①覇王色で気絶させる
②直接ぶん殴る
③刀で首ちょんぱ
さて、正解はどれでしょう?
一週間後。
クロエはトムの元を訪ね、自らの小船の出来を確認していた。
「……ほとんど変わらないな」
「たっはっはっは!! ……まあ、見た目はな。だが使ってる素材は〝
トムは自信満々に答える。
仲間を集める気がない点と、一人で十分に操船できる点を踏まえた結果、材質をより良い物に変えただけの方がいいと判断したのだろう。
「今後のことを想定し、特に竜骨を一番頑丈な代物にしといたわい。
「わざわざすまない。恩に着る」
「船大工として当然のことをしたまでだ、礼は要らん」
頭を下げるクロエに、トムは微笑んだ。
巷ではルーキーの中でも断トツの強さに加えて一際気性が荒いと噂されてたため、トム自身も彼女の律儀さに驚いている。人の噂は不確かなものである。
「もう出るんじゃな。ってことは、次はシャボンディ諸島か」
「シャボンディ諸島……?」
「正確に言えば、ヤルキマン・マングローブと呼ばれる巨大な樹木の集合体だ」
トム曰く、この先を進むと辿り着くのは
シャボンディ諸島は、新世界の海へ向かうための海底ルートへの準備をする島であり、それゆえに〝
もっとも、クロエにとってはそんなこと意にも介さないが。
「別に大ごとであろうとなかろうと、海軍の警戒度が高いんだろう? 悪名を馳せる以上はどの道避けて通れない」
「たっはっは! それもそうだな! ――だが〝天竜人〟にだけは手を出すなよ」
「〝天竜人〟?」
トムは苦い表情で語り始める。
この世界には最も誇り高く気高き血族として君臨する天竜人は、世界政府中枢や各国の王達すら意に介さない程の絶大な権力と財力を持っており、数々の特権が認められている。しかも彼ら彼女らの性格は総じて非常に傲慢で自己中心的で、何をしても一切罪に問われないこともあり、その所業は凄惨を極めている。
さらに危害を加えられたら、特権を行使して海軍本部大将や世界最強の諜報機関である「サイファーポール〝イージス〟ゼロ」を動かして報復してくる。下手に関われば間違いなく人生を狂わせられ、場合によっては国家レベルで危機に陥るため、どんなに恨みと憎しみをぶつけたくとも泣き寝入りする他ないのだ。
「頭を下げてやり過ごす。……これが一番無難だ」
「…………まあ、善処する」
(スゴく嫌そうだな……)
露骨に不愉快だと言わんばかりに顔を歪めるクロエに、トムは少し不安になった。
「忠告感謝する。また会ったら酒でも奢ろう」
「たっはっは! その時は樽で頼むぞ!」
クロエはトムに別れを告げ、次の目的地――シャボンディ諸島へと向かった。
*
シャボンディ諸島に辿り着いたクロエは、酒場の店主から重要な情報を聞いていた。
「コーティング?」
「そうだとも。海賊達はこのシャボンディ諸島で船をコーティングして、魚人島を経由して新世界に入るんだ」
クロエはラム酒を煽りながら店主と言葉を交わす。
船全体をヤルキマン・マングローブのシャボンで包み、海中航海を可能にするコーティング技術は職人による手作業で、船員の命がかかる繊細な作業のため、熟練した職人でも数日を要するという。腕の悪い職人が施したコーティングだと、海中で突然破れるという事故が度々起こるため、真剣かつ慎重に業者を選ばねばならないようだ。
「貴重な情報、感謝する。釣りは結構だ」
「毎度。――ああ、そうだ。嬢ちゃん、今この島に天竜人が来てる。バッタリ会わないように気を付けな」
「それはどうも」
気さくに忠告した店主に礼を告げ、酒場を後にする。
(それにしても、数日かかるのは想定外だったな。金の余裕はまだあるが、コーティングは命にかかわるしな……)
クロエは顎に手を当てながら歩く。
今使っている小船ならば、おそらく一日弱で作業自体は終わるだろう。だが腕利きの職人でなければ海中で船が壊れてしまう。情報収集に徹し、誰が質のいいコーティングを保証してくれるかを探さねばならない。そうとなると、やはり情報源が酒場だけでは物足りない。
「念には念だ、その辺の雑魚をシバいて分捕るとするか……」
クロエは資金集めのため、シャボンディ諸島の造船所ではなく無法地帯を目指した。
同時刻、海軍本部。
ガープは盟友にして同期であるゼファーと、束の間の休息を取っていた。
「また逃げられたようだな、ガープ」
「全く、派手にやらかしといて上手い具合にトンズラしおったわ」
英雄と持て囃される同期が、またしても取り逃したことを聞き、思わずニヤつくゼファー。
不殺の信念を掲げ、若くして大将に登り詰めた彼も、ガープと同様に拳一筋で大海賊達と戦ってきた。大海の守護者の一人として海賊には容赦しないが、ロジャーや白ひげのような信念のある海賊には一目置いている。
そんな中、軍の上層部で話題になっているのが、女海賊のクロエだった。
「そういやあ、クロエらしき海賊がシャボンディ諸島で目撃されたそうだぞ」
「あいつは筋金入りのじゃじゃ馬だからな……うっかり天竜人を斬り殺してしまうかもな。そうなったらそうなったで胸がすくが……」
「おい、縁起でもねェこと言うんじゃ――」
ピシシィッ
「「!?」」
ガープが天竜人のことを遠回しに罵倒した途端、二人の湯呑みがひび割れた。
典型的な「良くないことの前触れ」に、思わず顔を見合わせた。
「……ガープ……」
「あ~……おれァ知らんぞ」
*
シャボンディ諸島は、各々の樹木に番号が着けられており、「
その区画の中の一つ、24番
「全く、最近はキレイな女の奴隷が買えないえ」
苛立ちの声と共に、防護服の男が首輪に繋がれた大男の背中にまたがり、八つ当たりするように足蹴にしていた。その後ろでは若い男女が、同じ首輪に繋がれた若者達を引き連れている。
本来ならば、虐待であり許されない行為。だが周囲の人間は膝をついて頭を下げるばかりで、誰も助けに行かない。いや、行けないのだ。
なぜなら、その防護服の男達こそが世界政府を創設した〝創造主〟の末裔――天竜人のゴミルット聖の一家であったからだ。手を出せばどうなるか、誰もが理解しているため、見てみぬふりを決め込むしかないのだ。
「早く新しい奴隷を買わないといけないえ!」
「この先が目的地です、そちらで……」
「おお、そうかえ! そら、速く動け!!」
乗り物にしている大男の上で罵りながら、道を開け跪いている民衆を横目に移動していると……。
「ん?」
「んなっ……!?」
何と、偶然クロエと横切る形で鉢合わせた。
いきなり横から通行を妨げられた状況に、天竜人の一家は絶句している。
「……ジロジロ見るな、気色悪い」
『!?』
容赦なく暴言を吐いたクロエに、一同は顔を青褪めた。
クロエは、天竜人がどういう人間かは教えてもらったが、
一方、未だ経験したことのない甚大で許されざる無礼に対し、ゴミルット聖は即座に銃を構えたが……。
バキャアァッ!
「ヒィィッ!?」
「……いきなり引き金を引こうとするとは、随分な返事だな」
クロエは抜刀し、天竜人が手にしていた銃を一太刀で粉砕した。
ゆっくりと刀を鞘に納めるクロエに、唖然と見つめる。
「だが私は寛大な人間だ。先を急いでる身でもあるから、一度は許す。二度は無い」
ゆっくりと振り返るクロエの声色は、驚く程に穏やかだった。
……が、その顔は一切の感情を捨てたかのようで、尋常ではない圧迫感を放っていた。
「――控えろ、下郎共」
地獄の底から響くような声で睨むクロエの一言は、ビリビリと空気を震わせた。
蛇に睨まれた蛙のように震えるゴミルット聖など意にも介さず、悠然とその場を後にしようと歩き出す。
そんな彼女を許容するほど、天竜人の懐は広くない。
「下々民の分際で……!! お前、ムカつくえェ!!」
「お兄様、殺さないで! その女、私の奴隷にするアマス!」
ゴミルット聖の息子であるチリウス聖が銃口を向け、娘のカストリア宮が声を上げる。
そして引き金を引こうとした途端、クロエの殺気が膨らんだ。
「――二度は無いと言ったよな?」
ザシュッ!
『!?』
クロエは何の躊躇いもなく斬りつけ、チリウス聖は血飛沫を撒き散らして倒れ伏した。
左肩から脇腹にかけての袈裟懸け斬り。誰が見ても、間違いなく致命傷だ。
「チリウス!!」
「お兄様っ!?」
まさか斬られるとは思ってなかったのか、慌てふためくゴミルット聖とカストリア宮。
頭を下げていた人々も、突然の凶行に驚愕と恐怖で慄いた。
対するクロエは、不快極まりないといった表情で刀に付いた血を払っている。
「お、おのれェェェ!!」
フルアーマーの衛兵の一人が槍を突きつけ襲い掛かるが、クロエは流れるような動作で躱すと一閃。鎧ごと衛兵の胸を斬り裂いた。
「……つまらない意地は張るな。殺す気のない相手を斬る趣味はない」
「っ! ……貴様、まさかクロエ・D・リードか!?」
衛兵の一人が叫ぶと、衛兵達は後退った。
ゴミルット聖とカストリア宮も、「〝D〟の……!?」と呟いて顔色を悪くしている。
「き、きききき貴様!! 天竜人に盾つくどころか斬り捨てるなど……!! どれほどの重罪かわかっているのか!?」
「天竜人? この分を弁えない恥晒しのことだったのか」
「黙れ!! よくもチリウス聖を……神を殺した極悪海賊が!!」
護衛達は、一斉にクロエに武器を向ける。
――目の前の女は、容赦なく天竜人を斬った。神をも恐れぬ修羅だ。絶対に生かしておくべきではない。
それは当事者も察したようで、怒りに満ちた声色で叫んだ。
「よくもお兄様を!!」
カストリア宮は次々に発砲。
だが、見聞色の覇気を扱えるクロエは、全ての弾を難なく避けた。
あっという間に銃は弾切れとなり、それが意味することを理解したのか、カストリア宮は震え上がった。
「海賊風情が……!! 神殺しの大罪、ここで償ってもらう!!」
「神? そうか、
クロエの挑発的な一言に、ゴミルット聖とカストリア宮の怒りは臨界点に達した。
天竜人は、全ての人間を差別することが許される。創造主の末裔がただの人間、ましてや下々民の目の前で神殺しを犯した者と同じように扱われるなど、最大の屈辱だ。
――創造主の末裔を恐れない、身の程知らずの女に、目に物を見せてくれる!!
「あんな女、奴隷になど要らないアマス!! 徹底的に痛めつけるアマス!!」
「この世界の創造主の末裔である我々に手を出して、無事でいられると思うな!!」
「おい、大丈夫か?」
「貴様ァ!! 我々を無視をするなァ!!!」
怒号を飛ばす天竜人に無視を決め込むクロエは、奴隷達の首輪をどうしようか悩んでいた。
神よりも奴隷に意識を向けるという、未だかつてない冒涜に、ついにゴミルット聖は叫んだ。
「海軍大将と軍艦を呼べ!!! そこの
「そうするアマス、お父様!!! 奴隷などいくらでも――」
刹那、化血の赤い刃が疾駆した。
途端に、ゴミルット聖とカストリア宮の喉から血が噴き出て、崩れるように地面へ倒れた。
天竜人の一家が、一人の女海賊によって全員斬殺されてしまった。
「私一人ならともかく、この者達に罪はないだろうが」
「あ、ああ……!!」
まさかの事態に、護衛達は腰を抜かした。
天竜人には誰も逆らわないという世界の鉄則を、跪く民衆の前で斬り捨てるという前代未聞の破り方をしでかしたクロエが、まるで悪魔のように思えた。
そんなクロエは、斬り捨てた天竜人の懐を探り、首輪の鍵を見つけていた。
「……どうやらこの諸島は戦場になりそうだ。早く外して遠くへ行け」
そう言って投げ渡すと、奴隷達は涙を流して歓喜した。
一方、護衛達と民衆は一斉にその場から逃げ出し、怒声と悲鳴でパニックになっていた。それもそうだろう、クロエがやらかしたのは禁忌に等しい行為。天上の存在を下界で斬殺するなど、全世界を震撼させる大事件だ。
しかもここは〝中枢〟のすぐ近く。小一時間足らずで海軍大将が軍艦と部隊を引き連れ、天竜人の一家を斬り捨てた自分を仕留めにかかる。軍艦がどれくらいの数で来るかは不明だが、そもそも軍の基地や駐屯所が置かれてるのだ、大将が来る前に前軍がやってくるのは明白。
我ながら面倒な事を起こしたなと、クロエは頭を掻いた。もっとも、天竜人を斬り捨てたことに一切の後悔はないが。
「……! 随分と到着が早いな」
迫り来る気配に気づいたクロエは、悠然と振り返る。
視線の先には、銃を構えた無数の海兵達が。
「クロエ・D・リード!! あと数十分後にはゼファー大将が乗り込んでくる!! 大人しく投降しろ!!」
ゴゥッ!
次の瞬間、波動のようなモノが放たれた。覇王色だ。
チンジャオとの修行や大海での海賊暮らしにより、クロエの覇気は大幅に強化されている。海兵達はクロエの覇王色にあてられて、バタバタと失神して倒れていく。
「……どうやら、覇王色だけでどうにかなりそうだな」
クロエはそう呟くと、意識を集中させて見聞色を発動する。
すると、海軍本部に最も近い島だけあって、次々と気配が集まっていくのがわかった。だがかつてのガープの時のような一際強い気配は感知できない。最高戦力は、これから来るのだろう。
「……」
ふと、クロエは斬り捨てた天竜人の一家に目を向けた。
前世であれば、あのような凶行に出れば誰かしら止めに入り、傷つけられた者は応急処置あるいは蘇生措置を施される。専門的な知識がなくとも、目の前で消えようとする命を無視できるわけなどないだろう。
だが、誰も止めなかった。とばっちりを食らいたくないという思いはあったろうが、少なからずクロエは気づいていた。
天竜人に向けられた、憎悪を孕んだ視線の数々を。
「驕る者久しからず、だな」
クロエは天竜人の一家の死体を一瞥すると、思いっ切り戦えるように広い場所へと移動を始めたのだった……。
正解は④の「天竜人三人の内、忠告を無視した一人を斬り捨て、奴隷ごと自分を葬ろうと宣言した二人を斬り捨てた」でしたー!
③だと思った方、惜しかったですね~……大体当たってますけど。(笑)
えっ、④は選択肢には無いじゃないか?
作者は「
……屁理屈でしたね。すいませんでした。
次回は黒腕のゼファーとの一戦です。乞うご期待!