〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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お待たせしました!
ついにロジャーとクロエのタイマン勝負です!

地上波の「STAMPEDE」を生で見ましたが、やはり面白かったです。


第9話〝ロジャーとクロエ〟

 翌日。

 あれよあれよと傷の手当てをさせ、食事まで振る舞われたクロエは、ついにロジャーとの一騎打ちをすることとなった。

「わははは! 待たせたなクロエ!」

「……早くやるぞ」

「そう急かすなって、逃げやしねェよ」

 満面の笑みのロジャーに対し、露骨に面倒臭そうな顔をするクロエ。

 温度差が激しすぎる。

「ロジャー。仮にもクロエは9億6000万ベリーの賞金首で、覇王色を纏えるんだ。……油断するなよ」

「わかってるっての!」

「9億6000万ベリー……」

 相棒である副船長のシルバーズ・レイリーの口から出た情報に、クロエは暢気に「いつの間に上がってたんだ……」と呟いた。

「うっし……そんじゃあ、いっちょやるか!! クロエ、おれが勝ったら仲間になれ!! お前が勝ったら……何かくれてやる!!」

「何も考えてなかっただろう、貴様」

 額に血管を浮かべるクロエだが、彼女自身はここでトンズラするつもりはなかった。あの間抜け面に渾身の一撃を叩き込み、水切りの石のように地平線まで吹っ飛ばさなければ気が済まないからだ。

 対するロジャーは、女だてらにバレットと真っ向勝負で渡り合い、ダウンを奪った程の技量を持つルーキー海賊に戦意を高揚させていた。自分にとって娘くらいの年齢の女が、破竹の進撃で海を駆け抜けてると知り、いつかは戦ってみたいと心底願っていたからだ。

「……始めていいのか」

「おう!! いつでも来い!!」

 ロジャーがそう言った瞬間、クロエは地面を蹴って化血を抜刀。赤い刃を、下段から弧を描くように斬り上げた。

 ロジャーはバックステップで回避すると、すかさず愛刀エースを抜いて斬りかかる。クロエは紙一重で躱し、化血に武装色の覇気を纏わせて振るった。

 

 ドォン!!

 

 二人の刃が交わった途端、凄まじい衝撃が轟き、黒い稲妻が暴発して周囲を吹き飛ばし始めた。覇王色の覚醒者同士がぶつかり合うことで生じる「覇王色の衝突」だ。

「ガープやゼファーと戦ったとは聞いたが……ここまでとはな」

 涼しげな表情でクロエを評価するレイリー。

 一方、鍔迫り合いをしているクロエは、ロジャーに押されていた。

「うっ……くうっ……!!」

 歯を食いしばって、眼前で笑みを溢す相手を睨む。

 真っ向勝負で食らいつくクロエに、ロジャーは嬉しそうに口を開いた。

「中々強い覇気だな、バレットからダウン取れるわけだ」

「っ……このっ……!!」

「だがおれの方が格段に(つえ)ェぜ!!」

 ロジャーは強引に押し切って、クロエの体勢を崩した。

 一瞬の隙を突き、拳を武装硬化させて鳩尾に狙いを定める。

 

 ズンッ

 

「ぐっ……!!」

 クロエは覇気でガードするが、ロジャーの覇気はそれを崩した。

 ミシリと嫌な音が聞こえ、その衝撃に思わず吐きそうになる。

「どうだ? 寝覚めにゃあちょうどいいだろ」

 ニヤッと笑うロジャーを、クロエはキッ! と物凄い目つきで睨みつける。

 どこからか「野犬の眼だ……」という呟きがした。

(私よりも強大な覇気……バレットとは比べ物にならない。覇気だけでは厳しいか)

 ――ロジャーを上回るには、覇気だけでは無理だ。

 純粋な覇気の強さや地力では不利と判断し、クロエは刀を構え直すと刀身に覇気を流す。

 短期決戦が望ましいが、覇気は消耗する代物(チカラ)。ひとまずは高度な武装色で、体勢を立て直す事にした。

 クロエの覇気が変化した事を察知したのか、ロジャーは口角を上げると、一旦後ろに下がって飛ぶ斬撃の連撃を繰り出す。

 クロエは斬撃を捌きながら距離を詰めると、そのまま足を武装硬化させて跳び蹴りを見舞った。

 

 ドンッ!

 

「ぐおっ……!?」

 ロジャーは覇気でガードしたが、その直後に八衝拳の衝撃が伝導してたじろいだ。

 八衝拳は覇気とは別の内部破壊攻撃であり、防具を破砕して貫通する衝撃を防ぐことは不可能。その道を極めたチンジャオから指南を受けたクロエの一撃は、ロジャーに対して決定打には至らずとも隙を与えるには十分だ。

 すかさず空いた左手で拳を作り、八衝拳の衝撃をロジャーの脇腹を殴った。

「がっ……!」

 相手がどんな怪物(バケモノ)でも、人の子だ。人体急所の一つである肝臓を叩かれれば、いかに頑丈な肉体でも()()は必ず発生する。

 的確な打撃と衝撃を打ち込まれ、ロジャーの顔が歪む。

 クロエはすかさず追撃。アッパーで顎を穿って完全な無防備状態にさせ、刀身に覇気を纏わせて一閃した。

「〝神威〟!!」

 斬撃は覇気を纏い、衝撃を伴いながらロジャーを吹き飛ばし、地面に叩きつけた。

 クロエは体力を温存させるため、息を整え様子を伺った。

「――わははははっ! 楽しくなってきやがった」

 無傷という訳ではないだろうが、ロジャーはダメージを悟らせない。

 すると彼は、覇気を漲らせて本気を解放した。

「行くぞクロエ!」

 ロジャーは愛刀を構えた。

「〝(かむ)(さり)〟!!!」

 横薙ぎに一閃し、覇気を纏わせた一撃を放つ。

 クロエは悠然と立ったまま刀の切っ先を少し下げると、刀身に覇気を流した。

「――〝(かん)(なぎ)〟」

 

 ドパァン!!

 

「ぬっ!?」

「ロジャー船長の斬撃が……!!」

「真っ二つになった!?」

 微動だにしないクロエに届く寸前に、ロジャーが放った斬撃が真っ二つに分かれた。

 片方は海へ、もう片方は森へと消えていき、轟音を立てる。

(〝()()()()()()()()()!! 剣の腕はおれより上か?)

 ロジャーはこの目ではっきりと見た。

 クロエの刃が赤黒い稲妻を帯び、一振りで両断した瞬間を。

「……最高じゃねェか!!」

 ロジャーは笑う。

 受け流し捌くだけでなく、向かってくる攻撃そのものを斬る……味なマネをするものだ。

 だが、笑うのは一人ではなかった。

「……ハハッ」

「!」

 クロエもまた、生き生きと好戦的に笑っていた。

 あれ程面倒臭そうな態度と表情をしていたのに、戦場と化したこの場の影響か、今では嬉々とした様子だ。

 ……何者にも縛られず自由に暴れる事に、酔いしれ始めていた。

「――アハハッ!! アッハッハッハッハッ!!」

『!?』

 クロエは大きな声を上げて笑った。おもちゃを買ってもらって喜ぶ幼女のように。

 それに釣られ、ロジャーも大笑いした。

「わははははは!!」

「アハハハハハ!!」

 刹那、二人は笑いながら得物に覇気を流し、剣戟を繰り広げた。

 赤黒い稲妻が迸り、衝撃波が駆け巡る。

 何度も、何度も、剣刃が激突して覇気が拡散し、周囲を破壊していく。

 すでにロジャー海賊団の面々は退避しており、遠くから二人の戦いを見守っている。

「……随分楽しそうだな、二人共」

 レイリーのその呟きは、ドツキ合う二人には届かなかった。

 

 

           *

 

 

 一時間後。

「ハァ……ハァ……」

「わははは、さっきまでいい顔してたってのにどうした? いつもの仏頂面に戻りやがって」

 片膝をついて荒い呼吸を繰り返すクロエ。口元からは血が滴り落ち、頬やこめかみも切ったのか血が流れている。

 対するロジャーも、切り傷こそいくつか入っているが、余力は十二分に残っている。

 一時的には互角でも、持久戦になるとやはり地力で圧倒され、窮地に追い込まれた。覇気もかなり消耗しており、あと数分戦えるか否かという状況だ。

 このままロジャーに従うか、ロジャーを薙ぎ倒していつもの自由気ままな航海に戻るか……あと一撃で、クロエの運命は左右するだろう。

 もし、どの道敗けるとするのならば――華を咲かせて豪快に散る方が、後悔はないはずだ。

 

 バリバリィ!!

 

「!!」

 クロエの全身から、赤黒い稲妻が放たれる。

 満身創痍の彼女の覇気の高まりに、ロジャーは震えた。

「覇王色っ……!」

 ロジャーは予感した。次の一撃が、クロエの最後の一発――正真正銘、全身全霊の一太刀だと。

「私の自由を阻むなら……是が非でも叩き潰すぞ!! ()()()()()()()()!!」

「――上等だ!! かかって来い、クロエ!!!」

 己に言い聞かせるように叫ぶクロエに、ロジャーは興奮のままに叫んだ。

 直後、ドズンッ! と一歩前へ踏み込んだクロエの足が地面を割った。ロジャーもまた、愛刀に覇王色を纏わせ、本気の一太刀を繰り出す。

「散れ!!」

 クロエは地面を蹴って猛進。

 一気に距離を詰め、極悪人のような笑みを浮かべるロジャーに迫る。

「ぬゥああああ!!」

 ロジャーは両手持ちで愛刀を振り下ろす。

 互いに覇王色を纏った上での一撃で、真っ向から打ち破らんとする。

 ――それをクロエは待っていた。

(ここだ!!)

 目と鼻の先まで迫った瞬間、刀を逆手に持ち替え、ロジャーの一撃を柄頭で受けて弾き返した。

「何っ!?」

 体勢を崩したロジャーはよろめき、その隙を突いてクロエは平突きの構えを取った。

 

「〝錐龍(きりゅう)(きり)(くぎ)〟!!!」

 

 クロエ渾身の技は、八衝拳の奥義だった。

 本来この名は、八衝拳の奥義を極め、氷の大陸を割る力を得た者に与えられる最強の称号。

 クロエは刀を使って衝撃を地面に伝導させるなどの昇華こそすれど、八衝拳を極めても継承もしていない。ただ、強くなる為に会得したに過ぎない。

 それでもこの名を冠したのは、自分を拾った男であり、戦場であるこの海で生き抜くチカラを教えた恩師・チンジャオへの敬意だった。

 

「私の勝ちだ、ロジャーァァァァ!!!」

 クロエにとっての最強の一撃を、ロジャーの腹へぶつけた。

 次の瞬間!

 

 ズドォン!!

 

「「ぐあああっ!?」」

 刀の切っ先が腹に触れた瞬間、凄まじい衝撃が爆散してクロエは吹っ飛んだ。

 ロジャーもまた、弾丸のように吹き飛んで岩盤を割り、膨大な土煙の仲へと消えた。

「船長!!」

「ロジャー!?」

 無敵の船長が、まさか――!?

 一味の船員達は、ぶっ飛んでいったロジャーが心配で仕方がなかった。

 対するクロエはというと、先程の覇気の暴発によって全身を強打してしまい、息も上がっているため満身創痍だ。

「私の、勝ちだ……!!」

 クロエは勝利を確信した。

 覇王色と武装色を合わせた渾身の平突き。咄嗟に覇気で防御しても、自分にとっての最速の一撃には指一本動かせないだろう。

 そう、これが並大抵の相手なら一撃で屠ったし、バレットでも戦闘不能(ノックダウン)に追い込めた。

 だが……ロジャーは違った。

「――流石に効いたぜ……」

「……!?」

「覇気を全身に纏ってなきゃ、ヤバかったな」

 立ち込めた土煙が、相手の覇気で払われる。

 ロジャーは、立っていた。血を流して深手を負っているが、それでも今のクロエを屠るぐらいは可能だろう。

(そんな……錐龍錐釘(あれ)を真っ向から受けても、まだ……!?)

 全身全霊の一撃を受けてなおも笑うロジャーに、クロエは心が折れそうになる。

 自分は消耗しきっていて、気力でどうにか立っている状態。対するロジャーは、深手であるのは明白だが、余力はまだ残っていた。

 勝機は、ほぼ無い。

「……せめて、もう一発……!」

 残された気力を振り絞り、立ち上がって刀を構えるクロエだったが……。

 

 ドサッ……

 

「う……」

 崩れるように仰向けに倒れた。

 身体は悲鳴を上げており、とうに限界を迎えていたのだ。

 認めたくないし、信じたくないが、受け入れるしかない。

 ――クロエ・D・リードが、ゴール・D・ロジャーに完敗した現実を。

「わははは……! おれの勝ちだな、クロエ……!」

 ロジャーの勝利で、戦いは終わった。

 だが、船員達は気が気じゃなかった。

「船長、大丈夫!?」

「ああ、これくらい屁でもねェ」

「随分と派手にやられたな……」

 仲間達が駆けつけ、相変わらず大笑いするロジャーに集う。

 若輩から古株まで、皆が心配そうに船長に声をかけ、手当てをする。

 そんな中、一人だけクロエの元へ近寄る者がいた。

「……バレット……」

「派手にやられたな、ざまァねェ」

 バレットだった。

 ロジャーと強者以外に一切興味を示さない男が、敗北者の傍に向かうとは。

 船員達は目を瞠り――ロジャーだけはニヤニヤとした顔で――そのやり取りを見届けた。

「……お前、一人で海賊やってたらしいな」

「……」

「己のみを信じ、ひとりで生き抜く断固たる覚悟にこそ、無敵の強さが宿る。てめェもそう思ってたんじゃねェのか」

「……違う……一人でやるのが、性に合っただけだ……」

 クロエの言葉に、バレットは一瞬目を見開くと、拍子抜けと言わんばかりの表情で「そうか」と呟いた。

 そこへ、ロジャーが声をかけた。

「クロエ……おめェは間違いなく(つえ)ェ。おれァ、ヒヤリとしたぜ」

 それは、紛れもない本心だった。

 多くのライバル達と激闘を繰り広げてきたロジャーにとって、クロエの強さは想像を超えていた。嬉しい意味で裏切られ、必死に食らいつくその姿に感動すら覚えた。

 十代の小娘にしては、大健闘だ。

「……そうか……私の負けだ……好きにすればいい……」

 朗らかな表情のロジャーを見つめ、敗北を認めながらクロエは気絶した。

「……一応訊くが、ロジャー。彼女をどうする?」

 副船長のレイリーが尋ねると、ロジャーは迷いなく答えた。

「連れてくに決まってんだろ!」

 

 

           *

 

 

 オーロ・ジャクソン号。

 この海で名を轟かすロジャー海賊団の帆船だ。

 その甲板にて、ロジャーはバシバシとクロエの肩を叩いていた。

「おい、元気出せよ!! 誰だって負ける時ゃ負けるんだよ!!」

「……黙れ。誰のせいでこうなったと思ってる」

 重い空気を纏い、胡坐をかいてションボリするクロエ。

 言葉の覇気が無い。レイリー達は顔を見合わせ「こりゃあ重症だな」と苦笑い。

 彼女にとって、半端な情けをかけられるのも嫌だが、他者に従わされるのはもっと嫌であるのだ。しかしこの世界は前世と違って強さが全てで、その強さでロジャーに負けたのだ。

 それに「好きにすればいい」と言ったのは自分だ。自分の言ったことには責任を持つのが道理であり、撤回などという恥知らずなマネなどしたくもない。

 故にクロエは、ロジャーの部下として生きていく事を選んだ。幸いにも船内のルールとしては、堅気への手出しの禁止さえ守れば基本的に自由らしいので、そこまで苦にはならなそうだ。

「なァ、クロエ!! 船長、スッゲェ強かっただろ!?」

 そう言って飛びついて来たのは、麦わら帽子を被った赤髪の少年。

 満面の笑みを浮かべるその姿は、ロジャーと似ている。

「……お前は」

「おれはシャンクス!! よろしくな!! あとこっちの赤鼻はバギーだ!!」

「誰が真っ赤な鼻だコラァ!!!」

 ニシシと笑う見習い海賊に、クロエは目を細めた。

 自分よりも遥かに弱いが、この子供は()()()()()()()()――そう感じ取り、クロエは興味を持ちつつも素っ気なく「よろしく」と一言返した。

 すると、今度はバレットが声をかけた。

「おい、クロエ。おれはてめェとの決着も済んでねェ。決闘しろ」

 ロジャーだけでなく、クロエとの決闘も所望するバレットに、船員達は驚愕した。

 そもそもバレットは、ロジャーの強さの秘密を知り、そして倒す為に船に乗った男。まだ加入して間もない為に仲間意識も希薄で、他の船員とは副船長相手でも必要最低限のコミュニケーションしか取らない。そんな彼がロジャー以外の他者に興味を持つなど、夢にも思わなかったのだ。

 バレットは目を細めてクロエの回答を待っていると――

「……今はそういう気分じゃない。そこの間抜け面に相手してもらえ」

「誰が間抜け面だ!!」

「いや、時々そうなるだろう。特に宴の最中」

「レイリー!?」

 長年の相棒の容赦ないツッコミに、船員達は爆笑した。

(……とんだ貧乏くじを引いた)

 顔を背け、果てしない海へ目を向ける。

 クロエは海賊団に属するのはこれで二度目だが、前と比較すると非常に温く感じた。

 チンジャオ率いる八宝水軍は、数百年の伝統と歴史もあり、武を生業にしているので屈強な男衆をまとめ上げる棟梁の威圧と貫禄を常に放っていた。

 それに対しロジャー海賊団は、上下関係こそあれどお気楽にも程がある。特に船長は威厳とは程遠い仕草や態度を隠す様子もなく晒し、それを見て部下が笑っている。これでよく組織統制がガタガタにならないものだと、正直思った。

(……まあ、嫌いじゃないが)

 ――前世と比べれば遥かにマシだ。

 間抜け面(ロジャー)に完敗した自分自身に呆れたように、でもどこか楽しそうに、クロエは微笑んだ。

 その笑顔をロジャーだけは捉え、誰にも言いふらさずに彼も笑った。

 

 

           *

 

 

 ゴールド・ロジャーが〝神殺しのクロエ〟を軍門に下した。

 

 そのニュースは世界中の人々をあっと驚かせ、海軍本部を大きく揺るがせた。

「くっ!! ロジャーめ、また面倒な奴を部下に……!!」

「ぶわっはっはっはっは!! まあ、ロジャーじゃなきゃできんマネだな!!」

「笑い事か、ガープ!!」

 元帥室でコング元帥は頭を抱え、ガープは爆笑し、それをセンゴクが怒鳴り散らした。

 世間では気性の荒い海賊だと認識され、神をも恐れぬ大逆を犯した危険人物として指名手配されているクロエが、ロジャー海賊団の一員となった。

 自由であることにこだわり続け、それを阻む者は誰だろうと牙を剥く女海賊が、なぜゴールド・ロジャーに従うことになったのか。肝心な二人のやり取りに関する情報は少ないため、想像する他ない。

 とにかくロジャーの部下になった以上、海軍もおいそれと手出しできない。ただでさえ一国を滅ぼしたダグラス・バレットがロジャーの部下になったばかりなのに、追い打ちをかけるように〝D〟の名を持つ海賊が従うという、政府としても好ましくない状況だ。

「今の戦力でロジャーと真面にやり合えるのは、おれとその同期ぐらいだ。下手に相手取って兵を失えば、それこそ面目丸潰れだぞ」

「……そうだな。ひとまず手配書の更新だ。話はそれからにするぞ」

 コングは緑茶を飲み干し、そう命令したのだった。

 

 

 翌日、とある海域。

 ロジャーはニヤニヤしながら、新聞の一面と手配書をクロエに見せつけていた。

「――〝鬼の女中〟クロエ・D・リードだとよ!!」

「懸賞金10億9600万ベリー……お前に負けたのに懸賞金が上がるのか……?」

 大笑いするロジャーに、クロエはジト目で新聞と手配書の顔写真を見るが、一体どこで取られた写真だろうかと思わず首を傾げたくなる。

 しかし十億越えの懸賞金をかけられている賞金首は、世間一般では「怪物」と称されている連中ばかり。実力も世界トップクラスの領域であり、そこに至った自分に少し嬉しくなった。

「そういうバレットも懸賞金上がってたぜ、船長」

「おお、そうか!! 見せてみろ!!」

 古株のスコッパー・ギャバンの声に反応するロジャー。

 その手に握ったバレットの手配書を分捕り、目を通す。

「ダグラス・バレット……懸賞金11億4000万ベリーか」

「わははは、バレットが一歩リードってところか!」

「……ダウンを取ったのは私だぞ」

 不満気な表情を浮かべ、ふとバレットを見やった。

「……カハハハ」

「っ……!」

 どこか愉快そうに笑うバレットに、キレそうになるクロエ。

 ――こいつ、完全に舐め腐ってる!

「何だ、決闘する気になったか?」

「ああ、少し癪に障ったからな」

「おうおう、やるんならもっと広いところにしようぜ!!」

 一触即発の空気に、ロジャーは止めるどころか場を用意してやると煽り立て、他の船員達も「どっちに賭ける?」「引き分けじゃねェか?」と賭け事の話を持ち出してきた。

 この船の人間は、誰も彼も自由すぎる。

「誰も止めないのか……」

 船全体の空気が、バレットとクロエの喧嘩を楽しみにしている。

 収拾がつかなくなって頭を抱えてしまうレイリーだが、ロジャーは笑顔で言い放った。

「なァ、相棒」

「何だ?」

「おれの思った通りだった。バレットが生き生きしてる」

「!」

 不敵に笑うバレットと、その顔を睨み殺す勢いで見るクロエ。

 とんでもない問題児を乗せたもんだと思っていたが、この二人はどうも波長が合うらしい。

 お互い一人海賊だったからか、同じ男(ロジャー)に負けた者同士だからか、それとも……。

 そこまで思って、ハッと気づいた。

「ロジャー、お前まさか……!?」

「……フッ」

 いつも通りに笑うロジャーに、レイリーはクロエを乗せた意味を悟った。

 バレットには自分の思い・強さと向き合い、その全てを受け止めてくれる存在だけじゃなく、()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。そして理解者の役目を担えるのは、バレットと同じ一人海賊をしてきたクロエしかいない。

 ロジャーにも、ロジャーなりの考えがあったのだ。

「……さァ、野郎共!! 二人の喧嘩を肴に宴の準備だ!!!」

「……そうだな」

 バチバチと火花を散らすバレットとクロエに、レイリーは表情を綻ばせたのだった。




ちなみに、バレットとクロエは互いに愛想が無いので「仏頂面カップル」「無愛想コンビ」とか呼ばれます。

次回からはロジャー海賊団の面々と色々したり、伝説達とドンパチしたりします。
そういやあ、バレットが解散までロジャー海賊団にいたら、本気でロジャーとタメ張れそうな気がします。
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