コビーがアルビダ海賊団の航海士兼雑用係になったり、アラバスタで国王コブラのダンスパウダー使用疑惑が浮上する頃ですね。
最悪の世代との関わりも、段々近づいてきました。
ある無人島に辿り着いたクロエ海賊団は、そこで思わぬ人物と出会っていた。
「ぬぅんっ!!」
「フンッ!!」
アロハシャツを着た老人が、現役最強の女海賊と刃を交える。
両手に一つずつ斧を持つ
「アハハハッ!! 昔を思い出すぞ、ギャバン!!」
「益々ロジャーみてェな喧嘩好きになったなァ、クロエ!!」
「ハハハハッ!! 褒め言葉だっ!!」
少女のように無邪気な笑みで暴れるクロエに対し、ギャバンと呼ばれた老人は豪快に笑いながら斧を振るう。
そう、老人の正体はクロエやエマと同じ元ロジャー海賊団の
「〝
ギャバンは二本の斧を両腕で思いっきり振りかぶり、無数の斬撃を飛ばす。
遠くから観戦しているクロエ海賊団の面々すら寒気を覚える攻撃に、クロエは愛刀と鞘を逆手に持ち替え、武装硬化の上に覇王色を纏わせる。
「〝
クロエは目にも留まらぬ速さで刀と鞘を何度も振るい、襲い掛かる無数の斬撃を相殺。かつての仲間に五皇としての強さと貫禄を知らしめる。
すると、クロエがある事に気がついた。
「――流石だな、ギャバン。ドサマギで貴様の放った斬撃を
「何て奴だよ、お前は…!!」
ギャバンは口角を上げつつも冷や汗を掻く。
在りし日のロジャー海賊団で、当時は若輩
現役バリバリの頃の自分でも、今のクロエに正面からは勝てないだろう――ギャバンはそう直感した。
「最近はどうも私に喧嘩を売る者が少なくなってきてな、少し退屈だったんだ……嬉しいぞ、ギャバン」
クロエは気迫を高める。
勝負はこれからだと言わんばかりに覇気を漲らせ、赤黒い稲妻が迸る。
それを見たギャバンは、両手に持っていた斧から手を放した。
「降参」
「……は?」
「がはははは!! お前もそういう面できるんだな」
まさかの白旗に目を点にするクロエに、ギャバンは豪快に笑う。
冗談ではなく本当に戦う気が無いようで、次第に迸る覇気が鎮まっていった。
「……滾ってた私が馬鹿みたいじゃないか」
「
ギャバンは自前の編み笠を被り、道中合羽を羽織る。
萎えてきたクロエは化血を鞘に収め、腰布に通す。
「ギャバンさん、こっちの迷惑も考えてよ。不完全燃焼のクロエの矛先が私達に向いたらどう責任取るの?」
「他人が起こすトラブルは大好きだ!!!」
「この野郎、一遍死んでみるか」
銃口を向けるエマに、ギャバンはゲラゲラと笑う。
流石は〝海賊王の左腕〟、悪い意味でも豪快な彼の胆力は健在だ。
「……まァ、お前ら二人の元気な姿が見れて何よりだ。またな、クロエ、エマ」
ギャバンはそう言うと、そのまま島から去っていった。
その背中を見送ったクロエとエマの二人は、同時に困ったように笑うと、ラカムが声を掛けた。
「おい、〝山喰らい〟が手配書置いてったぞ」
『?』
一同はギャバンの置き土産である手配書に注目。
それは、ここ最近になって現れた新世代の海賊達だ。
華やかな見た目をした、元ブルジョア王国王子のキャベンディッシュ。
民間人にも多大な被害を与えながら悪名を轟かせ暴れ回る、〝
残忍な海賊として名を通す、〝
クロエと同じ〝
海賊の世界中でも注目される若手の台頭は、時代のうねりを感じさせた。
――面構えの良い若造共が海へ出たようだな。
――減らず口で腕力だけの能無しかもしれねェがな。
――いつかはおれ達の首を取りに来るのか?
――それ貧乏くじだろ!!
船員達は口々に手配書の顔写真に写る若者達について語り合う。
そんな中、クロエは一人の海賊の手配書を手に取り、静かに笑っていた。
「母さん、誰の手配書?」
「…………ほう、ロジャーやクロエと同じ〝D〟か」
「ポートガス・D・エース……今の若手ん中じゃあ一線を画している奴だな」
ヤマトやレッドフィールド、ラカムがクロエの持つ手配書の写真を覗く。
ポートガス・D・エース。世間では〝
そんな彼の手配写真を、クロエは懐かしげに見つめる。
「フフ……ますますロジャーそっくりじゃないか」
「……クロエ、今とんでもない事言ってない?」
聞き逃せない発言を拾ったエマは、どういう事だと訊くと……。
「そうか、お前達は会ってないのか。――エースはロジャーの息子だぞ?」
『……ええェーーーーーーーー!!?』
クロエの爆弾発言に、一同は驚愕するのだった。
*
ある冬島の洞窟。
五皇・赤髪海賊団は噂のスペード海賊団を歓迎する宴を開いていた。
理由は簡単――船長エースがシャンクス達の友人であるルフィの義兄だからだ。
「だっはっはっは!! そうか、ルフィは山賊に預けられてるのか!!」
「シャンクス、それ笑えるところ?」
「心配すんな、ウタ。あいつの祖父のガープが信頼してるって事は、
エースが手土産に持ってきた
ベックマンをはじめとした幹部達も、フーシャ村の出来事をしみじみ思い返す。
「麦わら帽子は、まだ持ってたか?」
シャンクスの問いに、エースは酒を呷りながら頷いて答えた。
「ええ。クロエのコーヒーミルと同じ、命よりも大事だって」
「…………ん?」
目を細めながら酒を飲もうとして、ふと固まった。
幹部達も、ウタも、他の船員達も目をパチクリとさせた。
――誰のコーヒーミル、だって?
「……クロエ姉さんの、コーヒーミル?」
「何でも、昔コーヒーの淹れ方を教わったようで。別れ際にくれたって自慢してましたよ。今でもコーヒー作ってますよ」
「何ィ!? あんのクソガキィ…!!」
エースから伝えられたルフィとクロエの関係に、シャンクスは大人げなく憤慨。ロジャー海賊団時代から可愛がられている事を棚に上げて、である。
「ギャハハハ!! お頭、ルフィに嫉妬するなよ!!」
「そうだぜ!! ウタと年は近くても、まだまだ
「うるせー!! 弟分のおれでも姉さんは私物譲ってくれた事ねェんだぞ!!! ムカつくに決まってんだろ!!!」
仲間達からの茶化しにもシャンクスは酔っ払いながら自棄酒を始め、これにはエース達も呆れたように笑う。
すると、副船長のベックマンがタバコの紫煙を燻らせながら問い掛けた。
「それで? ここまで来たって事は、狙いは海賊王の座か?」
「いや……海賊王に興味ねェんだ、ルフィと違って」
「なら、なぜ海に出た」
「十七になったら海に出ると決めてたが、あとはわからねェ……海で見つけるつもりだったかも。あァ、でもおれの名を世界に轟かせるってのは決めてた」
エースの答えに、ベックマンは「名声か」と呟いた。
しかし、名声という観点では海賊王という称号は避けて通れないはず。海賊王を目指さずに名声を上げるとすれば……例の五人の皇帝達の首だろう。
「五皇を崩す気か?」
「……あ、いやいや。流石にあんたの首を狙うってわけじゃねェ。仁義は通したし、何よりあんたは弟の命の恩人、そっちの姉ちゃんは弟の幼馴染だ」
「はっはっは!」
エースの回答にシャンクスが笑うと、不穏になった宴の空気が和んだ。
ウタも義理とはいえ
「それはよかった。……雰囲気的におれじゃないなら、カイドウか? ビッグ・マムか? それとも白ひげか?」
「クロエだ」
その言葉に、赤髪海賊団は一斉にエースを見た。
――おいおい、正気か?
――…ちょっと早すぎねェか?
――まだ白ひげの方が笑えたぞ……。
陽気に笑うどころか、顔を強張らせる歴戦の幹部達に、エースは訝しむ。
「…………本気か?」
エースの宣言に、シャンクスは引き攣った笑みで問う。
それに続くように、ウタがエースに耳打ちした。
「ちょっと、バカにしないからクロエおばさんはやめといた方がいいって!!」
「やっぱり不義理か?」
「義理とか不義理とか、そういう問題じゃないの!! 本当にお兄さんの一味が壊滅しちゃうよ!? シャンクスだっておばさんには一度も勝った事ないんだよ!?」
「ウタ、おれの前で言わないでくれ……」
ウタの暴露に、シャンクスは気まずそうに顔を逸した。
そんなやり取りに、エースは首を傾げる。
「……どれくらい
「強いなんてもんじゃない。――化け物だ。ロジャー船長以外でこの世にクロエ姉さんに勝てるとすれば、カイドウぐらいだろうな……白ひげには悪いが、この海で最強の海賊はクロエ姉さんだとおれは思う」
シャンクスは笑いつつも、真剣な声色で告げた。
それは暗に、あの大海賊時代の頂点として名を轟かす伝説〝白ひげ〟ですら、クロエとの戦いでは敗北を喫するだろうと示唆しているも同然だった。
ざわつき始めるスペード海賊団に、シャンクスはアドバイスをした。
「……クロエ姉さんは
「へェ……二度目は?」
「その時は……お前一人の命じゃ済まないと思った方がいい」
その一言が、スペード海賊団の不安を煽る。
しかしエースは不敵な笑みを浮かべた。むしろ漠然としていた決心が固まったのか、強い眼差しになってシャンクスに告げた。
「構わねェ。おれの敵は世界の全てだ。七武海も五皇も天竜人も……あらゆる〝高み〟を崩す。この炎で……おれの名を旗に掲げて」
――
シャンクスは黙ってエースの話を聞いていた。言わせるだけ言わせてやろう、と。
同時に気掛かりであった。エースの瞳の奥で滾った、ほの
「――その次は白ひげだ」
「もう決めてるのか?」
「前々からクロエは真っ先に倒したかった。白ひげは新世界に入ろうと最初に立ちはだかった。それだけさ」
「……燃やしたのか?」
シャンクスの問いに、エースは「さて、ね」とだけ返した。
そう、エースは魚人島に立ち寄った際に白ひげ海賊団の海賊旗を燃やしている。それが何を意味しているかを承知の上で、炎の如き野心を滾らせながら。
――お前が父親の名前の重さに押し潰されるかどうか、見届けさせてもらう。
幼き日に会ったクロエが、自分に告げた言葉。
常に「生きる意味」に拘り続ける子供の業を、取るに足らない些事だと一蹴した〝高み〟に君臨する女の一言が、エースの指針となった。
世界中の人間を大海賊になって見返す為に、クロエは是が非でも倒さねばならないのだ。
「……まァ、おれが口を出す事でもねェが」
焚火の薪が、パンッと弾けた。
酒が尽きたところで宴はお開きとなり、赤髪海賊団はエースの帆船――ピース・オブ・スパディル号を見送った。
「あれがルフィのお兄さんか……」
「気になるか? ウタ」
「何て言うか……思ったよりナイーブかな? 海賊らしくないって感じ」
真っ直ぐな所感を述べるウタに、シャンクス達は唸る。
海賊王と冒険に興味はなく、七武海として海賊を狩るでもなく、海兵として民衆のヒーローになるでもない。海賊というよりも〝闘士〟のそれで、革命軍にでも身を投じた方が、それらしい。
愛する娘の言葉は、中々に的を射ていた。女の勘、というヤツなのだろう。
「――自分で自分の居場所を狭めている。今のままじゃ、せいぜい船一隻の船長どまりだろう」
聡明な副船長は、エースという青年に対し、それ以上の器は見出せなかった。
火は、薪があれば点く。しかし炎は、それだけでは燃えない。火のないところに火を起こして、野山を焼き、辺りを燃やし尽くせば――火事は収まってしまう。その後の事を、エースは果たしてどうするつもりなのか。
「七武海を蹴ったルーキーというから、どれ程かと思ったが……ありゃあ、よくいる勘違いクンじゃないのか?」
「
「あれが七武海の器かどうかも怪しいな」
ヤソップとライムジュース、ホンゴウはそう評した。
身体を自然物そのものに変化させる性質の為、あらゆる物理攻撃をすり抜ける事が可能になる
だが、その勘違いクンを世界政府が――五老星やセンゴクが見込んだとすると、また話が変わってくる。そこがシャンクスが腑に落ちない点だった。
「ただの
通常、懸賞金は3億ベリーを超えてくると滅多な事では懸賞金は上がらなくなる。逆を言えば、それでも大幅に増額されたのであれば、その賞金首は世界政府にとってとんでもない大事件を引き起こしたか特定の組織に入って悪逆の限りを尽くしたかのどちらかになる。
エースは確かに大暴れしているが、民間人へ危害を加えたり、それこそクロエのように天竜人を殺したりしてもいない。七武海を蹴った結果懸賞金が跳ね上がった事ぐらいだ。しかし、今のエースは5億以上の懸賞金が懸けられている。世界政府を袖にしたとはいえ、それだけで懸賞金が跳ね上がるのは不自然だ。
――何か他の事情があり、それ故に世界政府は七武海として囲い込もうとしたのではないのか。
「……とりあえず、連絡は入れておくか」
シャンクスは立ち上がる。
渡世の礼儀として、姉貴分と白ひげに伝えねばならない。これから、そちらに行くかもしれないポートガス・D・エースという海賊は、赤髪海賊団とは縁もゆかりもありません、と。
新世界を支配する五皇同士の衝突は、世界を揺るがす大事件になる。あらかじめ、争いの芽は摘んでおかねばならなかった。
エースとしても一宿一飯の恩義を受けた以上、赤髪海賊団の領海内は大人しくしている。言い方を変えれば、一歩でも白ひげの領海に入ればたちまち血の雨が降り、クロエと鉢合わせすれば全面対決になるだろう。
「……〝
赤髪の大海賊は、伝説二人と対決姿勢を明確にした新星の生まれ故郷の名を反芻するのだった。
時同じくして。
白い鯨を模した船首の巨艦――モビー・ディック号の甲板で、船の主が酒をグビグビ飲みながら新聞を眺めていた。
エドワード・ニューゲート……世に言う世界最強の男〝白ひげ〟である。
「グラララ……威勢のいいガキがいやがる。あの聞かん坊なじゃじゃ馬が気に入りそうだ」
「七武海の勧誘を蹴ったそうで」
愉快そうに笑う白ひげの傍で、料理人である四番隊隊長のサッチが口を開く。
海軍本部中将を返り討ちにし、七武海の一角を落としたルーキー。まさに破竹の勢いで海を駆けあがっており、他の海で名を上げ始めた若い海賊達の中では別格と言っていいだろう。
「こいつら何年目だ?
「確かに……。それとオヤジ、いい加減酒を控えねェと身体壊すよい」
「バカ野郎、飲みてェもん飲んで身体に
船医として
海の王者も、齢七十になろうかという老境。酒量を制限するよう言われる程に老い衰えており、不承不承に薬を服用する日々だ。お前らはおれのおふくろかよ、と何回愚痴った事か。
しかし、白ひげの命は彼一人のものではない。広大な
なお、酒は好物なので別としている。
「しかし……こいつは一体何を考えてるんだか」
「ああ……警戒はしといた方がいいな」
古株である
七武海の勧誘を蹴って新世界を目指すような輩は、何をしでかすかわかったものではない。それに新参のルーキーも含めて五皇の支配を良しとしない海賊も存在し、大っぴらに組んではいないが切り崩しを仕掛けてくる。エースという若造の勢いを利用し、白ひげの領海を奪い取る火事場泥棒も出てくる可能性もあるのだ。
だからこそ、油断してはならないのだ。驕る王者は足を掬われるのだ。
「まァ、なるようになるだろ」
白い三日月のひげをさすり、世界最強の男は新聞を閉じた。
後日、彼は久しぶりに頭を悩ませる事態に直面するのだが、この時はまだ知る由も無かった。
次回、ついにクロエとエースが……!
結果は見えてるんですけどね。(笑)