ちなみに皆さんも薄々察してるでしょうが、クロエの前世を一番知ってるのはロジャーだけです。
オトヒメ暗殺未遂が、エマの手で実行犯射殺の形で終わっていた頃。
竜宮城に招かれたクロエは、ネプチューンと会談していた。
「話とは何だ?」
「実を言うと……いや、お主なら薄々勘づいているだろう。我が娘、しらほしの事じゃもん」
「――目覚めたのか?」
その言葉に、ネプチューンは目を伏せて頷き、クロエはロジャーの部下だった頃のやり取りを思い出した。
――この国には数百年に一度、
「……やはり貴様の娘が、ポセイドンとなったか」
〝神〟の名を冠する古代兵器の一つである「ポセイドン」。
数百メートル級の海王類を無数に従える、文字通り海を支配する能力に、愛娘が目覚めてしまったのだ。
世界を海に沈める事も可能な存在となった以上、露見すればあらゆる勢力がしらほしを狙ってくるだろう。
「今は白ひげのおかげで我が魚人島は守られてるが、いずれは……」
「リンリンやシキとかは喉から手が出る程に欲しいだろうな。……それで、私にどうしろと?」
「これはわしの推測じゃが……しらほしが幼い内は、感情の起伏によって周囲の海王類を無差別に呼び寄せてしまうかもしれんのじゃもん。覇王色の覇気と同じように、制御できるように訓練する必要性もいつか問われるやもしれん」
ネプチューンの推測に、クロエは考え込んだ。
その気になれば世界を滅ぼせる能力を、無意識かつ無差別に発動させるのは確かによろしくない。現に初めて発現した際は、しらほしは泣いただけで大型の海王類を数体一気に呼び寄せているので、それが数百体単位にまで増えたら堪ったものではない。
もっとも、事実を知った人間の大半は「しらほしが制御できるようになっても同じことだ」と口を揃えて言うだろうが。
「……会話できる程度の能力なら、そのまま宝の持ち腐れで終わらせるのも選択肢だと思うぞ?」
「無論じゃもん。地上の者が言う〝ポセイドン〟の能力を使わざるを得ないような情勢でない事が一番…!! じゃがしらほしを狙うのが海賊とも限らん……」
「最悪なのはマリージョアの豚共だろうな」
クロエはそう吐き捨てる。
シキのように世界征服を目論む強豪よりも質が悪いのが天竜人だ。加盟国すら飢餓や財政破綻で滅ぼすような外道集団が古代兵器を持てば、それこそ天変地異でも引き起こす程の世界規模の大混乱になる。
(……いや、それ以前の話だな。そもそも古代兵器が封印されてるのは、何も強大さだけではなく、
クロエはふと、ロジャー海賊団時代を思い返した。
*
今から16年前、新世界。
ロジャー海賊団がついに四つの〝ロード
「わざわざ
「フフ……別に構わんさ。弟達はエマに任せてる」
クロエはそう答え、グラスに酒を注ぐ。
ロジャーの冒険も
「……それで、例の古文書は解読できてるのか」
「おっ? おめェも何が書いてあるか知りてェのか?」
「別に……知ったところで私は何もする気はない。古代兵器なんて錆び付いた過去の遺物だ、そんなものに頼るような人間に成り下がるつもりもない」
クロエはそう言ってグラスに入った酒を一口含むと、ロジャーは大笑いした。
世界を滅ぼす力を秘める兵器をガラクタ扱いするのが、実に彼女らしいとロジャーは感じたのだ。
「古代兵器すら、お前には何の脅しにもならねェか!! シキの野郎に聞かせてやりてェもんだ!!」
「あいつは確かに古代兵器を欲してるだろうが、使い方もわからずに所有するなど愚の骨頂だぞ」
クロエはそう言い、空のグラスに酒瓶の酒を注ぐ。
するとロジャーは、彼女に一つ尋ねてきた。
「クロエ…おめェが前にいた世界も、似たようなのはあったのか?」
「ある。核兵器と呼ばれる、一発で国を滅ぼすレベルの爆弾だ。……流石に古代兵器には劣るだろうが、私が生きてた当時の世界には1万発くらいあった」
「1万発ゥ!? そんなにいらねェだろ」
衝撃的な内容に、流石のロジャーも度肝を抜かれた。
一発で国を滅ぼす爆弾を世界中で1万発も製造して何の為に使うのか。ロジャーには想像することすらできなかったが、彼女の元いた世界の為政者達の考えは何となく察した。
「……お前の元いた世界の権力者も、つまんねェ連中ばっかだな」
「否定はしない」
呆れ口調のロジャーに、クロエは即答する。
為政者達は抑止力だと宣ってるが、所詮は国家同士の覇権争いの道具に過ぎず、廃絶・不拡散の訴えはあまり効果的とは言えなかった。平和の為だの未来の為だのと口では何度も放棄すべきと言ってるが、結局は全て捨てることができない。
自分が死んだ後も、おそらく核兵器廃絶はできてないだろう――クロエはそんな事を思いながら、酒を飲み干す。
「……ロジャーは、この先の世界をどうするつもりだ?」
「?」
「ジョイボーイとやらが遺した莫大な宝を、貴様はどうする気だ?」
クロエの疑問に、ロジャーは少し考え込み、やがてニィッ……と極悪人のように笑って告げた。
「少なくとも〝支配〟に使う気はねェな」
「……流石だな、私の王は」
*
(……使用時に何のリスクも伴わないとは到底思えんな)
竜宮城でネプチューンと会談を終えたクロエは、ネプチューン軍の兵士達の案内で巨大なシャボンで包まれた本島へと戻った。
(三つある古代兵器の内、一つは政府が持ってるだろうが……それで
クロエはそんな事を考えながら、港の方へ向かう。
すると、ギョンコルド広場で何やら騒ぎが起きていた。
白い布で覆われた二台の担架が、何人もの兵士によって運ばれている。
「……〝声〟が聞こえないな。まさか誰かがバカやらかしたんじゃないだろうな」
「おお、王との謁見が終わったか!!」
そこへ現れたのは、タツノオトシゴの人魚である右大臣。
切羽詰まった表情から察するに、かなり急を要する事態のようだ。
「クロエ・D・リード、場所を変えるぞ。話しておきたいことがある」
「?」
右大臣が連れて行ったのは、オーロ・ジャクソン号が停泊する港。
そこではクロエ海賊団の面々が全員揃っており、ジンベエやオトヒメ王妃達もいた。
「……成程、そういう事か」
「!! 知ってたのか…!?」
「見聞色の覇気で未来を視なくても、状況は察するさ」
その言葉に、右大臣は目を伏せながら告げた。
「実は……我がネプチューン軍のホーディが、オトヒメ王妃を暗殺しようと試みたのだ……!!」
「……で、エマが
「ああ。人間の海賊の協力者が一命を取り留めてな……その人間が言うには、ホーディからオトヒメを撃つ隙を作る為に署名箱に放火するよう頼んだとの事だ」
右大臣から告げられた内容に、クロエは「身の程知らずが…」と吐き捨てる。
署名箱への放火にオトヒメ暗殺未遂という反逆罪に加え、探っていたエマを始末しようと目論んだホーディ。その末路は〝魔弾〟によって返り討ち・息の根を止められるという、何とも呆気ない最期だった。
なお、ホーディの死に関しては魚人街の情勢を鑑みて「銃の暴発による事故死」とするらしい。
「……そうなれば、奴の育ったスラム街は潰すべきだ」
「そ、それは……!!」
「やるなら今しかない。下手な情を挟めば、それが禍根となるぞ」
クロエの忠告に、王国の中枢を担う者達は息を呑む。
今回の件で、長きに渡る差別の歴史が〝呪い〟となって一人の魚人が破滅した。暴発したのはホーディ一人だったようだが、魚人街には他にも暴発しそうな者達が多くいるだろう。このまま放置すれば魚人街にとどまらず、やがて国全体へ波及し、魚人達は〝呪い〟に蝕まれて破滅する未来しかない。
蓄積された負の感情はそう簡単に拭い去れるものではないが、決断を下さねばならない。
「……
「もう貯まったが…」
「出航だ。これ以上この国に用は無い」
ラカムの言葉に被せるように、クロエは言い放つ。もはやこれ以上の滞在にメリットは無いと踏んだのだ。
すると、そこへネプチューンが軍を率いて慌てて駆けつけてきた。先のテロ行為を耳にしたのだろう。
「オトヒメ、無事か!?」
「あなた、大丈夫…子供達も無事よ…!!」
オトヒメの無事を確認し、ほっと胸を撫で下ろすネプチューン。
そうして安心した所で、改めてクロエと向き合った。
「……我が妻を守ってくれたのか」
「どうにかな…私の親友は余計なお世話だったか?」
「いや……この件はわしらにも非がある。お前さん達がいなければ、今頃……」
ジンベエはそう言うと、ネプチューンに向き合った。
かつては部下であった親分と目が合うと、ネプチューンは静かに頷いた。
「うむ……今回の一件で、未来の為に〝芽〟を摘まねばならん。本日をもって、魚人街は完全閉鎖! 魚人街の荒くれ者達は兵士見習いとして教育していくと、皆に伝えるのじゃもん」
「はっ!!」
ネプチューンの決断に、右大臣は一礼した。
人間達への恨みが強い魚人が巣食う魚人街は、管理者達の手に負えないとして無法地帯となってるが、それが此度の大事件に繋がった。ゆえに、受け継ぐべきではない意志を断ち切るには、思い切った行動も求められるのだ。
なあなあで済まさずケジメをつけると腹を括った知人の判断に、クロエは一瞬だけ微笑むと、仲間達に出航準備を呼びかけた。
「出航だ。ネプチューン、それでは失礼する」
「クロエ……我が妻の件は礼を言おう。もし白ひげに会えたらよろしく言っておいてほしいんじゃもん」
「気が向いたらな」
そう言うクロエの返答に、ネプチューンは笑って返した。
しばらくしてからクロエ海賊団は魚人島を出航、新世界を目指すのだった。
次回はオリジナル展開を挟もうと思います。
ゼファーの息子とか、最後の転生者とか、久しぶりの赤犬とか……ちょっぴり迷ってます。(笑)
まあ、気ままに投稿しますんで。