〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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原作キャラ死亡の描写があります。
まぁ、消えてもあまり困んないんですけどね。(笑)


第73話〝怨念〟

 魚人島。世界政府の中枢・聖地マリージョアの真下、海底1万メートルの世界で唯一海底に陽光が指す〝海底の楽園〟。

 新世界の中継地と言えるこの島は、基本的にはクロエはスルーするが、今回はある理由で上陸していた。

「海のように気まぐれで荒いお主が、まさかわしの娘を拝みに来たとはビックリじゃもん……」

「フフッ…貴様の娘がモジャモジャしているかを確かめたくてな」

「モジャモジャしとらんわ!!! 我が妻のようにツヤツヤじゃもん!!!」

 クロエは島を治めるリュウグウ王国国王・ネプチューンと対面していた。

 二人はロジャーが〝ロード歴史の本文(ポーネグリフ)〟を求める航海の際に出会って以来、十数年ぶりの再会だ。他者に対しては傲慢かつ残酷な一面が強いクロエだが、在りし日のロジャーと接した者達に関しては基本的に寛容であり、ネプチューンも例外ではない。

「そう言えば、この島はニューゲートのナワバリらしいな? あいつは結構ケチなんだが、上手く行ってるのか?」

「〝白ひげ〟は仁義の男。お主のようなじゃじゃ馬とは違うのじゃもん!」

「言ってくれるじゃないか」

 互いに軽口を叩き合いながら、和やかに会話は続く。

 するとそこへ、一人の和装のような衣服を身に着けた金髪の人魚が現れた。ネプチューンの正妻・オトヒメ王妃だ。

「あなた、そこにいるのはクロエさんね!?」

「お、おいオトヒメ!!」

 夫の制止を払いのけ、オトヒメ王妃は興奮気味に詰め寄るが、石に躓いて転びそうになる。

 彼女は全力で平手打ちをしただけで手を複雑骨折する程に非常に脆弱な肉体であり、勢い余った転倒も大事故に繋がりかねない。

 あわや大惨事となるところだったが、クロエが瞬時に動いてその体を支えた。

「転倒してからの頭部出血で重体は勘弁願おうか」

「――はっ!! ご、ごめんなさい!! とんだ御迷惑を……」

「己の身を大事にすることを勧める。立場が立場だ、貴様一人の身ではないだろう」

 クロエはオトヒメを立たせると、自分に詰め寄った理由を質した。

「この私に何の用だ、護衛もロクにつけず」

「世界中を見て回ったあなたと話したかったの……私の信念に間違いがないかを」

 その言葉に、クロエは目を細めた。

 するとオトヒメは、一枚の書状を見せつけた。

「先日、世界貴族の方がこの島に流れ着き…紆余曲折を経て私は地上へ行き、この書状を受け取りました」

「……「魚人族と人間との交友の為、提出された署名の意見に私も賛同する」だと?」

 クロエが散々忌み嫌い屠ってきた天竜人が、魚人族及び人魚族との共存を望むという俄かに信じ難い内容だった。

 外道な行為は腐る程やってきたし、それを正そうとする者を葬り去る暴挙も辞さない連中と政治で渡り合うとは。彼女は王妃であるが、もし女王であったならば歴史に刻まれる程の名君として名を残したであろう。

「……私達は極少数の人間しか知らない。だからこそ、多くの人間達と出会ってきたあなたの意見を聞きたい!! 人間達と私達の交流は、決して不可能じゃない!!!」

 オトヒメの熱い情熱に、クロエ海賊団の面々は思わず気圧される。

 そして一味の首領は、「海賊の意見だからあまり耳を傾けるな」と前置きしつつ言葉を紡いだ。

「一問一答で世の中は動いてはいないが、博愛精神でどうにかなるものでもない。考え方の違いや利権絡みで人間は世界規模で殺し合う。それは歴史が証明している」

 クロエの現実を突きつける言葉に、オトヒメは言葉を失う。

 前世の世界も、宗教の解釈や領土の主張、利益になる資源の独占などの理由により、世界のどこかで戦争や紛争が起こっていた。彼女自身は立場上縁もゆかりもなかったが、それによる物価高の影響で生活苦に陥ることはあった。

 戦争はヒトが起こし、ヒトの犠牲を重ねて終わらせるものだ。その連鎖を断ち切るのは、命懸けの努力をもってしても難しいのだ。

(種族間の戦争勃発の危険性すらも承知の上で、この紙を手に丸腰で地上へ出たのか)

 クロエは天竜人の書状を返すと、柔和な笑みを浮かべた。

「オトヒメ王妃、貴様は自らが望んだ未来を掴めた。信念が生み出した結果をその手から放すな。その未来を他者に踏み躙られ、汚されない為にもな」

「……うえ~~~~ん!!」

「おい、抱き着くな…!」

 オトヒメは感極まって嬉し泣きしながら、クロエに抱き着いた。

 普段のクロエなら強引に振り解いているが、彼女にしては珍しく困惑の表情を浮かべてオロオロしていた。

「お主も随分丸くなったようじゃもん」

「何を言ってんだ、ネプチューン王。今も昔も人斬りナイフみてェな女だぞこの人は」

「ラカム、お前あとで覚えてろよ」

 年々忌憚なさが加速するラカムに、クロエの額に青筋が立つ。

 するとネプチューンが、思い出したかのように彼女に話しかけた。

「そう言えばクロエ……この国に来たのじゃから、お主に話して聞かせたい事があるのじゃもん」

「この場でいいだろう」

「そうはいかんのじゃもん。身の上話のレベルを超えてる案件ゆえ、我がリュウグウ王国でも国民には伏せている話……ロジャーと航海を共にしたお主だからこそ、聞いて欲しいのじゃもん」

 ネプチューンの真剣な眼差しに、クロエは神妙な顔つきで向き直った。

 

 

 ギョンコルド広場。7年に渡るオトヒメ王妃の苦労の結晶である、地上移住の要望の署名を集める署名箱が置かれる特別な場所。

 その広場に、ラカム達は待機していた。

「……で? これもボランティアか?」

「船長命令だ、グチグチ言ってんじゃねェよ」

 眉間に皺を寄せるスレイマンに、ラカムは煙草で一服しながらそう返す。

 魚人島の記録(ログ)がたまる期間は半日であるが、クロエは最大3日間と宣言した。観光国の一面もある魚人島での長めの滞在に自由行動ができると思ったが、「オトヒメの政治活動の護衛をしろ」というまさかの船長命令が下された。

 肝心のクロエはネプチューンとの一対一の対談の為にリュウグウ王国の王宮「竜宮城」へ向かったので、一味の指揮権は副船長のエマにうつっているが、何と彼女も「用がある」と一言告げて行方をくらませた。よって自動的に古株の一人にして参謀的立ち位置のラカムが指揮する事となったのだ。

「ふむ……何の考えもなしに行動するタイプではないと思ったがのう」

「まあ、立地も立地。無理もないわ」

 ステューシーの言葉に、ナグリはパイプを咥えながら「じゃのし」と呟く。

 この広場に護衛として陣取っているのは、ラカムとナグリ、スレイマン、ヤマト、ステューシーの五人。それ以外は広場の郊外をうろついたり船番をしている。護衛としては過剰戦力ではないかと思われるが、如何せん()()()()()()()()()()()()のが不安材料だった。

 広場の中は遮るものがないため、()()()()()()()()()()だからだ。

「……まァ、余程のクレイジー野郎じゃなきゃ仕掛けちゃこないさ。七武海もいるんだしな」

「……わしも予想外じゃがのう」

 ラカムは自身に近寄る魚人に目を向ける。

 唐獅子や鬼瓦のような顔立ち、和服姿に水色の肌、胸の中央にある太陽の刻印――元2億5000万ベリーの賞金首である大物海賊〝海侠(かいきょう)のジンベエ〟である。

 直接的な接点はないが、彼が兄貴と慕うフィッシャー・タイガーは聖地マリージョア襲撃事件においてクロエ海賊団とは〝共犯関係〟であり、その縁でジンベエは接触してきたのだ。

「それで? お前さんらがいても、不穏な出来事が起こるというのか?」

「……〝洗脳〟を舐めちゃダメだぜ、ジンベエ」

 そう言ってラカムは煙草の灰を落とす。

 意味深な言葉を継げる彼に、ジンベエは目を細めた、その時だった。

 

 ゴォッ!!!

 

『!?』

 突如として署名を入れる箱が燃え出した。

 このままではせっかくの署名が燃やされてしまう。警備兵が急いで署名を持って燃えないように移動させようとしたが、待ったをかけるようにラカムの声が響いた。

「ヤマト!!」

「うん!!」

 ヤマトは能力を発動し、人獣型になる。

 煙のようなものを天の羽衣のように纏う、白く美しい人狼。その姿に多くの魚人・人魚族が釘付けとなる。

「〝無侍氷牙(ナムジヒョウガ)〟!!!」

 ヤマトは口から強烈な冷気を帯びたブレスを放つ。

 冷気は炎に包まれる署名箱に一直線へ伸び、炎を飲み込んで署名箱ごと凍結・鎮火に至った。

 まさに電光石火と言わんばかりの、迅速な対応。最小限の被害で済んだ事に一同はホッと安堵すると、喧騒に紛れてパァン! という乾いた音が響いた。

 オトヒメは振り返ると、視線の先ではラカムが腕を武装硬化させて何かを握っていた。

「そんな事だろうと思ったぜ……」

 彼は握り拳を解き、オトヒメに掌に収まった潰れた鉛の塊を見せた。

 先程の発砲音の正体は、銃撃だ。オトヒメを射殺すべく放たれた凶弾を、ラカムが防いだのだ。

 思わず声を上げそうになる彼女に、ラカムは人差し指を口に当てて静かにさせる。

「騒ぐなよ王妃様。これ以上はパニックになる。それに……」

 ――もう、全て終わるさ。

 ラカムは不敵かつ冷笑的な微笑を浮かべていた。

 

 

 同時刻、ギョンコルド広場郊外にて。

「き、貴様ァ…!!」

 リュウグウ王国の軍に属する若き兵士――ホーディ・ジョーンズは、胸から血を流して倒れていた。その視線の先には、氷の方がまだ温かみがあると思えるくらいに冷酷な眼差しをしたエマが立っていた。

 実は彼は、オトヒメの暗殺を企てた張本人なのだ。「人間への復讐は聖戦」として過激な排他主義を掲げる彼にとって、種族間の和解を進める彼女は邪魔でしかなかった。そこで人間の海賊を雇って署名箱に火をつけさせて騒ぎを起こし、その隙にオトヒメを撃ち、雇った人間を殺して犯人に仕立て上げるという計画を練り、実行に移した。

 火を点けて騒ぎを起こすまではよかった。ただ、自分が放った銃弾はオトヒメに当たる前に握り潰され、暗殺は失敗に終わった。それならばと咄嗟に人間を殺して「人間がオトヒメ王妃を殺そうとした」と国民達に見せつけようとしたが、エマに見つかってしまい、奮闘むなしく瀕死の重傷を負ったのである。

「銃口向けたんだ、向けられる覚悟をしてよ」

「ぐ、ガ……ッ!!」

 ホーディは氷点下の眼差しで見下す無傷のエマに、恐怖と怒りが湧き上がる。

 たとえ命を削ってもどれ程の犠牲を払っても、人間への復讐を果たす――その為に人間との融和を掲げていたオトヒメの夢を打ち砕き、人間という種族を倒そうと躍起になってきた。

 だが、それも泡沫の夢と消えた。他ならぬ人間の手、それも人間の中でも怪物級の強さを誇る女海賊によって。

「ゲホ、ゴホ……!! 人間めェ…怨念は消えねェぞ…復讐の時は来る……!!!」

「今際の際の言葉にしては、随分と陳腐な言葉だね。一切の迫害を受けてないクセにペラペラと」

 血を吐きながら呪詛を紡ぐホーディを、エマは冷笑する。

 誰の恨みも買わない復讐というのは、意外に難しい事だ。そして被害者がもし復讐で許されるとすれば、実害を与えた加害者本人のみ。無関係な人間を一人でも巻き込めば、その時点で復讐としての正当性は失われる。

 そもそも何の害も受けてない者に復讐を行う権利はなく、復讐者を名乗る資格すらない。ホーディ・ジョーンズという魚人は、虚像を妄信して憎悪に心身を支配された「魚人島の怨念の化身」と化し、復讐が何たるかすらも理解していない化け物だ。

 ゆえに、エマは憐れみも情もない言葉を銃口と共に突きつけ、撃鉄を起こした。

「来世は真面目に生きる事だね。……私やクロエ、ラカム君のように輪廻転生できればの話だけどね」

 

 バァン!!

 

 エマは淡々とした口調でそう言うと、銃の引き金に指を乗せ、躊躇なく引いてホーディの眉間に風穴を空けた。

 魚人族の恨みと怒りだけを食って育った男は、人知れず〝魔弾〟によってその惨めな生涯に幕を下ろしたのである。




というわけで、ホーディは退場しました。
まぁ、新魚人海賊団なんて、クロエだったら一話で壊滅できちゃう程度の連中なんで……。

そう言えば、原作最新話は争奪戦がヒートアップしてますね。
クロエ海賊団だと……あれですかね。クロエが「人生の完成」の一環で「ラフテルのエターナルポースの所持の暴露」とかやらかすかもしれません。
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