〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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オマツリ男爵の小説を読んで、自分なりに噛み砕いてやりましたよ。
読み返して思ったんですけど、やっぱりヤバすぎるよリリー。しかもリリーの中の人、よりにもよってビビなんだよね……。


第86話〝オマツリ男爵〟

 ソルベ王国を出航し、再び〝偉大なる航路(グランドライン)〟に突入するクロエ海賊団。

 その船長・クロエは、海王類の素潜り漁の最中に青海原を漂う一本のボトルを拾った。

 

 もし君が、

 海賊の中の、海賊の中の、海賊の中の、海賊ならば、

 信頼する仲間を連れて、この島に来るがいい。

 島の名前は、オマツリ島。

 オマツリ島は〝偉大なる航路(グランドライン)〟唯一のリゾートチックなヨロコビ島。その名の通り毎日がカーニバル。多彩なスパ&エステで癒されるのもよし。

 ナイトライフは世界の美女と琥珀色のひとときを。

 そして夕食は満漢全席フルコース。

 偉大なる航路(グランドライン)〟イチのリゾート地で極上のもてなしと癒しを。

 

「……暇潰しにどうだ?」

「清々しいくらいにいかがわしい観光案内パンフレットだね」

 「OMATSURI」と刻まれたプレートが貼られた永久指針(エターナルポース)を見せるクロエに、エマは苦笑いする。

 他の船員達も甘い言葉ばっかり並べた手紙の内容に、罠の臭いがプンプンすると若干警戒している。

「でも、行くトコないよね僕達」

「なら物資の補給がてら行きましょう。ちょうどソルベ王国で食料も結構奮発しちゃったもの」

 ヤマトとステューシーの言葉に、男性陣は唸る。

 先日のソルベ王国の一件で、かなり物資を消耗した。補給もできるし、オマケに極上のサービスと癒しもついてくる。

 このご時世にそんなうまい話があるかとも思うが、確かに予定もないしどこへ行きたいという希望もない。だったら行ってみるのも一興だろう。

 仮に何か不穏な事態が巻き起こったら、その時はその時だ。

「行くぞ。帆を全て張れ!」

 クロエは船長として命じ、オマツリ島を目指した。

 その島で、彼女は未だかつてない敵と対峙する事になる。

 

 

           *

 

 

「海賊よ! 〝偉大なる航路(グランドライン)〟を渡る勇敢な海賊よ!! よくぞこのオマツリ島に着いた!!」

 クロエ海賊団を出迎えたのは、派手な装飾を施されたゾウの背中の台座に立つ、花柄のジャケットを着た強烈な見た目の男。立派な顎ひげと左右に立った口元のカイゼルひげ、パイナップルの葉のように逆立った髪型……何より、肩に可愛らしい顔のある花が咲いている。

 名は、オマツリ男爵。オマツリ島の主との事だ。

「……」

「のう、レッドや」

「ああ……エマも気づいたか?」

「うん、意外な人が支配人になってるなんてね」

 オマツリ男爵の顔を見た途端、クロエとナグリ、レッドフィールドとエマの顔色が変わった。

 それを見たラカムは、四人の反応から何かを察しつつも、黙って様子を見守りつつ、ゾウの背中の台座から見下ろす男爵を見やる。

「長旅ご苦労!! ごゆるりと過ごされよ!! 思う存分癒されるが良い!!! ……だが!! その前に、お主らには地獄の試練を受けてもらう!!!」

「地獄の試練?」

 首を傾げるヤマトに、オマツリ男爵は説明を始める。

 地獄の試練とは、島を訪れた者達の力を試すもの。今までこの試練を乗り越えられず裸足で逃げ出していった者は数知れぬため、自分や仲間に自信が持てないのならば立ち去ってもいいとの事。

 もっとも、その海賊団は笑い者にされ続けたようだが。

「まァ、参加するよね?」

 エマが一応確認するように尋ねると、全員が頷いた。

「船長の無茶振りに比べりゃマシかもな」

「それ以外の選択肢を与えないだろう、むしろ」

「はっはっはっは!」

 ボヤくドーマとマクガイに大笑いするコル寿郎。

 彼は意外と笑い上戸かもしれない。

「フハハハ!! 全員挑戦すると言うんだな!! よかろう!! それでは地獄の試練、準備!!!」

 オマツリ男爵の宣言と共に、地獄の試練が開催された。

 

 

 オマツリ島に夜が訪れる。

 パンフレット通りの豪華な食事が振る舞われ、クロエ海賊団は()()()()()()()()()()浮かれているが、それを快く思わない者が一人。

 島の主であるオマツリ男爵だ。

「くっ…!! やはり相手がゴールド・ロジャーの元部下となれば、今まで()()()()()海賊共のようには行かんか…!!」

 オマツリ男爵は、地獄の試練でのクロエ達の力に歯噛みしていた。

 彼が行った地獄の試練は、「金魚すくい」と「輪投げ」という縁日の屋台のそれ。しかしそこは地獄と名乗るだけあり、ルールは滅茶苦茶。金魚すくいの金魚はクジラ級のデカさ、輪投げも船を壊すわ罠を仕掛けて戦線離脱させるわ何でもあり。そしてダメ押しとばかりに、オマツリ男爵は仲間達と共に口八丁手八丁にクロエ海賊団の絆をバラバラにしようと企てた。

 しかしクロエ海賊団は、お互いにミスをフォローし合っていてどうにも結束力が崩れないのだ。いつも〝餌〟にしている海賊は、そのミスで仲間割れを起こして自滅したのに、だ。これもひとえにクロエの船長としての統率力、そして副船長のエマの協調性が優れているからだろう。

 しかし、このままでは……。

「オナカスイタ!」

「――ああ、もうすぐお腹一杯にしてあげるからね」

 不気味な言葉を呟く花――リリー・カーネーションの言葉に、オマツリ男爵は優しく声をかけてから声高に叫んだ。

「晩餐は終わりじゃ!!! これより地獄の試練を再開する!!!」

「中々ハードだな、男爵。余は卿の仲間との酒盛り、クロエ達と楽しんでたのだが……」

「ムチゴロウ、ケロジイ、失礼」

「コテツ、馳走になった」

 オマツリ男爵の部下達に軽く挨拶し、クロエ海賊団は集結する。

 余裕綽々な一味の様子に怒りと憎悪が込み上げてくるが、ここはグッと堪えてアトラクションを進行する。

「各自持ち場へ!! DJ、ここへ!!」

 その言葉の後、一同の前に甲羅を背負った河童みたいな風貌の少年が現れる。

「こんばんわっプ、僕、DJガッパ」

「また珍妙なのが…」

「それにしても、本当に男爵以外は全員頭に葉っぱがあるんだど」

 デラクアヒの言葉に、全員で顔を見合う。

 そう、この島の人間はどいつもこいつも頭に葉っぱが生えている。そういう人種という可能性もゼロではないと、今までスルーしてきたが……今になってから胸騒ぎを覚えてきた。

 しかし、ここで妙な詮索をするとこの後の試練に悪影響が出るかもしれない。とりあえずは様子を見るべきだろう。

「クロエ海賊団の皆さん、よろしくっプ!」

「うん、よろしく♪」

 エマはニカッと笑いかける。

 その顔に思わずDJガッパはドキッとして、激しく鳴る心音を抑えようと胸に手を当てた。

「DJ、何を赤くなってる!?」

「ハッ!! な、ななな何でもないっプ!! ……コホン。それではこれより、地獄の試練を開始するっプ!!」

 DJガッパは気を取り直して表情を引き締めると、「SHOOTING」と書かれたネオンの看板が降りてきた。

 射的をするのか――そう思った直後、大勢の武装した葉っぱ人間達が現れた。優に100人はいるだろう。

「この試練にルールはない!! 今から100人の狙撃手達がお主らを狙う!! 逃げ切れる自信があるかな?」

「あ~……何か時間無制限っぽいね…」

「なに、食後の運動にちょうどいい」

 臨戦態勢に入るクロエは、鯉口を切って覇気を漲らせる。

 が、そこへ思わぬ事態が発生した。

「ムチゴロウ!? どうした!?」

「か…!」

 コル寿郎の切羽詰まった声に、クロエ達は振り返った。

 何とオマツリ男爵の部下の一人・ムチゴロウが倒れたのだ。それもただ倒れたのではない。体を痙攣させ、乾いた藁が擦れるような呼吸音を発し、全身と頭の葉っぱが水気を失っていってミイラみたいになり始めたのだ。

 これは試練どころではない――すぐにラカムが容態を確認するが、今まで見た事のない症例に困惑する。

「何が起こってる…!?」

「脱水や衰弱なんてもんじゃない……だが伝染病ならおれ達もなってるはず……まさか、そもそも人間じゃないのか?」

 聡明なラカムは、必死に原因を考えて推理しようとする。

 そんな彼にオマツリ男爵は弓矢を構え、狙いを定めて射ようとしたが、クロエとエマに阻まれてしまった。

「試練は一旦中断だ」

「診察中に騒ぐのは良くないよ? 支配人(オーナー)

 銃口と切っ先を向けられ、流石のオマツリ男爵も迂闊に手が出せない。そうこうしている間にも、ムチゴロウは皮だけになってしまってミイラと化してしまった。

 彼だけではない。ケロジイも、コテツも、DJガッパも、他の面々も――皆がムチゴロウと同じ末路を辿って行き、オマツリ男爵は焦り始めた。

 それを見たレッドフィールドは、目を細めて例の花を睨んだ。

「やはりその花か、レッドアローよ」

「っ……〝赤の伯爵〟、やはりわしの名を…!!」

「貴様も我も、ロジャーがいた海を生きた者だ」

「当然、わしやクロエ、エマもなのし」

 その言葉にオマツリ男爵は目を逸らすと、ナグリはある海賊団の話をし始めた。

 

 レッドアローズ海賊団。

 かつて〝赤い矢〟の二つ名で恐れられた、〝偉大なる航路(グランドライン)〟でも名うての弓取り・レッドアローが率いる一味で、強い結束力を誇る海賊団として有名だった。

 しかしロジャーがローグタウンで処刑される前、風の噂でそのレッドアローズ海賊団が嵐に巻き込まれて壊滅したと聞き、船長も船員も一人残らず海に呑まれ死んだと思われていたが……。

 

「まさか、このような形で会うとはのう…」

「ナグリ、貴様…!!」

「死んだはずの仲間、呼び寄せられる海賊達、頭に生えた謎の葉っぱ、肩に咲いてる珍妙な花……なるほど、生贄を集めてたのか」

 クロエはオマツリ男爵の真の狙いを理解した。

 彼の狙いは、死んだ仲間を復活させてその命を繋ぐ為の生贄を集める事。そしてその生贄とは、肩に咲く人語を喋る花――リリー・カーネーションの為なのだろう。

「そうだ、思い出した! 死者を復活させる事ができる「死と再生の花」という人喰い植物がこの世に存在すると、聖地の古い文献にあった。名前は確か――」

「そう、リリー・カーネーションだ」

 コル寿郎の言葉を遮り、オマツリ男爵は口を開く。

「あの嵐の夜から始まった我が孤独の日々…! 突然愛する仲間を失った我が後悔…!! 覚悟と誇りはいとも容易く打ち砕かれ、絶望に染まった!!! だがリリーが、わしの仲間を取り戻してくれた…リリーの力でムチゴロウ達は、わしの仲間は何度でも甦ってくれるのだ!!!」

「それで一輪の花に魂を売ったか……過去に縛られるな、馬鹿め」

「っ!! 貴様に何がわかる!!!」

 オマツリ男爵は憤慨して叫び、矢をクロエに向ける。

 彼女は微動だにせず、ただ真っ直ぐにオマツリ男爵を見た。

「どんなに大切に思っていても、失う時は一瞬……当たり前だ。世の中は原則不平等、どうしようもない理不尽なんていくらでも転がっている」

 クロエは琥珀の瞳で、今を生きる事ができなくなった男を見つめる。

「幻想に縋りつく痴れ者が…ここで私が引導を渡そうか?」

「っ……もうよい。試練は終わりだ! リリー!!」

「オナカスイタ!! 喰ワセロ!!」

 オマツリ男爵の肩の花――リリーはピエロのような顔で嗤った。

 直後、クロエの背後から悲鳴が聞こえた。

「わあああっ!?」

「な、何だこりゃあ!?」

「う、動けない……!!」

 ヤマトが、エルドラゴが、ステューシーが……仲間達が細い糸のようなものに絡められ、捕まってしまった。

 そのまま宙へ引き上げられ、島にそびえる山の頂上まで運ばれてしまう。

「……追え。奴らは私が引き受ける」

「――ヘマしたら承知しねェからな!」

 クロエに促され、糸から逃れられたラカム達は、攫われた仲間達を慌てて追う。

 その場に残されたのは、クロエだけとなった。

「……」

「ふふ……さァ、〝鬼の女中〟クロエ・D・リード。このわしと決闘だ」

「ケケケケケケ!!」

 オマツリ男爵とリリーは、クロエを嗤う。

 しかし、彼女は何ともないように刀の柄を握り締めた。

 売られた喧嘩は買う。申し込まれた決闘は、隔絶した力量差があろうと受けて立つ。それがクロエだから。

「お主の仲間達の命を懸けようではないか。お主が勝てば、この島にあるモノを何でも奪い尽くすが良い。だがお主が負ければ、お主らの命の全てをリリーに捧げよ!!」

「オイシソウ!! アノ女、スゴクオイシソウ!!」

「おお、いつになくリリーも嬉しそうだ……!! さぞ素晴らしい生命力に溢れてるのだろう…!!」

 怪物花と、それに魂を売った男は狂喜する。

 海賊王に付き従った、伝説の女海賊。その生命はどれ程のチカラがあるのだろうか。

 しかしクロエは、いつも通り冷静に、いつも通りの口調で言葉を発した。

「私の命は安くないぞ、オマツリ男爵…いや、レッドアロー」

「っ…!!」

 口元に笑みをたたえて話すその姿に、オマツリ男爵は気圧された。

 これが、海の皇帝の一人……海賊王が従えた女。

「〝伝説〟に挑む事がどういう意味か、この私が教えてやる。海賊の一統を率いる者としてな」

「よかろう……お主の覚悟と誇り、その全てをあの嵐の夜のように打ち砕いてくれる!! あの山の丘でな!!」

 互いに啖呵を切り、決戦の場へ移動する。

 

 生死を弄ぶ怪物花に魂を売った、九蛇の戦士顔負けの弓使いか。

 己が自由で在り続ける為に強くなった、海賊王の伝説を継ぐ女か。

 

 ここからが地獄の試練の本番。

 オマツリ男爵は過去に死んだ仲間をまた甦らせる為。クロエは今を共に生きる仲間を救う為。

 世にも悍ましい怪物花が巣食う島の頂上で、船長同士の決闘が幕を開けようとしていた。

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