〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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ついに〝鬼の女中〟と〝鬼の子〟、運命の出会い。


第62話〝鬼の子〟

 数日後。

 ついに赤髪海賊団はフーシャ村から出港する事となった。

「この船出でもうこの村には戻ってこないって本当!?」

「ああ。随分長い拠点だった。ついにお別れだ」

 ウタの頭を撫でながら、シャンクスは思い返す。

 フーシャ村での滞在は、色々あった。娘が初めて親友となる少年・ルフィと出会い、実は海軍の英雄の孫だった。しかもエレジアの件では一度絶交しかけたが仲直りした、かと思えば怒り心頭の姉貴分の強襲に遭った。その後は何だかんだ袂を分かってしまった娘と和解したが、政府の船から奪った悪魔の実をうっかりルフィが食べ、紆余曲折を経て利き腕を失ってしまった。

(……おれ、踏んだり蹴ったりだな……)

 自業自得の案件も交じってはいるが、平和の象徴である海で散々な目に遭っている。

 シャンクスは思わず顔を引き攣らせると、クロエが姿を現した。

「どうにか持ち直したか」

「おばさん!」

「……姉さん、今回は世話になった」

 シャンクスはクロエに礼を告げる。

 もし彼女が今回の一件に介入しなかったら、シャンクスとウタは最後まで仲違いしたままだっただろう。

 ロジャーとは別ベクトルで破天荒な姉貴分には、感謝してもしきれない。

「私も縁あって娘を持つ身だ、放っておけなかった」

「まァ、その娘とも随分仲良くなったようだけどね」

 エマはチラリとヤマトに目を向ける。

 ヤマトはアハハ……と頭を掻きながら笑った。

「……とにかくだ、シャンクス」

「?」

「今度ウタをまた傷物にしたら、この程度じゃ済まさんからな……」

「は、はいっ……」

 バリバリと覇王色を迸らせながら、瞳孔を開かせて脅すクロエ。

 その圧迫感に押され、シャンクスは汗だくで了承した。

「……ん? 何だ、悲しくなさげだなルフィ」

「悲しいよ。けどもう連れてけなんて言わねェ。自分でなることにしたんだ、海賊は!」

「べーっ! どうせ連れてってやんねーよ! お前なんかが海賊になれるか!!」

「シャンクスって、こんな大人気なかったっけ?」

 舌を出してまで子供をバカにするシャンクスに、エマはジト目でボヤいた。

 するとルフィは、シャンクスに向かって「なる!!」と即答した。

 

「おれはいつか、シャンクス達にもクロエ達にも負けない仲間を集めて!! 世界一の財宝見つけて!! 〝海賊王〟になってやる!!!」

 

 少年が宣言する、大きな夢。

 それを耳にした者たちは、不敵な笑みを浮かべるが誰も嗤わなかった。

(ロジャー……?)

 クロエはただ一人、目を大きく見開き、その小さな背中にかつて愛した者の影を重ねる。

「へえ~……言うじゃん、ルフィ」

「ほう……おれ達だけじゃなく、クロエ姉さん達も越えるのか?」

 ウタは目を細め、シャンクスは被っていた麦わら帽子に手を伸ばす。

 

「じゃあ、この帽子をお前に預ける。おれの大切な帽子だ。いつかきっと返しに来い。立派な海賊になってな」

「それはシャンクスの宝物なんだから、大事にしてよ? ――それとあたし達と再会する時は、それがもっと似合う男になってから!! 〝新時代〟でまた会いましょ!!」

 

 

 憧れの男と初めての親友の最後の挨拶に、ルフィは静かに涙を零した。

「錨を上げろ!! 帆を張れ!! 出航するぞォ!!!」

『おォーーー!!!』

 赤髪海賊団の船、レッド・フォース号はついに出航。クロエ海賊団とルフィは、水平線の先に消えるまで見届けた。

 後に赤髪海賊団を率いるシャンクスは、クロエと共に海の皇帝たちに数えられることになるのだが、それはもう少し先の話である。

 

 

           *

 

 

 それから数日後。

 クロエはマキノの酒場で一人酒を楽しんでいた。

「クロエさん、皆さんとは飲まないんですか?」

「静かな一人酒の方が性に合うんだ。元々、ロジャーの部下になる前は一人海賊だったしな」

 琥珀の瞳を細めて笑うクロエは、マキノにあることを尋ねた。

「実はもう数日滞在したら、出航しようと思っている」

「あら」

「元々、ウタの件でここまで来たのだからな。もう用は済んだ。そしたらシャンクスは一丁前にロジャーの帽子をルフィに預けた」

「えっ!?」

 マキノは思わず声を上げた。

 何とルフィがシャンクスから預かった麦わら帽子は、元はというと海賊王の私物だったのだ!!

「私も出航前にルフィに餞別をしようかと思ってるのだが、どうも思いつかなくてな……」

「そうなんですか……」

 クロエは酒を呷りながら溜め息をつく。

 餞別なら自分の私物が一番だろうが、シャンクスのように肌身離さず大事にしている物は腰に差した愛刀くらい。ルフィが長髪なら自分の髪留め用の紐をいくつか渡そうと思ったが、生憎彼のヘアスタイルでは不要だ。

 頭を悩ませるクロエに、マキノはアドバイスをした。

「クロエさん、ミルとかどう? 前にルフィにコーヒーの淹れ方を教えてたもの」

「成程……それもいいな」

 クロエはコーヒーが趣味であり、その淹れ方をルフィに伝授した。

 自分が愛用するミルを譲り渡せば、ルフィは喜んでくれるはず。

「……流石にあの子と付き合いが長いだけあるな。助かった」

「フフ……ガープさんには及ばないと思うわ」

 そうと決まれば、自分用の新しいコーヒーミルを買いに行かねばならない。

 代金を払って、店を出ようと思った時だった。

「……!」

 不意に、二つの気配を感じた。

 大きさ的に、どうやら子供だ。二人組の子供が、クロエに忍び寄っている。

 しかもその内の片方は、よく知っている気配とほぼ同じものをしていた。

「……隠れてもわかっているぞ、小僧共」

 クロエがそう告げると、物陰から二人の少年が入店した。

 一人は、短い金髪とゴーグル付のシルクハット、首に巻いたスカーフが目立つ。もう一人は、やや癖のある黒髪とそばかすが特徴的で、その目つきはクロエが愛した海の覇者とそっくりだった。

「あ、その……どうも……」

「何の用だ? 追い剥ぎなら他を当たっておけ。今の私はこれといった金目の物を持ってない」

「い、いやいや! そういうつもりじゃねェんだ……おれはサボ。こっちはエース」

 金髪の少年――サボはクロエに弁明する。

 隣で鉄パイプを携えて仁王立ちするもう一人の黒髪の少年は、エースというらしい。

「……お前が、あいつの部下だったクロエか」

「あいつ……ロジャーの事か?」

 エースは顔をしかめながら頷く。

 見聞色で感情の起伏を読み取ってみると、中々に難儀な案件と察し、ひとまずマキノに二人分のジュースを頼んだ。

「今日は気分がいい。一杯だけだが、私の奢りだ」

「「……いただきます」」

 サボとエースはジュースを一気に飲み干す。

 一息つく二人に対し、クロエは用件を切り出す事にした。

「私に何か言いたそうだったな、エースとやら」

「……一つ、あんたに訊きたい事がある」

「何だ? 言ってみろ」

「お前、何であいつが……ゴール・D・ロジャーが好きなんだ」

 エースが口にした言葉に、クロエは思わず固まった。

 あまりにも想定外な質問に、言葉が一瞬出てこなくなるが、すぐさま頭を切り替えて質問に応じた。

「……言葉では全てを説明できんな……強いて言えば、奴は私の強さも弱さも想いも、全て真っ向から受け止めてくれた。だから亡き今も愛してる」

「嘘つけ!!」

 クロエの言葉に、エースが嚙みついた。

「……嘘だと?」

「あいつを恨んでいる奴はごまんといる!! 笑い者として蔑む奴ら、名前を出せばあんたの名前と共に憎悪を吐き出す奴ら、あいつの血筋を人間とも思ってねェ奴ら!! おれはそんな奴らを散々見てきた!!!」

「――アッハッハッハ!! 私の恨み節もか!!」

 ロジャーと共に恨まれていることを知り、思わず笑ってしまうクロエ。

 サボは思わず「笑うところかよ!?」とツッコミをかました。

「海賊が忌み嫌われるのはごく自然な事だ。正論であれ難癖であれ、何らかの形で恨みつらみをぶつけられる。……それが海賊暮らしだ」

 即答され、エースは言葉を詰まらせた。

 ロジャーも然り、クロエも然り、海賊は世間に恐れられる存在だからだ。

 それでも、エースはクロエに食い下がって質した。

「……なら、もしロジャーに子供がいたとすればどうだ!!」

「ハァ……お前はつまらん事を私に言いに来たのか?」

「は……?」

 溜め息交じりに、クロエはエースの言葉をバッサリと切り捨てた。

「何の縁もゆかりもない他人に一々慮って生きる義理はない。恨みつらみを語っても現状が変わらないのは、根本的にそいつらの生き方の問題だ。いつまでも届かぬ怨毒を吐き散らかす外野に、あれこれ言われる筋合いなどない」

「っ…………」

「自分の人生を世間の物差しで測られるなど不愉快千万。自ずに由って生きるのに赤の他人の目など不要だ。ましてや血筋でその者の存在価値を決めるなど、馬鹿馬鹿しいにも程がある。血筋なんぞ知ったところで、私の生き方は変わらん。私は私の生きたいように生きている。……論ずるまでもない」

 その言葉を聞いたエースは、ただただ愕然とするばかりだった。

 〝鬼の子〟と蔑まれ、自分は生まれて良かったのかと自問する日々を過ごしてきた彼にとって、その言葉はあまりにも衝撃的であった。生まれながらの業など、彼女にとっては取るに足らない事なのだ。

「生まれは天に左右されるが、生き方は自分の意思一つで変える事ができる。もしそいつが「ロジャーの血筋だから」という()()で生き方を縛られているのなら、その時点でロジャーどころかその辺の堅気にすら負けている」

 その言葉を聞いた瞬間、エース激昂し、携えていた鉄パイプを構えて躍り出た。

 しかしクロエは刀を抜かず、カウンター席に座ったまま素手で容易く受け止めた。

「負けているだと……!? おれは負けたわけじゃねェ!!」

「おい、止せってエース!! 相手は本物の大海賊だぞ!!」

「……言ったはずだ。些事で生き方を縛られている時点で負けてると」

「おれは負けねェ!!」

 鉄パイプを押し込みながらエースは叫ぶ。

 振り上げては突き出し、薙ぎ払うように横へ振るうエースに対し、クロエは終始カウンター席に腰かけたまま手で軽く打ち払っていた。

 怒り任せの単調な攻撃を完璧に見切った彼女は、掌に覇気を流していき……。

 

 ドンッ!

 

「がっ!?」

 渾身の振り下ろしに合わせ、クロエは容易く弾き飛ばした。

 鉄パイプは転がり、エースが床に倒れ伏す。

「私の勝ちだな。負ければ命までが海賊の世界……堅気でよかったな」

「――クソッ!! 煮るなり焼くなり好きにしろよ!!」

「……フフ、アッハッハッハ!! 子供を煮るなり焼くなり好きにしたら、それこそロジャーが泣いてしまうじゃないか」

 クロエは愉快そうに笑い、カウンター席から降りてエースの側まで歩み寄る。

「〝鬼の子〟や「鬼の血を引く」など、至極どうだっていい事だ。肝心なのは、自分が自分で在り続けられるかどうかだ」

「自分が自分で在り続ける……」

「そう……私やあいつがそうだったように 誰がどう否定して非難しようが、己を貫いて生きる。――お前が父親の名前の重さに押し潰されるかどうか、見届けさせてもらう」

 クロエは徐にマキノに代金を払うと、新品のコーヒーミルを買いに店を出た。

「……おい、ちょっと待て!!」

 エースはふと気づいた。クロエの今までの言い回しが、まるで自分の素性を知っているかのようであった事に。

 という事は、あの女は……!!

「お前まさか、おれがあいつの……鬼の血筋を引いてるって事を知ってたのか!?」

「フフ……目がロジャーそっくりだったぞ?」

「!?」

 不敵に笑うクロエに、エースは呆然とした。

 素性を察した上で、彼女は自分に接していたのだ。

「また縁があれば会おう。その時は今日の続きでもしようじゃないか」

 そう言うと、クロエは悠然とした足取りで歩いて行った。

「あの女……」

 エースはその背中を目で追い続けたまま立ち尽くしていると、サボが声をかけた。

「ったく……何企んでんのか知らねェけど、勘弁しろよ……」

 普段と変わらない素振りで接してくる弟にサボが小声で言うと、エースは我に返った。

 そして、意を決して彼は誓いを立てた。

「サボ、おれは決めた」

「決めたって、何を?」

「おれは大海賊になって、あの女を倒す!!」

「…………ハアァァァ!?」

 予想だにしなかった発言に、サボは思わず声を荒らげた。

 そんなエースの誓いが届いたのか不明だが、街へ向かうクロエは笑みを浮かべていたのだった。




エースとのやり取りは軽く済ませたクロエ。
彼女の現時点の推しはルフィなので……。(笑)

さて、もうそろそろフーシャ村をお別れしようと思います。
今後の予定はいくつかあります。

・鬼の女中VS.海賊女帝
・白ひげ海賊団と戦争寸前?
・ついに海の皇帝に
・百獣海賊団といつもの抗争
・バスクード兄妹


徐々に原作開始時点に近づいてるのですが、その度に「最悪の世代」の皆様方には非常に申し訳なく思ってます。こんな怪獣みたいな女海賊を解き放ってしまったので。
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