〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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海賊無双でロジャー達が来るぞォォォォォォ!!!

……すいません、荒ぶってしまいました。


第65話〝鬼の女中VS.海賊女帝〟

 クロエとハンコック。

 二人の邂逅は、戦う前から緊張感に支配されていた。

「噂の七武海の紅一点か。遠路遥々、私に何の用だ?」

 太ももまで伸びて結った黒髪を羽織ったコートと一緒に潮風になびかせ、琥珀の瞳で上陸する女系民族を捉えるクロエ。

 覇王色の覇気を発しないオフの状態でも、顔や胸元、腕に刻まれた傷が目に入り、鋭い眼差しも相まって大海賊の威圧感を醸し出しており、九蛇海賊団の船員達は息を吞んだ。

「何の用かじゃと? 知れた事……貴様を倒しに来たのじゃ!!」

 ハンコックはそう宣言すると、背を反りすぎた事で見下しすぎて逆に見上げてしまう、俗に言う「人を見下しすぎのポーズ」でクロエを見下す。

 だが実際は身長差のせいでハンコックがのけ反って天を見上げているように見えてしまう。

「……何だ、あのポーズ? ストレッチのつもりか?」

「アレだろ、アマゾン・リリーの風習かなんかだろ」

「それかあの嬢ちゃんなりの自己紹介じゃのし」

「全部違うと思うわ……」

 ガスパーデとラカム、ナグリの推測を、ステューシーは紅茶を飲みながら呆れた様子で否定した。

 そんな外野の声を無視して、ハンコックは姿勢を正してクロエに問う。

「〝鬼の女中〟クロエ・D・リード。わらわとの決闘、手下達の前で応じないわけはあるまい」

 ハンコックは傲慢な態度で微笑む。

 するとクロエは、きょとんとした顔を浮かべてから――

「……フフ、ハハッ!! アッハハハハハ!! 嬉しいな、己の立場を顧みずにこの私を倒しに来たのか!! アハハハハハハ!!!」

 腹を抱えて大笑いする女傑に、その場にいた全員が驚愕した。

 クロエは大海賊時代開幕以降も多くの豪傑と死闘を繰り広げてきたが、そのほとんどがルーキー時代からの顔見知り。最近では世界情勢の変化からかロクな挑戦者も訪れず、自由気ままな海賊暮らしに何ら不満はないが、同時に退屈を覚え始めてもいた。

 そんな時に、正面から戦いを挑む者が来た。しかもそれが同性で、自分の立場や世界情勢への影響力を顧みずに現れるときた。彼女の申し出を、クロエは断るつもりなど毛頭なかった。

「祖国からわざわざここまで来てくれたんだ、私も正面から受けて立たねばな。早速始めよう」

 好戦的な表情で、十数メートル先の女帝を見やる。

 伝説の女と絶世の美女の戦いが始まった。

「わらわに見惚れるやましい心が、そなたの体を硬くする……!」

 先手を打ったのは、ハンコックだった。

「〝メロメロ甘風(メロウ)〟!!」

 ハンコックは両手をハートマークのような形に合わせ、ハート形の波動を放出する。彼女に魅了されている者がこの波動を浴びると、一瞬の内に石化してしまう、恐ろしい初見殺しだ。

 不意打ちに近い初手に、何も知らないクロエはその波動を真っ向から受けた。普通なら、これでクロエが石化して勝負は決まるが……。

「……?」

 何と、クロエは石化せずそのまま悠然と立っており、怪訝そうな表情をしていた。

 というのも、勝負が始まった瞬間に見聞色の未来予知を発動させ、ハンコックの能力を把握するためにあえて受けたのである。

 だが、結果は何も起きないときた。これにはクロエも拍子抜けだった。

「……メ、〝メロメロ甘風(メロウ)〟!!」

 再びハート形の波動をクロエに浴びさせるハンコックだが、やはり何も起きない。

「なぜじゃ、なぜ石化せぬ!? わらわの姿を見ても何ら心が動じておらぬのか!?」

「どうして!? あの女、石にならないの!?」

「ありえないわ!! 蛇姫様の魅力にひれ伏さぬ人間なんてこの世にいないはず!!」

 あからさまな動揺に、クロエは不思議そうに見つめていると、ステューシーが声を出した。

「クロエ、もしかして〝メロメロの実〟じゃない? 老若男女を問わず見惚れた相手を石化させる能力だって、図鑑に書いてあったわよ」

「――おい、ステューシー」

「ごめんなさい♡ 手を出すなとは言われたけど()()()()()()()()()()()()から、つい♡」

 ニッコリと笑うステューシーに、クロエは「口八丁め」とボヤいた。

 確かに口を出すなとまでは言ってない。

「……貴様、何も思わんのか……!?」

「?」

「わらわの姿を見ても何ら心が動じぬと訊いておるのじゃっ!!!」

 ハンコックは感情を剥き出しにする。

 自身の美貌に絶対の自信を持っている彼女にとって、クロエは理解しがたい存在だった。老若男女問わず見惚れる美しさだというのに、彼女にはそれが一切通用しないのだ。

 するとクロエは、ハンコックの疑問に目を細めて笑いながら答えた。 

 

「私が惚れたのはゴール・D・ロジャーただ一人……!!! 貴様のような()()()()()()()()が、この〝鬼の女中〟を惑わそうなど百年早い!!!」

 

 揺るぎないその答えに、ハンコックは思わずたじろいだ。

 ロジャーは、クロエが唯一心から好意を寄せた人間である。彼への想いは非常に強く、かつての部下としてではなく一人の女として、亡き今も敬愛し続けている。ゆえにクロエがロジャー以外の人間に見惚れる事は無いし、魅了される事も無いのだ。

 ハンコックは驚愕の表情から一変、憤怒の表情でクロエを睨みつける。

(おのれ……! 死んだ男への想いに、わらわの美しさが劣るか!)

 ハンコックは憤慨しながら、一気に距離を詰めて覇気を纏った飛び蹴りを仕掛けた。それに対し、クロエは愛刀を抜かず、見聞色の覇気を駆使して的確に避けていく。

「あの女、蛇姫様の攻撃を全部躱してる!!」

「あいつも覇気使いなの!?」

 ハンコックの攻撃を躱すクロエに、九蛇海賊団は驚愕する。

(攻撃が当たらぬ……もしやと思ったが、わらわ以上の覇気使いか!!)

 ハンコックは戦闘の最中に、クロエの覇気が自身と同等かそれ以上だと見抜いていた。伊達に七武海をやっていない。

 一方のクロエも、ハンコックの戦闘力を推し量っていた。

(九蛇は覇気に精通した民族と聞いてるが、確かに鍛えてはいるな。武装色も纏えてるが……覇王色は纏えないようだな)

 海賊女帝の実力をある程度把握したところで、クロエは攻勢に出た。

 ハンコックの回し蹴りを紙一重で躱し、間合いを詰めて覇気を纏った掌底打ちを鳩尾に叩き込んだ。

「ぐふっ……!」

 モロに直撃を食らったハンコックは、膝を突いた。

 ただの覇気を纏った掌底打ちなら、同等かそれ以上の覇気を全身に纏えば防御できるが、クロエは違う。師範であり育て親でもある〝錐のチンジャオ〟の指南により、防御不能の衝撃波を操る八衝拳を体得している。先程の一撃は、自らの覇気で相手の覇気の鎧を相殺し、八衝拳の衝撃波を体に伝播させる二段構えだったのだ。

「き、さま……!!」

 どうにか立ち上がり、武装色を強く込めた蹴りを見舞う。

 クロエは武装硬化させた左腕で、容易く受け止めた。

「もっと覇気を込めろ、ハンコック。その程度では私に勝てんぞ」

 余裕綽々に言い放つクロエを見て、ハンコックは唇を嚙みしめた。

 クロエは強大すぎる覇気に練度の高い剣術と八衝拳を組み合わせた、一種の総合格闘技が基本的な戦闘スタイル。その上、彼女自身も臨機応変なオールラウンダーであり、相性は最悪と言えた。

 だが、腐っても王下七武海の一角。ここで折れては九蛇の名に傷がつく。

(格闘でダメなら、メロメロの能力で勝負じゃ!)

 ハンコックは投げキッスをする要領で、巨大なハート型の塊を目の前に作り出した。

「――っ!!」

 瞬間、クロエは冷や汗を流し、すぐさま抜刀して覇気を纏った。

 彼女の見聞色が、次の一手がもたらす()()()()()を予告したのだ。

「〝虜の矢(スレイブアロー)〟!!」

 ハンコックはハートを手で掴み、弓矢のように引き絞ってから離し、広範囲にハートの矢を拡散させる。

 この技は矢の一つ一つに石化効果があり、突き刺さったものは人間はもちろん、砲弾や剣などの無機物さえも石と化すという恐ろしい技だった。

 クロエはそれを避ける事をせず、化血に覇気を流し込んで構えた。なぜなら、彼女が視た未来は「あまりにも広範囲に拡散した為、仲間が避けきれず石化してしまう」というものだったからだ。

「〝劈風〟!!」

 化血を振るって覇気を纏った斬撃の嵐を放ち、ハートの矢を悉く薙ぎ払っていく。

 しかし、これこそ海賊女帝が仕掛けた罠だった。

「〝(ピストル)キス〟!!」

「!」

 ハンコックは投げキッスでハートマークを作り出すと、それを指で構えて銃弾のように発射。

 ハートの弾丸はクロエの手に直撃し、化血を正確に弾いた。愛刀を手放したクロエに隙が生じると、ハンコックは一気に距離を詰めてメロメロの石化効果を付随させた蹴りを仕掛けた。

 〝芳香脚(パフューム・フェムル)〟――相手に当たると同時にその箇所を石化し、そのまま蹴りの衝撃で破砕する強力な技だ。

「はああああっ!!」

「狙いはいいが、甘いっ!!」

 クロエはハンコックの蹴りを紙一重で躱すと、彼女の胸倉を掴んで一本背負いを決め、容赦なく地面に叩きつけた。

 衝撃が背中から胸に貫通し、ハンコックの口から空気が漏れる。その間に跳び上がって弾かれて宙を舞う化血を回収し、覇王色を纏う。クロエが本気を出したのだ。

「っ!!」

 痛む体に鞭を打って起き上がり、体勢を立て直す。

 が、月歩を使って急接近したクロエに怯み、今度はハンコックが防戦一方となった。見聞色の覇気を全開にして躱すが、覇気の強弱と経験値の差が浮き彫りとなり、一気に追い込まれていく。

 そして――

「〝神避〟!!」

 化血を横薙ぎに一閃し、覇王色の覇気を纏った衝撃波を放つ。

 咄嗟に全身に覇気を纏うハンコックだが、クロエの覇王色はその防御を容易く打ち破り、彼女の体を大きく吹き飛ばした。

 大岩に叩きつけられたハンコックは、そのまま崩れるように地面に倒れた。

『蛇姫様!!!』

「「姉様っ!!!」」

 妹たちと九蛇海賊団の悲鳴が木霊する。

「ハァ……ハァ……」

「よく頑張ったが、とうとう終わりの時が来たようだな」

 ハンコックの眼前に立ち、見下ろすクロエ。

 手加減したとはいえ、覇王色の覇気を纏った一撃を受けた彼女は、気力も体力が既に底を尽きかけているのは誰の目にも明らかだ。

「まだ()るなら付き合うぞ?」

 ハンコックにそう声をかけると、彼女は悔しさを滲ませながら口を開いた。

「……………わらわの、負けじゃ……」

 項垂れながら、か細く告げる。

 〝海賊女帝〟は、自らの敗北を認めたのだ。

「殺すなら殺せばよい……わらわは誰の支配も受けん……!! じゃが、そうするならわらわの首に免じて、アマゾン・リリーに手を出すな……!!」

『蛇姫様……!!!』

 九蛇海賊団の面々は、蛇姫の言葉に涙ぐんだ。

 ハンコックの懇願に、勝負を見届けたクロエ海賊団は考える。

「流石の七武海の紅一点も、〝鬼の女中〟には歯が立たなかったか」

「情けかけられるくらいなら死んだ方がマシってか」

「どうする母さん? お望み通り、首だけで勘弁する?」

 一同はクロエの判断を仰ぐ。

 彼女が下した決断は――

「いいや、この小娘の首は取らない。後ろの連中も積み荷もな」

 その言葉に、誰もが目を見張った。

 クロエは誰も討ち取らず、何も奪わずに生きて返すというのだ。

「クロエ……こいつら全員この場から生かして返すつもりか?」

「そもそもこれは一騎打ちだ。勝負が決まった以上、追撃は野暮というもの。それにこの場にいない九蛇の者達の為にも、私はこいつらを必ず生きて帰らせなければならないしな」

「っ!! お主……」

 クロエの諭すような言葉に、ハンコックは胸が熱くなった。

 海賊同士の決闘は常に生き残りを賭けた戦いなので、〝卑怯〟と言う言葉は存在しない。勝つ為ならば人質を取ったり、不意討ちや騙し討ちを仕掛けたりなど、どの様な手段も平気で使う。ゆえに「負ければ命まで」という考えが海賊の世界を支配している。

 だが海賊としてのプライドは人それぞれだ。味方であろうと自分の戦いに横槍を入れられる事を嫌う者もいるし、誰であろうと正々堂々と戦う事を好む者もいる。クロエも例外ではなく、彼女はロジャーの影響を受けている為に、真っ正面からのドツキ合いを好む武人肌だ。だからこそ、クロエは一端の海賊として最後は加減こそしたが本気の一撃を繰り出し、ハンコックの覚悟を享受しても命を取らなかった。

 海賊としての強さと一人の人間としての度量に、ハンコックは悔しさを滲ませながらも口角を上げた。

「……次はこうはいかぬぞ」

「ああ、いつでも来い」

 いつかの再戦を誓うハンコックに、クロエは笑顔で答えたのだった。

 その後、一応は手当ては必要だとラカムが申し出たのだが……。

「早く手を離せ男!! 汚らわしい!!」

「何言ってんだ!! おれは医者だ、清潔第一だからこの場で一番キレイなんだよ!! ちゃんと消毒もしてる!! 文句垂れてないで大人しくしろ!!」

 男嫌いゆえに治療を早く終わらせろと覇王色を放つハンコックに、ラカムは青筋を浮かべながらも慎重に処置をする。

 ここまで性格が酷いとは思わなかったのか、一連のやり取りを見たクロエは呆れるように溜め息をついた。

「おのれ、石にされたいのか貴様!!」

「おう、やってみろ!! 医者舐めんじゃねェぞ!!」

 売り言葉に買い言葉。

 ハンコックは手を振りほどくと、ラカム目がけて〝メロメロ甘風(メロウ)〟を仕掛けた。

 ……が、彼もクロエと同様、全く石化しておらずピンピンしていた。

「なっ!? バカな!! クロエならいざ知らず、男である貴様もだと!? それもこの至近距離じゃぞ!?」

「医者が患者の身体に邪心を抱くのは色々とアウトだろ!!!」

 ラカムのごもっともな反論に、その場にいた全員が頷いたのだった。




というわけで、結果はクロエの圧勝でした。
クロエは剣士でありますが、素手も滅茶苦茶強いです。剛の剣術と柔の体術と言ったところでしょうか。
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