〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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アニメのゴッドバレーは最高だし、原作はヤバい事になってるし……今年のワンピは最高!


第95話〝赤髪からの使者〟

 この日、クロエ海賊団には一人の若き海賊が訪れていた。

 逆立った赤い髪がトレードマークの海賊の名は、ロックスター。クロエの弟分であるシャンクス率いる赤髪海賊団の新入りであった。

「シャンクスが私に?」

「え、ええ……重要な話だとの事で」

 仲間達がぞろぞろと集う中、クロエはシャンクスの使者・ロックスターから手紙を受け取ると、穏やかな表情で告げた。

「遠路はるばるご苦労。少し休んでくといい」

「あ、ありがとうございやす……」

 ロックスターは戦々恐々といった表情で、用意された樽をイスにして腰掛ける。

 彼は先日、同様の案件で白ひげ海賊団に使者として送られたのだが、白ひげに手紙を破られて「おれに物を言いたきゃ、いい酒持っててめェで来い」と全く相手にされず追い返されたばかり。その際はシャンクスは予想通りの結果だったのか大笑いしていたが、今回に関しては真剣な表情で「くれぐれも姉さんに無礼を働くなよ」「下手なマネしたらおれ達が潰されかねない」と脅し……ではなく念を押された。

 自分の言動次第で、赤髪海賊団壊滅の未来が待っているかもしれない――ロックスターはそんな恐怖に怯える中、クロエが手紙を開く。

「……」

「い、いかがでしょう……」

 クロエは手紙を読み進める程に眉間に皺が刻まれ、表情も険しくなっていった。

 忠誠を誓う大頭も恐れる姉貴分を前に、生きた心地がしない。

「シャンクスの使者の手紙、何だかわかった?」

「……昔痛めつけたドラ息子が、仲間殺しの面倒事に首を突っ込んだようだ」

 クロエは手紙の内容を語る。

 

 事の発端は、白ひげ海賊団が新世界の海賊・ディカルバン兄弟を服従させた日の夜。

 4番隊隊長のサッチが悪魔の実を手に入れたところ、2番隊隊員のティーチが彼を殺害してその実を強奪・白ひげ海賊団から脱走したという。

 そして2番隊の隊長は、かつてクロエがボコボコにしたエース。白ひげはサッチを殺したケジメをつける為、今は〝黒ひげ〟と名乗り一味を率いる裏切者をエースに任せ追跡しているという。

 

 鉄の団結力を誇る世界最強の海賊団で犯された、唯一無二の禁忌(タブー)

 それを破ったのは、何と20年以上所属していた一介の古参船員(クルー)で、若き日のクロエも一度だけだが面識のある見習い小僧なのだ。

「仲間殺し……あの白ひげ海賊団で、か。でも何でシャンクスが? 部外者でしょ」

「どうも見習い小僧と因縁があって、奴の危険性を知っているからとニューゲートに追跡の中止を求めるらしい。全く…そういうのは手土産片手に自分で物を言いに行けばいいものを、手紙なんて舐めたマネして……」

「……で、どうすんだ船長」

 答えを尋ねるラカムに、クロエはきっぱりと「論外」と吐き捨てた。

「いくら大海賊時代以前の顔馴染みとて、ニューゲートの身の上話に首を突っ込む義理はない。私はバランサーは気取らん。仲間殺しの件は気の毒だったがな」

「我らは静観に徹する、という事か? クロエよ」

「ああ」

 レッドフィールドの総括に、クロエはさも当然とばかりに頷いて答えた。

 そう、これはあくまでも白ひげ海賊団の問題。自分達で起こった不祥事は自分達で解決するのが筋で、部外者が口を挟んだり余計な手出しは無用なのだ。

 それでもシャンクスが動くのなら、止めはしないが。

「……そういう事だ。シャンクスには「嫌だ」と伝えてくれ、ロックスター」

「ストレートに言いやしたね……」

「嫌なものを嫌と言って何が悪い」

 コーヒーを飲みながら即答するクロエに、ロックスターは何とも言えない表情で「わかりやした」と応じたのだった……。

 

 

 ロックスターを見送ると、クロエはふと思い出した。

「そう言えば、ルフィ達は覇気を覚えたのか?」

「母さん、前半じゃルフィ達はキツいよ」

 クロエの呟きに、ヤマトは苦い顔で答えた。

 覇気は海賊の世界の〝高み〟を目指す上で必須だが、開花させるには凄まじい鍛錬や極限状態での覚醒、それか両方を経なければならない。加えて覇気の基礎部分はレクチャーしてもらわねば真面に習得できない。

 覇気はクロエのように10代前半で習得する者もいればゼファーのように30代で習得する者もおり、当人のポテンシャル次第だが、早めに習得しておかないと新世界で戦えない。

 それでは困るのだ。ルフィは自分に挑み、そして超える可能性を唯一持つ若者なのだから。

「……そう言えば、ルフィはこの間1億の賞金首になったね。誰か倒したのかな?」

「クロコダイルだ」

「ラカムさん!」

 そこへ、一味きっての頭脳派にして世情通のラカムが、ここ最近のアラバスタ王国の情報について語り出す。

「ネフェルタリ家による善政が敷かれているアラバスタ王国は、最近まで内乱続きだった。その黒幕がアラバスタ王国乗っ取りを目論んでいた王下七武海の一角、〝砂漠の王〟サー・クロコダイルだ」

「……」

「そのクロコダイルの野望を打ち砕いたのが、海軍本部大佐の〝白猟(はくりょう)のスモーカー〟。クロコダイル討伐の手柄を受け、今は准将に昇格しているが……はっきり言って、()()()()()()()()()の強さじゃクロコダイルを仕留められない」

 ラカムは断言する。

 それ程までに、王下七武海と海軍本部将校は実力に差があるのだ。

「そして同時期にルフィの懸賞金が3000万から1億に跳ね上がった。表向きはスモーカーのおかげとなってるが、実際はルフィが倒したんだろう」

「スゴいじゃないか!! じゃあルフィは覇気を覚えてるんじゃ――」

「いや、その考えは早計だ」

 ヤマトの言葉を遮ったラカムは、ルフィがクロコダイルになぜ勝てたのかという仮説を立てた。

「クロコダイルの〝スナスナの実〟は自然(ロギア)系だ。故に基本的に格上の武装色の使い手の攻撃でなければ物理攻撃が通じない。だが()()()()()として、液体に触れると砂化できなくなるという大きな弱点がある」

「じゃあ、ルフィは……」

「戦闘中に弱点を知ったと考えるのが適切だな。液体という事は淡水や海水だけでなく、汗や血液も含むはずだからな」

 つまり、ルフィはクロコダイルと戦う内に弱点を知り、それを突いて勝利をもぎ取ったのだ。

 もっとも、ルフィは英雄(ガープ)革命家(ドラゴン)の血筋なので、最後の最後に覚醒した……という考えも無きにしも非ずだが。

「ルフィはスナスナの弱点を利用し、クロコダイルを倒した。そして海軍本部は海賊が国を救ったという事実をもみ消す為、王国で奔走していたスモーカーが討伐したと報じた……」

「……」

 クロエは暫し考え、そして結論を出した。

「……ルフィがクロコダイルを倒したのは事実。だが、覇気の習得はまた別の話。アラバスタで覇気を会得したとは限らないからな」

「やっぱり、今のルフィじゃあシャボンディ諸島から先は厳しいかな?」

「だろうな。私のように結成時から覇気を得てれば大丈夫だろうが、ルフィ達は違う。魚人島に行くまでに覇気を会得しなければ、最悪死ぬ」

 クロエは腕を組みながら、そう断言した。

 前半の海の終点と言えるシャボンディ諸島では、多くの海賊達が集結し、マリンフォードも近いので何かあればすぐ海軍の最高戦力(たいしょう)が飛んでくる。だからこそ、ルフィ達には覇気を会得してもらいたいのだ。

「でも、今ルフィに会いに行っても覇気は会得できないよ」

「ああ、覇気の習得の為には()()()()()()()()()が必要になる……ん? 待てよ、シャボンディ諸島って確か……」

 不意に、クロエは思い出した。

 シャボンディ諸島で覇気使いと言えば、一人だけ心当たりがある。

 自分のかつての上司――〝冥王〟と呼ばれた老兵ならば、ルフィを気に入ってくれるはずだ。

「……者共、シャボンディ諸島へ向かうぞ」

「え? 今から?」

「ルフィと今会うのは約束が違うからな。レイリーに要件伝えて新世界に帰る」

 クロエはどうやら、レイリーにルフィの覇気の修行を頼むつもりのようだ。

 自らが指導するという考えがないあたり、あくまでもルフィに立ちふさがる壁としてのスタンスを崩さないらしい。何ともクロエらしい判断である。

「ちなみにだが、船長……」

「その…魚人島は?」

「マーメイドカフェは?」

「却下だ」

 仲間達の期待に満ちた声に、クロエはにべもなく切り捨てたのだった……。

 

 

           *

 

 

 そういう訳で、クロエ海賊団は新世界の海を逆走。

 魚人島に停泊せず、そのまま〝赤い土の大陸(レッドライン)〟の真下を通ってシャボンディ諸島近海に到着。

 そして、思わぬ人物と再会を果たした。

「お前がハナフダの後釜の七武海と聞いた時は驚いたぞ、くま」

「おれが考えた作戦だ、ドラゴンも了承している」

 クロエは柔和な表情でくまと酒を飲み交わす。

 革命軍の創立メンバーである彼は、世界政府の動向を探る為に「過激な活動をするドラゴン達と対立し、追放された」というウソの理由を付けて王下七武海へ加盟したのだ。取引は旧友であるベガパンクの新しい研究所・エッグヘッドで行われ、五老星の一人のサターン聖も電伝虫で参加。海賊行為はしてない上、くま自身が自分が知る限りの革命軍の情報を政府に提供すると申し出た為、サターン聖からは革命軍という前科の帳消しとして七武海加盟の条件を二つ提示された。

 

 ――一つ、クローン兵の素体となる事。

 ――一つ、()()()()()()革命軍の殲滅に協力する事。

 

『……!!』

「ジニーとボニーもちゃっかり入れてるな」

「ああ、流石のおれも言葉を失ったよ……」

 くまに提示されたあまりに非情な条件に、エマ達は絶句。クロエも顔を顰め、不愉快極まりないといった様子だ。

 しかしサターン聖は、本来ならくまの「思考」と「自我」を捨てさせた上で海軍の人間兵器にさせたかったらしく、それを三つ目の条件として提示しなかったのは、世界政府が血眼に探している革命軍の情報の価値を鑑みての()()()()()()だとの事。

 その言い分から、くまは自分にも利がある条件を頼むのは不可能と判断し、サターン聖の条件をそのまま承諾した。

「相変わらず悪魔みたいな性格だな、ジェイガルシアのおじじ様は」

「ドンキホーテ・R・コル寿郎……噂は聞いてるよ。聖地でも断トツの奇人だと」

「それは褒め言葉と受け取ろう」

 コル寿郎は煙管を吹かしながら、くまの発言に薄く笑う。

「しかし…情報漏洩は大きく出たのね」

「その情報もどこまで信用できるかもあるがな」

「真っ赤なウソでも言う人間によっては信用されがちだからな」

 ステューシーとレッドフィールド、スレイマンの意見に、くまは無言で頷いた。

 くまは確かに情報提供するとは言ったが、彼なりに虚偽を交えての提供だ。そもそも世界政府はロクに素性も実態も把握できてないのだ、多少の虚偽も気づくまい。

「……クロエ、実は少し気になる海賊がいるんだ」

「ルフィの事か?」

「!? なぜわかった、見聞色か!?」

「女の勘だ」

 不敵に笑うクロエに、くまは思わず感嘆の溜め息を漏らす。

「……ドラゴンの子だからか?」

「それもある……でも一番は、彼がゴムの能力だからさ」

 そう告げながら、くまはある昔話を始めた。

「おれはバッカニア族という政府が異常なまでに敵視している種族の出で……バッカニアの家系には代々伝説が伝わってるんだ」

 

 その伝説の名は、〝ニカ〟。

 太古の昔に奴隷達が信じていた伝説の戦士であり、人を笑わせ苦悩から解放してくれる「太陽の神」の名。

 書物でも本当に古い文献にしか記されていない、執拗なまでにかき消された歴史。

 リズムに乗って笑いながらやって来て、いつか奴隷達を助けに現れ、自由な海と太陽の下へ連れ出してくれる存在。

 そしてニカは、ゴムそのものの性質を持つ体で、空想のままに戦うという。

 

「ニカ……まさかバッカニア族の生き残りから聞けるとは」

「知ってるのか、コル寿郎」

「余も天竜人の血筋、少しは知ってる」

 コル寿郎曰く。

 自分が聞いたニカの話は、世界政府及び天竜人が最も忌み嫌っている存在で、あの五老星もその出現・復活を恐れているという。

 ちなみに彼自身はニカに興味を持ち、五老星に直接話を聞こうとしたところ、実兄のミョスガルドだけでなく神の騎士団に本気で止められたとの事。それぐらい聖地でも触れてはいけない案件(タブー)らしい。

「……古い悪魔の実図鑑に、〝ゴムゴムの実〟という悪魔の実は載ってないらしい。そうなると必然的に、ルフィがニカの能力を持つ事になるな」

「ああ……もしこの海を大きく変えるヒーローが現れるとしたら、おれは彼だと思う」

 ラカムの発言に、くまは静かに答えた。

「〝太陽の神〟と〝神殺し〟……どういう因果なんだか」

「確かにな……」

「しかもクロエもルフィとやらも、ロジャーと同じミドルネームが〝D〟ときた」

 ウィリーとガスパーデ、レッドアローはそれぞれ考え込む。

 同じ〝D〟の名を持つ海賊で、片やこの世の神である天竜人を殺め続け、片や神そのものの能力を身に宿している。

 これを因果と呼ばずに何と言うのか。

「ルフィがこの先の海で、果たして何を成し遂げるか……楽しみにしたいところだな」

「ああ」

 クロエとくまはそう呟き、グラスの酒を呷ったのだった。




次回は時間をちょっと飛ばして、シャボンディ諸島編。
クロエは会いに行きませんが、使者を送るようで……?
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