〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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本来ならもう少し早く投稿するつもりでしたが、シャンクスの神避を気にして少しズラしました。


第72話〝クロエの失態、ヤマトの成長〟

 ウォーターセブンを出航し、大海原を駆けるクロエ海賊団。

 無双集団を率いるクロエは、クマを目元に拵えて眉間にしわを寄せていた。

「ねェ、クロエ…何かスゴい顔してるよ?」

「母さん、その…大丈夫? 具合悪いの?」

「まさか、何か罹患したのか?」

 最強無敵の〝鬼の女中〟の身に、何か異変が起きたとでも思ったのか、仲間達は心配そうに声をかけた。

 彼ら彼女らに対し、クロエは気まずそうに答えた。

「……実はコーヒーを飲み過ぎて、寝られないんだ…」

『――は?』

 クロエの告白に、全員の目が点になった。

「新作コーヒーの試飲をしていた結果、寝るに寝られなくなってな……」

 バツの悪そうな顔を浮かべるクロエに、一同は青筋を浮かべた。

「バカじゃねェの!?」

「心配して損したじゃねェか!!」

「自重しろよ、それぐらい!!」

「わ、悪かったさ……」

 クロエは頭を掻き、仲間達に謝罪した。

 だが、そんな彼女に一番腹を立てたのは船医のラカムだった。

「あんた、いい加減にしろよマジで!! 就寝前にコーヒー飲みまくると睡眠の質が落ちて、睡眠不足になるって言ったろうが!!」

「うっ……」

「ったく、ホントとんでもねェ船長だよ……不眠症でぶっ倒れたとか洒落になんねェぞ。肩書きを無視すんなよな、暇を持て余したあのアホウドリにスッパ抜かれるぞ」

「す、すまん……」

 ごもっともな言い分と怒涛の愚痴に、クロエはしょんぼりした。

 船医として船長の健康を心から案じているからこそ、ラカムの叱責は耳に痛い。

「ったく……今処方するから待ってろ。天下の〝鬼の女中〟が聞いて呆れるぜ、全く」

「その必要はないわよ、ラカム」

「?」

 医務室へ向かうラカムを、ステューシーが呼び止めた。

 どういうことだと振り返ると、視線の先には尖った牙を見せてコウモリのような翼を生やした彼女が。

 ステューシーは悪魔の実の能力者だったのだ!

「えっ!? ちょ、ええっ!?」

「おい、聞いてねェぞ!!?」

「誰も訊かなかったじゃない」

 今まで隠していた能力に、一同は唖然とした。

 そんな仲間達の視線も気にせず、ステューシーはクロエを見据えた。

「ねェ、クロエ。ちょっと首筋を出してくれないかしら?」

「――っ! おい、それは本当に大丈夫なんだろうな?」

 首筋を撫でながら怪訝な表情を浮かべるクロエに、ステューシーは妖艶な笑みを浮かべながら「不眠気味でも未来を視れるのね」と感心していた。

 上目遣いの元諜報員としかめっ面で渋る海の皇帝に、エマは気になって声をかけた。

「えっと…スーちゃん、何をする気?」

「ふふ…♡ それはね…」

 ステューシーはエマの耳元で、それはそれは楽しそうに囁く。

 するとエマは目を見開き、顔を真っ赤にした。

「本当にそれ以外の選択肢ないの!?」

「仕方ないじゃない。そうじゃないと効果がない能力だもの」

 クスクスと笑うステューシーに、エマは引き攣った笑みを浮かべながらクロエを見やった。

 まるで「腹を括れ」と言わんばかりの眼差しに、クロエは頭を押さえながら羽織ったコートを肩から下ろし、無地の紺色のシャツの襟を引っ張って首筋を晒した。

「ハァ……これでいいのか?」

「ええ、バッチリよ♡」

 観念したクロエに、ステューシーは微笑みを浮かべる。

 すると彼女は背後に回り、たわわな胸を押し当てながら抱き着くと、舌なめずりしながら「ハァ…」と吐息を漏らし、その首筋にガプッと牙を突き立てた。

 まさかの行動に一同がギョッとする中、クロエは強い眠気を覚えた。

「っ……!!」

「んふ……♡」

 不眠気味ゆえに睡魔は想像以上に強く、クロエはぐらりとよろめいて、その場で片膝を突いた。

 ステューシーのひと噛みは、本来ならば噛みついたら一瞬で相手を無力化してしまう程に強力なもの。だが、やはりクロエのような心技体を極めた「真の覇者」を堕とすのは少し時間がかかるようだ。

 ……いや、それ以前にこの美魔女、噛んでる時間が長い気がする。

「ステューシー…貴様、楽しんでるな…!?」

「当たり前じゃない…♡ あの海賊王ロジャーの伝説を継ぐ〝世界最強の女海賊〟を手玉に取れるなんて、滅多にない機会だもの」

 首筋から牙を離し、口端から滴る赤いそれを舌で舐め取りながら、ステューシーは妖艶な笑みを浮かべて離れる。

 クロエの首筋には、彼女の歯型がはっきりと付いており、そこからは血が滲んでいた。

「母さん、大丈夫?」

「……ああ、少し横になる…エマ、任せるぞ……」

 クロエはゆっくりと立ち上がり、よろよろと自室へと歩いて行った。

 するとステューシーは不機嫌そうな表情を浮かべ、クロエに再び背後から抱き着きガプッと反対側の首筋に噛みついた。

 まさかの二度目にクロエの強烈な眠気は一気に臨界点に達し、「はうっ…」と情けない声を漏らしながらその場に崩れ落ちた。

「何で!!? 何で二度も噛んだの!!? 滅茶苦茶効いてたじゃん!!!」

「私のプライドが傷ついたのよ」

 エマのツッコミに、ステューシーは腕を組み、ふんぞり返って応える。

 今までひと噛みで仕留めてきたからこそ、一発で倒れてくれなかったのが余程気に食わなかったらしい。

「妙なところで意地っ張りだな、バッキンガム……」

「仕方ねェ、船長運ぶぞ」

「今度からステューシーに睡眠薬の代わりやってもらうか……」

「ちょっと、お医者さんが手を抜いちゃダメよ」

 そんなこんなでドタバタしながらも、クロエの不眠症問題はひとまず収束したのであった。

 

 

           *

 

 

 数日後。

 目の下のクマがとれ、すっかり元気になったクロエは、ある無人島でヤマトと対峙していた。

 久しぶりの義理の母娘による手合わせだ。

「行くぞ、ヤマト」

「うん!! いつでもいいよ、母さん!!」

「いい面構えになってきたな」

 娘の成長を喜ぶような言葉を投げかけた後、クロエは琥珀の瞳を鋭くした。

 

 ゴゥッ!!

 

 刹那、凄まじい〝圧〟が放たれ、ヤマトを威圧してきた。クロエの覇王色だ。

 しかし負けじと、ヤマトも覇王色で応じる。

 二人の睨み合いによる覇王色の衝突は、強い衝撃を伴って周囲の木々を揺らし、暴風が巻き起こった。

「睨み合っただけで、この覇気か…!?」

「まさに修羅ね……」

「近づくだけで殺されそうだ……」

 二人の手合わせを観戦する仲間達は、二人の覇王色のぶつかり合いに圧倒される。

 睨み合いの均衡が崩れ、空気を震わせて覇気が拡散すると、二人は同時に動いた。

 

 ドン!!

 

 激しく火花と覇気を散らしながら、凄まじい打ち合いを繰り広げる。

 クロエが()()()()()()()()とはいえ、その勝負は新世界の海賊達から見ても異次元の領域と言えるだろう。

「想像以上だ。前よりも覇気が上がってる」

 その言葉に、ヤマトは破顔する。義理の母親に褒められ嬉しくてたまらないのだ。

 そんな表情を微笑ましく思いつつ、クロエは剣術だけでなく八衝拳の拳法も加えて更に打ち合いを加速させる。ある種の総合格闘技と言える、数多の強豪猛者を翻弄してきた戦闘スタイルは、まさに〝戦闘の達人〟だ。

 そんな彼女の猛攻を、ヤマトは金棒「(タケル)」を巧みに操って必死に食らいつく。

「まだまだっ!! 〝馬幻刃(まほろば)〟!!」

「! 冷気か?」

 ヤマトが冷気を纏った建を振るって殴りかかる。

 クロエは左腕に覇気を流してそれを弾くと、化血を逆手に持ち替え柄頭で顎を打ち、右足で蹴り飛ばした。

 八衝拳の衝撃を同時に叩き込まれ、ヤマトは地面に仰向けで倒れ込むも、すかさず立ち上がる。体の頑丈さは実父(カイドウ)譲りなのだろうか。

「食らえ!!」

 ヤマトは前方に冷気を放って氷の壁を作り出すと、それを建で叩き割った。氷は破片となって無数の鋭利な刃となりクロエを襲うが、彼女は化血の鞘も抜いて応戦。刀とそれを納める刀室であっという間に全てを打ち砕く。

 覇気だけでなく、希少な動物(ゾオン)系幻獣種の能力も精度が高くなってることに気づいたクロエは、ヤマトの成長を実感して笑みを漏らした。

 だが、彼女の真の成長ぶりはここからだった。

「はあああああああ…!!」

 建に覇王色の覇気を纏わせ、バリバリと赤黒い稲妻を迸らせる。

 何を仕掛けるか気になったクロエは、見聞色の未来視を発動させると、目を瞠ってから口角を上げた。

 あの技を、ついにヤマトが――!!

「〝神避〟っ!!!」

 

 ドンッ!!

 

『!!?』

 ヤマトは建を横薙ぎに振り抜き、覇王色の衝撃波を打ち出した。

 覇気の極意とも言える海賊王の御業を、ついにヤマトも会得したのだ。

 覇王色の練度はロジャーやクロエ達には及ばないが、その威力と精度は並大抵の覇気使いを遥かに凌駕していた。

「本当に強くなったな、ヤマト…!!」

 クロエは笑いながら、化血とその鞘を交差させて覇王色を纏い、真っ向から受け止めた。

 さすがに覇王色を纏った渾身の一撃なだけあり、受け止めた瞬間に衝撃が体に走る。しかし、耐えられない威力ではない。

「それでこそ、私の娘だっ!!!」

 クロエは化血と鞘を強引に振るい、衝撃波を打ち消す。

 その余波が周囲を襲い、観戦していた仲間達は伏せてどうにかやり過ごした。

「えーーーっ!?」

 渾身の一撃を普通に打ち消され、ヤマトは驚愕する。

「次は私の番だ…!!」

 クロエは笑みを浮かべながら、覇王色を纏った化血を構える。

 猛烈に悪い予感を覚えたヤマトは、咄嗟に人獣型に変身。天の羽衣のように纏っている姿を見せると、薄い氷を全身に張り武装色の覇気で覆う。

 〝鏡山(かがみやま)〟という氷の鎧を被る防御技だ。並の海賊なら傷一つ付けることができない破格の強度を持ち、覇気を併用すれば相当な強者でなければダメージすら与えられないのだが……。

(絶対防ぎきれない…!!)

 何度熟慮しても、一時しのぎにもならない気がしてならないのだ。

 そして、その不安は見事に的中することになる。

「〝神避〟!!!」

 

 ドォン!!!

 

 クロエの桁外れの一撃が放たれる。

 その衝撃波は、武装色と氷を合わせた鎧を粉々に砕き、ヤマトの体を大きく吹っ飛ばした。

「うわああああああああああ!!?」

 断末魔のような悲鳴と共に、ヤマトは木々を大きく削り倒しながら崖に激突。

 腰から上が岩肌に減り込むという、ギャグマンガのような状態になってしまった。

「あっ……」

『ヤ、ヤマトォォォォォォ!!』

 仲間達はその光景に悲鳴を上げ、慌てて駆けつけた。

 岩肌に埋まったヤマトをどうにか抜くと、彼女はスゴく大きなタンコブをこさえてぐったりとしていた。

「か…かあひゃん、いひゃい……」

「すまん、少し熱くなりすぎた……」

 グルグルと目を回すヤマトに、クロエは申し訳なさそうに謝るのだった……。




アニメのシャンクスの神避、スゴかったです……。

そして本作ではついにヤマトもクロエの愛ある扱きの末に〝神避〟を習得!
まだまだ粗削りですが、威力は相当なもの。ドレスローザ編のルフィなら一撃でノックダウンできます。
ちなみにクロエの神避はカイドウを吹っ飛ばす程の威力なので、ニカ状態のルフィもワンパンかもしれませんね。さすが〝神殺し〟と呼ばれた女。
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