〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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今回は小話。ちょっと短めです。


第96話〝セント・ポプラ〟

 クロエ海賊団を支える副船長・エマは海賊界随一の銃使いである。

 この海で名を馳せるガンマン達の頂点である彼女は、常にベストコンディションでいられるように愛銃の手入れを欠かさないのだが、時には射撃性能を高める為の改造を施す事もある。紙製薬莢を自作したり、購入した弾丸の形状を球形から円錐形になるよう削ったり、自身の基礎戦闘力だけでなく武器強化にも余念が無い。

 武器も改造して自身の総合戦闘力を高められるという点では、クロエ達にはない長所と言えた。

 そして、そんな彼女にある「革命」がもたらされた。

「やったーっ!! これで完成!!」

「やかましいぞ、エマ…」

 四十路を過ぎた女海賊の歓喜の叫びを、船首楼甲板でコーヒーを飲むクロエがたしなめる。

 だが、エマは親友兼船長の呆れ顔に構わず、手にしたそれを見せつけた。

「見て、クロエ!! 技術革新で雷管をつけた仕様に変えたんだよ!!」

「雷管?」

「そう。厳密に言うと「パーカッションロック式」って名前の点火方式。基本的な構造はフリントロックと大差ないから改造しやすいの」

 エマは銃に興味のないクロエに、銃の仕組みを説明する。

 この海の銃火器で主流になっているのは、燧石で火花を発生させ、それを閉鎖された火皿に導く事で点火するフリントロック式。しかし近年の技術的な進歩が進み、新しい点火方式が誕生した。それが銃身にあるニップルと呼ばれる火門の開いた突起に雷管を装着させ、それを叩いて点火するパーカッションロック式だ。

 この点火方式の転換は、銃使いにとってはとてつもなく大きな恩恵を与えている。フリントロック式特有の発砲までのタイムラグを克服し、天候に左右される事なく発火できる事だ。火薬が濡れては銃使いはほぼ役に立たない為、この新しい点火方式は銃使い達から大いに歓迎される事だろう。

「……で? それを言いふらすだけか?」

「まさか。……クロエにとって嬉しいニュースが来たんだよ」

「私に?」

 エマはそう言いながら、今朝の世経をクロエに見せる。

「ほら、これ」

「!」

 エマが見せたのは、火に包まれる建物の写真と、その隣に載った麦わら帽子をかぶった海賊。

 見出しにはデカデカと「エニエス・ロビー 陥落!!」と書かれている。

 それは、ルフィの海賊団が「政府の玄関」とも呼ばれる〝司法の島〟にカチコミをかけて壊滅させたというテロ事件の記事であった。もっとも、あのモルガンズの事なので多少の情報操作がされているだろうが。

「ルフィがエニエス・ロビーを?」

「何でも、ロビンちゃんを奪い返す為にやったらしいよ。結果は見事にルフィ君達の勝ち!!」

「中々やるじゃないか。私でも同じ政府中枢のマリージョアは陥落できなかった」

「それは成し遂げちゃマズいでしょ……状況は似てるかもしれないけど」

 微笑みながらとんでもない発言をするクロエは、苦笑いするエマに新聞を返す。

「……CP9とバスターコールを出し抜くとは…やはり私の目に狂いはなかった。ただ()()()()()()()()()、正面から撃破できないと困るな」

「それは今後の成長次第…でしょ? ルフィ君のポテンシャルが新世代の海賊の中でも群を抜いている事くらい、クロエが一番理解してるクセに」

 ニヤニヤと悪い笑みをしながら、エマはクロエの隣に座った。

 すると、上甲板でゲラゲラと大爆笑する声が響いた。

 何事かと思って二人は階段を降りると、ヤマト達が腹を抱え涙目で大笑いしている光景が目に入った。

「どうした? ワライダケでも食ったか?」

「ク、クロエ……これ……!!」

 必死に吹き出しそうになるのを堪えているステューシーが、一枚の紙を見せた。

 それは、今回のエニエス・ロビーの一件の主犯である「麦わらの一味」の手配書で、船員の一人であるコックの〝黒足のサンジ〟のもの。初頭手配だが7700万ベリーの大物賞金首だ。

 そんな彼も、当然の如く手配書に顔写真が載るはずなのだが……。

 

 ――掲載されていたのは、手配書には似ても似つかない粗雑な似顔絵だった。

 

「っ…!!」

「アッハハハハハ!!! 何それ!!? 海軍の絵心が!!! アハハハハハ!!!」

 クロエは体を震わせ、エマはあまりの出来の酷さに涙目で破顔。

 これを描いたのは海軍の絵心が致命的レベルで酷い人間なのだろうか。というか、これが全世界に出回るのか。

「これは流石に不憫だな……」

「これ絶対悪意あるよ、絶対!! アハハハハハ!!」

「まさかツボったのか…?」

 エマのあまりの爆笑っぷりに、クロエはジト目で見つめた。

 とはいえ、この一件で総合懸賞金額(トータルバウンティ)は6億を超えた。新世代の海賊の中でも、その勢いは頭一つ抜き出ていると言っていいだろう。クロエ個人としては結構嬉しかったりする。

 エニエス・ロビーはウォーターセブンから近い。再会するなら新世界で会いたいが、人知れず様子を見てくる事ぐらいなら問題ないだろう。現に実父(ドラゴン)も何だかんだ息子(ルフィ)の様子見に故郷を訪れてる。

「あ~、腹痛い……で、これからどうするの? ウォーターセブンで船の様子見てもらう?」

「そうだな……ルフィ達の出航次第、トムのところに行こう。者共、次の進路が決まったぞ!」

 クロエの号令に、仲間達は歓声を上げる。

 だが、そこへガスパーデが野太い声で割り込んだ。

「盛り上がってるところ(わり)ィが、そろそろ物資を補給しねェといけねェ」

「何?」

「ここからウォーターセブンまでは距離がある。飯や水もそうだが、酒も足りねェぞ」

「そうか……確かこの海域なら、セント・ポプラが近かったか」

 セント・ポプラは「春の女王の町」と呼ばれ、温暖な気候と美しい町並み、そして船の資材となる材木の卸売市場で知られている。

 何より、ウォーターセブンとは海列車で繋がっている。トムの尽力で水の都は交易によって発展しているので、その物資も流れているはずだ。

「……よし、補給の為にセント・ポプラへ針路を変更する!! (そう)(はん)(てん)(ぱん)!!」

 クロエの号令に従い、一行は補給の為にセント・ポプラへ向かうのだった。

 

 

           *

 

 

 セント・ポプラの街に着いたクロエ海賊団は、各々自由行動となった。

 船医であるラカムは薬局に直行、他の男性陣は買い出し組と船番組に分かれ、女性陣は服を買いに出かけた。

「私はこれでいい」

「クロエ、もう少し女子力とか気にした方がいいわよ?」

「女子力はあるぞ」

「それは物理的な方でしょ? ストイックすぎるわよ…」

 ステューシーは呆れ顔でクロエを見る。

 彼女が手に取ってるカゴには、薄いピンクのシャツと黒のズボン、茶色のブーツに(こき)()(いろ)の腰布、上下の下着が数枚。

 よく言えば徹底的なまでの実戦向け、悪く言えば女子らしくないチョイス。それも全て無地のもので、クロエのストイックな一面がバリバリに出ていた。

「そうそう、こういう年頃こそ女子力が必要なんだから!!」

「42歳の女の言うセリフに聞こえんぞ」

「45歳に言われたくないんだけど!!」

 クロエの冷たいツッコミに、エマは反論。

 ちなみに彼女のカゴには、袖口にもファーが付いた炎の模様をあしらったコート、薄い灰色のブーツ、七宝模様の紫のバンダナが入っている。やはり実用性重視だが、これでもエマなりにファッションには結構気を使っている。

「僕はもう早速服を買って着てるよ!!」

「よりにもよってそれ?」

 同行したヤマトはすでに服を購入し、一足早く着替えている。

 ……のだが、その衣装は鬼のマークが胸元に入ったTシャツの上に黒い詰襟を着るという、海賊というより町の不良少年のようなファッション。背中に背負っている金棒・建が金属バットに見えて仕方がない。

 しかもこれはこれで似合うというのが恐ろしいところである。

「全く、根っからの海賊だからかしら? どうしても華が足りないわね、三人共……」

 ステューシーはそう言いながら、棚から羽根つき帽子を取ってカゴに入れるのだった。

 

 

 その頃、男船員達の買い出し組はというと。

「ハァ…ハァ…流石に(つえ)ェな……」

「おれ達四人相手取っても、まだ余力があるど…」

「余も弱肉強食の下界で生きるのだ、鍛錬は怠れんのさ」

 〝堕天〟の異名を持つ剣豪は、含み笑いを浮かべて見やる。

 クロエ達が船を離れている間、ドーマを筆頭とした古株達はコル寿郎を相手に剣の手合わせをしていたのだ。

 剣術においてはクロエと同格である彼の実力は非常に高く、覇気の練度も相当なもの。ドーマ達もクロエに扱かれてるので世界最強の女の部下に恥じぬ実力はあるが、力の差は歴然であった。

「覇気と剣の技量はとやかく言わないが、体の使い方だな。クロエ達はそれが()()()()からな」

「フム……では次に我と手合わせ願おうか」

 すると、今まで沈黙を貫いていたレッドフィールドが立ち上がった。

 かつては海賊王・白ひげ・金獅子らと渡り合った大海賊との手合わせに、コル寿郎は口角を上げた。

「〝赤の伯爵〟との手合わせ…願ってもない。余も本腰を入れねばコテンパンにされそうだ」

「何を言う、我も老いた。この老いさらばえた()()()()()に後れを取られる方が困るというもの」

 互いにニヤリと笑い、コル寿郎は愛刀を、レッドフィールドは傘を構える。

 そして、互いに見合う事数秒――同時に動いた。

 レッドフィールドは傘で平突きを繰り出し、コル寿郎は武装硬化した刀の刃で受け止める。互いに踏み込みを緩めず、力で押し合う。

 コル寿郎は力比べで負ける訳にはいかないと、より力強く踏み込んでレッドフィールドを押し返す。そのまま横一文字に斬り払うが、レッドフィールドはバックステップで回避。

 コル寿郎は間髪入れずに踏み込んで、袈裟懸けに斬りかかる。レッドフィールドは傘でそれを受け止め、逆に突き返す。コル寿郎はそれを身を翻して躱し、刀を突き返す。

 互いに攻防が続き、両者の間に火花が散る。

「……流石に基礎戦闘力では勝敗は厳しいな」

 コル寿郎はそう言うと、バショバショの実の能力を発動。結界を展開する。

 結界内において、コル寿郎は物理的な影響を与える「力」を自在に操る事ができる。重力、浮力、引力など様々な力に干渉し、圧倒的な力で相手を制圧するのだ。その〝支配〟に置かれた状態で勝つ為には、コル寿郎と同等以上の覇気で相殺するしかない。

「行くぞ、〝赤の伯爵〟」

 その声と共に、レッドフィールドに重力が掛かる。

 余りの重さに片膝を突くが、すぐさま全身に強力な覇気を流して打ち消していく。

 しかし全盛期を過ぎた彼にとって、長時間覇気を全身に流し続けるのは凄まじい負担だ。それこそ今のクロエやエマ、ラカムでないと打ち消すのは難しいだろう。だがレッドフィールドは海賊としての経験値を活かし、コル寿郎の剣戟をいなす。

 そして、僅かな隙を突いてコル寿郎の懐に飛び込み、鳩尾を石突で突いた。衝撃でコル寿郎は吹き飛ばされるが、受け身を取って着地。すぐさま納刀して跳躍し、居合斬りを放つ。

 レッドフィールドは傘を広げて防御するが、斬撃の勢いを殺しきれず後退する。コル寿郎は追撃して連撃を繰り出すが、見聞色で的確に躱されていく。連撃の合間に結界内の重力を変化させ、レッドフィールドの体勢を崩そうとするが、先を読まれているのか上手くいかない。

 そんな戦いが20分程続き……。

「ハァ…ハァ…今の我では、これ以上は戦えんな……」

「フッフフ…予想以上の強さだった、海賊王世代は伊達ではないな…」

 二人はほぼ同時に息を切らして、刀と傘を下ろした。

 周囲では仲間達がその戦いぶりを称えた。

「流石だな、これが30億と25億5610万の戦いか……」

「全く、とんでもないな……」

「あの二人の手合わせは貴様らにも良い刺激になったようだな」

「ああ、そうそう……っ!?」

 ふと、聞き慣れた女性の声が響いた。

 全員がハッとなって振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべたクロエと、引き攣った笑みを浮かべるエマ達が。その後ろには憐れんだ眼差しのラカムと買い出し組が。

「頗る元気だな。身体も温まったところだ、私も交ぜろ」

「い、いやいやいや!! 船長はダメだって!!」

「私が首を突っ込んじゃマズい事ではないだろう? 暴れ足りないなら()()私が相手をしてやる」

 ある種の恐怖すら感じる笑みに、コル寿郎は「勝手に手合わせしたのは失敗だったか…?」と消えそうな声で呟いたのだった。

 そしてコル寿郎達は、()る気を出したクロエに徹底的に扱かれ、満身創痍でラカムに治療されたとか……。




一応忘れないよう、クロエ達の同い年達を紹介します。

クロエ…ヤソップ、バーソロミュー・くま、ウルージ、アルベル(キング)など
エマ…モーガン、クリーク、シリュウなど
ラカム…シャンクス、バギー、エネルなど
コル寿郎…ヒナ、戦桃丸、ベロ・ベティなど


次回はシャボンディ諸島の大騒動。
麦わらの一味のピンチに、あの副船長が駆けつける!?
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