〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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あけましておめでとうございます、新年一発目です。


第83話〝開国の真の意味〟

 久しぶりのワノ国で、クロエはテンションが上がっていた。

 その理由はたった一つ。かつての元仲間が自分との手合わせを申し出たのだ。

「〝おでん二刀流〟!! 〝(とう)(げん)十拳(とつか)〟!!」

「〝錐龍錐釘〟!!」

 九里の浜にてクロエとおでんは激突し、火花と覇気を散らした。

 互いに凶暴な笑みを浮かべており、剣戟は更に加速していく。

「っ……おめェ、白吉っちゃんやロジャーと同じぐらい強くねェか!?」

「褒め言葉だな!! 貴様はどうだ、おでん!?」

「ん!?」

 鍔迫り合いの中、クロエの覇気がさらに高まる。

「私が愛する男が惚れたんだ、この程度でバテるんじゃないぞ!!!」

 クロエは両手持ちで唐竹割の要領で黒刀を振るうが、おでんは冷静に対処して二刀で弾く。

 だが、それが彼女の狙いだった。

「甘いぞ、おでん!!」

「何っ!?」

 クロエはおでんに弾かれた勢いを利用し、バック転で後退。

 すかさず化血に武装色と覇王色を込め、横薙ぎに振るった。

「〝神鳴神威〟!!!」

「どわあァァァァ!!!」

 覇王色を纏った斬撃が放たれ、おでんは受け止めるも弾かれてしまい、そのまま宙を舞う。

 そこで止まるクロエではなく、そのまま化血を掲げ〝閃電娘娘〟で追撃。刀身から放たれる覇気の稲妻が無数に襲い掛かる。

 空中で体勢を立て直し着地するおでんだが、自身を遥かに凌ぐ覇王色の攻撃に回避が遅れ、その身に食らってしまう。

「ぐおっ!!」

 覇気を食らった衝撃が全身を走るが、おでんは根性で耐えて懐に斬り込む。

 捨て身で二刀を振り下ろすが、クロエは見聞色であっさり見破って回避。腰に差していた鞘を抜き、頑強な肉体の鳩尾を穿った。

 おでんはくの字に折れて吹き飛び、そのまま大岩に減り込んだ。

「がっ…!! このォ…!!」

「いいぞ、おでん! 頑張れ頑張れ」

 吹き飛ばされた伝説の侍を、伝説の女海賊は揶揄う。

 しかし浮かべるのは嘲りや侮蔑ではなく、純粋に命のやり取りを――戦闘という極限状態を愉しんでる無邪気な笑み。

 破顔するクロエに、おでんは既視感を覚えた。

「……その顔、ロジャーを思い出すなァ」

「!」

「あいつと初めて()った時も、そんな面してたぞ」

 おでんは懐古する。

 今なお鮮明に思い出せる、当時のロジャー海賊団と白ひげ海賊団の激突。その時に見た、ロジャーの好敵手との全力の闘いに見せた昂揚した表情。

 それと同じ笑みが、今目の前にある。

「そのせいか……滾って仕方ねェよ!!」

「なら来い、おでん!! もっと私を楽しませろ!!」

 互いに覇気をさらに練り上げ、同時に斬りかかる。

 一瞬で数十、百にも届く勢いの斬撃のぶつかり合い。火花を散らし、刀が交わる度に空気が震える。

「流石は伝説の侍……ロジャーが惚れたのも頷けるのし」

「剣の勝負はやはり互角か」

「いや……おでんが押されてる」

 ラカムは、おでんが少しずつだが劣勢になっていることに気がついた。

 手数はほぼ互角だが、徐々におでんの身体に化血による切り傷が増え始める。どれも軽傷にも満たないが、それはクロエがおでん以上の剣客である証左であった。

 あの戦いの後、クロエは多くの強者豪傑達と殺し合い、海賊王に次ぐ存在になった。一方のおでんは、将軍の位に就いて治世に力を注ぎ、戦いから遠ざかっていた。その差が、如実に表れていた。

 それでも全盛期のクロエを相手に剣戟を繰り広げるあたり、流石ワノ国一の侍である。

 しかし、決着の刻はとうとう訪れた。

「獲った!!」

「ぬおっ!?」

 おでんが閻魔を振り下ろしたところで、クロエは化血を逆手に持ち替えて柄頭で受け、渾身の力で跳ね返した。

 バランスを崩した隙に、赤黒い稲妻を迸らせながら化血に膨大な覇王色の覇気を込めて構える。

「〝神避〟!!!」

 

 ドォン!!

 

 横薙ぎに振るい、凄まじい衝撃波を放つ。

 刹那、覇気の大爆発が発生。たった一振りで破壊の嵐が吹き荒れ、おでんは木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされ、崖に叩きつけられた。

 勝負ありと判断したクロエは化血を鞘に収め、大の字で倒れるおでんに歩み寄る。

「ハァ…ハァ…剣腕と覇気は健在だな、おでん」

「ゼェ…ゼェ……おめェ、ロジャーみてェな強さだったぞ……」

「みたいな、か……もっともだ。どれ程鍛え抜いても、私はロジャーを超えられんさ」

 おでんに手を差し出して起き上がらせながら、クロエは苦笑を漏らす。

 彼女の脳裏に浮かぶのは、死してなお全ての海賊達の頂点に君臨する、偉大なる元船長。圧倒的な強さと海の覇者に相応しい大器に、海賊としても人間としても惚れ、心を奪われた。

 ロジャーへの愛が実る事は叶わなかったが、それでも幸せだった。わずか六年だがクロエにとっては〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟より価値があり、同時に生涯唯一無二の恋愛だったのだから。

「クロエ……久しぶりのお前との勝負、楽しかったぞ!! また頼む!!」

「ああ、いつでも来い」

 クロエは笑いながら答える。

 その笑顔に、おでんはあの計り知れない男の面影を見たのだった。

 

 

 時同じくして。

 九里城の庭で、コル寿郎はモモの助に剣を教えていた。

「モモの助、卿は見聞色が強い。〝読み〟や〝返し〟といった柔の剣を主軸にするべきかもしれん」

「柔の剣、でござるか…?」

 コル寿郎曰く。

 剣風は人それぞれだが、基本的に剛剣か柔剣のどちらか。剛柔共に極められるのは心技体を兼ね備えた一握りの剣豪のみで、おでんをはじめワノ国の侍は武装色に秀でた剛剣の使い手が多く、見聞色に秀でた剣士は少ない。モモの助は見聞色の才覚に秀でている為、柔の剣を中心に据えた方が彼の剣技が伸びるのではないかとの意見だった。

「柔の剣は余も扱う。手解きはできるが、どうする?」

「是非頼むでござる!!」

 即答するモモの助に、コル寿郎は試しに打ち込んでみろと促す。

 モモの助は一呼吸おいてから斬りかかり、上段から真剣を振りかぶる。コル寿郎はそれを防ぐと、今度は胴を狙って横に薙ぐが、今度は一歩下がって躱され、その上から刀身を叩かれ打ち落とされてしまい、間合いを詰められ刃を突きつけられてしまった。

 その早業に、モモの助は息を呑んだ。

「……!!」

「これが返し技。相手の技を受けつつ、そのまま返して反撃する。さあ、次は中段に構えてもう一度打ち込んでみよ」

 納刀したコル寿郎に促され、モモの助は言われた通りに中段に構える。

「これぐらいなら拙者でもできるぞ!」

「よし、剣術の基本はしっかりしているな。さて卿は余の間合いを詰める事に成功したが……この場合でも余が必ず勝つ」

 コル寿郎はそう言うと柄を横に払い、突きつけられた刀の切っ先を打った。

 弾かれて体勢を崩した隙を見て、構えを戻して抜刀し、距離を詰めてモモの助に刃を突きつけた。

「っ…!!」

「相手が自分より先に抜いても、この〝柄払い〟で攻撃をいなせる。見聞色と併用すれば精度は更に増し、その直後に相手の返し技が来ても対応はできる」

「な、成程……」

「クロエの気が済むまでの間、余が卿の稽古の相手となる。余も然り、剣の稽古は一朝一夕で身につくものではない。が……卿ならできると信じているぞ、モモの助」

 コル寿郎に励まされ、モモの助は力強く頷く。

「では、もう一度だ」

「はいでござるっ!!」

 コル寿郎とモモの助は剣の打ち合いを再開する。

 その様子を眺めていた光月家の家臣団は、和やかそうに眺めていた。

「錦さん……あの二人は良き師弟になるぞ」

「うむ、拙者らもコル寿郎殿に指南してもらいたいものだ」

「それにしても、あのコル寿郎なる剣士……〝流桜(りゅうおう)〟の練度が高い。さぞ名のある剣士なのだろう」

「あのおでん様も認めるクロエ殿が仲間にしたのだ、強いに決まっておろう!! カッパッパ!!」

 家臣団は和気あいあいと、二人の稽古を見守り続けた。

 

 

           *

 

 

 一方、花の都。

 銃の手入れをしていたエマは、先代将軍のスキヤキに誘われ、城の階段からワノ国の地下深くに案内されていた。

「こんなところに安置してあったんだ……」

「このルートはカイドウとオロチにも教えておらん」

 まるで神社の本殿のような部屋で祀られる碑石を眺め、エマが呟く。

 ロジャーから譲り受けた写しがある為、クロエ海賊団としてはこの場に用は無いのだが……。

「……〝ロード歴史の本文(ポーネグリフ)〟の写しは全部持ってるんだけれど?」

「お主に訊きたいのは、この赤い碑石ではない。……が、あまり口外する訳にもいかぬ故、ここで語らせてもらう」

 スキヤキはそう前置きしつつ、エマを質した。

「……プルトンの設計図が存在するのか?」

「……ウォーターセブンのトムが持ってるよ。船員(クルー)ではないけど、ウチのお抱えの船大工なんだ。そもそもプルトンは――」

「ウォーターセブンで建造された戦艦……それはわしも知っている」

 その言葉にエマは目を丸くする。

 そしてスキヤキは、衝撃的な言葉を告げた。

 

「そしてこの更なる奥深くに、プルトンは眠っている」

 

「えっ!!?」

 それを聞いたエマは、唖然とするしかなかった。

 史上最悪最強の戦艦が、設計図が存在するどころか本物が現存しているのだ。それもワノ国に。

 エマの驚きを他所に、スキヤキは更に続ける。

「800年程前まで、ワノ国は巨大な〝藤山〟の麓に都や町がある国だったのだ。ある時期に島全体を囲むように高い壁が築かれ、壁の中に雨水が溜まっていき――」

「当時の人々は元の土地を捨てて、山の中腹で新たに土地を広げて都を築いたって事?」

「左様。ここはその藤山の麓の洞窟の高台…この下にプルトンが眠っている」

 エマはあまりにもスケールの大きい昔話に、呆然とするしかなかった。

 すると彼女は、ある疑問をスキヤキにぶつけた。

「でも、これじゃあ古代兵器は取り出せないでしょ?」

 その問いに、スキヤキは「見た事はないが可能だ」と返した。

「プルトンを取り出すには、この国を囲む防御壁を破壊すればよい。〝開国〟とはそういう意味だ」

「〝鎖国〟って、交流を断つのではなく、干渉されない為の地形操作だったの……!? 政策じゃなくて物理的な意味だなんて斜め上過ぎる……!! っていうか、古代兵器(プルトン)は解放しちゃマズいんじゃ……!!?」

 キャパオーバーと言わんばかりに、エマは頭を抱えた。

 島一つ跡形もなく消し飛ばす古代兵器を解放する事が開国なら、いくら型破りでもおでんは積極的に兵器を利用するような人物とは到底思えない。

 という事は、真相はやはりラフテルにあるのだろう。

「おでんはあの戦い以降、開国は保留する方針をとった。オロチの暴政による国力の衰退が顕著だった事もあり、開国時に侵略者の大軍が押し寄せても対抗できるよう再軍備すべきという結論に至り、大名達も皆賛同したが……お主らの身の上話を聞いた以上、今は開国しないのが正しいかもしれんな」

「世界政府は海賊顔負けの侵略するからなァ……」

 エマは先の大事件――フールシャウト島での先住民一掃大会を思い返す。

 もし開国をすれば、あれと同じ事がワノ国で起こる可能性が極めて高い。孤高の無双集団と称される自分達でも「神の騎士団」には苦戦を強いられたのだ、海軍と同時に相手取れば、どれほどの被害が出るか想像に難くない。

 それこそ、オロチ以上の人間のクズの支配下に置かれる可能性があるのだ。

「おでんは大海賊〝白ひげ〟と兄弟分……楽観的に考えれば、ワノ国の有事に駆けつける可能性もゼロではない」

「でもあの親父さん、最近点滴してるって話だからなァ……」

 エマは眉を八の字にしながら、そう零した。

 大海賊時代の頂点に君臨する世界最強の男も、ここ数年老齢の為か体調が悪化しており、鼻のチューブや点滴などの医療器具を付けているという。五皇はハチノスを補給地扱いするクロエを除き、何十万、何百万もの人々の命と直結している。もしもの事があれば、白ひげの旗の下で護られている人々の命の保証ができなくなる。

 支配に興味がないクロエは「ちょっと揉めてから統治者が変わるだけだろう」という見識だが、そのちょっとは間違いなく血の海であるのは自明の理だ。

「まあ、この国の政治はおでん達に任せてある。国の安寧に尽くすのであれば何も言わぬ」

「ハァ……こりゃまたとんでもない話を聞いちゃったなァ……」

 〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を作っただけでなく、現在の世界情勢を簡単に覆す程の力を持つ古代兵器の実物も保有するワノ国。

 衝撃もスケールもデカすぎる内容に、クロエに何て言おうかとエマは頭を悩ませたのだった。




今年はそろそろルフィとの再会を目標に物語を進めようと思います。
あと、コル寿郎のイメージイラスト載せときますね。

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