フールシャウト島で勃発した、四つの勢力が入り乱れる大混戦。
それは戦闘というよりも戦争というべきもので、中でも熾烈を極めたのがクロエとシキの空中戦だった。
「〝
「〝神威〟!!」
シキは義足の刀の一振り――名剣・桜十から強力な飛ぶ斬撃を放ち、クロエはそれを真っ向から打ち破る。
片や
その余波は凄まじく、ぶつかる度に大気が震えて、島が地震に襲われたように揺れる。
「ジハハハハハ!! 気分いいぜェ、昔の感覚が戻ってきたァ!!」
「がっ!?」
シキは恍惚とした笑みを浮かべ、赤黒い稲妻が迸る覇気の拳を浴びせる。
顔面で食らったクロエは、弾丸のような速さで吹き飛び地表に叩きつけられるが、すぐさま起き上がって跳躍。お返しと言わんばかりに覇王色を纏った掌底をシキへ叩き込んだ。
今度は逆にシキが吹き飛ばされるも、フワフワの能力を全開にして空中で静止、体勢を立て直す。
「〝劈風〟!!」
クロエはすかさず覇気を纏った飛ぶ斬撃の嵐を放つ。
しかし太刀筋を読んだシキは〝
「ジハハハハ!! おれァ二刀流剣士だったんだ、これぐらいの太刀筋ぐれェ――」
「〝降伏三界〟!!!」
ズゥン!!
「ぐほァ!!?」
クロエは化血の鞘を振り、飛ぶ打撃を飛ばす。
武装色と覇王色を纏わせた衝撃波は、油断していたシキの腹部に直撃。彼はサボテンを次々に突き破りながら島の岩壁に叩きつけられる。
その隙にクロエは間合いを詰め、〝神避〟でトドメの一撃を食らわせようとするが……。
――ザバァ!!
「!?」
何と海から巨大な海水の塊が浮上し、次第に分裂して水の塊の大群となって襲い掛かった。
シキの最大の強みは、海水を意のままに操れる事。能力者を海水で閉じ込め溺死させるという芸当も可能であり、間接的に悪魔の実の能力者に有利な能力なのだ。そこに覇気を纏わせれば、脱出は困難である。
(マズい……!!)
クロエは月歩で回避しようとするが、水の塊が襲い掛かる方が早く、あっという間に飲み込まれた。
海水の牢獄に囚われた〝鬼の女中〟に、シキは悪辣な笑みで勝利を確信する。
「ジハハハハ!! 勝負あったなァ!!」
「……」
「んん? 何だ、随分と落ち着いてるじゃねェか……刀も鞘に収めちまって」
クロエの様子は、シキの予想を外れたものだった。
普通なら海水の牢獄に囚われ、苦しみ藻掻いているはず。しかし彼女は慌てる事も抵抗する事もなく、ただ息を止めている。
何か策があるのか、それとも……? シキは訝しみながら新しい葉巻を咥えて火を点ける。
「ジハハハハ……!! こうして見ると、中々の絶景だな。強さといい体つきといい…イイ女に育ったじゃねェか」
「……」
「まァ…どこまで足掻けるか見届けさせてもらうぜ。お前がおれの仲間になるなら話は別だがな!! ジ〜ハッハッハッハッハァッ!!!」
シキが高らかに嘲笑う中、クロエの琥珀の瞳はギラギラと鋭い刃のように輝いていた……。
そして地上では、壮絶な戦闘が繰り広げられていた。
「うぐっ…!! 畜生…!!」
「ガスパーデ!!」
「これが〝神の騎士団〟か……これでも我も、
脇腹を押さえながら仰向けに倒れるガスパーデ。
彼だけではない。エルドラゴやウィリー、スレイマンと
もっとも、相手方も海の皇帝達の一角を相手取ると流石に消耗する為、五分五分程度だろうが。
「別に二人に頼り切っているつもりはねェけど……強すぎるぜ……!!」
「参った…副船長が青キジを押さえ、ヤマト達が奴隷達を逃がしながら他の面々の相手をしているというのに……」
「ここでくたびれちゃあ、あとあと怖いど!!」
ドーマとマクガイ、デラクアヒは各々の得物を武装硬化させる。
ちらと視線を横へと逸らせば、ヤマトが仕方なく奴隷達を追う海軍を一人で足止めし、ステューシーはバンビーノと共にちゃっかり奪い取った軍艦に避難を促している。
しかし物量の差は依然敵方の方が多く、頭数で言えばクロエ海賊団の数倍はある。消耗戦を強いられる以上、タイミングを見計らって退くしかない。
そんな中、唯一健在であるレッドフィールドとナグリは、互いに目を配る。
「ナグリ……この窮地を突破できんか? 貴様の弟子は手が離せん状態だぞ」
「フーム……一応〝切り札〟はあるぞ」
「本当か?」
「あの子は「意志に老いは関係ない」と言っていたからの……仲間として信じるのし!!」
ナグリはそう言うと、自らが愛用する木槌から赤黒い稲妻をバリバリと迸らせた。
それはクロエやエマ、ヤマトができる、王の資質を持つ者でも極少数が至れる領域――覇王色を纏う技術だ。
「貴様もできるのか!?」
「クロエ達と比べればお粗末かもしれんが、のっ!!」
ナグリは武装色と覇王色の覇気を纏わせた木槌を振り回し、騎士の一人に打ち下ろす。
直後、地面が割れて大きなクレーターが生じ、殴られた騎士はノックアウトされた。
「こ、この老いぼれ…!!」
「まさか、覇王色を…!?」
騎士の中でも若手と思われる男女が、ナグリの覇気に冷や汗を垂らす。
いかに老い衰えていようと、覇王色を纏う攻撃は尽く強火力。その一撃は、並の人間なら失神KOが必至だ。
「弟子に負けては、師の名折れじゃのし…!!」
「クク…違いない」
レッドはコウモリを象った鋭利な傘を覇気で黒く硬化させると、騎士の一人の一太刀を受け止める。
「ぐっ…」
「悪いが、我にも意地があるのでな…張らせてもらおう…!!」
「敗北者共め……!!」
海賊王世代の二人が全力を開放するとなり、顔を顰める騎士達。
その一方で、ラカムとコル寿郎の共同戦線は彼らの応援に動けずにいた。
「おい、まだ戦えるよな温室育ち!!」
「勿論だが…向こうの事態が尋常ではないぞ、船医殿……!! 余も手助けしたいが……」
二人は白い服に身を包んだ男達と対峙する。
その相手は、世界貴族直属の組織〝CP‐0〟。ステューシーがクロエ海賊団に属する前にいた「世界最強の諜報機関」である。
「結構覇気を込めたんだが……中々硬いな……」
「武装色と〝鉄塊〟を併用すれば、より強固な防御力を有するぞ」
「仕方ねェな…せめてあんたも
ラカムは短くなった煙草を吐き捨て、戦鎚「衝角」に武装色を流して黒い稲妻を迸らせる。
それに呼応するかのように、一人の仮面の男が凄まじい速度で脚を振り抜いて次々と鎌風を起こす。
「ハッ……バカが」
ガギィン!! ギィン!! ガァン!!
『!!?』
ラカムは笑みを浮かべながら衝角を振り回し、襲い来る鎌風を次々と打ち返す。
しかも自分の覇気を付与させて、だ。
「相手の攻撃に覇気を纏わせ弾き返すだと!?」
ラカムの凶悪なカウンターに、コル寿郎は驚愕する。
CP‐0の面々は鉄塊と武装色の二段構えで防ごうとするが、付与された覇気の強さに耐えられず、次々とその身を斬られていく。
それ程までに、ラカムの武装色の覇気は強大なのだ。
「これが海の頂点に君臨する海賊団か……上には上があると言うが、ここまでとは……」
「余所見してる暇があるのかよ?」
「!?」
覇気で強化した戦鎚を握り締めたラカムが、一瞬でCP‐0の一人に接近すると、思いっきりフルスイングして吹き飛ばした。
コル寿郎は負けじと地面を割る勢いで飛び込み、居合の連撃で一気に二人斬り捨てる。
「見事だ、船医殿!! この修羅場を越えたら、何を欲する? 余が奢ろう」
「……煙草1ダースだな」
二人は互いの名を名乗ると、再び背中合わせで構えて覇気を漲らせた。
時同じくして。
エマはクザンとの一騎打ちで大暴れしていた。
「流石だね、まだまだ行くよ!!」
「いや、いい加減にしなさいよォ!! あんた狙撃手だろ!? 使う弾が違うだろォ!!」
エマは片手用ライフル銃の銃身を持ち、バットのように何度も何度もスイング。
覇気を纏った〝飛ぶ打撃〟の千本ノックに、クザンはギリギリ躱しながら冷気や氷塊を飛ばす。
しかしエマは得意の見聞色を駆使し、軽やかな足取りでそれを避けてはクザンを追い詰める。
「クッソ、クロエとは別ベクトルで厄介だな……!!」
「隙あり!! 〝
「うをォ!!?」
エマは一瞬の隙を突き、拳銃を発砲。
強力な武装色を纏った銃弾は、クザンの顔の数センチ左を掠めた。
「っぶね……」
「クロエよりは弱いけど、副船長として意地は張らせてもらうからね…!!」
「何言ってやがる…こっちから見りゃ、あんたも十分怪物だ…!!」
クザンは冷や汗を垂らしながら、巨大な氷塊を作り上げる。
そう…彼が言っている通り、クロエの方が目立つだけでエマも規格外の実力者なのだ。世界最高峰とも言える狙撃の腕は勿論、覇王色の覇気を覚醒させており、格闘能力も秀でている。何より見聞色の覇気が桁違いの練度であり、先手を打っても確実に対処されてしまう。
しかし常時強力な見聞色を行使すれば、消耗はその分激しくなり、長期戦になれば確実にエマが不利になる。そうなればクザンの土俵だが、その間に他の戦局がどう動くかは予想できない。
つまり、彼女との戦いを早期決着で仕留めるしかないのだ。その先に待ち構えるのは、〝王直〟が支配する海賊島との全面対決であるが。
(やりづれェ戦いだな……!!)
クザンは額に汗を垂らして舌打ちし、早く援軍が来てくれる事をひたすら願うのだった。
*
一方、海軍本部では大混乱が生じていた。
「おい、それは確かな報告なんだな…!?」
「は、はい……!!」
「こりゃあ、ちょっとマズいですねェ…センゴクさん……」
海軍上層部は伝令将校が受けた緊急連絡の内容を知り、思わず額に冷や汗を垂らす。
毎度お騒がせのクロエ海賊団が、よりにもよって〝例のイベント〟の会場に上陸、神の騎士団とクザン達を相手に戦闘となった。さらに奴隷達を自らの兵力にすべく、息を潜めていたはずの金獅子が乱入。四つの勢力が入り乱れる大混戦と化している。
あの島には大勢の天竜人が訪れている。天竜人達が海賊との戦いに巻き込まれ殺戮されたとあっては、世界政府の統治が大きく揺らぎかねない為、絶対に避けねばならない。
「どうする、センゴクよ…クロエと金獅子が戦ってるからいいものの、クザンだけでは手に負えんぞ!! 事後処理においても、あのゴミクズ共の事じゃから言いがかりを付けてくるかもしれん…!!」
「無論、すぐにでも増援を送るつもりだ……!! 流石に大将が相手となれば、そこまで大ごとにはならんだろうが……」
ガープとセンゴクは、事の深刻さに険しい表情を浮かべる。
天竜人の権力は海軍にも及び、ガープのような多大な実績や名声を重ねてきた者を除き、反発する者は皆消されてきた。それ程までに天竜人は絶大な存在であり、同時に彼ら彼女らの前では自らの強さでしか身を守れないのだ。
しかし、今回は事と次第では海軍大将にも責任が及びかねない事案。センゴクとガープは当然クザンの味方をするが、世界貴族にとっては「恐怖の象徴」であるクロエを仕留められなかった方が重大であり、それを遂行できなかったという事だけで首を飛ばしかねない。
「……わっしが行きましょうか? センゴクさん」
「待て、ボルサリーノ。今回はわしらじゃありゃあせん……」
席を立つボルサリーノに、隣で足を組んでたサカズキが待ったをかける。
そう、この話が上がった時点で、すでに誰が向かうかは決まっているのだ。
「……いいのか? ガープ」
「ああ、わしが行く!! あのゴミクズが何人殺されようが知ったこっちゃないが、クザンは海軍の未来を背負う!! 今回ばかりは黙っちゃおれんわ!!!」
ガープは拳をバキバキと鳴らす。
それは、かつて海賊達に悪魔のように恐れられた伝説の〝英雄〟の出撃を意味していた。
という訳で、クロエ海賊団の面々が相当強化されてる事が判明しました。
ナグリはクロエに「原点回帰しないか」と誘われ、覇王色纏えるように案ってます。まぁ、年齢もあって長く持たないです。
そしてとんでもない荒業を披露したラカム。ああ見えて武装色の練度はクロエといい勝負できるので、相当強力です。
そしてコル寿郎。実は彼、覇王色を持ってません。
本人曰く「様々な才能に恵まれてる者が必ずしも王の資質の持ち主とは限らない」とのことです。