〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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ついに80話に突入……!


第80話〝フールシャウト事件・後編〟

 壮絶な空中戦の末、シキが操る海水の中に閉じ込められたクロエ。

 囚われてから一分が経過し、その均衡は崩れる。

「ジハハハ……見えるかクロエ? 眼下の仲間達が追い込まれてるぜ?」

 シキは視線を下に向け、地上で戦うエマ達を見る。

 その一瞬の隙を、彼女は待っていた。

(〝八衝拳〟……)

 

 ――〝烈合掌(れつがっしょう)〟!!!

 

 クロエは海水の牢獄の中で、思いっきり掌を叩き合わせた。

 その瞬間、覇気を伴った八衝拳の衝撃波が伝導し、海水の塊が爆散。激しい水飛沫とともに、クロエは海水の中から脱出を果たした。

 脱出不可能だと高を括っていたシキは驚愕し、一瞬惚けてしまう。それが、彼女が待っていた絶好の好機だった。

「終わりだ、シキ!!」

 クロエはすぐさま化血を抜刀し、刀身に覇王色の覇気を込めて宙を蹴る。

 膨大な覇気の稲妻が迸るそれを見て、シキはクロエにある幻影を重ねた。

 適合することはなかったが、ライバルとして誰よりも認めていた()()()と。

「ロジャー!!?」

「〝神避(かむさり)〟!!!」

 クロエは覇王色の覇気を纏わせた刃を、横薙ぎに一閃した。

 刹那、凄まじい衝撃波が爆ぜ、覇気の稲妻が上空を勢いよく駆け巡った。その影響は地上にも及び、海兵達は次々に泡を吹き出し避難していた奴隷達も次々と倒れ伏す。一方、シキの体は激しく吹き飛ばされ、フールシャウト島にそびえる山の断崖に叩き付けられた。激突した崖は大きく抉れ、凄まじい土煙に覆われる。

「……〝声〟が消えてないな」

 月歩を駆使し、警戒しながら降り立つクロエ。

 土煙が徐々に晴れていくと、ぐったりとしたシキが姿を現す。しかし島船が海や地上に墜ちてないので、フワフワの能力は切れておらず、当の本人もまだ意識があるという事だろう。

「あ…が……」

「しぶとい奴だな、相変わらず……結構本気だったんだぞ?」

 クロエは呆れ気味にそう言うと、コートの裏ポケットからプルプルプル…という音が鳴った。子電伝虫だ。

 彼女は取り出し、通信する。相手は自分にとって娘のような存在であるヤマトだ。

《母さん、こっちは全員避難できたよ!! あとは僕達が撤退すればいい!!》

「そうか、ご苦労。こっちもシキを黙らせる事ができた」

《わかった!! 早く来てよ母さん、さっき軍艦の通信で英雄ガープが援軍でこの島に来るって!!!》

「よりにもよってか……まあ、妥当と言えば妥当か……わかった。全員を撤退させろ」

 ヤマトに命令し、子電伝虫を懐にしまうクロエは、シキを見つめる。

 負ければ命までが海賊の世界。勝敗が決した以上、彼女に空を統べる獅子の生殺与奪の権が握られる。だが、もうすでに覇気も体力も限界を迎え、ほったらかしにしてもガープ達が来る。捕縛される可能性も十分にあるだろう。

 ゆえに、シキの命運は天に任せる事にした。天は伝説の健在を許すのか、それとも時代を先に進める事を望むか……それは〝鬼の女中〟に敗北した〝金獅子〟の力量次第。

「……やはり〝支配〟は、〝自由〟には勝てないようだな」

 クロエはシキから視線を外し、踵を返してその場を後にした。

 遠くなる彼女の背を、シキはただ見届ける他なかった。

 

 

 一方、地上の戦いは目的を果たしたヤマトとステューシーの参戦により、クロエ海賊団が優勢となりつつあった。

「〝鳴鏑〟!!」

「〝飛ぶ指銃〟」

 

 ドドドドンッ!!

 

『うわあああああっ!?』

 ヤマトは覇気を纏った衝撃波を打ち放ち、ステューシーは指で空気を弾丸のように押し出し、眼前の敵を次々と薙ぎ倒していく。

 余力を十分残した二人の進撃を止めることなどできるはずもなく、どうにか足止めしようと一斉に攻め込んで来るも、為す術もなく吹き飛んでいった。

「ステューシーさん、早くしないと!!」

「わかってるわ、今のタイミングで英雄ガープの到着は流石にマズい…!!」

 オーロ・ジャクソン号までの退却路を一刻も早く確保せんと、ヤマトはステューシーを急かす。

 今では白ひげを差し置いて現役最強とも噂されるようになったクロエですら、ガープとの戦いに関しては余裕を失う時がある。彼女ですら一筋縄では行かない相手と認識してるのだ、自分達では本気を出した〝英雄〟を止める事など不可能に近い。

 そしてクロエも、シキとの戦いである程度消耗しているはず。副船長(エマ)も海軍大将が相手なので苦戦しているし、何より他の面々は神の騎士団との戦いで倒れる者が出てきている。これ以上の戦闘をせず中断させる方が賢明だ。

「皆、早く逃げよう!!」

「ヤマト、ステューシー!!」

「これ以上の長居は不要よ、撤退しましょう!!!」

 ヤマトとステューシーが周囲に呼びかけると、クロエ海賊団は撤退を開始。

 負傷で動けない仲間を抱えると、その隙を突いて神の騎士団が一斉に斬りかかる。

「しまっ――」

「気を抜くな、ここは戦場だぞ!!」

 背中から()られそうになったところを、シキとの戦いを制したクロエが推参。覇王色の覇気を撒き散らしながら神の騎士団を薙ぎ払い、ヤマトとステューシーに合流する。

「母さん!!」

「クロエさん!!」

「……よくやったな、二人共」

 労いの言葉を掛けられ、二人は嬉しそうに笑う。

 しかしそんな和やかな空気も束の間、政府側の戦力が追撃を仕掛けてきた。

 銃撃だけでなく砲撃も加わり、回避と防御に徹さざるを得なくなる。情け容赦のない集中砲火に、クロエが殿となって皆を逃がそうとする。

「クソ、キリがない…!!」

 そう歯噛みした、その時だった。

 

 ボゴォン!!

 

「っ!?」

 突如として覇気の暴発が発生し、自分の目の前を何かが通った。

 親友であり右腕であるエマだ。

「うう……」

「エマ!?」

 クロエは慌てて駆け寄って抱き起こすと、エマは痛そうに血が流れる頭を押さえながらも意識は保っていた。

「大丈夫……立てる」

「そうか……」

 エマは立ち上がり、吹き飛ばされた方角を見つめる。

 その先には、大の字で倒れるクザンの姿が。周りには海兵達が駆け寄り、手当てを始めている。

「……まぁ、海軍大将の意地を見せたってところか」

 クザンが倒れた事で海軍の戦線が瓦解し始める。

 この好機を見逃すはずもなく、クロエは船長命令を告げた。

「全員、オーロ・ジャクソンに戻れ!! この島に用は無い!! 動ける奴は仲間を抱えろ、私が奴らを押さえる!!」

『おうっ!!』

 その一喝で、仲間達が倒れた者を担ぎながら一斉に駆け出す。

 逃がしてはならぬと政府側の残存戦力が追撃を仕掛けるが、海の皇帝の奮戦ぶりの前に次々と倒れていく。

 その様子を見ていたラカムは、咥えていた煙草を吐き捨て引き際を察する。

「……どうやらここでお開きらしい」

「行くのか、友よ」

「ああ」

 ラカムは戦鎚を担ぎ、コル寿郎に別れを告げる。

「……あんたこそどうすんだ。もう聖地に居られないだろ」

「余の事は案ずるな。上手く立ち回るさ。卿らには卿らの冒険があるのだろう? 余が出航を手伝おう」

「そうかよ。……じゃあな、コル寿郎」

「ああ、さらばだ」

 拳をぶつけ合って男の挨拶を交わすと、月歩で空中を駆けながらラカムは振り返る事なく退散した。

 

 

 フールシャウト島の波止場で、オーロ・ジャクソン号は出航の準備を終えていた。

「副船長、大丈夫か!?」

「流石に海軍大将を一人で足止めは堪えたよ~……」

「よく言うぜ、覇王色のパンチでクロスカウンター決めたクセに……」

 甲板で横たわるエマに、ドーマはボヤく。

 すると、そこへクロエとラカムが乗船。一味全員が集結した。

「早く行くぞ、ガープの軍艦が見えてきた」

「ウソォ……」

「ラカム、仲間達の手当てを頼む。動ける者はあいつを手伝え。私は追ってくる痴れ者共を迎撃する!」

 クロエはラカムに指示すると、死地へ降り立って得物に覇王色を纏わせ、敵勢を見やる。

 海軍大将と天竜人の武装勢力、途中から乱入した金獅子との混戦の末、クロエ海賊団は正直かつてない程に消耗している。クザンはエマとの痛み分けで一時戦闘不能、神の騎士団も兵力を減らしてるが、それでも〝鬼の女中〟の一団を壊滅できる千載一遇のチャンスに、士気は高い。

(……これは厳しい戦いかもしれないな)

 クロエはそう感じながら、得物を構え直した。

 その時だった。

 

 ゴゥッ! ドゴォン!!

 

『ぎゃああああああ~~~~!!!』

「!?」

 クロエの頭上を誰かが通った。

 そして着地した瞬間、覇気を纏った飛ぶ斬撃が畳みかけ、眼前の敵を次々と薙ぎ払ったではないか。

「フゥ…どうにか間に合ったな」

「き、貴様……!!」

 眼前に降り立った者の姿を前に、クロエは驚愕した。

 

 

           *

 

 

「……逃げおったか」

 フールシャウト島に到着したガープは、岩に腰かけてそう呟く。

 その傍では、応急処置を終えたクザンが包帯まみれで佇んでいた。

「随分苦労したようじゃな、クザン……煎餅食うか?」

「ケガ人に煎餅って……まァ、あんたらしいけど」

 クザンは呆れつつも、ガープから受け取った煎餅を口にする。

「……あの軍艦はどうなったんすか?」

「海軍が全力で行方を捜査すると説明しておる」

 恩師の言葉に、クザンは短く「そうですか…」と笑みを浮かべた。

 言い回しからして、あの天竜人の非道な遊戯に巻き込まれてた人々は逃げ切れたようだ。

「……誰と()った?」

「エマ・グラニュエールですよ……あの強さは尋常じゃない」

「じゃろうな。クロエが目立っておるだけで〝魔弾のエマ〟も相当じゃぞ?」

 ガープは煎餅を頬張りながら告げる。

 確かにクロエは皇帝に相応しい女傑だが、エマも彼女に匹敵し得る強者。あくまでも副船長としてクロエを支える事を選んだだけであり、もし自身を頭目とした一味を率いれば、海の覇権争いにおける強大なゲームチェンジャーとして君臨するだろう。

 何せ、彼女は海賊島(ハチノス)のボスの後継と目される程の女なのだから。

「……あれでまだ伸びるって思うと、末恐ろしいっすね」

 クザンは煎餅を齧りながら、天を仰ぐ。

「……で、おれァ軍法会議か何かに呼ばれるんで?」

「んな事、流石にできんわい。……五皇と金獅子を相手によう生き残った。形式としての処分はあるじゃろうが……まァこれを機にゆっくり休め!! ぶわっはっはっは!!!」

 ガープは高笑いし、クザンを労う。

 少しは自分の重荷を減らしてやると気遣ってくれているようで、何だかこそばゆかった。

 その時、同行していたボガードが報告にやって来た。

「ガープ中将、クザン大将、大変です!! 実は――」

「わかっておる。あの状況下で金獅子の拘束は無理じゃ、センゴクにはわしが報告しよう」

「いえ、それとは別件で……」

 ボガードの歯切れの悪い態度に、二人は首を傾げる。

 そこへ、彼は一つの知らせを告げた。

「実は……天竜人のドンキホーテ・R・コル寿郎聖が行方不明になっており……」

 

 

 〝偉大なる航路(グランドライン)〟、とある海域。

 フールシャウト島から脱出したクロエ海賊団は、ある男を迎え入れていた。

 その人物は、フールシャウト島で行方不明扱いとされているコル寿郎だ。

「しっかし…まさかあの数の追っ手を相手取って五体満足とはな」

「フフ……赤土の養豚場の中には、どうやらサラブレッドが混じってたようだ」

「こう見えて、余は子供の頃から人の目を盗むのが得意でな」

 はっはっは、と愉快そうに笑うコル寿郎。

 何と彼は政府側と縁を切り、クロエ海賊団に入団したいと申し出てきたのだ。

 世界の頂点に君臨する血族の一人が、世界で最も恐れられる女海賊の仲間入りを志願するという謎の事態に、仲間達は困惑を隠せない。

「一応訊くけど……何でウチ?」

「もっとも縛りがなさそうだからだ。世界貴族という立ち位置は窮屈で敵わんし、かと言って他の海の皇帝達に身を寄せても自分の領海(シマ)や傘下勢力の統率で雁字搦め……自由気ままに世界を見る事ができるのはクロエ海賊団ぐらいだ」

 天竜人としての地位を自ら放棄したコル寿郎の言葉に、包帯を頭に巻いたエマは「成程……」と納得する。

 確かに白ひげやビッグ・マム、カイドウは自分達のナワバリと傘下の海賊団を抱えてるので、行動の制限が大きい。しかし傘下勢力を持たず守らねばならないナワバリも持たないクロエ海賊団は、行動の制限がゼロに近い。自由を謳歌しつつ組織に身を置きたいのであれば、クロエ海賊団が最も適しているだろう。

 それに、コル寿郎は世界貴族の家に生まれたが故に〝自由〟という概念に飢えていたのかもしれない。出自も家族も、立場や権力すらも全て捨ててまで、彼は世界を見ようとしている。自由で在り続けようとする者として、クロエ個人としてはその心意気は高く買っていた。

「ウチは誰が何の種族でどういう経歴だろうと、一人の人間として扱う。その事を肝に銘じておけ」

「ああ、異論はない」

 鷹揚に頷き、クロエの言葉に従う。

 こうしてコル寿郎は、天竜人の地位を棄ててクロエ海賊団船員として第二の人生を送る選択肢を選び、同時に「世界貴族が政府に反旗を翻して海賊に堕ちた」という情報が出回る事となる。




というわけで、やはりと言うべきかコル寿郎が仲間入りしました。
次回はコル寿郎の具体的な戦闘描写を執筆しますので、お楽しみに。

ちなみにシキはガープが来るギリギリのところで撤退してるので、捕まっても死んでもいません。
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