〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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アニメでのシャムロックはやっぱり池田さんにするんかな……。


第92話〝フィガーランド・シャムロック〟

 新世界、廃城のある島。

 キャンプ中のクロエ海賊団は、暇潰しにと組手に興じていた。

「ハァァァ!!」

「るおおおっ!!」

 覇気の稲妻を迸らせ、ヤマトとラカムはぶつかり合う。

 金棒「建」と戦鎚「衝角」が激突し、空気が割れ、衝撃が地面を抉る。

「〝馬幻刃(まほろば)〟!!」

 冷気を纏わせた建で、ヤマトは横から殴りつける。

 ラカムはそれを武装硬化した左腕で受け止めると、思いっきり足を振り上げた。

 

 ドシュッ!

 

「うっ!?」

 鋭い痛みが走った。

 すかさず後退して距離を取り、肩を押さえると、ぬるっとした感触があった。

 血だ。傷は浅いが、ラカムは蹴りでヤマトの肩を斬りつけたのだ。

「まさか…!!」

「一芸だけじゃ、この一味の生命線は務まらねェだろ?」

 衝角を片手で振り回すラカムは、タバコを吹かしながら笑った。

 彼は人体を武器に匹敵させる六つの体技「六式」の一つ・嵐脚を習得していたのだ。

 六式は政府関係者が扱う戦闘術だが、徹底的に身体能力を強化すれば、見様見真似であっても再現が可能である。ラカムは戦鎚という鈍重な武器を得物とする為、いかに本人が器用でも手数に欠けてしまうという弱点があり、それを補うべく元政府関係者(ステューシー)に教えを乞い、嵐脚を習得したのだ。

「ポールウェポン特有の戦い方、ガードの堅さ、そして足からの斬撃……技巧面が凄まじいな」

「まさか嵐脚を習得してたとは、驚いたのし…!」

「いくら覇王色を纏えるヤマトでも、やはりラカムには敵わないか」

 ナグリとレッドフィールド、レッドアローの三人――いわゆる〝ロジャー世代〟は、この勝負はラカムが勝つと確信する。

 しかしエマ達は、クロエが手塩に掛けて育ててきた為にヤマトの方が有利だと考えていた。

「副船長、ラカムは頭脳派なんだろ? 搦め手仕掛けられると不利じゃねェか?」

「いくら冷気を操る幻獣種の能力者でも、相性は悪そうに見えるが……」

「粗削りとはいえ、あの〝神避〟を覚えたんだ。ポテンシャルは間違いなくクロエに匹敵するから、土壇場でそういうのは活きてくるものだよ」

 エルドラゴとウィリーの質問に、エマは冷静に返した。

 最強生物(カイドウ)の実子という先天的な素養は、ラカムにはないもの。そしてクロエという最強の育て親に鍛えられ、覇王色を纏うという一握りの強者だけが至れる領域に足を踏み入れている。並み居る強豪海賊が犇めく新世界でも、ヤマトは間違いなくトップクラスに入る逸材だろう。

 しかし、戦闘力と勝敗は別物。どっちが勝ってもおかしくない。

「それじゃあ、今度はおれから仕掛ける…ぞっ!!」

 ラカムは地面を蹴って一気に加速。距離を詰めて衝角で殴りかかる。

 ヤマトはそれを紙一重で躱し、すれ違いざまに建を振るうが、先読みしたラカムはバックステップで距離を取り、再び嵐脚を繰り出す。

「うわっ!!」

 ヤマトは咄嗟に建を盾代わりにしてガードするが、衝撃が全身を伝い、後ずさった。やはりと言うべきか、武装色の覇気を纏っている。

 ラカムは〝月歩〟の要領で宙を駆けると、衝角を振り回しながらより強力な武装色を込めた。

「〝雷神鎚(ミョルニル)〟!!」

「っ……〝雷鳴八卦〟!!」

 共に雷を彷彿させる技で、真っ向から激突する。

 

 ドォンッ!!

 

 二人を中心に、落雷のような轟音と衝撃波が発生。

 暴風が巻き起こり、観戦していた者達は咄嗟に身を屈めて耐える。

 やがて風が止み、土煙が晴れると、ヤマトは仰向けに倒れて衝角の石突を喉元に突き付けられていた。

「けほっ! ……参りました……」

「流石に強くなったな。ほら、傷を診てやるから立て」

 ラカムはヤマトを起こし、肩の傷の手当てを始める。

 土煙で視界が遮られたところで足技を掛けられ、転倒させられてしまい、制圧されたという訳だ。

「肩を嵐脚で斬られたせいで、技の速さがほんの少しだが落ちていた。あれが決め手だったな」

「成程……」

 クロエの分析を聞き、コル寿郎は改めて戦いの厳しさを痛感する。

 強者の戦いでは、戦闘中に生じた僅かな差で勝敗を分けるのだ。

「さて……次はエマとレッドアローだ。それが終わったら飯に――」

 クロエが次の組み手を始めようとした時。

 キャンプのすぐ近くで爆発音が鳴り、五芒星のような魔法陣が出現した。

「何だ!?」

「敵か?」

「とんだ命知らずだな、おい」

 クロエ海賊団は一斉に警戒する。

 魔法陣からは不気味な稲妻が迸り、やがて黒いフードを被ったマント姿の男女が片膝を突いた姿勢で現れた。

「……」

「初めましてだな、クロエ海賊団……」

『〝赤髪〟!!?』

 立ち上がった二人の内の一人――あの〝赤髪のシャンクス〟と酷似どころか瓜二つの顔の男が声を発し、クロエ海賊団は驚愕する。

 しかしよく見ると、失っているはずの左腕があり、髪型も三つ編みハーフアップの長髪、そして左眼の三本戦の傷がない。衣装も白シャツとズボン、サンダルというラフな恰好ではなく、軍服にも似た装飾の施された高貴な服だ。

 という事は、シャンクス本人ではないのは確定だが……。

「……何をしに来た、シャムロック」

 そこへ、木箱に腰掛けていたコル寿郎が立ち上がり、男の名を呼んだ。

 元天竜人の男が知っている顔という事は、目の前の男女も天竜人という事になる。

「……コル寿郎、誰だあの小僧は」

「フィガーランド・シャムロック……〝神の騎士団〟の団長だ。彼の父はその最高司令官のガーリングのおじじ様だ」

「いかにもそうだ…」

 シャンクスに似た男・シャムロックは、クロエ達に不敵な笑みを向ける。

 神の騎士団は、かつてフールシャウト島でクロエ海賊団と全面衝突した天竜人の組織。状況が状況だったとはいえ、クロエに扱かれてきた船員達ですら苦戦を強いられる強さであり、一人として討ち取れなかった強者揃いの集団だ。

 そんな脅威の戦力を率いる団長が、目の前にいる。一触即発の状況になるが、クロエは至って冷静にシャムロックを見つめる。

「……私の弟分に随分と似ているな、小僧。それで赤の他人ならお笑いだ」

「慎め。貴様のような極悪人が知る必要はない」

 詮索するクロエに、もう一人の天竜人――オッドアイの女が牽制した。

 軍服姿で軍帽を被り、口元を包帯のような物で隠し、ハイレグと太ももを露出した際どい格好をしている。

「小娘、貴様には訊いてない。それとも貴様が代わりに答えてくれるのか?」

「非礼の極み……余程死にたいと見える」

「早まるな(グン)()。〝神殺し〟と戦争をする為に来たわけではない事を忘れるな」

 シャムロックに制され、軍子と呼ばれた女は渋々といった様子で身を引いた。

 天竜人の割には、理知的な対応をするな――クロエは内心で感心した。

「…貴様の言う弟分とやらは、私の生き別れた双子の弟だ…一度は聖地に戻ったのだが、このウス汚れた下界が好きらしい…」

「双子だったのか。シャンクスめ、姉貴分の私に黙ってるとは良い度胸だな……」

「クロエ、それは流石に可哀そうだよ」

 そう笑うクロエだが、目が笑ってないのでエマがどうどうと宥める。

 しかし、それはどうだっていい話だ。

 問題なのは、神の騎士団がわざわざクロエ海賊団の前に現れた理由だ。戦争をする気はないと言っている以上、交戦は望んでいないようだが……。

「……私と()る気はないと?」

「あくまでも今は、な」

「……よし、昼にするぞ。せっかくの客人達だ」

『ハァ!!?』

 まさかの指示に、エマ達は声を揃えて叫んだ。

 あの天竜人を殺しまくってきたクロエが、〝神の騎士団〟の二人を客人として招き入れるというのだ。

 これにはシャムロックと軍子も想定外だったのか、戸惑いを隠せないでいる。

「……どういうつもりだ、〝鬼の女中〟…」

「戦う気がない奴をわざわざ蹂躙する趣味はない。挑むなら心を込めて返り討ちにしたがな」

 クロエはそう言い放ち、コートをなびかせグリルテーブルの前に座る。

 船員達も若干呆れながらも、昼食の準備に取り掛かる。

「クソッ、調子が狂う…」

「軍子、いつでも攻撃できるようにしておけ…」

 世界最強の女への警戒を怠らず、二人は食事の席に着いた。

 

 

           *

 

 

「おいしいっ!!」

「でしょ? クロエ特製の厚切りベーコンエッグ」

 顔を輝かせながら喜ぶ軍子に、エマは微笑みながら返す。

 1センチに分厚くカットされたベーコンは燻製特有の風味が香り、噛めば肉汁がじゅわっと溢れる。半熟で焼けた目玉焼きの黄身は絶妙な火加減でトロトロで、卵本来の甘さがベーコンの濃い塩気と良く合う。

 高価な食材をふんだんに使った豪勢な料理が出されるマリージョアと違い、安価な食材で作ったシンプルな料理だが、天竜人の舌を唸らせるには十分だ。

「おい〝鬼の女中〟、もう一皿寄越せ」

「軍子……」

「――はっ!! ……ゴホン!! し、下々の…それも海賊の飯はもういい……」

 完全に胃袋を掴まされてしまった軍子は、シャムロックに窘められた為に慌てて取り繕うが、時すでに遅し。

 エマ達はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべており、軍子は耳まで赤くした。意外に表情は豊かなようだ。

「シャムロック、卿は食べないのか?」

「…私は団長だ、何時如何なる時でも動けるようにしておかねばならん…」

 コル寿郎はシャムロックに食事を勧めるが、彼は首を横に振った。

 そんな中、クロエは焚火台の下に置かれた鉄板を引き出し、その上にあるカリカリに焼けた大きな円盤状のパンを切り分けた。

 ピザだ。具材はチーズとベーコン、そしてパイナップルの三種類のみで、やはりシンプルなスタイルだ。

「ちゃんと全員分用意しといたぞ」

 クロエは切り分けたピザを一人一人に渡し、シャムロックと軍子にも差し出した。

「クロエ・D・リード…私は食わぬと言ったはずだが」

 あくまでも海賊の作った料理に手は出さないと、スタンスを崩さないシャムロックだが……。

「ヤベェ、これクセになる!!」

「反則だろこんなの……!!」

「もう一枚っ」

 船員達と共にお代わりを要求する軍子に、シャムロックはとうとう頭を抱えた。

 ――我々は〝神〟であるというのに、下界の海賊に容易く手玉に取られるとは……。

 懐柔された同僚に呆れ果てていると、コル寿郎が「(まん)寿(じゅ)」と書かれた酒瓶を片手に持ってやってきた。

「シャムロック、つまらぬ意地は身体に毒だぞ? 余のように肩の力を抜けばいいだろうに」

「貴様のような奇人と一緒にするな…」

 シャムロックは冷たくあしらうが、そんな事など意にも介さずコル寿郎は盃を置いて清酒を注ぐ。

 果物のような吟醸香が鼻孔を擽り、かなり良い酒を持ってきていると直感で理解する。

「……一口だけだぞ」

「フフ……そうこなくてはな」

 渋々シャムロックは盃を手に取り、一口だけ口に含んだ。

 瞬間、複雑で深みのある口当たりが広がり、米の甘みを感じた。存在感のある味わいながら、その後味は透き通るようなキレで、喉越しが爽やかだ。

「……美味いな」

「だろう? 酒も飯も高価であれば良いという訳ではない。安物でも美味い物は美味い……この酒は少し高めだがな」

 そう笑うコル寿郎に、シャムロックは黙って酒を呷るのだった。

 

 

 昼食を終え、食器類を片づけるエマ達を他所に、シャムロックはクロエに声を掛けた。

「クロエ・D・リード…いい加減本題を切り出そう」

「少し待て、貴様ら二人分のコーヒー淹れてるから」

「……本当に貴様は変わった海賊だな」

 天竜人殺しで有名な大海賊が、客人だからと天竜人の為にコーヒーを淹れている。

 シャムロックと軍子は、聖地でいかにクロエが強い憎悪を向けられているのかを知ってる分、複雑な感情を抱いた。

 やがてクロエは、二人の前にコーヒーカップを置いた。海賊界でも無類のコーヒー好きとして知られる彼女が淹れた一杯を前に、シャムロックと軍子は目を細めてカップに口を付ける。

「「……!!」」

 二人は目を見開いた。

 コーヒーを一口啜った瞬間、濃厚な苦味と洗練された深みのあるコクが口いっぱいに広がり、炒った豆の芳醇な香りが鼻腔を抜けていく。酸味は柔らかく、そして飲んだ後に舌に残る後味はスッキリと心地良い。

 冗談抜きで美味いコーヒーだと、二人は認めざるを得なかった。

「それで? 話とは何だ」

「……コル寿郎を、聖地に帰してもらう」

 シャムロックの持ち掛けた話は、コル寿郎を聖地に帰還させる事だった。

 コル寿郎は最高司令官(ガーリング)も直々にスカウトする程に高い戦闘力を有する実力者。おそらく、正式に〝神の騎士団〟へ入団させるつもりなのだろう。

 団長の腹を読んだクロエは、静かに口を開いた。

「……私の一味は「来る者拒まず、去る者追わず」だ。海賊は好きにやるのが一番……降りたければ降りていいのが本音だ」

「なら――」

「だが…それはコル寿郎の意思があればの話だ。戻る気もこの一味から離れる気もない以上は……貴様らを黙って見てる道理はあるまい」

 化血の鯉口を切るクロエに、シャムロックも腰に差した剣の柄を握った。

 それを皮切りに軍子は長い服の袖を矢印に変化させて殺気立ち、反応したエマが銃口を向ける。他の船員達もそれぞれの得物を構えたり能力を発動させ、一触即発の状況になる。

 そんな緊張状態を、コル寿郎が終止符を打った。

「シャムロック。余は卿らのいる聖地にもう戻る事は無い」

「コル寿郎…」

「余が求めてたのは、ただのコル寿郎として下界で自由になる事。マリージョアの暮らしでは余の心は満たされん。故に、もう帰る気はない。それでもというなら、力づくで抗わせてもらう」

 鋭い眼差しで刀の柄に手を伸ばすコル寿郎。

 その言葉が揺らぐ事は無いと感じたのか、シャムロックは「…そうか」と静かに告げて剣の柄から手を離し、軍子も能力を解除した。

 コル寿郎は、本気で聖地に帰る気はないという事だ。

「……交渉決裂だな、団長」

「残念だ…貴様とて神の道理は理解できると思っていたが…」

()()()()()()()()だと言ったら?」

 コル寿郎のその言葉に、二人は目を細める。

 それが、異端児の答えだった。

「……行くぞ軍子、もう用は無い」

「ああ」

 立ち去る二人に、コル寿郎は声を掛けた。

「シャムロック、それと軍子。かの〝王〟やおじじ様達に愛想が尽きたら、いつでも降りて来い。その時は余と共に自由になろう」

「……」

 シャムロックは背を向けたまま無言を貫き、軍子も何とも言えない表情をする。

 数秒立ち止まっていた二人は再び歩き出し、魔法陣の中に入ると五芒星に沈み込むように消えて行った。

「しっかし……とんだ珍客が来たものだったな」

「ほぼタダ飯食いに来ただけだろアレ……」

「軍子ちゃんは面白かったけどね。今度ウチに誘ってみる?」

 船員達がワイワイと話し合っていると、クロエは一人ボヤいた。

「……それにしても、シャンクスの双子の兄か……戦ってみたかったな。あの小娘も腕が立ちそうだし…」

『やめろこの戦闘マニア!!!』

 戦闘狂気質の船長に、エマ達は声を揃えて叫んだのだった。




クソォ、軍子が想像以上に可愛い……!!
あ、ちなみに今回の話に出た島、カイドウさんが空から落っこちてきたあの島です。
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