〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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ついに60話目に突入……!

今回はシャンクスリハビリ回と、ルフィバリスタ回の豪華二本立てです。


第60話〝海賊の嗜み〟

 フーシャ村に赤髪海賊団とクロエ海賊団が滞在するようになって、一月が経ったある日。

 クロエは不機嫌そうな顔で足を組みながら、シャンクスに声を掛けた。

「シャンクス……私はそんな出来の悪い弟を持った覚えはないぞ」

「すんません……」

 いつもは賑やかなマキノの酒場に、非常に気まずい空気が流れる。

 赤髪海賊団もクロエ海賊団も、色々とフォローしてあげたいが、クロエの威圧感がそれを一切許さなかった為に何も言えなくなった。

 

 事の発端は、ルフィがシャンクスに蛮行を働いた山賊ヒグマ一味と揉めた事。シャンクス達の悪口を並べた事に怒ったルフィが殴りかかり、逆にねじ伏せられ殺されかけるが、銃を向けて来る奴と友達を傷つける奴は容赦しないシャンクス達が叩きのめしたのである。

 そこまではいいのだが、問題はここからで、何と頭目のヒグマは煙幕を使ってルフィを攫い、その際のシャンクスは完全に油断していたというのだ。挙句の果てにルフィは〝近海の主〟という海獣に襲われそうになり、咄嗟に庇ったからか左腕を上腕まで食い千切られてしまう大怪我を負ったのだ。

 腕を食い千切られたままルフィを抱えて帰ってきたシャンクスに、ウタは発狂寸前になるくらいに号泣し、ホンゴウやラカムが慌てて止血と治療をし……それはもう大変だったのは言うまでもない。

 

「シャンクス、格下相手に勝利を確信して思いっきり油断するな。なぜ隙を見てルフィを奪い返そうとしなかった? こればかりは煙幕を使った山賊じゃなくて、隙を見せたお前が悪い。半端にマウント取るからそうなるんだ、阿呆が」

「いやホント、ごもっともです……」

「ハァー……全く、傷心の娘を一度くらい自力で笑顔にしてやらないか」

 クロエはやれやれだと言いたげに、重い溜め息を漏らす。

 そしてシャンクスから視線を外し、落ち込んでいるルフィを見やる。

「……自分がもっと強ければ、とでも思ってるな」

「うん……もっと強けりゃあ、あんな奴ら……!!」

 ルフィは悔しそうに顔を歪め、クロエはそんな彼にアドバイスを送った。

「今のお前に必要なのは、体を強く作る事だ。貧弱な体では、強さを得てもそれに振り回される。まずは基礎を固めるんだ」

「……何か難しいけど、肉をいっぱい食えばいいのか?」

「当然それも大事だが、加えてしっかり運動をしてぐっすり寝る事もだ。強さとは積み重ね……すぐ効果が出るものじゃない。何事も怠らずに続ければ、絶対に実るものだ。努力は報われない事もあるが、決して無駄にはならないからな」

「……おう!!」

 ルフィは強く頷くと、クロエは柔和な笑みを浮かべた。

 弟分には無愛想なのに、子供の前では猫を被ってるんじゃないかと思うぐらいに対応が違う。

 シャンクスは「扱いが全然違う……」と嘆き、ベックマンは一言も発さず肩に手を添えた。誰も気に留めやしないが。

「それよりもシャンクス……利き腕を上腕からもってかれたんだろう? リハビリは必須じゃないか?」

「そうだなァ……これじゃあ次の航海は当分無理そうだしなァ……」

 失った左腕を力なく撫でるシャンクス。

 いくら〝赤髪〟でも隻腕となった以上、戦闘にも日常生活にも支障をきたすだろう。

「新しい時代に懸けてきたとはいえ……利き腕を失ったのは痛いな」

「だったらちょうどいい。私達クロエ海賊団が、お前の()()を見てやろう」

「……ん?」

 クロエの唐突の提案に、シャンクスは目をパチクリとさせた。

「この島には少し気になる案件がいくつかあってな……それもあって、もうしばらくはこの村に居ようと思っている。その間はリハビリを担当してやろう」

 クロエの申し出に、赤髪海賊団は驚きを隠せない。

 無論、シャンクスにとって非常に魅力的な話であるが……何だか嫌な予感がして、恐る恐る何をするつもりなのか尋ねた。

 するとクロエは、満面の笑みを浮かべた。

「フフ……!! 久々にミッチリ扱くに決まっているじゃないか。シャンクス、私の姉弟愛を有難く受け取るがいい」

 妙に嬉しそうなクロエは、周囲が気絶しない程度にバリバリと覇気を迸らせる。

 ロジャー海賊団時代のクロエの過酷な修行を思い出したシャンクスは、ダラダラと冷や汗を流して顔を引き攣らせるのだった。

 

 

           *

 

 

  翌日。

 フーシャ村から数キロ程離れた平原で、クロエ海賊団と赤髪海賊団、そしてルフィとウタが集まった。

「これくらい離れてれば問題ないだろう」

 周囲を見渡しながら呟くクロエに対し、シャンクスはソワソワと落ち着かない様子。

 何せ、10億越えの賞金首である自分に対し、姉は40億越えの怪物中の怪物だ。ロジャー海賊団時代の頃とは比べ物にならない実力になっており、それこそ在りし日のロジャーを彷彿させるような強さを手に入れている。そんな天災級の身内と隻腕で手合わせなど、正直恐ろしい以外の感想が浮かんでこない状況である。

「よし……ヤマト、シャンクスと戦ってみろ」

「母さんの弟と!? いいの!?」

「せっかくの機会だからな。悔いのないようにしろ」

 ヤマトはクロエから許可を得ると、「頑張るぞーっ!!」と己を鼓舞する。

 シャンクスは意外な相手に驚きを隠せない。

「クロエ姉さんじゃないのか?」

「いつも私じゃあつまらんだろう。娘の実力も把握しておきたいしな」

「えっ!? ヤマト姉さんって、クロエおばさんの娘なの!?」

「義理だがな。……というか、いつの間にかそんなに仲良くなってたんだな」

 クロエは不敵に笑いながら、シャンクスに忠告した。

「私が育てた自慢の娘だ、舐めてかかると痛い目に遭うぞ?」

「ああ、わかってるさ……相当な覇気を感じるよ」

 シャンクスは愛刀グリフォンを構えると、ヤマトも金棒・(タケル)を構える。

 時が凍ったような静寂が訪れ……先に動いたのはヤマトだった。

「〝雷鳴八卦〟!!」

 金棒に覇気を纏わせ、一瞬で距離を詰めて殴り掛かる。

 シャンクスは見聞色で見切って躱し、グリフォンで斬りかかるが、ヤマトも同様に見聞色で回避した。

「〝鳴鏑〟!!」

 ヤマトは続け様に、強烈な打撃を飛ばした。

 これにはシャンクスも驚き、覇気を帯びたグリフォンで受け止める。

(──重てェ……!)

 受け止めた瞬間、シャンクスの右腕がビリビリと痺れ、思わず体勢を崩してしまった。

 ヤマトはその隙を見逃さず、間髪入れずに追撃するも、これもまた躱されてしまう。

「スゲェ……ヤマトの奴、あんなデッケー金棒でシャンクスと渡り合ってんぞ……!!」

「これが、クロエおばさんの一味のレベル……」

「ヤマトちゃんは元々、クロエの好敵手(ライバル)の娘……素のポテンシャルが違うからね」

 シャンクスとヤマトの凄まじい戦いに、ルフィとウタは圧倒され、エマは微笑む。

 孤高の無双集団であるクロエ海賊団において、〝鬼姫〟ヤマトは覇王色を覚醒させているのもあって、一味の誰よりも抜きん出た才能を秘めている。利き腕を失っているとはいえシャンクス相手に渡り合うことができるのは、クロエの英才教育もあるが、最強の生物と称されるカイドウの実子という血統も大きいだろう。

「強いな……!! クロエ姉さんが育てただけある。ヤマト、お前いくつだ?」

「16歳!!」

「そうか!! 大した奴だ!!」

 言葉を交えながら、二人の激闘はより苛烈さを増し、それにより生じる衝撃が観戦していた者達にもビリビリと伝わる。

 このままでは埒が明かない――そう判断したシャンクスは、グリフォンの刀身に覇王色の覇気を纏わせ、勝負を決めようとする。

 そんな彼に、ヤマトも応えるように赤黒い稲妻を金棒から迸らせた。

(その若さで覇王色も纏えるか……!)

「行くぞ、赤髪!!」

 ヤマトは凄まじい速度で間合いを詰め、蛇のようにうねる軌道でシャンクスに迫った。

「ぬっ!!」

「〝(しん)(そく) (はく)(じゃ)()〟!! ――アレッ!?」

 ヤマトは豪快に振り抜いたが、シャンクスは未来視を使ってすでに見切っており、動きを見越した間合いを取られてしまった。

 その一瞬の隙を突き、シャンクスは覇気を纏ったグリフォンを下段から斬り上げ、金棒を真上へ吹き飛ばした。

「うわあっ!!」

 丸腰になったヤマト。

 気づいた時には足払いで転がされ、覇気を帯びた刃の切っ先を喉元にピタリと突きつけられていた。

 手合わせは、シャンクスの勝利で終わったのだ。

「……参りました」

「だっはっはっは!! 手強かったが、おれの勝ちだなヤマ――」

 

 ――ゴンッ!!

 

「っ~~~~~~!!!」

『……ぎゃーっはっはっはっはっはっはっ!!!』

 大笑いした時、弾かれた金棒が頭頂部に直撃。

 あまりの痛さに蹲って悶絶するシャンクスに、一同は大爆笑した。

「いっ……ウゥ、あァッ……!!」

「ハァ……ったく、締まらんな」

 痛みで話ができないシャンクスを見やり、クロエは呆れたような吐息を漏らす。

 他の者達が笑い転げる中、ルフィとウタはシャンクスの容態を気遣うばかりだった。

 

 

           *

 

 

 隻腕となったシャンクスのリハビリが始まり、一週間が経過した頃。

 クロエはルフィに付きまとわれていた。

「なァ、クロエ~! おれも船に乗せてくれよォ!」

「……昔のシャンクス並みにウザいな……」

「ダメよ、そんなこと言っちゃ」

 酒場のカウンターに腰かけてコーヒーを飲むクロエは、頬杖をついてボヤいた。

 船に乗せて欲しいとコートを引っ張る少年が思いの外しつこく、明らかに鬱陶しそうな表情を浮かべる船長にステューシーは苦言を呈した。

「ルフィ……こないだも言ったろう、一々お前の祖父の相手をするのは面倒なんだと」

「そりゃ……じいちゃん海兵だし……でもおれは海賊になりたいんだ! エマとヤマトは歓迎するっつってたぞ!!」

「あの二人、あとで締めるか……」

 ルフィの発言にカチンときたクロエに、ステューシーは慌てて宥める。

 その時、何かを思いついたのか、覇気を収めてルフィに向き直りながら微笑んだ。

「気が変わった……お前に一つ〝海賊の嗜み〟を教えてやろうじゃないか」

「おっ!! いいの!?」

「ウフフ……やっぱり、何だかんだ律儀ね♡」

 含みのある言い方で切り出したクロエに、ルフィは目を輝かせ、ステューシーは紅茶を飲みながら微笑んだ。

「ステューシー、一旦船に戻る。それまでルフィの相手をしてくれるか?」

「……? 別に構わないわよ」

 首を傾げながらも頷いたステューシーを置いて、クロエは酒場を出た。

「……なァ、クロエの奴このまま逃げたりしないよな?」

「フフ……それはないわ。あの人、スゴい奔放だけど真面目だったりするのよ?」

 心配するルフィをステューシーが窘める。

 それから数分後、「珈琲」という文字が刻まれた木箱を持ってクロエが戻ってきた。

 箱を開けると、そこにはコーヒーセットが一式収納されていた。

「えー……」

「……不服か?」

「だって…おれ、強くなる特訓みてェなの想像してた……」

 期待していたものと違ったのか、ルフィは肩を落とした。

 クロエはクスクスと笑いながら、慣れた手つきでミルを回して豆を挽き、ドリッパーにフィルターをセットし、コーヒーの粉を入れる。

「いいか、ルフィ。海賊たる者、ただ強ければいいというものではない」

「?」

「人間は色々な要素で成り立つ。強いだけでは海賊の頭目は務まらない」

 そう言ってクロエはお湯を注ぐ。

 すると、たちまちコーヒーの芳しい香りが酒場内に立ち込めた。

「長い航海を共にする以上、趣味の一つは覚えておいた方がいい。海賊の世界にも人間関係はあるからな」

 カップに注ぎ、ルフィの前に差し出すクロエ。

 息を吹きかけて冷ましながらコーヒーを口にすると、強い苦みに顔を歪めた。

「うェ~……(にげ)ェ……」

「クク……!! それでは当分はお子様だな」

 クロエは愉快そうに笑い、人差し指でトントンとカウンターを軽く叩くと、ステューシーがさりげなくミルクと砂糖を足した。

 今度はマシになったのか、ルフィは一口、また一口と飲んだ。

「……お前に教えてやろうと思ったのは私のバリスタだ。これを覚えれば()()()()()()()カッコいい男になれるかもしれないが、どうする?」

「――やるっ!! おれに教えてくれよ!!」

 コーヒー片手に尋ねるクロエに、ルフィは即答した。

 クロエは「よく言ったルフィ」と口角を上げながら優しく頭を撫で、一から手順を丁寧に説明していった。

 最初はまともにコーヒーが淹れられずに戸惑うルフィだったが、クロエが根気よく指導したおかげで慣れていき、二時間後にはすっかりコーヒーを淹れられるようになっていった。

 そして、ついにクロエとステューシーがルフィが淹れたコーヒーを飲む事となった。

「「……!」」

「ど、どうだ?」

 ドギマギしながらルフィが感想を待つと、一口飲んだ二人はカップを置き、フッと笑った。

「――随分と私好みじゃないか」

「クロエの淹れたコーヒーとは違った苦みと濃さ……大人の味ね」

 美味しそうに飲む二人の様子に、ルフィは目を輝かせた。

 好意的な感想を述べながら自分の淹れたコーヒーを味わっているのが、とても嬉しいのだ。

「合格だ。よく頑張ったな」

「うんっ!! クロエ、ありがとっ!!」

「これでシャンクス達の度肝を抜いてやれ」

 満面の笑みでお礼を言うルフィに、クロエは口角を上げて彼の頭を撫でた。

 

 後日、シャンクス達にも飲ませたところ、ルフィのコーヒーをひどく気に入り大盛況となったのは言うまでもない。




シャンクスは原作通りの隻腕で行きます。

そろそろエースとかナグリとか火事とか触れていこうと思います。
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