〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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今気づいたんですけど、シャンクスはフーシャ村滞在中によくガープに遭遇しなかったもんですね……。


第59話〝非番の英雄〟

 翌日、ウタとの和解が成立した赤髪海賊団は、クロエに感謝の礼を述べてからゴードンをエレジアへ送るべく出航した。

 クロエ自身も散々暴れ回ったから息抜きは必要とし、クロエ海賊団もフーシャ村にしばらく滞在することにした。なお、村長のウープ・スラップにはクロエが直談判して許可をもらっている。

「ええ~~~~~~!? 海賊王の船にィ~~~~~!?」

 女店主のマキノが切り盛りする「PARTYS BAR」で、ルフィの叫びが木霊する。

 クロエがルフィに自らの素性を明かしたのだ。

「ああ。シャンクスは見習い小僧で、私は一端の船員(クルー)だった」

「シャンクスも!? じゃ、じゃあ、ウタも知ってたのかァ!?」

「勿論。――ちなみに私が使ってる船は、元々はロジャーの船だ」

「スッゲーーーーー!!」

 ますます驚くルフィに、クロエは「純粋な奴め」と愉快そうに笑った。

 すると、彼女の隣でスモークサーモンを食べてたヤマトが、ルフィに声を掛けた。

「ルフィ。母さんは元々は一人海賊……最初っからロジャーの部下じゃないんだよ」

「一人海賊?」

「要は一匹狼だ」

 ラム酒をウイスキーグラスに注ぎながら、クロエは続ける。

「訳あって私はロジャーと戦った。だが結果は完敗……それから半ば強制的にあいつの仲間になった」

「シャンクス達をボコボコにできるクロエでも負けるなんて、海賊王はそんなに強ェのか!?」

「ああ、とんでもなく強いぞ。色んな猛者と戦ったが、最後までロジャーにだけは勝てなかった」

 懐かしそうに語るクロエに、ルフィはワクワクが止まらない。

 ゴールド・ロジャーとその一味にまつわる秘話など、そうそう聞けるものではないからだ。

「クロエさんから見て、ゴールド・ロジャーはどんな人でした?」

 マキノの問いに、クロエはウイスキーグラスの中のラム酒を呷りながら答えた。

「ロジャーは誰よりも仲間想いで、誰よりも強くて、誰よりも自由だった。シャンクスは勿論、あいつの仲間愛に私も感化された。私の知る限りでは、間違いなく世界一の海賊だ」

「じゃあ、クロエはロジャーのことは大好きなんだな!!」

「ああ……ロジャーと過ごした六年が、私の掌中之珠だ」

 クロエはグラスを置いて、目を閉じて微笑む。

 比するもののない存在であるロジャーに、心から惚れ初めて恋い焦がれた。ゆえに孤高の女だったクロエは、ロジャーには心を許して己の弱さを見せる事ができた。敬慕の情が実る事はなかったが、亡き今もクロエは一途に想い続けている。それぐらいにクロエはロジャーを好いていた。

 幼いルフィでも、クロエがいかにロジャーを愛していたのかはしっかりと伝わった。

「ところで、私に話があるとか言ってたが……一応訊く。ルフィ、何の用だ」

「そうだ!! クロエ、次の航海おれも連れてってくれよ!! 海賊になりたいんだ!!!」

「断る」

 即答するクロエに、ルフィは固まった。

 そして数秒経ってからハッとなり、声を荒げた。

「何でだよ!! シャンクスと同じでガキすぎるからとか言いてェのかよ!!」

「母さん、僕はルフィを連れてくのいいと思うんだけど……」

「年齢はどうでもいい。私はそういうので差別はしない。……だがルフィ、お前は()()()()()()()を抱えてる」

「「ヤッカイ?」」

 ルフィとヤマトが首を傾げた時だった。

『うぎゃあ~~~~~!!!』

 酒場の外で轟音と共に仲間達の悲鳴が響き渡った。

 クロエは席を立ってヤマトと共に店を出ると、目の前でデラクアヒやドーマ、ガスパーデ達が大の字で伸びていた。何者かの強襲を受けてるのは明白だった。

 しかし、一騎当千のクロエ海賊団の船員(クルー)達でも手に余る猛者など、この世界では一握り。そしてフーシャ村に立ち寄ることがある猛者など、クロエが知る限りでは一人しかいない。

 彼女自身もその拳骨を受けた、海軍本部が誇る伝説の――

「どうも最近胸が落ち着かんと思って来てみたら、赤髪の次はお前かクロエーーー!!」

「やっぱり貴様か……」

「うぎゃあぁーーー!!! じいちゃんだぁーーーー!!!」

「え、英雄ガープ……!!」

 クロエの視線の先には、アロハシャツを着たガープが仁王立ちしていた。

 歩くバスターコールである顔見知りの英雄に、クロエはイヤそうな顔を浮かべ、ルフィとヤマトは驚愕する。

「わしの孫に何を吹聴した!? 事と次第によっちゃあ、タダじゃあ済まさんぞ!!!」

「吹聴とは随分な言い草だな、ガープ……私はルフィに自己紹介とロジャーとの思い出話を酒場で語っただけに過ぎん。むしろ次の航海に乗せろと言われて断ったんだぞ?」

「お前がルフィと話すだけで孫が心配になるんじゃ!! ロジャーに似て、お前は子供も遠慮せず船に乗せるからのう……!!」

「貴様、思った以上に孫馬鹿だな……」

 クロエは思わず呆れ返った。

 ガープの言う子供は、間違いなくヤマトの事だろうが、あれはヤマトが思ったより頑固で実父のカイドウでも手を焼いたのを見かねたエマの発案である。今でこそ実の娘のように可愛がっているが、あくまでもそれは仲間愛の延長線で、断じてクロエに稚児趣味はない。

「ともかくだ。私はルフィを乗せるとは言っていない。海兵に向いた性格ではないとは思うがな」

「そういうのを余計な一言と言うんじゃ、バカタレが!! ルフィは強い海兵にさせるんじゃ、邪魔をするでない!!」

「ヤダよじいちゃん!! おれは海賊になりたいんだよ!!」

「戯けた事を抜かすなーーーっ!!」

 ガープの拳骨が炸裂し、ルフィは断末魔の叫びをあげたのだった。

 

 

           *

 

 

 〝ゲンコツのガープ〟の強襲を受けたクロエだったが、ルフィを乗せる気はないと知るや否や大笑いしながら軽く謝り、詫びに酒を奢った。

 海兵として問題行動ではないかと思われるが、ガープ曰く「非番」なので気にしなくていいらしい。センゴクの胃が不安要素だが。

「……で、ルフィの次は貴様か」

「まァそう怒るな!! お前達を捕らえるとなると、わし一人じゃ厳しいからのう!! ぶわっはっはっはっはっ!!」

「よく言う……」

 ルフィの相手をヤマトに任せたクロエは、溜息を吐きながらグラスを呷った。

「わしは一つ、お前にどうしても訊きたいことがあってな……」

「海賊の私にか?」

 真剣な顔をしたガープに、クロエは目を見開いた。

 あの豪放磊落なガープの、同僚達にも言えない悩み。一体どんな深刻な話かと、クロエは目を細めた。

「ルフィは強い海兵にするんじゃが、お前はあのカイドウの娘をどう育てた?」

「それはゼファーに訊くのが筋じゃないか?」

 真剣な顔でする質問ではないな、とクロエは半目で呆れ果てた。

 だが沈黙を貫こうとしても、無理矢理尋ねてきそうなのも事実。断ったら断ったらで面倒な事態になり、マキノに迷惑をかけてしまう。

 人間関係には割と律儀なクロエは、仕方なく語り始めた。

「構うことと任せることのバランス……過保護になり過ぎない程度に愛情を注ぐことだな」

「いや、そっちじゃなくて修行の方じゃぞ? わしルフィの親父じゃないし」

「……!!」

 ガープの言う子育てが鍛錬と知り、恥ずかしさで顔を赤くするクロエ。

 シャンクスやエマがいたら抱腹絶倒だろう。そうなった時は容赦なくシバき倒すが。

「まずは基礎戦闘力。体の動かし方やバランス感覚、筋力、体力、持久力、集中力……基礎を固めないと、強大な覇気の力に身体が追いつかない」

「成程のう……」

「航海中は水泳に筋トレ、坐禅に柔軟が多いな……上陸する島によっては千尋の谷を登ったり、大岩を素手でひたすら叩き割ったり、そこら辺の丸太を担いで島を何十周もしたりする。それと船員同士の組み手も推奨している。暇と体力を持て余しているからな」

「ぶわっはっはっはっはっ!! わしの教育も間違ってはおらんようじゃな!!」

 ガープは安堵の声を漏らしながら豪快に笑った。

 クロエもチンジャオのスパルタ教育で成長したので、ガープのやり方も決して全部が全部間違ってはいないだろう。

「ならクロエよ、風船に括りつけてあの娘をどこかに飛ばしたりもしたのか?」

「私は師匠にやられたが……あれは意味があるのか?」

「あるに決まっておろう!! 精神力を鍛えられるではないか!!」

 ガープの持論を聞いたクロエは「本当か……?」と半信半疑の様子。

 ちなみにクロエが幼い頃にされた時は、括りつけられた風船は自分で割って降りてくるのがルールだったりする。うっかり海上で割って落ちてしまい、自力で泳いで帰るハメになった時もあったが。

「とはいえ、……やはりチンジャオも中々に猛々しい教育をしておったか」

「ちなみに師匠は未だに恨んでるぞ、頭の事」

「ぶわっはっはっはっはっ!! わしの拳骨に負けたあいつの頭が悪いじゃろうに!!」

 サムズアップしながら爆笑するガープに、クロエは「それはそうだが……」とバツの悪い顔をした。

 マキノも思わず苦笑いを浮かべている。

「そろそろ船に戻る。これ以上の干渉は野暮だ」

「そうか。今回は非番じゃから手は出さんが、次は歯ァ食いしばっておれ」

「村に迷惑かけてる身だ、ここにいる間は何もしないさ。ただ……一つだけ言っておく」

 クロエはグラスの中の酒を飲み干すと、鋭く冷たい視線をガープに送って告げた。

「ルフィは海兵に向かない」

「っ!!」

「仮に海兵になったとしても、マリージョアの豚共のことで相当ややこしくなるぞ」

「……あのゴミクズ共の事か……」

 ガープは溜め息を吐いてから、一呼吸置いて返答した。

「――それについては、ルフィの成長に合わせて順々に教えていくつもりじゃわい……」

「どうだか……それ以前にいけ好かないと思うぞ? あの子もロジャーや私のように自由を好む……到底納得できないだろうに」

 クロエの言葉に、ガープは眉根を寄せた。

 ガープだけの問題ではないが、天竜人を嫌う海兵は多い。ただ手を上げる者がいないだけで、ガープも天竜人嫌いを態度で示してはいるが真っ向から衝突していない。海賊とはいえ、手を上げたら容赦なく殺しにかかるクロエがおかしいのである。

 まだ幼いルフィが海兵になったとしても、その現実に憤慨し、海軍を見限る可能性もゼロではない。もし海兵になってから手を上げれば、ガープもルフィもタダでは済まないし、ガープが本気で世界政府に反乱を起こしかねないだろう。

「私の目から見ても、あの子は海賊に向いている性格だ。そもそも父親が真面に育ててない時点でアレだろう」

「ぐぅ……」

 反論しようとしたが、確かに言う通りなので何も言えないガープ。

 ルフィが真っ当な海兵に育っても、天竜人に歯向かわない保証はない。むしろ余計に事態を悪化させるかもしれない。

「それでもルフィを海兵にすると言うのなら、止めはしない。正義の二文字を背負って来たら、私の首を取りに来る威勢のいい小僧として歓迎してやるさ」

「ほう、言ったな? わしの孫を見くびるでないぞ」

 クスクスと笑うクロエに、ガープは不敵に笑った。

 ルフィにはきっと海兵の才能があるのだと信じて。




今回の話でのクロエ海賊団ですが、エマとステューシーとラカムは買い物に、スレイマンは船番、レッドは散歩中でした。
それ以外の面子はフーシャ村で酒盛りしており、ガープの殴り込みを受けてボコボコにされました。(笑)
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