〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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新年あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いしますね。

後半のウタとエマのやり取りについては、RADWIMPSの「すずめ feat.十明」をBGMにするのを個人的に推奨します。


第58話〝傷心の先に〟

 ところ変わって、フーシャ村の酒場「PARTYS BAR」。

 その店内で、赤髪海賊団の面々は正座させられ、ルフィやウタ、ゴードンも同席していた。

「……何か言いたそうだな、シャンクス」

「……クロエ姉さん、おれ達がエレジアを滅ぼしてないってのは――」

「当然知ってる。証拠も持ってきてるしな」

 クロエが指を鳴らすと、ラカムが一匹の映像電伝虫を持ってきた。

 それを見たゴードンは、目を見張った。

「それは……?」

「事件があった夜の記録映像。当時の島の住民の遺物だ、海軍にパクられる前に回収しといた。私とエマは中身をチェック済みだ。ここにいる面々は全員初めてだろうな」

「な、何だって!?」

 まさかの物的証拠が残ってたことに、ゴードンは驚きを隠せない。

 クロエは「とりあえずボタンを押す」と告げ、その言葉にシャンクスが過敏に反応した。

「ク、クロエ姉さん!! それは――」

「過去は清算するものだ……目を背けるのは許さん」

 シャンクスがうろたえるのも無視して、クロエは映像電伝虫に記録された映像を再生した。

 酒場の壁にそれは投影され、エレジア壊滅の真相が再び暴かれた。

《誰か! 大変だ、トットムジカの話は本当だった! 〝魔王〟が――トットムジカでよみがえった魔王が街を破壊している!!》

 夜空の下で火の海と化したエレジア。

 次々に街を破壊していく異形の怪物の中にはウタがおり、禍々しい歌を歌い続けている。

「え……」

「な、んだよ……これ……」

 ウタとルフィは唖然としていた。

 赤髪海賊団やルフィと親しい間柄である店主・マキノも、両手で口を覆っている。

 クロエ海賊団の面々も、初めて見る映像に驚きを隠せない。

《ハァ……ハァ……この映像を見ている人!! ウ――》

 

 カチッ!

 

 クロエはすかさず再生を止めた。

 ここから先を流せば、本当にウタの心を壊しかねないと判断したからだった。

「もう勘づいているだろうが……この魔王という存在は、ウタを利用して顕現したんだ」

「……え? わ、たし、が……?」

「な……何言ってん、だよ……」

「……」

 二人の子供の言葉に、クロエは無言を貫いた。

 それが答えだった。

「…………わたしが……わたしが……トットムジカをよんで……わたしが………うっ」

 ウタはあまりのショックで、その場で気を失ってしまった。

 クロエはすかさず手を伸ばして抱きかかえる。一種の防衛本能が働いたようだった。

「だからウタを遠ざけた、ということなんだな? シャンクス」

「ああ……こんな残酷な真実を知ってほしくなくて……世界一の歌手になって欲しくて……あいつをエレジアに……」

「…………私としては、一番辛い時に寄り添ってくれる一番大事な家族に置いてかれたのがトドメだと思うがな」

「全くだ……おれって奴は本当にバカだ……! 考えてみれば単純なことだった……おれは娘の気持ちも何もわかってなかった……!! 失格だ……親失格だ!!」

 左手を顔に当て泣き崩れるシャンクス。

 ゴードンも「私がすぐに処分していれば……!」と懺悔の涙を流す。

 そしてルフィも、大粒の涙を流して叫んだ。

「ぶざげんじゃね゛ェよ゛ォ!!! び、びんなをがなじませで……きずづげで!!! 泣がぜやがっで!!!」

「……」

 クロエはウタを抱えたまま、泣きじゃくるルフィに手を伸ばして優しく撫でた。

 ルフィはその手にすがりつくように泣いた。

「……マキノと言ったな? すまないが寝室を借りる。ウタを寝かせないとな」

「お、お゛れもいぐ!」

「はい……ウタちゃんのことをどうかお願いします……」

 クロエはそう言い残して、ウタを寝室まで運んで行く。

 重い空気が酒場に漂う中、ラカムが口を開いた。

「ウチの怪物船長もようやく頭冷えてきたようだな……これからどうする? 赤髪海賊団」

「ウタの状態が安定するまでは無期限で航海の延期……その間おれ達はフーシャ村に留まる。お頭、それでいいか」

「ああ、勿論だ……今のおれ達に必要なのは時間だ……あいつの心の傷を癒すためのな……」

 落ち着きを取り戻したシャンクスは涙を拭うと、ベックマンの言葉に同意する。

 心の傷は、体の傷とは訳が違う。ましてウタのような子供ならば尚更だ。赤髪海賊団全員がその事を身に沁みて理解し、目を合わせて頷いた。

 そして酒場の寝室では、クロエがウタをベッドに寝かせており、ルフィも涙が止まって同行していた。

「……辛かったよな。寂しかったよな、ウタ……」

「……傷を癒すには、逃げるだけではなく向き合わねばならない時もある」

 その言葉にルフィは顔を上げる。

 心の傷を癒すには、時間を与えることに尽きる。だがそれだけでなく、自らが現実と向き合い、折り目を自分でつけることも重要なのだ。

 そして、傍に寄り添ってくれる存在も必要だ。

(もしかすれば、この子供も今は必要かもしれんな)

「なァ、一つ気になるんだけど……クロエって名前、どっかで聞いたことあるんだ」

「フッフフ……それはまたの機会としよう。今はウタを癒すことが先決だ。そうだろう?」

 クロエの優しく語りかけるような物言いに、ルフィは無言で頷いたのだった。

 

 

           *

 

 

 一夜明け、真実を知ったウタは、ベッドの上で泣き出しそうな顔で蹲っていた。

 エレジアを滅ぼしたのは魔王で、その魔王を故意ではないとはいえ召喚したのはウタだ。シャンクス達はエレジアを滅ぼすどころか、人々の為に魔王に立ち向かい、全ての罪を背負うことでウタを守ろうとしていたのだ。

 ただ、その後立ち去ったことに関してはクロエは頭に来たそうで、大層キツくあたられてるが……。

「私……生きてて、いいのかな……」

 ウタは消え入りそうな声で呟いた。

 膝の上で小さな手がぎゅっと握られており、その手は小刻みに揺れている。

(エレジアを滅ぼして……シャンクス達にも迷惑しか掛けてなくて……私を許してくれたとしても……それじゃ……!)

「ウタちゃん、起きてたんだ」

「! エマおばさん……?」

 悲しみに暮れるウタのもとに、エマが駆け寄った。

 彼女もまた、ウタにとっては憧れの女性の一人だ。

「……何で私にそこまでやさしくしてくれるの? 私はエレジアを滅ぼした原因なんだよ……?」

「あれに関してはどうしようもない……クロエも言ってた。それにおばさんは今のウタちゃんを放っておけるような性分じゃなくてさ」

 まだ30代だけどね、と言いながらエマはニッと朗らかに笑うと、ウタの頭を優しく撫でた。

「ウタちゃんは歌っただけで何も悪くない。あれは大人の責任だよ」

「……そんなの、そんなの納得できるわけない!! 私が歌ったせいで国が一つなくなっちゃったんだよ!? もうゴードンさんやシャンクス達に、どんな顔して会えばいいのかわかんないよ!!」

 ウタは泣きながら叫ぶと、エマが彼女をそっと抱きしめた。

 幼き少女の苦しみや悲しみ、痛み……全てを受け止め理解してあげようと、優しい笑顔を向けてながら語りかける。

「ウタちゃん……たとえ苦しくても悲しくても、時に自分を責めて傷つけても、自分の夢を追うなら前に進まなきゃダメだよ? 人間は生きてナンボ。私はエレジアのことでウタちゃんに負い目を感じてほしくない」

「エ゛、マおばざん……」

 泣きじゃくる彼女の頭を撫でながら、エマは続ける。

「確かに、人はできることなら悪い出来事の記憶を忘れたがる。でもね、その出来事がその人を強くしたり、心を成長させるキッカケになる事もあるんだ。良い事も悪い事も経験して、人は何かに成るんだ」

 エマはウタから身体を離すと、今度は肩に手を置いてジッと彼女の目を見据える。

 その瞳からは……ウタの心根を見定めようといった、力強い感情が見てとれた。

 しばらく無言で視線を合わせたままでいるが、やがてエマはニッと笑いながら言った。

「大丈夫!! この海を一人で生きてる人間はいないから、ウタちゃんなら乗り越えられる!!」

「……エマ、おばさん……」

「もうそろそろ……来るんじゃないかな」

 エマが後ろを振り返ると同時に、ウタは階段を上がる足音が聞こえるのを感じた。

 足音は段々と近づいてきており、ウタは揺れる瞳でその音が聞こえる方を見つめると、麦わら帽子を被った赤髪の男と黒髪の少年が視界に入った。

「ルフィ……シャンクス……」

「さあ、ここから先はウタちゃんの〝出番〟だよ」

 シャンクスはルフィを肩にのせて、ウタを見下ろすような形で話しかけた。

 優しく笑いながらも力強い視線を受けて、ウタは前に出ることも後ろに下がることも出来ずに二人の顔を交互に見つめた。

 少しの間を置いて、沈黙を破ったのはシャンクスだった。

「エマ姉さん、おれと代わってもいいか?」

「どうぞ。親子水入らず」

「ありがとう」

 シャンクスはエマにお礼を言うと、ルフィと共にウタに近づく。

 するとウタは、迷わずシャンクスに抱き着いた。

「シャンクス……うわあああああああん!!!」

「ウタ……」

「シャンクスのバカッ!! 私、さびしくて、つらくて……あああああああっ!!」

「ごめんな……」

 シャンクスはウタの頭に手を乗せて、ゆっくり撫でながら謝る。

「ウタ……お前は何も悪くない。おれをどんなに嫌おうと構わないから、その歌声だけは……」

「嫌いになんて……なるわけないっ!! だから……もう二度と、私を置いていかないで……もう二度と……ひとりぼっちにしないでよォ!!!」

「当たり前だ……もうお前を離したりしないっ……!!!」

 シャンクスの胸に顔を押しつけたまま、ウタは泣き叫ぶ。

 するとルフィもウタの手を握って口を開いた。

「ウタ……おれもそばにいるよ……!! ウタがウタを許せるまで……おれはウタを支えてやりてェ……!!」

「ルフィ……!!」

「お前は一人ぼっちなんかじゃねェ……!! おれどウダは、新時代を誓い゛合っだ仲間だ!!」

 その言葉に、ウタはルフィにも泣きつく。

 この海を一人で生きてる人間はいない――それを実感しながら、ウタは二人と共に抱き合い続けた。

 そのやり取りを、クロエは一階の酒場のカウンター席に座りながら、見聞色の覇気で聞いていた。

「どう? 御膳立てはバッチリでしょ?」

「流石私の右腕だ」

 二階から降りてきた親友に笑いかけると、クロエは空いたグラスにラム酒を注ぐ。

 エマはクロエの左隣のカウンター席に腰かけながら、酒をグイッと飲んだ。今日は奢るつもりなのか、彼女はエマのグラスに酒を継ぎ足した。

「……で、貴様がウタより泣いてどうする、ゴードン」

「泣き上戸なんじゃない?」

「う゛お゛お゛お゛お゛……!!」

 号泣しながら酒を飲むゴードンを見て、クロエとエマが声を揃える。

「私の愚かさが招いたんだ……あの子に悲しい業を背負わせてしまったのは、私の責任だ……!!」

「いくら周りからそうじゃないと言ってくれても、自責の念というものはそう容易くは拭えないからね……私もその気持ちはわかる」

「エマ、お前……」

「私も、前世(まえ)で救えなかったから……」

 悲しそうに顔を歪めるエマに、クロエは『迷惑をかけたな……』と静かに呟いた。

 おそらくエマは前世、唯一無二の親友を救えなかったのを相当根に持っているのだろう。今でこそ転生して再会できたが、前世では本当に誰にも救ってもらえず、その中でクロエは自ら命を絶ったのだ。その件はクロエ自身が一人で抱え込んでしまったのも一因だが、エマはずっと後悔していたに違いない。

 前世のことはもういいのだから、そう堅くなることはない……とは言わなくとも、クロエは優しくエマの肩を叩いた。

「これからどうするんだ、ゴードン」

「私はエレジアに残る。元国王として、亡きエレジアの人々を弔わねば……」

「フーシャ村でやればいいよ。何もエレジアでやる事は――」

「それでもだ。もう決めた事だ」

 頑ななゴードンの態度に、二人の女大海賊は苦笑する。

 やり遂げると決断している以上、男の覚悟や王としての務めとして、これ以上言わずにやらせた方が彼の為だ。

「やはりこういうのは、ハッピーエンドに限るね」

「ああ……ああっ!!」

「あの子なら、今の挫折を未来に繋げられるさ……大人は黙って見守ってればいい」

 クロエとエマは微笑みながら……泣き笑いしているゴードンの横顔を横目に、酒を呷るのであった。




エマはクロエ以上に包容力があるキャラとして本作では扱ってます。
ある意味では、ルフィの上位互換かもしれませんね。
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