〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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タイトル通り、クロエとカイドウの勝負です。
そう言えばロジャーとガープって、何十回戦ったんだろうか……。


第93話〝通算20戦目〟

 〝鬼の女中〟クロエ・D・リードと〝百獣のカイドウ〟。

 五皇の中でも武闘派に分類される二人は、大海賊時代の幕開け以来、幾度となく〝戦争〟を繰り広げてきた「永遠のライバル」として海賊・海兵・民衆達から語り継がれている。〝ゴールド・ロジャー〟と〝白ひげ〟、〝赤髪〟と〝鷹の目〟といった()()()()()()()()()はあれど、20年近く経った現在もライバル関係が続いているのはかの皇帝達ぐらいだろう。

 そして、真っ向から命をぶつけ合ったからこそ、相容れる思想や信念でなくても互いを認め合い、奇妙な信頼関係に繋がっていくのだ。

「……で、こいつらの相手をしろと?」

「おめェらなら引き受けやすいと思ってな。ウォロロロ!!」

 上機嫌に笑うカイドウに、クロエとその仲間達は何とも言えない顔で黙した。

 最強の生物と称される男が彼女を頼った事案というのは、若い幹部達を鍛えてもらう事だった。

 数万もの兵力を有する百獣海賊団には、最高幹部である「大看板」とは別に「真打ち」という五人の幹部がおり、性別や年齢を問わず覇気を扱う能力者が揃っている。しかし大看板の三人が相手をする事こそあれど格上との戦闘経験が少なく、真打ちをどう強くさせるかが最近のカイドウの悩みだった。時々バレットが喧嘩を売りに来るが、彼は自分より弱い相手は歯牙にもかけない為、真打ちどころか大看板すらガン無視する始末なので当てにはならない。

 そこで自分が誰よりも認めている好敵手(クロエ)に、真打ちを鍛えるよう頼んだのだ。フットワークの軽さに定評のあるクロエは、暇である為二つ返事で引き受け、今に至る。

 ちなみにだが、五皇同士が接触しようものなら五老星に報告が入り、世界政府・海軍はそれを阻止するため艦隊を差し向けるのだが、クロエとカイドウの関係性に関しては艦隊を差し向けなくなっているので半ば諦めてるのかもしれない。

(……確かに、まずまずの覇気ではあるな)

 クロエは見聞色の覇気で、真打ち達の強さを推し量る。

 

 肩に入れ墨を彫り口には鋭い牙が生え揃った、バンカラ番長のような服装をしたテングハギの魚人の〝()()りのササキ〟。

 顔の上半分を覆う角付きの赤いマスクをした、元CP9の諜報員であった〝飛沫(しぶき)のフー〟。

 金髪碧眼で花魁風の着物を着た、カイドウを上回る長身と頭部の黒い角が目立つブラックマリア。

 側頭部から大きな二本角が生えた美人で、メッシュが入った長髪とマスクが特徴のうるティ。

 顔の右側にウェーブのかかった紫色の前髪を流した、うるティの実の弟のページワン。

 

 最強生物の部下なだけあり、覇気の練度は自分の仲間であるドーマやマクガイ達といい勝負だ。

「ちょうど退屈していた。仲間達は私の扱きを受けたばかりだからな……お望み通り〝鬼の女中〟が出張ろうじゃないか」

 クロエはそう言うと、愛刀・化血を腰布から外し、エマに投げ渡した。

 お得意の剣技ではなく、肉弾戦で全員を相手取るつもりのようだ。

 ――船長が、肉弾戦……!?

 ――化血抜きでか……。

 仲間達は驚きを隠せない一方、真打ち達は舐められていると感じたのか殺気立ち始める。

「おい、〝神殺し〟……ちょっと見くびり過ぎじゃねェか?」

 フーズ・フーはタバコを吹かしながら睨むが、クロエは小さく笑うだけ。

「別に馬鹿にはしてない。たまには化血に頼らないで戦いたいだけだ」

「ウォロロロ……!! 気合い入れてけ、お前ら…このおれのライバルと殺し合えるなんざまたとねェぞ」

 

 

 ……という訳で、百獣海賊団真打ちとクロエの組手が実施されたのだが。

 やはりと言うべきか、クロエの強さは真打ち達の猛攻を物ともしなかった。彼女は素手でも十分強かった。

「ガアァァァァァ!!」

「フンッ!」

 咆哮を上げ、スピノサウルスに変身したページワンがクロエに噛みつこうと迫るが、クロエは寸前のところで真横に回避。裏拳でページワンの頭を殴り、大きく怯ませた。

 肉弾戦におけるクロエは、防御不能の衝撃を与える事ができる八衝拳を駆使する。たとえ相手が全身に覇気を纏って防御力を高めても、自身の覇気で相殺してから八衝拳の衝撃を叩き込むという二段構えなので、完全に防ぐ事はできないのだ。

「よくもぺーたんを!!」

 うるティはパキケファロサウルスに変身し、強力な腕力でクロエを拘束。

 頭部に武装色の覇気を纏わせ、渾身の頭突きを放つ。

「〝ウル頭銃群(ミーティア)〟!!!」

「〝武頭〟!!」

 頭突きには頭突きで。

 クロエも額を武装硬化させ、頭突きで応戦した。

「ぐっ…!!」

 クロエは一瞬顔を顰めると、そのまま押し切られて吹き飛ばされる。

 これはダメージが入ったかと思われたが、倒れたのはうるティの方だった。

「姉貴!?」

「あ、あのやろォ……!!」

 ページワンが駆け寄るも、うるティは起き上がれない。

 というのも、八衝拳は全ての打撃攻撃に防御不能の衝撃を付与できる拳法。拳だけでなく蹴りや頭突きも対象であり、それを知らなかったうるティはクロエの〝武頭〟で衝撃を与えられ、軽い脳震盪を起こしてしまったのだ。

 そうこうしている内に吹き飛ばされたクロエが戻り、首を軽く鳴らしながら微笑んだ。

「ガキ共が、使えねェなァ!!」

 すかさず、トリケラトプスの人獣型になったササキが動く。

 首元のフリルを回転させて上昇し、そのまま襲い掛かった。

「おい、そんな生物じゃないだろう……」

「いいや!! トリケラトプスとはこういう生き物だ!! 〝弾丸(タマ)ケラトプス〟!!!」

 ササキは空中から特攻する。

 圧倒的な質量による突進技は、下手に喰らえば一発で戦闘不能に追い込まれてしまうだろう。

 しかしクロエは、たじろぐ事なく拳を握り、赤黒い稲妻を迸らせた。

「甘い」

 

 ドガンッ!!

 

「ぐおァァ!!?」

 覇王色を纏った拳が嘴にめり込み、ササキは悶絶しながら地面に落下。

 次々と各個撃破されていく。

「〝マリアネット〟!!」

 そこへ、下半身を巨大なクモに変化させたブラックマリアが、指先から粘着性と可燃性を備えた糸を大量に放出。

 クロエを拘束しようとするが、その悉くを紙一重で躱されると、畳みかけるようにサーベルタイガーの人獣型になったフーズ・フーが仕掛ける。

「〝()(ガン)〟!!!」

 フーズ・フーは〝飛ぶ()(ガン)〟のように口から自身の牙を模した弾丸を連射。

 本人が「そこらの武装色なら食いちぎる」と豪語する程の威力を持つ牙の斬撃は、クロエの身体を傷つけ――なかった。

 彼女は武装硬化した両腕で〝()(ガン)〟を防ぐどころか、全て弾き返したのだ。

「ちっ……!!」

 フーズ・フーは月歩で宙を駆け、空中で距離を保ちつつ不意打ちを狙おうとする。

 それが、致命的なミスとなった。

 

 ガシッ!!

 

「んなっ!?」

 何と、気配をカモフラージュさせて跳躍したクロエが、彼の身体を掴んでいた。

 武装硬化した両手からは、バリバリと音を立てて覇気が迸っている。

「私はガープ程の腕力は持ってないからな…()()()やらせてもらうな」

「ハァ!?」

 嫌な予感がして、冷や汗が止まらなくなるフーズ・フーは()(ガン)を放った。

 しかし、時すでに遅し。爪が胸に届く前に技を掛けられてしまった。

 

「――〝海底落下(ブルーホール)〟!!!」

 

 ドガァン!!

 

『ギャアァァーーーッ!!!』

 クロエは巴投げの要領でフーズ・フーを地面へ垂直に投げ捨てた。

 物凄い速さで落下した彼は、地面を突き破って遥か地中に埋め込まれ、それによって生じた地割れにうるティ達はおろか百獣海賊団の平船員達も悲鳴を上げて飲み込まれてしまった。

 驚異的な模倣力で歴戦の強豪達の技を独自のアレンジで会得してきたクロエだが、とうとう伝説の英雄の技すら物にした。その事実に、彼女の仲間達は戦慄した。

「もう終わりか……弱いな」

 ポツリと呟かれたその言葉が、嫌に響いたように感じ、カイドウを除いた全員の口端が引き攣る。

 むしろお前の方が訳がわからないわ、とその場にいた全員の心の声が一致した瞬間だった。

「……やはり、同等以上の強者でないと戦った気になれんな」

 クロエはエマに視線を配ると、彼女から投げ渡された愛刀を掴んだ。

 それを合図に、人獣型になったカイドウが金棒を携えて降り立った。

 大海賊の相手が務まるのは、大海賊だけだ。

「ウォロロロロォ!! 久しぶりに()るか!!」

「そうだな……命のやり取りは強い奴に限る」

 クロエは微笑みながら化血を抜刀すると、カイドウは距離を詰めて金棒を振り上げた。

 通算20戦目、最強の生物と最強の女の激突が始まった。

 

 

           *

 

 

「ハァ……またか」

 海軍本部の元帥室で、センゴクは溜め息を吐いた。

 相変わらずのお騒がせな皇帝二人の、通算20戦目という記念したくない報告に、とうとう慣れてしまった。

 最初の頃は艦隊を差し向けたり海軍大将を派遣したりしたが、下手に怒らせて海軍との直接対決になると面倒なので、最近は傍観に徹するようになったのである。

「相変わらずこっちの迷惑を考えん奴だな…」

「白ひげや赤髪と違い、クロエはナワバリが無い分フリーじゃからなァ」

 半ば諦観しているセンゴクに、ゼファーとガープは暢気にもせんべいを頬張る。

 巨大勢力であるが故に多くのナワバリを補給線とする五皇だが、クロエだけは唯一の例外。少数精鋭であるクロエ海賊団は、必要な分の物資さえ確保できれば拠点の必要性はなく、足りない時は現地調達という非常にシンプルな運用が可能。それ故に世界政府・海軍に追いかけられても足取りが掴みづらく、神出鬼没の一味として業界では有名なのだ。

「あの二人に関しては、大将の派遣も七武海の要請もせん。放っておくに越した事は無い」

「まァ、正解だな」

「じゃな」

 センゴクの判断に、同僚二人は静かに同意した。

「ところで……ゼットはどうだ? ゼファー」

「流石はおれの息子、と言ったところだな。覇気の扱いはもう一丁前だ」

 ゼファーは自慢げにそう語る。

 彼の息子・ゼットは入隊以降、順調に海兵としての階段を上っている。父が元海軍大将だからか、高い戦闘センスを開花させ、とうとう30代前半にして海軍本部中将にまで上り詰めた。若くして現場指揮における最高階級の地位を得たゼットは〝新時代の英雄〟と呼ばれ始めており、海軍の未来を担うと期待されているのだ。

 しかし、そんな彼でも五皇を筆頭とした伝説級の大物・凄腕が揃うステージにはまだ遠い。これからさらに実力を伸ばし、その道のりで自身の目標である海軍大将になれるか否かは、本人の努力次第である。

「ぶわっはっはっは!! 親父として鼻が高いのう!!」

「そりゃそうだ、お前と一緒に軍艦バッグさせてるんだぞ」

 ガープは豪快に笑い、ゼファーも不敵に笑う。

 伝説の海兵に可愛がられてきた彼なら、自分達が前線から離れ隠居しても海軍の〝未来〟として海賊達の脅威となるだろう。

(……ロシナンテも、そうなれたのかもしれんな……)

 息子のように可愛がった亡き部下を思い出しながら、センゴクは湯呑みの茶を啜るのだった。

 

 

 一方、新世界。

 通算20戦目を迎えたクロエとカイドウの半日に及ぶ激突は、凄まじい迫力で行われていた。

「〝劈風〟!!」

「〝軍荼利龍盛軍〟!!」

 畳みかけるように斬撃の嵐を放つクロエに、カイドウは八斎戒で猛烈な乱打を繰り出して相殺。

 全てを打ち消したところで〝熱息(ボロブレス)〟を放ち、特大の火炎放射で彼女を焼き尽くそうとする。

 が、クロエは躊躇せず納刀して居合術〝神解〟で両断。そのまま高速で近づき、カイドウに斬りかかるが、未来視で躱されてしまう。

「〝雷鳴八卦〟!!!」

 カイドウは自身を象徴する技で、クロエを背後から殴りつけた。

 が、彼女の姿はボッ! という音を立てて揺らぎ消えた。

「残像だと…!?」

 カイドウが目を見張った直後。

 彼の身体に無数の斬撃が浴びせられ、全身の至る箇所に刀傷が走った。

「ぐおおお……!!」

「――「紙絵」〝残身〟からの〝神凪〟だ」

 残像で敵を撹乱させてから「柔」の斬撃で斬り刻む、悪魔のようなコンボ技。

 並大抵の強者ならこれで十分戦闘不能に追い込まれるのだが、相手は最強生物。彼は平然と立っており、クロエに対して獰猛な笑みを浮かべた。

「ウォロロロ……!! 流石だ……!!」

 カイドウは金棒を構えると、赤黒い稲妻を迸らせて跳び上がった。

「〝(こう)(さん)()(ラグ)()(らく)〟!!」

 カイドウは武装色と覇王色の覇気を纏わせた八斎戒を振り回しながら飛び上がり、降下と共に振り下ろす。

 クロエも化血を振るって斬り上げ、真っ向から迎え撃つ。

 

 ドォン!! ボゴォン!!

 

『うわああああああ!!!』

 衝突の余波で瓦礫が飛び散り、大地が震え、雲を吹き飛ばす。

 クロエ海賊団も百獣海賊団も、真っ向からのぶつかり合いに悲鳴を上げた。

 そして互いの覇気が暴発し、二人は空中へと弾き飛ばされる。

「ぐっ……!!」

「隙アリだ、クロエェェ!!!」

「!?」

 カイドウは八斎戒を構えて急接近。

 避けきれないと察し、クロエは全身に覇気を流して防御力を高めるが……。

 

「〝(だい)()(とく)〟!!! 〝(らい)(めい)(はっ)()〟!!!」

 

 ドンッ!!

 

『!!!』

 武装色と覇王色の覇気を纏った、カイドウの全力の一振りがクロエに叩き込まれた。

 その衝撃は空中で放たれたにもかかわらず、地鳴りと共に地上を震わせた。

「がはっ…!!」

 武装色の防御を突破され、クロエは激しく吐血。

 そのまま白目を剥き、意識を失った。

「クロエーーーッ!!」

 親友がノックアウトされてエマは悲鳴を上げ、仲間達も衝撃的な光景に言葉を失った。

 長きに渡る海の皇帝同士の戦いは、最強生物の勝利で幕を閉じようとしていた。

「とうとう決着か……」

「これで真の最強が決まったな……」

 カイドウの懐刀であるキングとクイーンは、部下達と共にその瞬間を固唾を飲んで見守る。

「ハァ……ハァ……ウォロロ…ここまで長かったぜ…」

 重力に逆らわずに落ちていく好敵手に、カイドウは最大限に張り詰めていた緊張の糸を少しだけ弛めた。

 思えば、彼女とは長い付き合いだった。出会って20年近くが経ち、殺し合いの中で妙な友情を育んでいった。カイドウにとってクロエとは、同じ時代をやってきた好敵手(ライバル)であると同時に悪友(とも)でもあったのだ。

 カイドウは、心の底から笑った。最後まで自分を裏切る事無く強く在り続けたクロエに、惜しみない称賛を送った。

「天晴だ、クロエ――」

「……せめて敵が地面に伏せるまでは警戒するべきだろう」

「っ!!?」

 その声に、カイドウは目を見開いた。

 何とクロエが意識を取り戻したのだ!

「〝神避〟!!!」

 クロエは身を捻り、膨大な覇王色の覇気を衝撃波として打ち出した。

 見聞殺しを発動したまま放たれた渾身の一撃は、カイドウの胸部に直撃。カイドウも吐血し、そのまま数十メートル吹き飛ばされて仰向けに倒れた。

「がはっ…!!!」

「ハァ……ハァ……ゲホッ!!」

 クロエは地面に着地すると、その場で吐血しながら倒れた。

 カイドウの八斎戒による全力の一撃は、彼女の身体に強烈なダメージを与えていたのだ。

「クロエ!!」

「船長!!」

「総督!!」

「カイドウさん!!」

 互いの部下達が慌てて駆け寄り、クロエとカイドウは応急処置を施される。

 二人とも意識はあるが、体力も気力も限界なのか、起き上がれずに横たわったままだ。

「……クロエ…まさかてめェが猿芝居するとはな……」

「フフ……幻滅したか? 悪いが、これも戦略の一つだ…最低限度の演技は、土壇場で活きてくる」

「ウォロロ……流石だな……」

 カイドウは力無く笑い、クロエは小さく微笑む。

 

 通算20戦目の真剣勝負は、ギリギリの戦いの末にやはり引き分けとなったのだった。




いわゆる過去編はここまでにし、本格的にルフィ達を登場させようと思います!
次回からは原作における第1部を始める予定です。
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