〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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ついに70話目に突入。
引っ越しのゴタゴタで遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

時系列では、新世界編より10年前。
当時28歳のフォクシーが海賊団を旗揚げし、デービーバックファイトを開始するようになった時期です。


第70話〝伝説は動く〟

 ――「五皇」の一角、クロエ・D・リードがハチノスに拠点を構えた。

 かつて時代を我が物とした〝ロックス〟と〝ロジャー〟の系譜を継ぐクロエ海賊団が、海賊の楽園を根城としたというニュースは瞬く間に世界中を駆け巡った。

 ただでさえ神出鬼没の一味が、敵対する海軍・海賊双方にとって一番嫌な形で強化された。その一報は、5人の老爺達をも悩ませた。

「クロエめ…相変わらず、我々の手の内を読むような真似をしおって」

 聖地マリージョアの「権力の間」にて、五老星のサターン聖は苦い顔で言った。

 あのガープでさえ「ハチノスをつつくな」という程に、大昔から海賊島は危険である。そこをクロエ海賊団は補給地とし、活動拠点とした。それはクロエの支配を嫌い自由を謳歌する気質から考えれば、せいぜい「補給地の確保」くらいの感覚だろう。

 しかし政府側としては、クロエ海賊団の壊滅をより困難にさせる事になってしまっていて、それが実に厄介だ。

「しかし、ハチノスは()が支配する島だ。制圧するにも、大規模な艦隊と海軍大将を派遣せねばならん」

「クロエ達と王直を同時に相手取るとなれば、甚大な被害が出るのは間違いあるまい……その後にあの女の弟分が()()()()()()援軍に駆けつけたら、艦隊の全滅は免れん」

 ウォーキュリー聖とマーズ聖は、「ハチノスを制圧するのは現実的ではない」という旨の意見を述べる。

 もしクロエ海賊団を本気で殲滅するとなれば、彼女の弟分が黙ってはおらず、相当数の犠牲が予想される。最悪、海軍大将を一人失うかもしれない。かつて〝神殺し〟と恐れられた女は、冗談抜きで世界情勢を滅茶苦茶にしかねないのだ。

「……仕方ないが、今は静観する他あるまい。クロエが何を企んでいるかは知らんが、少なくとも我々と戦争をする気ではないはずだ」

「うむ、それは確かにな……。クロエは意思を持つ災いのような女ではあるが、自分から世界を滅ぼす事はせんだろう」

 刀の手入れをするナス寿郎聖の一言に、サターン聖は肯定しながら口を開く。

 何かと世界規模の胃痛案件を起こすクロエだが、彼女は何も世界政府を憎んでいるのではない。ただ単に、自分の自由を侵害する相手がたとえ世界政府であっても容赦しないと言うだけだ。

 それでも、〝神殺し〟と呼ばれたルーキー時代から変わらない奔放さに、半ば呆れ果てたのだった。

 

 

           *

 

 

 新世界を逆走するオーロ・ジャクソン号。

 その船長室で、クロエは柔和な表情で電伝虫で通話を楽しんでいた。

「何だ、お前ら結婚してデキてもいたのか? 呼べば祝いの品ぐらい用意できたぞ」

《いや、お互い都合があるんじゃないかって……》

「都合も何も、私は海賊だ。お前達が遠慮することはないぞ、くま」

 クロエは受話器越しにそう言葉を投げかける。

 電話相手の名は、バーソロミュー・くま――革命軍の創立メンバーである男だ。

 実を言うと、くまはクロエが過去に救った革命軍東軍軍隊長・ジニーとは友達以上恋人未満の関係であった。それがクロエ海賊団による救出劇を経て、断り続けてきた結婚をくまが承諾。晴れて夫婦となり、娘も産まれたとのことだ。

《……あの時は…本当にありがとう、クロエ》

「あれはただの巡り合わせに過ぎん。ジニーは運が良かった……ただそれだけだぞ?」

《それでも……本当に感謝してるよ》

「そうか」

 くまの礼の言葉にも、クロエは淡々とした口調で返す。

 ビックリするくらい愛想が無い態度だが、その裏に確かな情が籠っている事を電々虫越しに感じ取ったのか、くまは穏やかな声で続ける。

《……もし、また会えるなら……娘を紹介してもいいかな?》

「フフ、構わないさ。だが……わざわざ身の上話をしに連絡寄越したわけじゃないだろう?」

《……やはり、あなたにはお見通しか》

 電伝虫の受話器越しに、くまは神妙に言う。

《実は……オハラの学者達の件なんだ》

「!」

 クロエの表情が微かに強張る。

 オハラはかつて、クロエが里帰りの際に偶然立ち寄った「考古学の聖地」。島の考古学者達はこの世界の禁忌とされている〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟の探索と「空白の100年」の研究に心血を注いでいたが、政府にバレたことでバスターコールを発動された。幸い住民と学者達はクロエ海賊団の介入により全員無事だったが、島は焦土と化した為にオハラは事実上滅亡したのである。

 その後、生き残った者達がどうなったかまではクロエは把握してないが……。

「……まさか、狩られたか?」

《そのまさかだよ…オハラの学者達は、研究の進展などお構いなしにCP9によって殺された。当時の住民は、革命軍で匿っている者を除けば全員死亡だ》

 くまの返答に、クロエは目を細める。

 世界政府から非協力的な市民の「殺し」を許可されている暗躍機関を動かし、オハラの人間を次々と葬った。それもくまの言い回しだと元住民も殺され、標的の学者に至っては研究をやめた者すらも手にかけたらしい。

 余程「空白の100年」に触れられたくないようだ。

《エルバフにいたクローバー博士は先日老衰で亡くなり、オルビアとロビンは消息不明だ。あの二人は手配書が解除されてないから、死亡は確認されていないけど……》

「そうか……」

 くまの報告に、クロエは腕を組む。

 この海では、暴力を高めなければ自己主張もロクに貫けない。

 どんなに思想が正しくても、それを唱える者が非力であれば、悉く殺される。殺された者は、託すべき想いも繋ぐべき未来も、叶えたい夢も叩き潰される。いかに強い意志や信念でも、それに見合った武力を持たねば意味がないのだ。

 ロジャーの死によって始まった大海賊時代以前よりもずっと昔から、この世界はそういう歴史を繰り返しているのだ。

《……おれ達は〝革命の灯〟である二人をどうにか見つけたい。君も探してくれるとありがたいんだが…》

「あの二人の人生を立てるのが筋だろう? それに世界を相手に戦う構えだったんだ、この海での生き残り方も知ってるはずだ。……過ぎた肩入れはボロを出すぞ、くま」

《……》

 クロエの言葉に、くまは沈黙した。

 気持ちはわかるが、世界政府を倒したい革命軍と歴史の真実を解き明かしたい学者とでは、事情が並び立たない。オハラの件はドラゴンの決起のきっかけとなったが、目的から逸れたことに集中するのは本末転倒というものだ。

「……二人の行方は、こちらでも気にかけておく。あの二人の身柄がシキやリンリンに渡ると面倒だしな」

《すまない……よろしく頼む》

 くまはそう告げ、通話は終了する。

 クロエは大きく溜息をつくと、自室の戸棚に仕舞った〝ロード歴史の本文(ポーネグリフ)〟の写しの内の一枚を取り出し、琥珀の瞳でそれを見つめる。

 大昔…「空白の100年」に何が起こったのか。その全てをロジャーは最後の航海で知ったので、真相はラフテルに行けばわかると考えるのが自然だろう。自身としては闇に葬られた歴史に関心はなく、最後の島も暇を持て余したら行ってみようという程度の認識でしかない。だが、もし語られぬ歴史を知ることで、この世界の運命を大きく変えられるとすれば……。

「……世界の真実、か…」

 ――いつか自分も、その渦中に飛び込むのだろうか。

 クロエはそんなことを思いながら、古代文字の拓本を戸棚に戻したのだった。

 

 

           *

 

 

 夜のデルタ島。

 ごく一部の人間達のみが知る、海賊王ロジャーの墓がある孤島にアジトを置くバレットは、救助した隠遁生活中の男に話を持ち掛けていた。

「……どうだ、〝祭り屋〟」

「乗るぜ、あんたの話…!!」

 もじゃもじゃの髪と無精髭を生やした男は、葉巻の火をロジャーの処刑を描いた絵に押しつけ燃やす。

 ブエナ・フェスタ――ロジャーと同じ時代を生きた大物海賊で、人を熱狂させる事に人生を捧げる筋金入りの興行師だ。彼は数日前に海王類に呑み込まれるという海難事故に遭ったが、たまたま武者修行で通りかかったバレットが海王類を殴り倒したことで吐き出されたのである。

 そんな隠居した興行師が、孤高主義のバレットとなぜ一緒にいるのか。

「あんたが海底から分捕ってきたその〝赤い石〟は、確かに熱狂の火種になれる!!! そいつの価値を公にすれば、あらゆる勢力が無視できないだろう!!! それがあれば、あんたが望むものは手に入るだろうよ!!!」

 燃え上がった炎に薄暗い部屋の様子が浮かび上がる。

 バレットの前に置かれたテーブルの上には、二枚の紙にナイフが突き立てられていた。ロジャーとクロエの手配書だ。

 それが〝鬼の跡目〟の意図であり、〝祭り屋〟を救助した理由だった。

「今はあんた一人の野望だが、ブチ上げるのはおれの仕事だ!! おれ達が手を組めば、まどろっこしい大海賊時代を超えられる!!!」

 心を燃やし、人生を懸ける。

 ゴール・D・ロジャーとクロエ・D・リード。

 頂上の景色を知るあの二人を超えてこそ、世界最強になれる。時代を変えられる。

「やってやろうぜ!!! おれ達が世界に仕掛ける最強の〝熱狂〟!!!」

 

 ――見せてやろうぜ、スタンピードを……!!!

 

 最強の為、野望の為、二人の男は世界中に喧嘩を売るべく準備を始めた。

 

 

 時同じくして、〝偉大なる航路(グランドライン)〟の秘境「メルヴィユ」。

 インペルダウンの脱獄を経て潜伏先と選んだシキは、島の固有の生物を凶暴化させ戦力を増強しつつ、自らのアジトで無線傍受をしていた。

「どうだ? 盗聴は」

 シキの側近であるDr.インディゴの問いに、通信担当の男は申し訳なさそうに口を開いた。

「申し訳ありません、全部は無理でした……我々が聞き取れたのは「CP」と「全員死亡」、「クローバー」と「二人」の四つの単語だけで、他はノイズが酷く……」

「そうか……」

「ちっ…政府の連中め、余計なマネしやがって。革命軍ってのも使えねェな」

 部下からの返答に、インディゴは腕を組み、シキは葉巻を燻らせつつ舌打ちする。

 世界征服の野望を抱くシキは、古代兵器の入手には〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟の解読が必要不可欠であると判断し、優秀な気象予報士や航海士だけでなく考古学者のスカウトに力を入れてきた。しかし世界政府の方が早く手を打っており、ほとんどが人知れず抹殺されてしまった。僅かに聞き取れた単語から推察すると、最後の生き残りである二人の考古学者の捜索は急務だろう。

 古代兵器を欲するのはシキだけではない。海賊だけでなく政府内部にも欲する者がいるので、争奪戦は熾烈なものとなるのは明白だ。所在をすぐにでも把握し、誰よりも早く密かに入手しなければならない。

「全く、こんなんならクロエに酒の席でも持ちかけて訊きゃよかったぜ」

「あの女がそう簡単に首を縦に振ってくれるとは思えませんがね」

「何を戯けた事言ってやがる、Dr.インディゴ。おれはロジャーの野郎とタメ張った男だぜ? 気の(つえ)ェベイビーちゃんを落とすのはチョチョイのチョイだ。この〝獅子〟に例えられる伝説の男を舐めんじゃねェぞ」

 シキは長年の相棒と言える科学者を睨みつけ、背を向けた。

 その時、ちょうど部屋の洗面所の鏡に自らの姿が映り……。

「アレ? あそこにニワトリが」

「おめェだよ!!!」

「「ハイッ!!!」」

「い、いや……」

 即興のミニコントを披露する二人に、部下の男はどんなリアクションをすべきか戸惑うのだった……。




本作において、バレットは魚人島に置かれた「赤い石」をアジトに持ち運んでます。その理由はご想像にお任せします。
ある意味、バレットは火の傷の男です。バスターコールの火傷の痕が残ってるので。

修正力が働いたのか、オハラの生き残りは現時点ではロビンとオルビアだけです。クローバー博士が老衰で死去したのは運が良かったとしか……。

そしてちゃっかり出てきた金獅子。
ロジャーがクロエによって新世界で埋葬されたため、原作よりちょっぴり丸くなってる部分があります。

次回はそろそろバスクード兄妹に触れようかと。
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