〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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ようやくハチノスへ。
早く王直出てくれないかな……。



第69話〝エマの里帰り〟

 「海賊島」ハチノス。

 ドクロの形をした巨大な要塞が特徴の、海賊達の楽園。

 島の住民は全員が犯罪者で、軽くつついただけで殺気立った海賊達が蜂のように湧き出てくる無法地帯であり、デービーバックファイト発祥の地として知られていると同時に、かつて世界最強と謳われた伝説の「ロックス海賊団」が結成された地でもある。

 この危険地帯をナワバリとして元締めの座についているのは、かつてロックス海賊団に在籍していた大物海賊〝王直〟――クロエ海賊団副船長である〝魔弾のエマ〟ことエマ・グラニュエールの師であり義父である。

 

 

「見えてきたぞォ!!」

 オーロ・ジャクソン号のマストにある見張台にいるエルドラゴは、前方に見える山のようなドクロ岩を指差して言った。

 その光景を目の当たりにし、エマは懐かしそうにつぶやく。

「お師匠、元気かなァ……」

「随分と嬉しそうだな」

 クロエの言葉に、エマは微笑む。

 親友を探しに出奔するまでは、彼女はハチノスで幼少期を過ごしてきた、言わば実家のような場所。だからこそ、エマは心の底から嬉しいと感じているのだろう。

「お師匠に久しぶりに会えるんだよ! ずっとクロエの事を紹介したかったし、きっと喜んでくれると思う!」

「……そうか」

 ニカッと笑うエマに、クロエもまた柔和な表情を浮かべる。

 かねてより帰郷を望んでいたエマにとって、この航海はまさに夢が叶った瞬間。だからこそ、彼女は心から再会を喜ぶのだ。

「よし、接舷準備!! 帆を畳んで速度を落とせ!!」

 クロエは愛刀を腰に差しながら、仲間達に指示を飛ばす。

 オーロ・ジャクソン号は速度を緩めながらハチノスの港へ入港し、錨を下ろして停泊。舷梯を降ろし、次々と下船していく。

「ここが海賊島……」

「スゴい血の気が多いど……!」

「ああ、用心しといた方がよさそうだ」

 ドーマ、デラクアヒ、マクガイがそれぞれ感想をこぼしながら下船すると、そのタイミングを見計らっていたかのように海賊達が群がってきた。

「これが海賊島の歓迎の仕方のようじゃのし」

「随分と野性的なのね♡」

「フン…大した歓迎ではないか」

 人生経験豊富なナグリ・ステューシー・レッドフィールドの三人は不敵な表情を崩すことなく、押し寄せてくる海賊達を見据える。

 戦闘の予感にクロエは愛刀の鯉口を切り、覇王色の覇気を纏い始めた時だった。

「はい、ストーップ!!!」

 エマが一喝した途端、覇王色の覇気が放出。

 島を震わす程の威圧にハチノスの海賊達はピタリと動きを止め、気の弱い者は軒並み失神。あれ程殺気立っていたというのに、その強烈な覇気に気圧されてたじろいでいる。

「もう、せっかくの帰郷なのに……相変わらず無法地帯なんだから!!」

 やれやれと言った様子でエマが呟き、覇王色の覇気を収める。

 すると、海賊の一人が目を見張ったまま、震える手でエマを指差した。

「も、もしかして、〝お嬢〟ですか……!?」

「ん? あ、そうか! 私はここではそう呼ばれてるんだった」

『うォおおおおおおおおおおお!!! お嬢が帰ってきたァ~~~~~っ!!!』

 直後、ハチノス中に響き渡る大歓声。

 先程の殺伐さはどこへやら、海賊達は涙を流して大号泣し、歓喜の声を上げてエマを出迎える。

 まさかの展開にクロエ達がポカンとする中、エマは照れくさそうに笑う。ハチノスにおいて、エマはどうやらお姫様のような存在のようだ。

「お前のようなのが、一国の姫みたいに扱われるとは……世の中はわかったものではないな……」

「アハハハ……」

 クロエに皮肉混じりの言葉を投げかけられ、エマは引きつった笑みを浮かべるのだった。

 

 

           *

 

 

 エマの帰郷により、祝賀ムードになったハチノス。

 あんなにも血の気が多かったというのに、エマ一人によって島全体の空気が一変した。それ程までに、幼少期のエマはハチノスの海賊達から可愛がられてきた証拠だ。

 ちなみにエマ自身は島の要塞に棲む王直と会食中で、クロエ海賊団はハチノスの街の酒場を貸し切っている。

「あの能天気な副船長が、この島じゃあVIP待遇か!! こいつァ傑作だな、ガスパーデ!!」

「ガハハハ、(ちげ)ェねェ」

 貸切りの酒場のテーブルで、ウィリーとガスパーデは酒盛りをしながら大笑いする。

 クロエもヤマトの酒癖に注意しながら、瓶に口をつけながら中身のラム酒を楽しむ。

 そこへ、樽のジョッキのビールを飲みながらラカムが一同に話しかけた。

「さっきここの古参海賊達に聞いたんだが、興味深い話が出てきたぞ」

「興味深い話?」

「どうやら副船長は、ハチノスの次期ボスに推されているらしい」

『ブーッ!!!』

 ラカムの報告に、クロエ達は一斉に酒を噴き出した。

 エマがハチノスのボスの座に就くという、斜め上の話に一同が驚愕する。

 ハチノスの海賊達は、エマのことを姫のように慕っているとばかり思っていた。しかし、その実、彼らの心ではエマを次のボスにするという願望があったというのである。

「まあ、30億越えの懸賞金を懸けられてる上、あの人はガチの人誑しだ。本来なら一大勢力のトップに君臨してもおかしくない」

「……あいつはこの船を降りる気はないはずだ」

「同感だ。――だが見方を変えれば、案外捨てた話じゃないと思うぞ? 船長」

「……どういう事だ」

 ラカムの言葉に、一同の視線が集中する。

「五皇の一角に数えられたおれ達は、海の覇権争いから距離を置いてるが、他の連中からしたら目障り極まりない。利害の一致で五皇同士が手を組まれたら、勝算はゼロに近い」

『……』

「だが副船長が王直の後継となれば、話が変わってくる。伝説と呼ばれる海賊達だけじゃなく、海軍の豪傑共すらハチノスをつつくのは避けてきた。元締めの不在時も含めてな。……そんな危険地帯を拠点とすれば、あらゆる勢力が手を出しづらくなる」

 ラカムの説明に、クロエ達は唸る。

 エマが次のハチノスのボスの座に就くことで得られる恩恵は、確かに大きなものがある。島の支配権を掌握すればクロエ海賊団はより強大になり、あらゆる勢力を寄せ付けなくなるだろう。

 しかし、クロエは露骨に難色を示した。彼女は人の上に立つ素質に恵まれてるが、覇を競うことには関心がない。ゆえにハチノスを支配することは、あまり快く思ってなかった。

「――私は「支配」に興味はない。それに人を大勢従えるのは嫌いだ」

「だろうな。あんたは「覇者の才覚」は他の覇王と一線を画すが、性分があまりにも奔放だから支配者としてはポンコツすぎる」

 ラカムの歯に衣着せぬ物言いに、クロエは頬をヒクつかせた。

「……小僧が言うじゃないか」

「事実を言ってるだけだ」

 こめかみに青筋を浮かべる船長に、臆さず煙草で一服するラカム。

 三十路手前だが一味屈指の古参である彼だからこそ、〝鬼の女中〟相手にも臆することなくズバズバと物申せるのだろう。

「話を戻すぞ…おれ個人としては、ナワバリがないのはいざって時に困ると思う。補給地の確保は生存率の高さに直結するからな」

「うっ……」

「そういう意味では、ここを掌握するのにデメリットはないと思うぞ。放置してもこんなヤバい島、率先して()りにいく奴もないだろ」

 クロエはこめかみを揉みながら、ラカムの指摘に唸る。

 確かにハチノスの実権を掌握すれば、世界一過酷な新世界の海でも安定した補給が行えるようになる。航海において物資補給は重要項目であり、補給地の確保は航海の成否にも直結するからだ。

 それにここは元締めが不在でも侵攻を受けないほどの無法地帯である為、ほったらかしても特に問題は起きない。島を所有してあとは丸投げしても、何となくうまく行きそうな気配すらある。

 しばらく考え込むクロエであったが、そこへ王直との会食を終えたエマが戻ってきた。

「みんな、お待たせ! ……ってどうしたの?」

「ああ、副船長。実はあんたがハチノスの次期ボスに推されてるって話があってな……」

「あー、それね! お師匠には前向きに検討するって伝えといた! 私の独断じゃあ決められないからね」

 あっけらかんと言い放つエマに、クロエ達は啞然とする。

 まさか既にそこまで話が進んでいるとは思わなかったのだろう。唖然としたまま硬直しているクロエ達に、エマは話を続ける。

「別にすぐなるって訳じゃないし、お師匠も稼業引退しないし。だったら話自体は受けても問題ないんじゃないって、私は思うんだけど」

「いや、でもな……」

「ん? もしかしてみんなは反対なの?」

「正確に言えばお頭がな」

 エマの問いに、スレイマンが返答する。

 自由で在り続けたい親友の心中を酌んだのか、エマはニコリとクロエに笑いかけた。

「まあ、すぐに決めろって話じゃないし、ゆっくり考えよ! それにお師匠もクロエを相手にした上で持ち掛けてると思うし」

「!」

 エマ曰く。

 会食の最中、王直はクロエとの戦争は望んでないと告げ、なるべく穏便にエマを次期ボスの座に据えたいと話したらしい。海賊らしく力づくかと思っていたが、義娘(エマ)を大事に想っている為か、王直は穏便に事を進めたいようだ。

 彼女がハチノスのボスの座に就けば、ハチノスの海賊達がクロエ海賊団を無下に扱うことはまずないだろう。それはきっと、この先の海において重要な意味を持つだろう。

「……お前は、どうなんだ」

「……クロエと私は家庭事情が似て非なるからアレだけど、お師匠への恩返しはいつかしたいとは思ってるよ」

 エマは静かな声で言う。

 かつては海賊王の前の時代に覇を握った伝説の一味に属したが、それも今から30年以上昔の話――王直も老いには勝てないのか、全盛期より衰えてきている。伝説の海賊としての威厳は健在だが、本人が「今の自分では娘に勝てない」と自嘲気味に笑ってたくらいである。

 それを悟ったからこそ、エマは王直の誘いには前向きだった。

 勿論、彼女は大好きなクロエ海賊団とのイザコザを望んでいないし、大切な義父との対立も望んでない。ハチノスのボスの座に就くことになっても、今まで通り親友とその仲間達と航海に繰り出したいのが本音だ。

「……お前達は今まで、私の我が儘に付き合ってくれたからな」

「それってつまり…」

「私が折れよう。ラカムの言い分も正しい」

 ハチノスの実権を握ることに難色を示していたクロエだが、最終的にラカムの主張やエマの想いを酌み、補給地の確保として海賊島をナワバリとする事を決めた。




本作のオリキャラの設定については、今年の夏には投稿します。
物語を進めると、設定のところにどうしても追記してしまうので……。
ホント、申し訳ありません!
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