〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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本作では、シャボンディ諸島の麦わらの一味を助けるのはレイリーではなくエマです。


第97話〝この海の頂で待ってる〟

「……随分と騒がしいな」

 クロエはオーロ・ジャクソン号の船首楼甲板から、数キロメートル離れたシャボンディ諸島を眺めていた。

 彼女の手には世経が握られており、その一面には白ひげ海賊団の2番隊隊長〝火拳のエース〟の公開処刑が確定したという記事が掲載していた。

「クク……まァ政府や海軍の正気を疑うな」

「ゴールド・ロジャーの息子ってのがバレたんじゃねェか?」

「ロジャーの倅……確かに政府には不都合やもしれんな」

 ニュースの号外を知りつつも、一味の面々はさほど気にしている様子ではなかった。

 海賊の中でも最大勢力を誇る、あの世界最強の白ひげ海賊団と海軍本部との戦争が起きるであろうという事は容易に想像できるが、クロエ海賊団は「静観」の構えを見せている。

 海軍としては、エースが海賊王の血筋と把握した以上、ロジャーに焦がれ愛し続けるクロエの乱入を恐れているだろう。しかし当の本人は――

「一応訊くが…いいのか? あんたが愛した男の息子だろ」

「捨て置け。ニューゲートは気の毒だった」

 それが、クロエの答えだった。

 彼女にとって()()()()()()()()()という存在は、一介の海賊でしかなくなっていた。今回の一件も、亡き王の忘れ形見が白ひげの部下となって下手を打ったというだけの話でしかなく、それ以上の感情も感慨も湧かない。

 それにいくら大海賊時代の頂点に立つ男と言えど、今の白ひげは老いによる衰えがかなり進行している。あのバレットですら化け物と称する男とて、海軍との戦争での戦死も可能性としてはゼロとは言い切れない。

 つまり、この先起こるであろう戦争は白ひげの時代の終焉を意味する。

「……それより、ルフィ達は? 島の喧騒が激しさを増してるが」

「妙ちくりんな船首の船は見つけたが、気配はねェ。まだ島内のどこかだろ。コーティングは3日かかるしな」

 クロエの問いに、ガスパーデは答える。

 魚人島の沖合を航行中、ヤルキマン・マングローブの根の近くにライオンの船首の海賊船――サウザンド・サニー号を目視した為、一味の面々が上陸している事は確認済み。

 そう考えると、あと三日は少なくとも島から出れないだろう。

「……なら早めに済ませよう。エマ、()()()()に伝言を頼めるか?」

「いいけど、何?」

 欄干に足をかけるエマに、クロエは笑みを浮かべて告げた。

 

「この海の頂で待ってる――そう伝えてくれ」

 

 それが、クロエが期待する若者へのメッセージであり、エールでもあった。

「了解! じゃ、行ってくるね!」

 エマは欄干を蹴り、月歩で宙を蹴って空中移動。そのままシャボンディ諸島へ一直線に向かうのだった。

 

 

           *

 

 

 シャボンディ諸島に辿り着いた麦わらの一味は、訳あって人間屋(ヒューマンショップ)にて天竜人のチャルロス聖を殴り飛ばすという大逆事件を引き起こしたが、その最中に〝冥王〟シルバーズ・レイリーと出会っていた。

 現在、一味はレイリーに連れられて13番GR(グローブ)の「シャッキー'S ぼったくりBAR」へ退避し、〝海賊王の右腕〟と呼ばれた男から聞きたい事を何でも尋ねていた。

 

 自分達と奇妙な縁があるタコの魚人・ハチとなぜ顔見知りなのか。

 ロジャーは処刑されたのに、副船長が打ち首にならなかったのは何故なのか。

 900年前に始まる〝空白の100年〟に、世界に何が起きたのかを知ってるのか。

 

 レイリーはそれら全ての質問に、答えられる範囲で答えていった。

 そんな中、狙撃手のウソップが〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟の真相について聞こうとしたところ、ルフィが大慌てでそれを遮った。

 宝がどこにあるのか。宝があるかないか。そんな事は聞きたくない。レイリーに教えてもらうくらいなら海賊をやめる。

 そう豪語したルフィに、レイリーは問うた。

「やれるか、君に…〝偉大なる航路(グランドライン)〟はまだまだ君らの想像を遥に凌ぐぞ!! 敵も強い。君に強固な海を支配できるか!?」

「支配なんてしねェよ。この海で一番自由な奴が、海賊王だ!!!」

 そうやっていつもの調子で平然と答えたルフィに、レイリーは感慨深そうに「そうか…」とだけ答えて、その口元に笑みをこぼした。

 その時、酒場の扉をドンドンと叩く音が響いたかと思えば、一人の女海賊が入ってきた。

 ミディアムボブ風の黒髪にバンダナを頭に巻いた、右頬の切り傷が特徴の長身女性だ。赤いシャツと黒いズボンを着用し、炎の模様をあしらったコートを羽織り、腰には黄色の腰布を巻いて拳銃と片手用ライフル銃を差している。

「ごめんくださーい、レイリーさんとルフィ君いるー?」

「んん? 君は……エマか!! 久しぶりだな、元気そうじゃないか」

「あーーーっ!! エマじゃねェか!! 何でいるんだァ!?」

「おっ! 私の読み当たってた! ヤッホー♪」

 驚くレイリーとルフィに、エマはニカッと笑いながら手を振る。

 すると二人だけでなく、ロビンも思わず立ち上がった。

「エマさん!! どうして!?」

「君は…オルビアさんの娘さんの! 私、ちょーっとルフィ君に用があってね」

「……ロビンさん、あの、彼女は一体?」

 状況が上手く飲み込めないガイコツ――元ルンバ―海賊団にして麦わらの一味の新メンバーである〝鼻唄のブルック〟は尋ねる。

「彼女はエマ・グラニュエール……ゴールド・ロジャーを継ぐと恐れられる世界最強の女海賊、〝鬼の女中〟クロエ・D・リードの右腕よ」

『ええ~~~~!!?』

 ルフィを除いた一味の面々は、あまりにも唐突すぎる超大物の登場に目を丸くする。

 それもそうだろう。海の皇帝達の中でも現役最強と謳われるクロエの一味の副船長が、何の兆しも無く訪れてきたのだから。

「お隣良い? 〝鼻唄のブルック〟さん」

「ヨホホホ、構いませんよ。それよりエマさん――」

「パンツは見せないからね。あ、シャクヤクさん! ラムを瓶ごとお願い!」

「……え? 何で私が言おうとした事がわかったんですか!? 初対面ですよね!?」

 エマがブルックの言葉を先読みした事に困惑するブルック。

 彼女は静かに微笑むと、受け取ったラム酒の瓶に口を付けて、喉を潤してから語り出した。

「島に着いて状況を理解したよ。天竜人を殴ったんだって? やっぱり〝D〟の名を持つ人間って天竜人が大嫌いなんだね」

「エマ、()()()は別格だろう。一体何人の天竜人を殺めてきたんだか…」

「本人絶対憶えてないだろうなァ」

 レイリーとエマは互いに笑い合いながら話を弾ませていた。

 期間としては半年程度だったが、エマも立派な元ロジャー海賊団の船員(クルー)なのだ。

 するとエマは、今度はあのトムの弟子・フランキーに声を掛けた。

「久しぶりだね。トムさんは元気だった?」

「アウッ!! スーパー元気だぜ!!」

「懐かしいねー、そのフレーズ。今度点検に行こうかなって思ってたけど、まさか海賊になってたなんてね。エニエス・ロビーの一件のせいかな?」

「流石は〝神殺しの右腕〟、アタリだ」

 フランキー曰く。

 麦わらの一味との出会いはウォーターセブンで、当時の帆船ゴーイング・メリー号の修理をする為にトムの元へ訪ねた事だった。

 船の生命線と言える竜骨が多大な損傷(ダメージ)を負っていると発覚し、一味はメリー号と別れる決断をした。一味の狙撃手でメリー号に並々ならぬ思いを持つウソップは猛反対したが、〝偉大なる航路(グランドライン)〟を制覇したオーロ・ジャクソン号を建造した実績があるトムの言葉は飲み込む他なく、メリー号との別れを泣く泣く受け入れたという。

「だが、その最中にニコ・ロビンがCP9に攫われ、おれの子分達もトムさん達も随分ひどい目に遭わされてな」

「その落とし前を付けにルフィ君達と手を組んで、互いの目的を達成したんだね。クロエが期待するだけあるなァ」

 エマは一味全員の顔を改めて見渡し、納得したように頷いた。

 そして、本来の目的を果たすべくルフィ達に声を掛けた。

「今日来たのは他でもない。――クロエから伝言を預かってるんだ、君達に向けてね」

「……ルフィだけじゃなく、おれ達全員にか?」

「そういう事。それぐらいクロエは君達を高く買ってるんだ」

 一味全員の視線が、エマに集中する。

 彼女はその視線を一身に受け止めながら、伝言を口にした。

「「この海の頂で待ってる」――そう言ってたよ」

 その言葉に、一味全員の鳥肌が立ち、レイリーやシャクヤクも口元をニヤつかせた。

「クロエはね、君達「麦わらの一味」が新世界に来るのを楽しみにしてるんだよ。……私達を超えられれば海賊王の称号と〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟は目の前だから、しっかり頑張ってね!! ルフィ君!!」

「おうっ!!!」

 エマとルフィは互いに笑みを浮かべ、ハイタッチを交わすのだった。

 

 

 それから数十分後。

 レイリーは、船のコーティングが完了するまでの3日後の再会の為、1枚残る自分のビブルカードを千切って一味にそれぞれ手渡すと、「3日後の夕刻、ビブルカードの指し示す先でコーティングを済ませて待つ」と言って出て行った。

 麦わらの一味もまた、シャッキーの店を出てバラバラに逃げ、店内にはエマと店主のシャクヤク、ハチとその友人である人魚のケイミーとヒトデのパッパグだけとなった。

「……シャクヤクさん、ラムごちそうさまでした」

「まだ飲んでく?」

「いや、早く船に戻らないと。これでも副船長だしさ」

 エマはケラケラと笑いつつも、ルフィ達が置かれている現状はかなり深刻だと内心では心配していた。

 今の海軍は天竜人や超新星達に構ってる状態じゃないのが本音だ。何せ白ひげ海賊団との戦争を控えているのだ、その迎撃準備が最優先事項のはず。ともすれば、いざ決戦という時に大将が揃ってないという事態を避けるべく、この案件は迅速に制圧するだろう。

 そう考えると、上陸するであろう海軍大将は、〝ピカピカの実〟の光人間である黄猿という事になる。

「……ルフィ君達は覇気は会得してるの?」

「いいえ…モンキーちゃんもその仲間達も、誰も覇気を覚えてないわ」

 シャクヤクから返ってきた答えに、エマは「結構キツいなァ…」とボヤいた。

 新世界は覇気の習得が大前提。今のままのルフィ達では、この修羅場をくぐり抜けても新世界に突入した瞬間に詰みかねない。むしろ修行して出直すべきだろう。

「……資質はあるけどなァ」

「それって、あなたの見聞色?」

「そうそう、元々得意でさ。さて…ルフィ君達はうまく逃げてるかな?」

 エマは意識を集中させ、見聞色の覇気による探知範囲を広げていく。

 彼女は透視ができる程に見聞色を鍛えている猛者。シャボンディ諸島一帯はおろかその沖合の状況すら把握できる程だ。

 

 キィーン…!!

 

「!?」

 刹那、エマの見聞色が未来を捉えた。

 それは、麦わらの一味が大将〝黄猿〟に遭遇し、その圧倒的な力によって壊滅するという最悪の光景。

 彼女の心配は的中していたのだ。

「マズい!!」

「エマちゃん!?」

「ごめん、あとで必ず払うから待ってて!! 流石だよ、ホント!!」

 エマは店を飛び出ると、跳躍してから月歩で高速移動。

 まるで弾丸のような速さで飛び、見聞色が捉えた場所を目指した。

 

 

            *

 

 

 麦わらの一味は、絶体絶命の危機に陥っていた。

 12番GR(グローブ)にて王下七武海の一角(バーソロミュー・くま)を模した海軍の新兵器・パシフィスタをどうにか総出で倒したところ、海軍本部科学部隊隊長の戦桃丸が別個体のパシフィスタを連れて現れたのだ。しかも一緒ではダメだと三手に分かれ逃走を図ると、遅れてきた海軍大将(ボルサリーノ)が来襲し、ゾロの体をレーザーで貫いたのだ。

「懸賞金1億2000万…〝海賊狩りのゾロ〟……!!! 一発KOとは…随分疲れが溜まってたんだねェ。ゆっくり休むといいよォ〜」

「ゾロ!!」

「おい、そいつもビームかよ!? ヤベェぞ何とかしろォ!!! そんな距離で食らったら死ぬぞ!!!」

 ボルサリーノの足に、光のエネルギーがどんどん溜まっていく。

 ゾロはダメージが深過ぎるのか、ピクリとも動かない。

 いくらタフでも、大将の攻撃を至近距離で受ければ即死は免れないだろう。

「畜生!! 何でだ!!? 当たらねェ!!!」

「刺さりもしません!! ちょっと!! どうしたら――」

「無駄だねェ…わっしは〝ピカピカの実〟の「光人間」。自然系(ロギア)だからねェ」

「ウソでしょ!? 死んじゃう!!!」

 一味の妨害を苦にせず、黄猿はゾロに最後通告をした。

「移動もさせない……無駄だよォ〜、今死ぬよォ〜…!!」

『ゾローーー!!!』

 黄猿はそう言って、足からレーザーを放とうとする。

 誰もがゾロの死を予感した、その時!

「ほいっと!」

 

 ドォン!!

 

『!!?』

 寸でのところで、エマが乱入。

 覇気を纏った足でボルサリーノのレーザーを弾き、ゾロの救出に成功した。

「フゥ~……ギリギリセーフだね…」

「〝魔弾のエマ〟……!? 何でここにいるんだァ~…?」

「ボルサリーノさん、若い芽を摘んじゃダメだよ。クロエが待ち望む新時代が、目の前まで来てるんだからさ…!!」

「エマァ~~~~~!!!」

 驚きを隠せないボルサリーノに向けてエマは不敵な笑みを浮かべ、ルフィは救世主の登場に涙を流した。

 ゾロが助かった事に一味の面々は安堵し、戦桃丸は「冗談キツいぜ……!!」と冷や汗を流す。

「この島じゃあ〝冥王〟の目撃情報は聞いてたんだけどねェ~…まさか五皇の副船長が来てたとはねェ~……こんなヒヨっ子達の肩を持つなんて、クロエ海賊団も落ちたもんだ」

「ウチは自由がモットーだからね。自分のイチオシを応援するのも自由だよ」

「アイドルでも推してる訳じゃないでしょうがァ~……ただ、あんたを捕えるとなると、こちらとしても()()()()()を決めにゃあいかんので……」

 そう……エマを捕らえるという事は、あのクロエを怒らせる事に繋がる。

 白ひげ海賊団との戦争を控えている中で、クロエ海賊団まで同時に敵に回したら、海軍はおろか世界政府そのものが破滅しかねない。

 そもそも、それ以前にエマがとてつもなく強い為、いかに海軍の最高戦力でも油断できない。

「よかった、ゾロ…!! やっぱ〝魔弾のエマ〟はスゲェ海賊だ!!」

「突いても突いてもすり抜ける体を…今、止めましたよね? 何で!?」

 ウソップとブルックは、エマが物理攻撃を無効化する自然系(ロギア)の肉体であるボルサリーノを止めた事に感謝すると同時に疑問を抱いた。

 エマは二人を一瞥してから、改めて向き直る。

「そういう事だからさ……ルフィ君達を見逃してくれないかな、ボルサリーノさん。海軍もここで油売ってる場合じゃないでしょ?」

「勘弁してくれよォ~…この子らをとっ捕まえねェと、我々海軍本部はマリージョアの天竜人達に顔が立たんのだよォ」

 淡々と二人の会話が続く中、ルフィが叫んだ。

「ウソップ、ブルック~~!!! ゾロを連れて逃げろ~~~!!!」

「ん?」

「全員!!! 逃げる事だけ考えろ!!! 今のおれ達じゃあ、こいつらには勝てねェ!!!」

 ルフィは迷わず撤退を決断。

 その潔さにボルサリーノは「腹が立つねェ」と呟いた。

「エマ!! ありがとう!!」

「気をつけてね!! ここで死んだら承知しないよ!!」

 エマはルフィ達に手を振って見送る。

 だが光速を誇る大将・黄猿に対して、逃走は無意味。ボルサリーノは〝八咫鏡〟を発動し、重傷のゾロを追おうとした。

 それをエマは片手用ライフル銃の引き金を引き、光の道を破壊する。

「おっとっと……!!」

「ここは通さない…!! 大将との一対一(サシ)は久しぶりだ」

「――〝天叢雲剣〟」

 〝神殺しの右腕〟が立ちはだかる以上、この場が簡単に済まない事を覚悟したボルサリーノは、光の剣を生み出して斬りかかる。

 対するエマは、愛用のライフル銃の銃身を持って覇気を纏い、バットのように振るう形で斬撃を受け止めた。

 互いの得物が激しくぶつかり合い、火花が散る。

「フー…困ったねェ~~、軽い気持ちでこの島に来たのにねェ…」

「お互い様だよ。私だって、ただルフィ君達に伝言を届けに来ただけだし…さっ!!」

 そのままエマは覇気を高めて〝天叢雲剣〟を弾き、武装硬化した拳でボルサリーノを大きく吹き飛ばす。その隙に撃鉄を起こしてニップルに取り付けていたキャップを外し、紙製薬莢を銃口から装填。新たな雷管を嵌めて装填を終える。

 直後、目にも留まらぬ速さで戻ってきたボルサリーノが、蹴り足からレーザーを放つ。一直線に向かう破壊の一閃を、エマは再び銃身を持って豪快に振るい、覇気を纏った飛ぶ打撃で相殺する。

 海軍大将と五皇の副船長――その規格外の戦いに、麦わらの一味は逃走しつつも愕然としていた。

「あのオジキと互角以上に渡り合ってやがる……予想以上だぜ、〝魔弾のエマ〟……PX-1(ピーエックスワン)!! ロロノアが虫の息だ、そっちから行け!!!」

 状況を分析した戦桃丸は、PX-1(パシフィスタ)に瀕死のゾロに攻撃を仕掛けるよう命じたが……。

「〝黒閃(ブラック)砲火(ホーク)〟!!」

 

 バァン!! ドゴォン!!

 

 エマのライフル銃が火を吹き、覇王色を込めた弾丸が放たれた。

 軍艦を真っ二つにする破壊力を有するそれは、パシフィスタの胸部を貫通。主兵装であるレーザー兵器が制御不能となり、そのまま大爆発を起こした。

「何っ!?」

「ス、スゴい……!!」

「あ、あのサイボーグを一撃で倒しやがった……!!」

 強靭なボディと強火力を誇る人間兵器を一撃で沈めた事に、戦桃丸は思わず狼狽し、ナミとフランキーは驚愕した。

「やっぱり覇気を纏った攻撃はキツいようだね、あの()()()()()()は」

「困るねェ~…パシフィスタを一人造るにゃあ、軍艦一隻分の費用がかかるのによォ~」

 パシフィスタが容易く撃破され、ボルサリーノは溜息を吐く。

「あんたとはやり合う気はないんだよォ。……さっさと消えてくれるとありがたいんだがねェ」

「悪いけど、ルフィ君達が逃げるまで私は付き合うよ」

 まるで威嚇するように、覇王色の覇気を放つエマ。

 それを受けたボルサリーノは、「厄介だねェ~……」と頭を掻いた。

「退かないなら退かせるまで…………っ!!」

 不意に、覚えのある気配を見聞色が察知し、エマは振り向いた。

 視線の先には、パシフィスタではなく本物のバーソロミュー・くまがゾロ達の前に現れていた。

 そして、あろうことか掌の肉球でゾロを消し去っていったではないか。ルフィは混乱しながらも「まずは逃げて後は助かってから考えろ」と船長として指示を飛ばすが、その間にも仲間が次々と消えていく。

 顔馴染みの暴挙の真意を知るべく、エマは見聞色で未来を視た。

(……そういう事か。話を合わせないといけないな…)

「エマ・グラニュエール…」

 ボルサリーノと対峙するエマの元に、くまが一瞬で近づいた。

「――私に信じろと言いたいの?」

「未来を視たか……流石だ。信じるかどうかはあんたの自由だが」

 くまはどこか安堵したような声で呟くと、すぐさま瞬間移動して麦わらの一味を消していく。

 そして、最後に地面に自分の頭を打ち付けて泣くルフィだけが残った。

「…何だおれは……!! 仲間一人も゛…!!! 救えな゛い゛っ……!!!」

「……さらばだ」

 くまは短く告げると、泣きじゃくるルフィを消した。

 船長モンキー・D・ルフィ率いる海賊団〝麦わらの一味〟は、「完全崩壊」を喫したのだった。

 

 

 麦わらの一味が消され、捕らえる事ができなくなった以上は追えないと判断し、ボルサリーノと戦桃丸はその場から撤退。

 その場にはエマとくまの二人が残された。

「……えいっ」

 

 ゴッ!

 

「あだっ!?」

「くまちー、これトラウマになるよ? ジニーもキレるよ流石に。ルフィ君が君んところのボスの息子だってわかってるっしょ?」

 エマは武装硬化した足でくまのスネを蹴り、苦言を呈した。

「わかってるさ……だが、こうするしかなかった」

「まァ……ここで離れ離れになる方が正解なんだろうね」

 エマはくまの判断は妥当だと判断する。

 今のルフィ達では新世界のレベルは()()()()。新世界に突入してすぐ全滅するよりも、散り散りになって各々の能力を向上させ、再び集結した後に挑むべきだ。

 そういう意味では、くまに飛ばされた事は僥倖と言えよう。五皇の君臨する海は勢いでどうにかなるような柔な世界ではない。

「……七武海として白ひげ海賊団と戦うんだって?」

「ああ…結果はどうあれ、時代は変わるだろう」

「一応ウチは静観のスタンスだけど……これに便乗して白ひげ海賊団の領海(シマ)を狙う連中がわんさか出てくるだろうし、しばらく荒れそうだね」

 この戦争は勝っても負けても白ひげ海賊団は弱体化を余儀なくされ、カイドウやビッグ・マムをはじめとした新世界の怪物達にナワバリを奪われ、金獅子のように息を潜めてた伝説級の大物達も動き出す可能性は高い。

 五皇の筆頭が海の王者から陥落すれば、世界に保たれていた暗黙の均衡が破られ、人々の夢と野望を乗せて新時代が始まる。白ひげが崩れれば、繰り上げ当選でクロエが大海賊時代の頂点になるのだが……。

(もっとも…これといったナワバリが無いから、誰がどうなろうがどうでもいいんだけどね)

 ひとまず要件を済ませた為、エマはくまに別れを告げてからオーロ・ジャクソン号へと戻っていったのだった。




そういう訳で、エマの圧倒的な実力をルフィ達に見せつける回でした。

さて、本作の麦わらの一味は、ルフィとウソップの決闘はありませんでした。
トムがちゃんと面倒を見て、メリー号はもう直せないと一味全員の前で告げた上、ロジャーの面影をルフィから感じた為、無償でサニー号を作る流れになりました。
ロビンについては原作とあまり変わらない展開でルッチ達に連れてかれ、フランキーはクロエ絡みでルフィと仲良くなった状態でエニエス・ロビーに殴り込みました。

次回はマリンフォード頂上戦争について。
ロジャー海賊団解散後、一人海賊として活動しながら己を鍛え続けたあの男が、まさかの…!?
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