〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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前半はクロエの愛刀の秘密、後半は蛇姫の登場です。


第64話〝圧倒的な自己〟

 名工たちによって打たれ鍛え上げられた槍や薙刀を含む刀剣類は、「業物」と呼ばれている。

 それらは最上大業物・大業物・良業物・業物・普通の刀の5段階に区分され、位列が上であればある程に切れ味・頑強さは凄まじい。

 しかし、中には使い手のほとんどが不幸な死を遂げたという妖刀と呼ばれるものもある。高名なもので言えば「鬼徹一派」があり、優秀な刀であったが名だたる剣豪達が腰にした事で悲運の死を遂げたという恐ろしい逸話が残っている。

 そして、史上最恐の女海賊として悪名を馳せる〝鬼の女中〟クロエ・D・リードもまた、鬼徹に匹敵するかそれ以上の恐ろしい刀を腰に差している。

 

 

 オーロ・ジャクソン号の甲板。

 クロエが日課の水泳を終えてシャワーを浴びている頃、ヤマトがふと呟いた。

「……そういえばさ、母さんの刀って変な感じしない?」

『っ……!!』

 その一言に、空気が一瞬で凍りついた。

 真っ先に古参の船員であるドーマとマクガイが離脱を図ったが、未来視での動きを読んだレッドフィールドが取り押さえて無理矢理に議論を開始した。

「おい、そこ触れるのか?」

「船長の刀の話題はやめないか? あれは危険な感じがする」

「僕も怖いよ正直……でも限界」

「だが「好奇心は猫を殺す」とよく言うぞ……」

 不穏な空気に包まれる甲板。

 どうやら船員達は、厚く信頼する船長が腰に差している愛刀が放つ異様な気配を感じ取っていたらしい。

 クロエ曰く、師匠である〝錐のチンジャオ〟が餞別としてくれたとの事だが、何でも「生き血が化けた刀」と呼ばれているという。やはり妖刀であるのは間違いない。

「……で、その辺どうなんだよ副船長」

「な、何で私!?」

「一番付き合い長いだろうが」

 ラカムに指摘され、エマはゆっくりとその重い口を開いた。

「化血はさ……クロエが腰に差してる時は何ともないんだけど、離れると物凄い妙な空気を醸し出すんだ。禍々しいっていうか、悍ましいっていうか……でも当の本人は何ともないんだよね……」

 曰く、クロエが離れた瞬間にその異様な気配がダダ洩れになるのだという。

 普段は実害がないからこそ、余計に恐ろしく感じてしまうそうだ。

「……そうだ、この船はロジャー船長から貰ったから、当時の書物もそのまんまだ!」

 ふとエマは、船内にある図書を虱潰しに探す事を思いついた。

 オーロ・ジャクソン号の船内には、ロジャーが生きていた頃の書物があり、中には絶版された本も混じっている。もしかすれば、化血のことが載った武器のカタログがあるかもしれない。

 思い立ったが吉日……エマは船長室に駆け込み、数分後に一冊の本を片手に戻ってきた。

「見つけたよ。二十年は前の本だけど」

 エマは本を開く。

 そのページには〝最上大業物 化血〟という文字が大きく載っており、その横には赤黒い血の色の刀身をした一本の刀の絵図が描かれていた。クロエが腰に差している、件の刀だ。

 ページに目を通すと、そこには「主人どころか神の生き血すら欲する、災いの1口」「残酷と災禍の化身」「この刀を従えられた者は、血で血を洗う現世の頂点に立つであろう」という物騒な逸話が書かれていた。

「餞別に送る代物じゃねェな……」

 ラカムの呟きに、一同は無言で頷いた。

 クロエの愛刀は、曰くだけでもとんでもない代物だとわかった。だとすれば、実物は如何程のものなのだろうか。

「……とりあえず、真偽を確かめよう!」

「おい、正気かヤマト!」

「このままじゃあ、気になって仕方ないじゃないか!」

 ラカムの制止も聞かず、ヤマトはクロエの愛刀を持ち出しに行ってしまい、あっという間に一振りの刀を持ってきた。

「……改めて眺めると、異様な気配を感じるな」

「あ、あぁ……何か触りたくねェよ」

 一同はごくりと固唾を飲み、刀を見つめる。

 言い出しっぺであるヤマトが柄を掴み、スラリと鞘から刀を引き抜いた。

 赤黒い刀身は妖し気に光り、途端に周りの空気が重たくなる。

 異様な気配が濃密に渦巻く中、ヤマトは真剣な表情で刀を見つめる。

「……試しに、あそこの岩山でも斬ってみるか?」

 ガスパーデは船から100メートル程離れた場所にある、海面から大きく突き出ている岩山を指差した。確かに、あれならば的としても申し分ない。

 ヤマトは化血を構え、両手持ちで袈裟懸けに振り下ろした、次の瞬間!

 

 ザンッ!

 

『!?』

 何と振るった瞬間、覇気を帯びた斬撃が飛んで岩山を両断した。

 同時に、バリバリと激しく音を立てながら刀身から赤黒い稲妻が迸り、ヤマトの覇王色の覇気が暴発し始めた。

「うわあああああ!?」

「ヤマトちゃん!!」

「早く覇気を抑えるのし!!」

 船員達が慌てて声をかけ、ヤマトも必死に覇気をコントロールしようとするが、上手くいかない。覇気の放出が段々強まっていき、ついには腕がミイラのように痩せ細り始めた。

 このままでは、ヤマトの覇気の暴走が止まらず、彼女自身の命にもかかわる――そう危惧した時だった。

「こら」

 シャワーを終えたクロエが、愛用の提督コートを羽織らずに現れ、化血の柄を掴んだ。

 すると覇気の放出がピタリと止み、ヤマトは解放された。クロエは優しく刀を取り上げると、そのまま鞘に納めた。

「全く、世話の焼ける」

「た、助かった……」

 ヤマトが礼を言うと、クロエはよしよしと彼女の頭を撫でてやった。

「……ところで母さん、この刀ってまさか」

「ああ。持ち主の覇気を過剰に引き出す特性だ。私は化血が求める技量に追いついていたからいいが、並の強者じゃあ血を全部抜かれたように瘦せ細ってしまうだろうな」

 やっぱりそうか、と一同は冷や汗を垂らす。

 とんでもない妖刀だ。持ち主の覇気を際限なく吸い続け、それを放出して万物を斬り裂くというのだ。そんな化け物みたいな刀がクロエの腰に収まるという事は、彼女が心技体を兼ね備えた真の強者だという事である。

「……っていうかヤマト、腕は大丈夫なのか?」

「気合で戻した!!」

「……まあ、あとで診るから医務室に来い」

 胸を張るヤマトにラカムは呆れ返り、クロエは「修行が足りんな」と暢気に呟くのだった。

 

 

           *

 

 

 それから一週間後。

 とある無人島でキャンプをしていたクロエ海賊団の下に、思わぬ勢力が接近していた。

「船長、敵船だ!! こっちに接近している!!」

 見張りをしていたドーマが、慌てて駆け付ける。

 肩に乗っているバンビーノも焦った表情であり、ただ事ではないのが伝わる。

「……どこの船だ? ドーマ」

「九蛇だ!! 王下七武海の九蛇海賊団だ!!!」

 意外な名前に、クロエは目を細めた。

 九蛇海賊団と言えば、何年か前に初頭で8000万ベリーの懸賞金が懸けられ、政府に要請されて王下七武海に加盟したボア・ハンコックが率いる一味だ。アマゾン・リリーの戦士達の中でも優秀な人材で構成されている為、一味の戦闘力は高く、七武海の権限外である商船をも略奪の対象としている事でも有名だ。

 そんな九蛇海賊団が、この無人島に何の用だろうか。

「全く、間がいいのか悪いのか……これから出港準備だというのに」

 切り株に腰を下ろしていたクロエは、ゆっくり立ち上がる。

「このタイミングで九蛇が来るとは……まさか政府の密命か?」

「それかクロエ相手に女海賊頂上決戦だな」

「おいおい、ビッグ・マムも女海賊だろ?」

「ガハハハッ!! (ちげ)ェねェな、ガスパーデ」

 軽口を叩き合うウィリー達を他所に、クロエは海を見つめる。

 視線の先には、二匹の巨大な海蛇――遊蛇(ユダ)が海賊船を引っ張っており、船の帆や旗には9匹の蛇をあしらったドクロが描かれている。

「そう言えば、九蛇は遠征をするって聞いた事があるわよ?」

「そうか……ただの見物ならともかく、私達からも略奪する可能性もあるか。向こうが()る気なら、こっちも受けて立ってやるか」

 クロエの言葉に、一同は好戦的に口角を上げた。

 が、そこへ待ったをかけたのがラカムだった。

「おい、待てよ。相手がボア・ハンコックなのは厄介だぞ」

「どうした? 船医だけに戦意がねェのか?」

「ウィリーのおっさん、あとで覚えてろよ。――そうじゃなくて、九蛇の蛇姫が相手だと能力が面倒臭いってことだ」

 ラカム曰く。

 ハンコックは〝メロメロの実〟の能力者で、魅了した者や無生物を石化させる事ができるという。石化能力そのものは当たりさえしなければ回避できるが、問題なのは一度石化されると「石化させた能力者本人」以外に解除してもらうのは不可能である点。仮にハンコックを討ち取っても彼女が石にした者は石のままであり、次代の能力者でも元に戻す事はできないというのだ。

 もっとも、石化能力も所詮は悪魔の実の能力である為、ハンコックを上回る覇気であれば防御できる可能性はあるし、見聞色による未来視ができれば確実に避けられるだろうが。

「つまり……一度食らったらアウトって事か?」

「そういう事だ」

「確かに厄介な能力だな……」

 クロエは頭の中で思考を巡らせる。

 戦力的に見ればクロエ海賊団が優勢だが、石化能力はその絶対的戦力差をひっくり返すことができる。誰か一人でも石化させられてしまえば、その時点でクロエ海賊団は窮地に追い込まれる。

「やはり一番被害が少ないのは、私と蛇姫との一騎打ちだな」

「そう言うと思った……」

 クロエの発言に、エマは苦笑いした。

 しかし、数々の伝説的な戦いや大事件を起こしてきたクロエなら、石化能力を物ともせず蛇姫に圧勝できるだろう。むしろ敵を心配する必要があるかもしれない。

「よし、私が出る。向こうの出方次第だが、戦闘準備はしておけ。小娘が一騎打ちを望んだら手出し無用で頼む」

 クロエが出迎えるべく動き出した、ちょうどその頃。

 九蛇海賊団の帆船「パフューム遊蛇号」では、船長のボア・ハンコックがオーロ・ジャクソン号を見据えていた。

「へ、蛇姫様! あれはクロエ海賊団です!!」

「フン……見ればわかる」

 部下に返事するハンコックは、髪の毛を耳にかけながらソードクロスの赤い海賊旗を睨む。

 大海賊時代において最も危険な海賊団と称される〝鬼の女中〟の一味に、ハンコックは実は恩義がある。なぜなら、彼女はマリージョアで奴隷として働かされていたところを、亡きフィッシャー・タイガーと手を組んだクロエ海賊団の襲撃で解放されたのだ。お互いに聖地マリージョアで顔を合わせることはなかったが、ハンコックは少なからず恩を感じている。

 しかし、同時にクロエの圧倒的な強さに激しく嫉妬してもいた。強く気高い世界一の美女と称される自分を差し置いて「最強の女海賊」と謳われるクロエを酷く嫉視している。ゆえにハンコックは、彼女との戦いを望んでいるのだ。

「姉様、油断しないで……!!」

「相手は大海賊〝鬼の女中〟……私たちでは手に負えない……!!」

 同じく船首に佇む妹達、ボア・サンダーソニアとボア・マリーゴールドが忠告する。

 ハンコックは彼女達を一瞥したあと、真っ直ぐ正面を見ながら告げた。

「わらわの美しさによる強さか、あやつの圧倒的な自己による強さか……ここで決着をつけねばならんのじゃ!!」

 ハンコックは一切迷う事なく、クロエとの戦いに臨むのだった。




ハンコックは、強さに嫉妬を覚えてもいいキャラだと思うんですっ。

次回はついに〝鬼の女中〟と〝海賊女帝〟が激突!!
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