〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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今更ですが、本作は作者のかなりの個人的な都合で頻繁に内容変更するので、ご了承下さい。


第81話〝「領域人間」コル寿郎〟

 フールシャウト島での大事件から早一週間。

 クロエ海賊団は新世界の海へと突入し、とある海域で停泊していた。

「……」

 船首楼甲板から海を見つめながら、コル寿郎は煙管を吹かす。

「――ここにいたのか、新入り。何か思い耽っていたようだが…」

「!! 少し、考え事をな……」

 そこへ、船長のクロエが酒壺を片手にやって来る。

 酒壺には「天甜酒(あまのたむざけ)」と書かれている。

「コル寿郎、一杯付き合わないか?」

「……〝D〟の一族と神の末裔の酒盛りか。乗った」

 クロエはその場で胡坐を掻き、持参した二人分のお猪口に酒を注ぐ。

 コル寿郎も彼女と向かい合うように胡坐を掻き、その酒を受け取り飲み干す。

「……ああ、美味い! 赤土の上でも色々な酒を飲んだが、甘みと喉越しが程良いな」

「だろう? 喧嘩友達のカイドウから物々交換で貰った酒だ。あいつは酒癖こそアレだが、ニューゲートに並ぶ酒豪だからな。世界中の酒を飲んできてる」

「ほう…卿のような大物ともなれば、自然と関わる者達も大物が揃うのだな」

 コル寿郎は頷き、再度酒を呷る。

 クロエも一息で飲み干し、お猪口に注ぎながら話しかける。

「どうだ? 海賊稼業には慣れたか?」

「フフ……余は権力者の一族だぞ? 屈強な海賊衆のようにはいかん」

「よく言うな。戦闘から雑用まで何でもこなし、しかもドーマ達よりも手際も効率性も上。奴らの立つ瀬も考えてやれ」

 グイッと呷りながら、クロエは琥珀の瞳でコル寿郎を見つめる。

「……で、余に何か言いたい事があるのだろう?」

「エマが随分お前に気を遣っていてな……()()()で何か接点があっただろう? ――吉池恵麻と」

「やはり、吉池先生であったか…!!」

「……貴様も持って生まれたか」

 コル寿郎の言い回しに、クロエは彼も前世の記憶を持ってると確信する。

 彼は催促されるまでもなく、自身の前世を語った。

 

「余は前の世界では俳優・(すが)()寿(とし)(ろう)だった。そして余は吉池先生が執筆した歴史小説の映画に主演として出た」

 

 その言葉に、クロエはきょとんとなった。

「何だと? という事は、あいつと?」

「うむ。映画化が決まった時と撮影が終了した時に挨拶に行った。こちらと同じ暢気な楽天家で、文才もさることながら、人当たりの良さは群を抜いていた」

 懐かしむように目を閉じ、コル寿郎は記憶の中の小説家・吉池恵麻を思い起こす。

「そのやたら古風な一人称と二人称は……」

「余ははぐれ者の親王の役でな。その役に成りきったせいで抜けられなかったようだ」

 別に気にならないがな、と笑いながらお猪口に酒を注ぐコル寿郎。

 しかし、次第に笑みが消えていき思い詰めたような顔になる。

「余は不本意にも、最後の挨拶を終えた直後に事故に巻き込まれた。吉池先生が……エマが余に気を遣うのは、余の死に様を目の当たりにしたからだろう」

「……」

「頭の中ではわかっていても、中々割り切れないのだ……卿らにはすまぬと思っている……」

「気にするな。そもそも、この世界で前世の記憶を持ってる方がおかしな話だ」

 クロエは一気飲みし、お猪口をコトリと置く。

「あいつもこの世界に来て長い。そのあたりの心の区切りもいい加減ついているだろう」

「……そうであってほしいとは、余も思ってる」

「――だそうだ。顔を出したらどうだ、エマ」

 クロエが自身の背後に声をかける。

 するとそこから、おずおずとエマが顔を出した。

「あー……バレてた?」

「まだまだ〝見聞殺し〟が板についてないな。消しきれてない」

「ハァ……まだまだ修行不足だね……」

 頭を掻きながら、エマはコル寿郎の前に腰を下ろす。

「改めて……久しぶり、だね……トシ君」

「うむ。健勝だったか、先生」

「うん……」

 二人の間に少しぎこちない空気が流れるが、エマは深呼吸を一つすると……思い切って聞く。

「……あの日の事なんだけど――」

「謝らないでくれ。あれは卿の責ではない。ただの余の悲運だ」

 コル寿郎はエマの言葉を遮り、彼女の目をまっすぐ見つめる。

 その言葉に、エマは「そっか……」とだけ呟く。

 気まずい沈黙が2人の間に流れるが、その静寂をコル寿郎が打ち破る。

「まぁ、それはどうでもいい。映画は売れたのか?」

「……えっ?」

「余とて俳優生活だったんだ、ウケたウケないくらい気になる」

「何かスゴい損した気分……」

 エマはがっくりと肩を落とす。

 当の本人は昔の話だと言わんばかりに気にも留めず、それどころか自身の遺作の興行収入を訊いてくる始末。

 親友クロエとは別ベクトルで自由人のようだ。

「ハァ~……気を遣ってた自分がバカらしくなってきた……」

「縛られるな阿呆が。もっと図太く生きないか」

 クロエは予備の猪口を取り出して酒を注ぐと、親友に手渡す。

 エマは中身を一口で飲み干し、お猪口をコル寿郎に突きつける。その意を酌んだ彼は、酒壺の酒を注いでやる。

 二人の会話に区切りがついたのを見計らい、クロエは目を閉じる。

(それにしても、天は随分と酔狂だ。会社員に小説家、医学生と俳優をこんな世紀末な世界に飛ばすとは……)

「クロエ、どうかしたの?」

「……何でもない」

 エマに声をかけられ、クロエは思考の海から現実へと戻る。

(……まぁ、なるようになるだろう)

 彼女はそう結論付け、酒を呷ったのだった。

 

 

           *

 

 

 翌日、とある無人島。

 停泊中のオーロ・ジャクソン号の船内で、エマは二日酔いに苦しんでいた。

「あ~、飲み過ぎた~…!!」

「あのなァ……んな度数の(たけ)ェ酒一気に飲んだらそうなるっつーの」

 ラカムに処方された薬を服用しながら、エマは食堂のテーブルで突っ伏している。

 そんな副船長に、仲間達は心配半分呆れ半分で声をかける。

「副船長、大丈夫か? 水持ってきたぞ」

「ありがとう……うぅ~……」

 スレイマンが持ってきた水を一気に飲み干し、一息つくエマ。

「あ~……久しぶりに吐きそう……」

「何をやっとるんだ……我らの副船長ともあろう者が」

「あの新入りと随分話してたじゃねェか」

「もう……おバカさんなんだから」

 レッドフィールド、エルドラゴ、ステューシーに呆れられたエマは「面目ない……」と返す。

 こんなザマを晒しているが、彼女は30億ベリーを超える破格の懸賞金を掛けられてる超大物である。

「ところで、コル寿郎君とクロエは……?」

「あの若いのか? 今はクロエ達と手合わせをしておるのし」

 ナグリがパイプを吹かしながら答える。

 その言葉の通り、無人島に上陸していたクロエ達はコル寿郎の実力を測っていた。

 コル寿郎の相手をしているのは、ドーマとマクガイ、デラクアヒだ。

「ハァ…ハァ…ハハ、結構強いな……」

「新世界でも通じるレベルだど……!!」

「これは少し、骨が折れそうだな……」

 ドーマ達は肩で息をしながら、コル寿郎を見据える。

 彼は全く息の乱れがなく、平然としている。明らかに余力を残しており、まるで準備運動を終えたような具合だ。

 コル寿郎は強者としての笑みを浮かべると、クロエに目を向けた。

「クロエ、余と手合わせ願おう。卿の剣技を見てみたい」

「……いいだろう、新入り」

 クロエは立ち上がり、化血を抜く。

 その動作だけで、コル寿郎は空気が震えるのを感じた。

 これが〝鬼の女中〟……ゴールド・ロジャーの伝説を継ぐ女の覇気。

「……流石に一芸だけでは無理だな。全力で行くぞ。――〝創世〟!!」

 コル寿郎がそう唱えた瞬間、彼を中心にドームが展開される。

 半透明だが黄金色の結界は見る見るうちに拡張し、直径は100メートルを優に超えた。

 コル寿郎は超人系(パラミシア)の能力者だったのだ!!

「余は〝バショバショの実〟の領域人間……領域を創り出し、意のままに操るのだ」

「自分に有利なフィールドを作るという事か…!!」

 クロエは冷静に分析し、化血を構える。

 すると、上空から無数の刀剣類が雨のように降り注ぎ、地面に突き刺さっていく。

 その数は、およそ50本程。刀剣の形状は様々で、中には薙刀や大太刀、十文字槍もある。

「余は刀剣集めが趣味でな。この場に突き立てられている刀剣は、全て余が集めたコレクションだ」

「……無銘刀が多いな」

「確かに……だが天駆ける竜が手にした事実があるだけで、その一振りは語り継がれる名刀名剣と化す」

 突き立った刀を見つめながら、コル寿郎はそう語った。

「では、始めるぞ」

「かかって来い。先攻は譲ってやる」

 クロエは不敵に笑い挑発する。

 コル寿郎も笑みを浮かべ、まずは突き立てた刀を投擲。武装色の覇気を纏って黒刀となった刃が一斉に襲い掛かる。

 クロエはそれらを化血で正確に弾き落とし、爆発的な加速で距離を詰めて斬りかかった。

 

 ドンッ!!

 

「ぐっ!!」

 黒刀状態の秋霜で真っ向から受け止めるコル寿郎だが、その一太刀が発する桁外れの〝圧〟に思わず声を漏らす。

 クロエの強さは、コル寿郎の想像を遥かに超えていた。

 たった一撃受け止めただけで、気力と体力を一気に削られるような錯覚を覚える。

(これ程とは……!! まさに修羅……!!)

 コル寿郎は歯を食い縛り、覇気を刀身に一気に流して弾こうとする。

 が、クロエが見聞色で彼の覇気の動きを察知したのか、瞬時に後退。膨大な覇気を纏った飛ぶ斬撃で、領域内の武器の破壊を図る。

「やはりそう来るか…!」

 コル寿郎は納刀してから深く腰を落とし、得意の抜刀術で飛んできた斬撃を斬り払う。

 そのまま傍に突き立てていた刀を手にし、クロエに肉薄。手数での圧倒を図り、高速の剣撃で攻め立てる。

 クロエも負けじと化血の鞘も使用し、二刀流と二刀流のぶつかり合いに突入。互いの力量を測るような、一撃のミスも許されない剣戟が続き、鍔迫り合いに発展する。

「っ…これは骨が折れそうだ……」

「確かに…剣技で言えば私よりも優れてるかもな。だが……!!」

 

 ドンッ!!

 

 クロエは覇王色の覇気を拡散。至近距離で食らったコル寿郎は50メートル程吹き飛ばされ、さらにその衝撃で刀が手元から弾かれて宙を舞う。

 しかしコル寿郎は受け身を取って着地すると、薙刀に手を伸ばして一閃。放たれた衝撃波がクロエに迫るが、覇王色を纏った斬撃を飛ばして相殺する。

 そのままコル寿郎は薙刀を何度も振るい、覇気を纏った強力な斬撃を次々と飛ばす。クロエは向かってくるそれらを化血で捌きつつ、隙間を掻い潜って間合いを詰めるが……。

 

 ズシンッ!!

 

「!?」

 突如、自分の身体が急激に重くなった。

 まるで上から強く押し付けられるような、重力を何倍にもしたような重圧がクロエにのしかかる。

 決して動けないという訳ではないが、この〝重さ〟はかなり厄介だ。

(この重圧は私にだけ掛かっている……という事は、悪魔の実の能力か?)

 クロエは全身に覇気を流し込む。

 すると自分に掛かっていた重圧から解放され、再び動けるようになった。

 どうやらコル寿郎のバショバショの実は、展開した領域内に働く重力をも支配下に置けるらしい。しかし悪魔の実の能力である事に変わりはなく、強大な覇気で能力を遮断する事は可能なようだ。

「……上手くいったかと思ったが、こうも適応されるとは……」

「相手が悪かったな。私じゃなければ今のでやられていた」

「そのようだな。だが……!!」

 コル寿郎は薙刀を放り投げ、十文字槍を二つ携えた二槍流で肉薄。乱れ突きを繰り出して矢のような飛ぶ斬撃を発生させ、容赦なく攻め立てる。

 クロエは覇気を纏った刺突を化血で防ぎ、あるいは躱して反撃の機会を窺うが、彼の洗練された槍捌きに攻めあぐねる。

 しかしコル寿郎も、決定打となる一撃が当たらない。

(手数での攻撃では埒が明かないか……!!)

 コル寿郎は手にしていた二本の十文字槍を投擲。

 クロエがそれを弾いている隙に身の丈を超える大太刀に手を伸ばし、それを横一文字に薙いだ。

 覇気を纏った巨大な斬撃が、弧を描きつつクロエに襲い掛かる。その威力たるや、まるで大嵐の如し。

 クロエは化血で受け止めるも、その勢いに吹き飛ばされる。しかし彼女は空中で体勢を立て直し、宙を蹴って間合いに飛び込んだ。

「!?」

「〝錐龍錐釘〟!!」

 クロエ渾身の平突きが炸裂。

 コル寿郎は大太刀を武装硬化させて盾にするが、覇王色を纏った平突きの威力は凄まじく、衝撃で彼はそのまま吹き飛び、領域を突き抜けて大木に叩きつけられた。

 それと共に黄金色のドームが消滅し、並べられていた刀剣類も全て消え去る。

「成程、領域内に収めているのか」

 クロエは化血を鞘に収める。

 一方のコル寿郎はどうにか起き上がるが、悪魔の実の能力と覇気を全開させたからか、完全に体力が尽き果てていた。

「ハァ…ハァ……流石に体力切れだ、今の余はこれが限界か……」

「流石だな、コル寿郎。久しぶりに戦い甲斐のある相手だった」

 クロエはコル寿郎に手を差し伸べ、立ち上がらせる。

「じゃあ改めて……クロエ海賊団にようこそ、ドンキホーテ・R・コル寿郎」

「ああ……これからよろしく頼む、クロエ・D・リード」

 二人は固い握手を交わして、互いの実力を認めた。

 その一部始終を見届けたドーマ達も、満足そうに笑みを浮かべるのだった。

 

 

           *

 

 

 それからさらに一週間後。

 コル寿郎はクロエ海賊団に完全に馴染んでいた。

「この才能マンめ……!!!」

「まだ日は高い、余を負かせるチャンスはいくらでもあるぞ」

 甲板で恨み節を吐くエマに、コル寿郎は愉快そうに笑う。

 彼の手には、幼児の頭くらいの大きさの皮を縫い合わせたボールが握られていた。

 マリージョアに住んでいた頃から、コル寿郎は天竜人の友人がいない半面、勤務する海兵とは仲が良かった。その時によく遊んだのが、自作の鞠での遊び――蹴鞠だ。

 その鞠を、彼はバショバショの能力で領域に隠し持ってきており、現在進行形で一味の面々と興じているのである。

 ちなみにこの蹴鞠は全員参加なのだが……誰もコル寿郎に勝利できてないのが現状であった。

「余と蹴鞠に興じておらぬのは、あと一人だな」

 コル寿郎は鞠を軽く蹴り上げた。

 弧を描きながら鞠は宙を飛び、その軌道の先にいた人物……クロエに向かう。

 彼女は徐に立ち上がってそれを蹴り返すと、コル寿郎はそれを容易く蹴り上げ、再び蹴り返す。

「流石だな、クロエ」

 筋がいいとコル寿郎は感嘆するが……。

「フンッ!」

 

 ドンッ!

 

「おおっ!?」

 クロエはいきなり鞠に覇気を付与させて蹴り返した。

 まさかの不意打ちを食らい、コル寿郎は咄嗟に武装硬化させて鞠を受け止める。

 その衝撃は凄まじく、もし緩めてしまったら骨が折れそうな程の〝重み〟だ。

「クロエ、卿は……」

「フフッ…やはり、私は遊戯よりも鍛錬や組手の方が性に合う」

 朗らかに笑うクロエに、全員が呆れ半分に笑った。

 海賊としての至高の領域に君臨する彼女にとって、自分と同じ〝高み〟に到達した一握りの猛者達とぶつかり合う方が楽しいようだ。

 ロジャー亡き今、彼女を楽しませてくれる人間など、永遠のライバルであるカイドウと弟分のバレットぐらいなのが悲しいところだが。

「どうだコル寿郎、私と。この間は愉しかったぞ」

「いや…今日は遠慮させてもらう」

 クロエの誘いを、コル寿郎は苦笑いで断りながら周囲に目を配ると、エマ達は一斉に顔を背けた。

 そんな中、勇者は立ち上がった。

「母さん、僕を鍛えてくれないか?」

「いいぞヤマト、準備しておけ」

 ヤマトが申し出た事に、クロエは上機嫌で応じる。

 それを眺めていたコル寿郎は、煙草を吹かすラカムに耳打ちした。

「ラカムよ、ヤマトの趣味は何だ?」

「鍛錬」

「……本当に血は繋がってないのだな…!?」

「あいつの実の親父は船長との殺し合いを一番楽しんでる」

 淡々と衝撃の事実を告げるラカムに、コル寿郎は引き攣った笑顔を浮かべるのだった……。




コル寿郎は本作の転生者で唯一の能力者です。
詳細はまた別個で投稿しますが、〝バショバショの実〟は空間の展開だけでなく悪魔の実の能力が生む異空間の干渉も可能とする能力なので、自分の領域内に入ってさえくれれば亜空間に逃げても空間を斬って見つけ出すことができたりします。
ということは、あのウタウタの実でも……?

そしてコル寿郎は二人の歴史上の人物をモデルとしてます。
当ててみてください。
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