蹴散らし、その悪名をより強く轟かせた。

 

 

 オーロ・ジャクソン号の甲板で、ガスパーデは岩のような拳に覇気を纏わせて振るう。

 前をはだけた軍礼服を彷彿させる提督コートを翻し、巨人のように大暴れする。

 彼が相手取っているのは、一味の副船長であるエマだが、彼女も格闘能力は自他共が認める最強の船長(クロエ)に次ぐ程の技量。高精度の見聞色もあり、体格の都合上どうしても大振りになるガスパーデとは相性最悪だ。

「ふん!」

 百戦錬磨のエマの武装硬化した拳が、ガスパーデの腹筋に減り込む。

 常人はおろか、並大抵の覇気使いですら一撃で仕留める程の衝撃が走る。

「フフ……」

 ガスパーデは笑っていた。

 その腹部は、まるで水飴のように柔らかく波打っており、ダメージを吸収・緩和していたのだ。

 ガスパーデはかつての百獣海賊団との激闘の折、カイドウがクロエに渡した〝アメアメの実〟を食し、水飴人間となったのだ。肉体を水飴に変化させることによって大抵の攻撃を無効化し、粘着質であるため攻撃してきた相手を絡めとることができ、さらに自在に変形・固形化もできるという攻防に秀でたチカラだ。彼自身が得意とする武装色の覇気との併用もあり、白兵戦では無類の強さを発揮する。

 ただ、それすら物ともしない圧倒的な強者も少なくない。エマもその一人である。

「……水飴を殴りつけてるみたい」

「そうさ。物理攻撃に対し、おれは鉄壁の防御力を手に入れた!」

「その鉄壁も、耐えられる強度に限界はある……よっ!」

 

 ドズンッ!

 

「がっ……はっ」

 先程以上の衝撃に、ガスパーデは膝を屈した。

 武装色の高等技術である〝外に纏う覇気〟だ。覇気が外に到達すると対象の内側から破壊する「内部破壊」を可能とし、いかに強靭な肉体を持つ者でもダメージを与えることができる。ガスパーデも武装色に秀でているが、クロエ達の領域にはまだ至っておらず、相殺しきれなかったのだ。

「ク、ソ……なら、こいつでどうだ!」

 苦悶の表情を浮かべつつ、どうにか立ち上がって右腕を構える。

 腕はドロドロと溶け、槍のように尖って固まり、覇気で黒く変色した。ガスパーデの腕の太さも相まって、真面に食らえば身体に風穴が空くだろう。

「行くぜ、副船長……!」

 ガスパーデは手刀のように突き出すと、目にも止まらぬ速さで伸びてエマに迫った。

 しかし、エマは避ける素振りを見せず、それどころか切っ先を覇気を纏った拳で殴りつけた。

 直後、水飴の槍はへこみ、固形化したこともあって砕け散った。

「……まだやる?」

「……ちっ、クロエの右腕は伊達じゃねェか」

 ガスパーデは舌打ちしながら手を引いた。

 その様子を眺めていた仲間達は、二人の健闘を称えた。

「流石副船長さん。あの人に次ぐ強さなだけあるわ♡」

「ガスパーデも元海兵なだけあって、基礎戦闘力はかなりのものだな……」

「アメアメの実……噂に聞く「特殊な〝超人系(パラミシア)〟」は厄介だな」

「味方でよかったぜ、全く!」

 称賛の声が相次ぐ中、エマはコートから酒瓶を二つ取り出し、片方をガスパーデに投げ渡した。

 ボックスボイテルの赤ワインだ。それもガスパーデお気に入りの一本で、海兵だった頃から愛飲していた代物である。

「フフ……」

 副船長の粋な計らいに笑みを浮かべると、コルクを引き抜きグビグビと一気に飲む。

 芳醇な甘みと深い酸味と渋みが、体に染み渡る。クロエ海賊団の一員となって色んな海の酒を飲んだが、やはり自分が気に入った酒に勝る物はない。

「悪魔の実には〝覚醒〟ってステージがある。通常よりも体力の消耗が激しいけど、その分攻撃力は格段に上がる。超人(パラミシア)系が自分以外の周囲にも影響を与え始めるから……アメアメの実なら、周囲の物体を水飴に変換できるんじゃないかな?」

「ほう……そいつァ、イイことを聞いた」

「心身共に能力に追いついた時になるって聞くから、スッゴく鍛錬を重ね続ければその領域に至れるはずだよ。能力者じゃないからわからないけど」

「ククク……いずれその間抜け面に一発かましてやる」

 エマへのリベンジをガスパーデが宣言した、その時。

 

 ドドォォォン!

 

 二つの水柱が上がり、甲板に二つの影が下りた。

 船長クロエと、新入りのウィリーだ。

「さすが魚人族だ、海王類より機動力が遥かにある。私もまだまだ修行が足りんな……」

「はっはっは! お頭こそ、人間の割にゃあ大したモンじゃねェか!!」

「――船長、あんた魚人族を相手に水中戦やったのか!?」

 二人のやり取りを聞き、ドーマは驚愕した。

 生まれながらにして人間の10倍の腕力を持ち、基礎体力も人間を遥かに上回るとされる魚人族と人魚族。彼ら彼女らが真価を発揮するのが水中戦で、水を武器にできることから陸上以上に強いと目されている。

 そしてクロエは、水中では圧倒的優位であるウィリーと海中で手合わせをしたのだ。若い頃から水泳を重宝し、今でも海王類の素潜り漁をしているクロエとしては、その上位互換と言える魚人との水中戦は願ったり叶ったりなのである。

「水中では月歩も駆使したが、やはりと言うべきか、どうしても抵抗がかかる。生じる時間差(ラグ)をできる限り埋めるのが当面の課題だな」

「船長、まさかおれ達に水中戦もやれと?」

「当然だ。慣れておくに越したことはない。海中での戦いを強いられた時、大人しく殺されたいのか?」

「まあ、そうかもしれないがよ……」

 濡れたコートを絞って海水を落とすクロエに、煙草を咥えたラカムが溜め息を吐いた。

 海賊らしい強欲さを持たない分、トレーニングには妙に精力的だと思っていたが、ここまで来ると「修行バカ」という言葉が似合いそうだ。だからこそ、その圧倒的な強さは天災に等しく、カイドウやビッグ・マムのような怪物級の猛者の脅威から仲間を守れるのだが。

「船長! 敵船だど!」

 見張り台にいたデラクアヒの声に、緊張が走った。

 クロエは冷静に訊き返す。

「どこから来る?」

「右舷より三時の方向、五隻来てるど!」

「連合か……まあ、私くらいの海賊だと数で勝る他ないか」

 名実ともに世界最高峰の海賊であるクロエ海賊団は、少数精鋭。

 他の海賊達は、数で圧倒するのが効率がいい。四方を囲って挟み撃ちにすれば、一矢報いれるだろう。

 だが、クロエ海賊団は海戦が強い。たった一隻でバスターコールの艦隊と渡り合える程に。

「どうする? 船長」

「決まっている……派手に暴れてこい」

『!』

 クロエはそう命じた。

「私の出る幕ではなさそうだが、危ない時は尻を拭ってやる」

「総員、戦闘準備ーっ!!」

『おおーっ!!』

 エマの号令に呼応し、一斉に武器を構える一同。

 海の女王の首を取らんとする蛮勇に満ちた海賊衆を撃滅すべく、クロエの仲間達は牙を剥いた。

 

 

           *

 

 

 新世界、ドック島。

 世界最強の海を流離い続けていたクロエ海賊団は、この島の船渠(ドック)に夕暮れに入って修理を行っていた。

 オーロ・ジャクソン号を建造したのはトムであり、彼はウォーターセブンで働いている。彼に頼めば一発だが、新世界の船大工職人とも関係を結ぶべきというラカムの意見に同意し、この小さな島に辿り着いたのである。

 喫水線の下に付着したフジツボや藻、貝類は船の速度を鈍らせる。船底部分にこびりついた汚れを落とし、ワックスをかけるのも海に生きる者にとって欠かせない作業だ。宝樹アダムで造られた伝説の船とはいえ、メンテナンスを怠れば「船の寿命」を削ってしまうことに繋がる。

「すまないな、モブストン。船渠(ドック)の使用料と宿賃は弾むから勘弁してくれ」

「構わん!! 伝説の海賊〝鬼の女中〟がこの会社を頼ってくれるなど、船大工として冥利に尽きるわい!!」

 事務所兼自宅の縁側で、クロエは壮年の船大工・モブストンと清酒で酒盛りをしていた。

 

 造船会社「シマナミカンパニー」。

 モブストンが船渠(ドック)を管理する、家族経営の会社だ。船の修理やドックの貸し出しなどで稼いでおり、海軍にやられてどうしようもなくなった海賊船の下取りもするらしい。

 そしてモブストンは元船乗りで、海賊だろうと何だろうと分け隔てなく面倒を見ているという。

 

「わしはこの新世界の海に命を懸けて、夢を求める連中が好きなんじゃ。男だろうと女だろうと、信念を掲げて〝偉大なる航路(グランドライン)〟に挑む者を嫌うことなど、どうしてできようか……!!」

「フフ……ロジャーと会ってれば、きっと馬が合っただろうな。お前みたいなタイプの人間が好きなんだ、あいつは」

「そうか!! やはりわしの思った通りの「海の男」か!! がっはっは!!」

 モブストンはバシバシと膝を叩きながら哄笑する。

 クロエもまた、ロジャーとの思い出話に花を咲かせ始めたのか、かなり気を良くしている。

「実際のところ、ロジャーはどういう男じゃった?」

「誰よりも強く、誰よりも仲間想いで、誰よりも自由……その言葉の通りの男だったよ。強さも弱さも想いも、全てを真っ向から受け止めてくれる」

「成程……お主がルーキー時代から孤高で名を馳せてたのは有名じゃったが、それ程までの敬愛の情を向けているとは。ロジャーの器のデカさが伺えるわい」

 海賊王の名に恥じぬエピソードに、モブストンは食い入る。

 すると、彼の娘らしき人物がキャベツの塩昆布和えを持ってきた。

「クロエさん、おつまみどうぞ」

「これはどうも……有難くいただこう」

 つまみを堪能し、空になったモブストンの猪口に酒を注ぎ、自らも愛用の猪口に注いで呷る。

 米の持つ風味がしっかりと生きたコク深い味わいが、とても心地よい。

「ところでクロエよ、お主は何を求めて海賊をしておる? わしに聞かせてはくれんか」

「そうだな……私は人生の完成の為に生きている」

 コトッと猪口を縁側に置き、夕焼け空を仰ぐ。

「私という女の生き様と死に様を、もっとも納得がいく事実(れきし)にしたいのさ」

「何と壮大な……!」

「壮大、か……世界一周を成し遂げたロジャーに比べれば、どうってことないさ」

 目を閉じて、柔和に微笑みながら思い返す。

 クロエにとってロジャーは、一味の仲間達や弟分とは一線を画す程に特別な存在だ。

 無愛想で気まぐれで攻撃的な、手に負えないじゃじゃ馬の全てを、ロジャーは真正面から受け止めた。同じ船に乗る仲間として、彼はクロエを家族のように愛してくれた。前世の家族があげるのをやめた感情を、ロジャーは死別するまで与えてくれたのだ。

 戦闘力ではいつか勝る日が来るだろうが、人間力でクロエが彼に勝つことは叶わない。ゴール・D・ロジャーは、比するもののない存在なのだから。

「……ロジャーは私にとっての王でもあるのさ」

「……」

 目を細め、猪口に残った酒を飲み干す。

 その時、マクガイ達が慌てた様子で駆け付けた。

「船長! 大変だ、ヤマトが!」

「ヤマトが?」

 クロエは思わず立ち上がった。

 娘のように可愛がっている船員(クルー)の身に、何かあったのだろうか。

 嫌な予感がして、クロエの心が波立つ。

「母さーん!! 助けて―!! これどうすればいいの~っ!!?」

「は?」

 そこへ現れたのは、ヤマトの声をした一匹の狼。

 全身が白い毛に包まれた、幻想的と言った言葉が似合う出で立ちで、神の使いと勘違いしても違和感がない。だが覇気の強さや気配から、彼女であることが嫌でもわかった。

「……おい、どういう事だ」

 目の前の光景に、クロエはそれしか言えなかった。

 

 

「ハァー……ヤマト、エマ。あとで面を貸せ」

「「はい……」」

 仲間を全員集めて事情聴取したクロエは、盛大に溜め息を吐いた。

 何でも、先の戦いの戦利品とのことだが、酒に酔ったヤマトがうっかり食べてしまったとのことだ。しかも管理していたエマも酔い潰れて寝ていたという話ときた。

 親友の杜撰な管理に怒ったクロエは鉄拳制裁したが、よりにもよってヤマトの酒癖が悪い方だと発覚した。血は争えないようである。

「それにしても、一体何の能力だ? こりゃあ」

「見た目からして、イヌイヌの実の幻獣種であるのは間違いないな」

 未だ獣の姿であるヤマトを一瞥する。

 何処からか生じた煙を天の羽衣のように纏うその姿は、まさに神話や伝説の存在。幻獣種の能力である以上、それぞれの伝承に基づいた特殊能力を行使できる超人系(パラミシア)に類似した特徴を持っているだろう。

「船長、見つけたぞ」

 そこへ、悪魔の実図鑑を手にしたラカムが現れ、ヤマトが口にした実の正体が判明した。

「「イヌイヌの実 幻獣種 モデル〝大口真神(オオクチノマカミ)〟」……狼の幻獣か」

「冷気を操り、氷結させることができる……って、ヒエヒエの実の能力と被ってんじゃん!!」

「随分といい実を食ったじゃねェか、小娘」

 図鑑に記されてたのは、柿の見た目をした悪魔の実の絵と、身体的特徴の変化をはじめとした能力に関する詳細な情報。

 それを見て、スレイマンは気づいた。

「柿と勘違いしたんじゃないか? 酩酊状態なら尚更だ」

 その言葉に、クロエは頭を抱えた。

 間抜けな話だが、それを真っ向から否定できない。

「……で、いつまでその姿でいるつもりだ?」

「ぼ、僕、戻り方がわからなくて……その……」

 能力をうまくコントロールできてないヤマトは、どうすれば元に戻るかわからない様子だ。

 見かねたクロエは「仕方ない奴め……」と呟きながら腰を上げ、愛刀の鯉口を切った。

 

 ――バリバリバリッ!

 

「うわあああっ!?」

 突如として、クロエの強力な覇王色がヤマトに襲い掛かった。

 稲妻状の覇気が彼女を貫き、全身を迸り始めると、目に見える変化が訪れた。

 背中に人を乗せられる程の大きさの狼の姿が、半人半獣の人狼の姿に変わり、そして元の姿に戻ったのだ。

「ヤマトちゃんの能力が解けてる!?」

「信じられん……覇気は全てを凌駕するが、ここまでとは……!」

 クロエの覇気の威力・練度を前に、ステューシーとレッドフィールドは感嘆した。

「も、元に戻った~!!」

「昔、ロジャーから教わったんだ。覇王色を極めれば、ある程度の強さの能力者なら強制解除できるとな。久々にやったが、上手く行ってよかった」

 刀を鞘に収めると、クロエは縁側に腰を下ろす。

「済んだことを掘り返しても時は戻らない。食ったからには相応の責任を持て、ヤマト」

「……うん!」

超人系(パラミシア)動物系(ゾオン)とでは感覚も似て非なるだろう……そこばかりは自力で鍛えろ。最悪、カイドウにでも教えてもらえ」

「そんなことで世界の均衡を巻き込むなよ」

 ラカムの絶妙なツッコミに、一同は大笑いするのだった。




という訳で、ヤマトは原作通りの能力者となりました。
ビジュアルが柿に似てると知ったので、まあヤマトならうっかり食べそうだなって思いましたが、カイドウがどうやって入手したのかが不明なので、本作では「偶然持っていた敵船から奪ったが、酔っ払ったヤマトが間違えて食べた」ということにしました。ヤマトはまだ十代ですけど、カイドウの娘なので早い時期から酒飲んでそうなイメージがあったので、こういう展開になりました。

そしてクロエによる覇王色を用いたヤマトの能力強制解除。シャンクスが緑牛にやった技法と全く同じです。
ただ、クロエはシャンクスの上位互換なので、彼女の場合は周囲を誰一人として気絶させずにピンポイントで対象のみを威圧できます。あの技は多分、覇王色の特権だと思い、今回のような描写としました。


次回についてなんですが、本当ならエレジアをやりたかったんですが、ジニーの件が気になったのでそちらを先に消化します。
シャンクスへの制裁を期待する皆さん、申し訳ありません。(笑)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。