〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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物語を進めれば進める程、クロエの強さがヤバすぎてルフィ達が可哀そうになる件。


第84話〝歴戦個体〟

 ワノ国に滞在して一週間。

 クロエ海賊団は出航の準備を終え、エマがスキヤキから聞いた真実に耳を傾けていた。

『プルトンがワノ国の地下に!!?』

「うん、入国時に登った滝が世界政府から国を護る防御壁で、それを破壊する事で解放できるそうだけど……」

「父さんがワノ国に拘ったのはそれだったんだ…!」

 衝撃的なエマの報告にステューシー達は唖然とし、ヤマトは驚きつつもどこか納得した様子を浮かべた。

 一方のクロエは、花の都で購入したワノ国の料理本を読みながら考え込んでいた。

(プルトンはウォーターセブンに設計図、実物はワノ国の地下にある。ポセイドンは魚人島に生まれる人魚姫。……となると、ウラヌスだけが所在不明という事になるが…)

 支配にも統治にも興味を持たないクロエにとって、古代兵器の有無は然して問題ではないが、所在に関しては気になる。所在がわかれば、誰が持っているのかもわかるからだ。

 一番あってほしくないが、一番可能性が高いのが……。

(世界政府が所持してる、かもしれんな)

 そんな事を考えていると、三味線を弾きながらコル寿郎が口を開いた。

「島一つを跡形も無く消し飛ばす古代兵器……切り札としてはさぞ強力だろうが、開国の保留は正解だ」

「……お前、いつの間に覚えたんだ?」

「余はそもそもギターが弾けるのだ。ギターができて三味線ができないのは道理に合わんだろう」

 コル寿郎は三味線で日和から習った「月姫」を弾きながら、世界政府の裏事情を語る。

「ナス寿郎のおじじ様はワノ国を〝鉄壁の要塞〟と称し、マーズのおじじ様も「壁がある限りは大軍を送り込めない」と言っていた。あの壁が壊れた瞬間、おじじ様達は〝神の騎士団〟や〝海軍大将〟を送り込む腹積もりだろうな」

「それって、島と保有していた資源もろとも世界政府が分捕ろうって計画?」

「ああ、そうだ。だが逆を言えば、壁さえ壊されなければ世界政府は動かない。ワノ国に手を出すのは、壁が壊された後だろう」

「何回聞いても、どっちが海賊かわかんないね……」

 コル寿郎の話を聞いたヤマトは、ジト目でそうボヤく。

 そこへレッドフィールドがコル寿郎に質問を投げかけた。

「コル寿郎よ……五老星の老いぼれ共が我々を直接襲撃をしてくる可能性はあるのか?」

「ゼロではない。余が知る限りでは、ゴッドバレーの先住民一掃大会でサターンのおじじ様が下界に降りていたそうだしな。正直なところ、余の討伐も視野に入れるだろう。もっとも、おじじ様達がへりくだる〝真の王〟が海賊となった余をどう思うかもあるが……」

「ちゃっかりとんでもない事言ってるね君!?」

 プルトン以上の爆弾情報を投下したコル寿郎に、エマは顔を引き攣らせる。

 もし世界中に知れ渡ったら、世界政府も黙ってはいない。それこそ本気で五老星が潰しにかかってくるだろう。

「――だから何だと言うんだ」

 明らかな喧嘩腰の船長の言葉に、全員の視線が集中する。

「世界政府が私と本気で事を構える気なら、こちらも本気で迎え討つまでだ。相手が潰す気ならこっちも潰す気で仕掛ければいい」

「お前なら本当に滅ぼしそうだな……そういえば、クロエは何でこんなに強いんだ?」

 コル寿郎の疑問に、一同は顔を一度見合わせ、副船長のエマに視線を集中させた。

 唯一無二の親友である彼女は、クロエをツンツンと指で突きながら語り出した。

「色んな解釈があるんだろうけど……私の中では大海賊時代以前の海を生き抜いたからだと思う。二十年以上前の海賊界はロジャー・白ひげの全盛期、海兵もガープを筆頭に才能丸出しで激強。クロエはそんな時代で戦闘経験をたくさん重ねた〝歴戦個体〟ってワケ」

『そりゃ強いわな…』

 エマの説明に全員が納得する。

 クロエの〝強さ〟はフィジカルや覇気だけではない。戦闘における知能の高さ、驚異的な模倣力、何より自らの才覚に胡坐を掻かず自己研鑽を欠かさないストイックな姿勢が見事に合わさり、そこに何十年もの戦闘経験が上乗せされ、現在のクロエの強さが出来上がったのである。

 しかもクロエはまだ成長の余地があり、戦闘力の上限が見えない。〝高み〟に到達し、海賊の最高峰に君臨してなお、まだ強くなる可能性を秘めているのだ。

「まさに無双の権化……」

「お頭を狙う奴らが異様に少ない理由がわかった気がするぜ……」

「戦闘狂以外誰も得しねェからな」

 スレイマンとウィリー、ガスパーデがそれぞれボヤく。

 要はクロエと戦えば、戦況次第では彼女がより強くなる可能性があり、それを恐れてるのだ。

「歴戦個体って……私は猛獣か何かか?」

「褒め言葉だよ、ありがたく受け取ってよベストフレンド♪」

「じゃあお礼だ」

「いだだだだだだ!! それお礼じゃなくてお仕置きだって!!」

 真顔で逆エビ固めを決めるクロエに、エマは悲鳴を上げながらタップした。

 そこへ、おでんが一家と家臣団を連れてやってきた。

「クロエ! もう行くのか?」

「長居する気はなかったからな。この国に特別大事な用事があったわけでもない」

「そうか…もし白吉っちゃんとイゾウに会ったら、よろしく言っておいてくれないか? いつでも待ってるってよ!! あと赤太郎達にもな!!」

「貴様とは同じ船の元仲間だ、善処する」

 そう言うと、クロエは逆エビ固めをやめて船に戻る。

 それを皮切りに一味の面々も船へと戻っていき、出航の時刻となる。

「者共、出航だ!!」

 クロエが号令をかけると、オーロ・ジャクソン号が港を出発。

 ワノ国の防御壁である滝の方へ向かっていく。

「クロエ!! エマ!! また遊びに来いよ!!!」

「ああ、気が向いたらな」

「…そうやって茶を濁すのよくないと思うけど?」

「リップサービス程度があいつの分相応だ」

 クロエはニヒルな笑みを浮かべ、一味を連れて大海へと流離った。

 

 

           *

 

 

 ワノ国を出航して一週間後。

 クロエは航海中にある大物海賊と遭遇し、()()からの要望に応えて一人で乗り込んだ。

「一体どういう了見だ? リンリン」

「ママママ…!! 相変わらず野犬だねェ、クロエ」

 甲板に用意されたイスに腰かけるクロエに対し、ピンク色の髪の巨体老婆が紅茶を飲みながら笑う。

 クロエが遭遇したのは、同じ五皇であるシャーロット・リンリン――〝ビッグ・マム〟だ。

 普段は「万国(トットランド)」を統治している彼女が、何と自らクロエに接触を図ったのである。

「貴様のような女が、わざわざ出向くとはな。一体何の用だ?」

「ハ~ハハハママママ……!! じゃあ単刀直入に言おうか」

 リンリンは含み笑いを漏らすと、面倒臭そうにしているクロエに本題を切り出した。

「クロエ…おめェ、おれと手を組まないかい?」

「何だと?」

 クロエはリンリンの言葉に眉を顰めた。

「昔の事は水に流そうじゃねェか。おれとお前が手を組めば、すぐにでも世界を取れる!!! 〝海賊王〟にも〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟にも興味ねェんだろ? だったら寄越しな!!! その代わり、お前とその弟分には()()()手を出さねェ」

 その言葉に、ビッグ・マム海賊団の構成員は誰もが驚いた。

 取引が「五皇同士の海賊同盟」である事も当然だが、何より傍若無人なリンリンがある程度融通を利かせている事だ。

 欲しい物は決して妥協しない天下のビッグ・マムが、クロエと彼女の弟分達には絶対に手を出さないと言い切っている。傲慢だが同時に狡猾である彼女も、海賊王の直系の海賊達全員を相手取るのは骨が折れるようで、この手を思い付いたようだ。

 しかしクロエはそれでも首を縦に振らず、むしろ睨みつけてきた。

「――それでよくこの私が動くと思ったな、リンリン」

「クロエ、おれは悪い話じゃねェと思って言ったんだ。それとも何だい? お前、大事な弟分達がどうなっても知ったこっちゃねェってのかい!? 随分と薄情な姉貴だ!! 〝赤髪〟も気の毒に…!! ママママ…!!!」

 一気に機嫌が急降下したクロエに、リンリンは薄笑いを浮かべ挑発する。

 〝鬼の女中〟の覇気を真っ向から受けてもピンピンしているその威風と胆力は流石だ。

「シャンクス達を見くびるな……この私が直々に扱いたんだ、貴様如きに後れは取らんさ。それに全て自分の思い通りになる世界など、つまらない事この上ない。――交渉決裂だ」

「そうかい……だったらおれがお前を捻り潰せばいい話だねェ…!!」

 リンリンは徐に立ち上がると、拳を握り締めて覇王色の覇気を纏った。

 その時だった。

「待ってくれ、ママ!!」

 リンリンの前に、三叉槍を片手に一人の大幹部が乱入した。

 ビッグ・マム海賊団の最高幹部「将星」の筆頭――シャーロット家の次男・カタクリだ。

「カタクリィ、手助けのつもりか!? 息子の分際で出過ぎたマネは――」

「違う!! ママが攻撃した直後、喫水線の下が〝魔弾〟に撃たれていた!!!」

『!!?』

 将星最強の男の言葉に、リンリンを含めたビッグ・マム海賊団の顔色が変わる。

 カタクリはエマの覇王色の覇気を纏った狙撃が炸裂し、クイーン・ママ・シャンテ号の船底に風穴が空く未来を視たのだ。

 いくら巨大勢力といえど、船底を大きく破損されてはひとたまりもない。しかもクロエ海賊団の組織構成上、副船長のエマの判断次第で総攻撃が始まる可能性もあり、そうなれば甚大な被害は免れない。

 つまり、クロエが素直にリンリンの声に応じたのは……。

「〝魔弾〟の見聞色も凄まじいが…ここまで読んだ上で、ママの声に応じたってのか……!?」

「一言一言のやり取りに命を賭ける()()()()()()()()()()ぐらい、私もできるさ」

「ちっ……!!」

 冷や汗を流すペロスペローに向けて不敵な笑みを浮かべるクロエに、リンリンは舌打ちする。

 クロエ海賊団はたった一隻の二十人足らずの一団だが、万単位の兵力を有する他の皇帝達と渡り合う武力を有している。それどころかあらゆる勢力を相手に白兵戦と海戦を経験している為、海賊団としての戦闘力は五皇随一とも噂されている。

 〝孤高の無双集団〟――その呼称は伊達ではない。

『ママ……』

「これだから、おれはお前が嫌いなんだよォ…!!」

「お互いに女の勘を併せ持ってるなら、鈍ってる方が悪いだけだな」

 豪胆にも冷笑しながら、クロエはイスから立ち上がって背を向けて歩き出す。

 それを止める事ができる者はおらず、リンリンは歯ぎしりしながらクロエがオーロ・ジャクソン号に戻るのを見届けるしかなかった。

「待たせたな」

「ハァ……一時はどうなるかと思ったぜ」

「しかし、その胆力は流石ね」

「私だって一端の船長だ、これぐらいできて当然さ」

 一方のオーロ・ジャクソン号では、帰還した船長を仲間達が出迎えていた。

 クロエは軽く話すと、エマに歩み寄ってハイタッチした。

「見聞色の未来視を逆手に取るとは、やるじゃないか」

「視えるからこそ、迂闊に攻撃できない。いい感じに事が運べてよかったよ」

 サムズアップするエマに、クロエは柔和な笑みを浮かべた。

 ビッグ・マム海賊団で唯一未来視を使えるカタクリは、人格者な最高幹部という事もあって発言権は大きく、母親や弟妹からの信頼も厚い。そんな彼が総崩れの可能性がチラつく未来を視たとなれば、下手に武力行使はできないだろう。

「くく…してやったりだな」

「たまにはビシッと決めないとね♪」

 ニヤリと笑うクロエに、エマもまた笑顔で応じた。

「……そういえば、副船長も30億越えの化け物なんだよな……」

「普段が普段だから忘れちまうなァ……」

「ちょっと!!」

 (アー)(オー)とエルドラゴの言葉に、エマは憤慨した。

 普段はノリの軽い楽天家であるエマの、副船長としての切れ者ぶりを垣間見た一同だった。




次回以降は、あまり触れてないネタとかやろうかなと思います。
ソルベ王国とか、オマツリ男爵とか、グラン・テゾーロとか、百獣海賊団の真打ちとか、スペード海賊団とか。
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