〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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今回はいつもより短めです。


第94話〝自分を超え得る可能性を秘めた人間〟

「手配書が更新されたよ!!」

 ヤマトの一声が甲板に響き渡り、ゾロゾロと仲間達が集う。

 半ば故郷へ送る息災の便りと化している手配書の交付及び更新だが、やはり額の高さは己の強さを周囲にアピールしたり名を上げるきっかけになる為、海賊としては名誉ある事でもある。

「うわー! 僕がとうとう15億にっ!!」

「余は少し上がったな…」

「むっ……わしが3億とな」

「おれもジンベエを超えたぞ」

 多種多様な反応を見せる中、ふと船長の懸賞金はどうなってるのか気になった。

「船長、あんたは?」

「まあ、そのくらいかってところだな」

 クロエはそう言いながらエマに自身の手配書を渡す。

 全員が我らが船長の手配書を拝むと、そこに記された懸賞金額は――

 

 クロエ・D・リード 懸賞金48億9610万ベリー

 

「ほぼ50億じゃねェか!!」

「確かカイドウが46億1110万ベリー、ビッグ・マムが43億8800万ベリーだったな……」

「一応数千万・数億ベリーの違いは誤差って言われてるけど……」

「バカ野郎、ウチの組織構成を考えてみろ。ぶっちぎりでイカレてんぞ」

 ラカムは煙草の紫煙を燻らせながら説明する。

 懸賞金は戦闘能力の高さ・世界政府への敵対行為・民間人に多大な被害をもたらす事の三つの要件で上昇するが、五皇クラスにもなれば数万の兵力を有する勢力となる為、部下や傘下も含めたその「組織力」も懸賞金上昇の一因となるという。

 しかし、クロエは組織力という点では五皇最小。傘下が弱いと揶揄されるシャンクス率いる赤髪海賊団ですら大組織になってるのに、最大最強の白ひげ海賊団に比肩する戦闘力と影響力を持つクロエ海賊団は異常と言えるのだ。

「色んな勢力とドンパチしたからな」

「しかも誰一人欠ける事なく五体満足でな」

「結束力や統率力は五皇随一って話もあるくらいだからな、船長は」

 そんな話をしていると……。

「……フフッ」

『!?』

 クロエが一枚の手配書を見て、非常に嬉しそうな表情を浮かべていた。

 普段は無愛想な彼女も柔和な笑みを浮かべたりするが、今回はあからさまに喜んでいる。それこそ、ホワホワという擬音が聞こえそうな程に。

「えーっと…何か良い事でもあった? クロエ」

「ああ、ようやく来たからな」

「ようやく来た?」

 クロエがそう言いながら、一枚の手配書を渡す。

 その写真には、満面の笑みを浮かべた麦わら帽子を被った少年の姿が写っていた。

 確か、フーシャ村という小さな村にいた……。

「……ルフィ君!?」

 あどけない少年の顔写真から記憶を掘り起こしたエマは、驚きを隠せない。

 そんな親友兼相棒を見ながら、クロエは嬉しそうに頷く。

「ああ。ついに賞金首になった。初頭でバギーと同じ3000万は中々だ。私の初頭の三分の一にも満たないが」

「あんたの初頭はおかしいんだよ。やらかした事のせいだけどな」

 そう語るクロエに、ラカムはジト目でツッコむ。

 すると自分の領域からギターを引っ張り出して弾き始めるコル寿郎が、思い出したかのように口を開く。

「ユースタス・〝キャプテン〟キッド、 〝死の外科医〟トラファルガー・ロー、カポネ・〝ギャング〟・ベッジ……今の海は随分と若者が進出してきて賑やからしいが」

「ルフィはそんな調子に乗る小僧共とは別格だ」

 クロエはキッパリと断言し、その上で告げた。

 

「私はロジャー以外の海賊王は一人として認めないが……ルフィなら海の王者(ロジャー)のイスに座ってもいい」

 

 その言葉に全員が目を丸くする。

 それはつまり、この手配書の麦わらの海賊が、海賊王ロジャーに比肩し得る素質があるという事に他ならない。

「……随分と高く買ってるじゃねェか」

「あの小さな村の面白いガキか…確かに度胸は悪くなかったな」

「ガープの孫だからな」

 フーシャ村での出会いを思い出し、仲間達が懐かしむ中、クロエはコーヒーを飲みながら語る。

「聞いた情報だと、ルフィはクロネコ海賊団・クリーク海賊団・アーロン一味を壊滅させ、そのまま〝偉大なる航路(グランドライン)〟に進出したそうだ」

「この小僧がアーロンを…アッハッハッハ!!! こりゃ傑作だ!!!」

 アーロン一味が壊滅したと聞き、唯一の魚人船員であるウィリーは大笑いした。

「知ってるのか? ウィリー」

「おうともよ!! アーロンの野郎とは因縁浅からぬ仲でな……おれが世界で一番大嫌いな野郎だ!! あのクソ忌々しいノコギリ鼻をこの手でへし折れなかったのは残念だが……今日は酒が美味くなりそうだ!!」

 相当憎たらしく思っていたのか、ウィリーは嫌っていた相手(アーロン)の末路を聞き、更に機嫌が良さそうに笑った。

「……して、この子がお主の座を奪いに来たらどうする?」

「当然、海賊として受けて立つ。奪い合いこそ海賊の本質だ。それにルフィが唯一私を脅かせる可能性を持っている」

「クロエ……それって、女の勘?」

「まァ、そんなところだ」

 ステューシーの問いに、クロエは肯定しながら不敵に笑った。

 

「長く〝高み〟に君臨すると、自分を超え得る可能性を秘めた人間が来るのが楽しみで仕方ないんだ。だから私も、ロジャーに次ぐ海の覇者を狙うルフィにとっての「最強の壁」とならなくてはな」

 

 それは、クロエなりの〝筋〟だ。

 自分がルーキーだった頃はロジャーが海の覇者であり、大海賊時代開幕後はその最大のライバルである白ひげが頂点に立った。が、すでに老境な上に持病で衰えが目立った彼では、世界最強の海賊として君臨できるのも残り僅かだろう。

 そうなると、自然に白ひげの次に海の頂点に立つのが、彼に次ぐ賞金を懸けられたクロエになる。海賊王の称号を求めるからには、この海の頂点を超えねばならない。ならば、頂に君臨する王者として相応しい強さでなければ、下剋上を狙う挑戦者(ルフィ)に対して無礼だ。

「……王には王たる条理がある。私もそれに従わないとな」

「いや、これ以上強くなったらルフィ君が可哀そうでしょ」

「やかましい」

 ジト目でツッコむエマに、クロエは手配書を懐にしまいながらツッコみ返すのだった。

 

 

           *

 

 

 〝偉大なる航路(グランドライン)〟前半。

 とある出来事で大国「アラバスタ王国」の王女ネフェルタリ・ビビを乗せ、アラバスタへ向かう海賊「麦わらの一味」の帆船ゴーイング・メリー号では、バタバタと船長ルフィがキッチンへと入った。

「サンジー! まだ豆あるかー?」

「ん? あー…キッチンの棚にあるぞ」

 キッチンの主である一味のコック・サンジは、ルフィにコーヒー豆の在庫がある事を伝える。

 食い意地の張ったルフィがキッチンに用があるとなれば、大概が摘み食いと思われるが、例外が一つだけ存在する。コーヒーだ。

「え…ルフィさん、コーヒーを淹れられるの!?」

「ああ。それもうめェコーヒーをな」

 一味に同行する事となったビビは、サンジから話を聞いて驚きを隠せない。

 キッチンでは鼻歌交じりに豆を挽くルフィ。普段のぞんざいで不器用な彼からは想像も付かない程に慣れた手付きで、バリスタの技術が確かなものである事を示していた。

 挽いたコーヒーをドリップ用のフィルターに入れ、火にかけたヤカンのお湯を注ぐと、たちまち濃厚な香りがキッチン中に漂う。

「うわぁ……スゴい良い匂い……」

「にしししっ! だろ?」

 コーヒーの香りにビビは感嘆の声を漏らし、それを聞いたルフィはニカッと嬉しそうに笑う。

 その匂いにつられてか、一味の面々も続々とキッチンへやってくる。

 そして全員がコーヒーを飲む為のマグカップを手に、ルフィがコーヒーを淹れるのを待つ。

「よーし、できたぞー!!」

 ドリップが終わり、ルフィが淹れてくれたコーヒーを受け取ると、皆が一斉に口へと含む。

 何でもない飾らない見た目だが、心地の良い苦味が濃厚な風味と芳醇な香りと相まって、確かな旨味となっている。

 ビビも思わず「美味しい…」と呟いた。

「ルフィさん、これはサンジさんから教わったの?」

「いや……おれと会った時にはもうルフィはこの技術を持ってた」

 一味の戦闘員――〝海賊狩り〟のロロノア・ゾロはビビの問いに答える。

 ゾロは一味の最古参……つまり、ルフィが海に出る頃にはバリスタ技術を持っていたという事であり、少なくとも故郷のフーシャ村で教わった事になる。

「未だに眉唾物だけどな」

「ゾロ、おれの話まだ信じてねェのか!? ウソップとチョッパーは信じたぞ!!」

「バカ。そんなすぐ信じられる話じゃねェだろ、名前のデカさを考えろ」

 半信半疑のゾロに憤慨するルフィ。

 彼の言葉通りだとすれば、ルフィにコーヒーの淹れ方を教えた人間は、とんでもない大物らしい。

 ビビは興味本位で、一体誰から教わったのか尋ねた。

「ルフィさんにバリスタを教えた人って?」

「クロエだ!!」

「ええっ!!?」

 目をこれでもかと見開き、ビビは驚きを露わにする。

「ル、ルフィさん…クロエって、()()クロエ・D・リードの事!?」

「おう!! そのクロエだ!!」

 ルフィにコーヒーの技術を授けた者が伝説の女海賊と知り、ビビは唖然とした。

 しかし、クロエは無類のコーヒー好きとして知られる海賊。料理ができないルフィのコーヒーへの造詣の深さと技量を考えると、クロエ直伝と言われると納得できる。

 すると、一味の航海士であるナミがコーヒーを飲みながら口を開いた。

「私達も正直半信半疑よ……クロエ・D・リードって言えば、ゴールド・ロジャーの部下として色んな文献に載ってる大物だもの。麦わら帽子は〝赤髪のシャンクス〟から預かったそうだけど」

「ナミさんの言う事はもっともだ。ただ()()がな……」

 サンジはルフィが使用したコーヒーミルを指差す。

 コーヒーミルはルフィが麦わら帽子と同じくらい大事にしている代物で、本人曰くクロエから譲ってもらったという。それだけなら見間違いだの勘違いだので否定できるが、そのミルこそが信憑性を高める証拠なのだ。

「あの手挽きミル、20年以上前に生産が終了された型式(モデル)だ。普通に考えて、ルフィが絶対に手に入れられる品じゃねェ。それに譲った相手の名前が刻まれていて、確かにクロエって読めた」

 サンジの言葉に、ナミも「そこなのよね……」と呟いた。

 それにルフィは嘘をつくのが非常に下手であるのは周知の事実。本人が嘘をついてないとなれば、クロエにコーヒーの淹れ方を教わったという話も信憑性が出てくるのだ。

「強くなって倒しに来いって、クロエと約束したんだ。でも腕っ節だけじゃなく、コーヒーの美味さでも勝ってやる!!」

「あ、あの〝鬼の女中〟と戦わなきゃならねェのか、やっぱり……」

「スゲェ(つえ)ェんだろうな……」

「まァ、海賊王目指すからには超えなきゃいけねェな。その女を倒せば()()だからな」

 狙撃手のウソップと船医のトニートニー・チョッパーが怯む中、ゾロは不敵に笑う。

 そう、クロエを倒せる程に強くなれば、海賊王の称号と〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟は目と鼻の先なのだ。

 海賊王を目指す者の宿命ともいえる頂点への道程に待ち構える、海賊の女王を超えた先に、海賊にとっての最高の称号が……!

「おれはクロエを超えて、海賊王になるんだ!!!」

 満面の笑みを浮かべるルフィに、全員がニヤリと笑ったのだった。




原作開始時の懸賞金は以下の通り。(高い順)

クロエ・D・リード:48億9610万ベリー
エマ・グラニュエール:37億1530万ベリー
パトリック・レッドフィールド:32億8100万ベリー
ミリオン・ラカム:30億ベリー
ドンキホーテ・R・コル寿郎:25億5610万ベリー
ヤマト:15億ベリー
ステューシー:14億4240万ベリー
ガスパーデ:11億9500万ベリー
ナグリ:8億7960万ベリー
エルドラゴ:8億1000万ベリー
ドーマ:6億2500万ベリー
マクガイ:6億2500万ベリー
デラクアヒ:6億2500万ベリー
(アー)(オー):6億2500万ベリー
レッドアロー:4億ベリー
ウィリー:3億8000万ベリー
スレイマン:3億6700万ベリー
バンビーノ:5000ベリー

総合懸賞金:269億2250万5000ベリー


クロエ海賊団がぶっちぎりで懸賞金が高い理由
・とにかく強い(全員億越えの覇気使い、ロジャー世代が複数名在籍、覇王色の使い手が4名)
・起こした事件がヤバい(マリージョア襲撃、王族・天竜人殺し、ロジャーの遺体強奪など)
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