今回は序章。「公開処刑までの時間に何が起きてたのか」がテーマです。
デルタ島。
ごく一部の人間にしか知られない、海賊王ゴール・D・ロジャーが眠る新世界の無人島の地下には、葉巻を燻らせる老人が天然の洞窟をアジトにしていた。
「知ってるか? 海軍と七武海が白ひげと戦争するらしい……!! ロジャーが死んでから22年……またデカい
老人――ブエナ・フェスタは笑う。
大海賊時代以前から活動している大物海賊である彼は、世間的には十数年前に死んだものと思われている。だからこそ、海軍や世界政府にはほとんどノーマークであった。
あの伝説の
「……」
「バレット……強さではお前さんの姉貴分にゃあ及ばねェだろうが、白ひげは老いても
フェスタは岩に腰掛け腕を組む軍人――〝鬼の跡目〟ダグラス・バレットを見上げる。
世界最強の女と謳われる〝鬼の女中〟クロエ・D・リードと共に「ロジャー海賊団の双鬼」として活動していた彼は、大海賊時代開幕後は世界中のあらゆる強者との死闘に没頭していた。
ある時は自分が超えるべきライバルである義姉と。ある時は五皇の誰かや自分の首を狙う海賊達と。ある時は自分を捕らえようとする海軍の豪傑や大艦隊と。
バレットはロジャー海賊団解散後も一人海賊として戦いに明け暮れたが、ここ10年程はひたすら鍛錬に専念していた。義姉とは不定期で連絡を取り合ってたが、それ以外の他者とのコンタクトは一切取らずに鍛え続け、手を組んだフェスタとも最低限――それなりに譲歩はした方らしい――のコミュニケーションで済ませていた。
それも全て、自分が心から認め、同時に憧れた二人――クロエとロジャーを超えて〝世界最強〟になる為。ロジャーとの誓いを果たす為だ。
「白ひげ海賊団は本隊と傘下を合わせれば総勢5万人の兵力……海軍本部は中将以上の階級を持つ者全員と世界中の海を守る強者共、そして王下七武海に開発中の人間兵器もある……!! これ程の
フェスタは生き生きと声高に語る。
そんな中で、あの〝鬼の跡目〟が手を組む事を持ち掛けてきた。興行師としての自分の腕を買い、世界最強へ駆け上がる計画を語った。フェスタはそれに残り少ない人生を賭けた――伝説すら倒す世界最強の男だと信じて。
彼もまた、ロジャーを超える為に。
「処刑は6日後……どうする? バレット」
「……決まってる。てめェは来なくていい」
バレットは腰を上げた。
今から6日後、 政府の二大勢力と五皇筆頭がマリンフォードで激突する。そこに単身殴り込みをかけ、白ひげも海軍も七武海もたった一人で壊滅させる事で、世界最強への狼煙を上げるのだ。
バスターコールへのリベンジは成し遂げてないが、これから起こる戦争に集う全ての猛者を叩き潰せば、ある意味でリベンジは成就したといえるだろう。
三大勢力を一人で相手取り、これを凌げば、バレットを倒すのは世界政府や海の皇帝達をもってしても不可能に等しい。それで彼は、今度こそ――
「これは、おれの戦場だ」
「よし…おれはお前さんの計画を進めておこう。どっちが勝っても時代が変わる……その時こそ、
「カハハハ……ぬかるんじゃねェぞ」
バレットは悠然と笑いながら洞窟を出て行く。
残されたフェスタもまた、ニヤリと口角を吊り上げるのだった。
所変わり、マリンフォード。
海賊〝黒ひげ〟から王下七武海加盟の手土産として〝火拳のエース〟の身柄を受け取った海軍は、来るべき白ひげとの全面戦争に備え、各地で名を挙げる屈強な海兵達が続々と着港。「正義」の名を持つ全ての戦力が「海軍本部」に終結していた。
聖地マリージョアでも、すでに召集された〝王下七武海〟の5人の海賊達にも戦闘陣営が伝えられた。もっとも、彼らが一丸となって戦う事は、まず考えられないが。
そして、それらを統括する元帥センゴクは、いつになく落ち着かない様子だった。いつ白ひげが攻めてくるかもわからない、というのもあるが……それ以前に
「どうだ? あのじゃじゃ馬はまだ動かんか?」
「いえ…シャボンディ諸島で〝麦わらのルフィ〟を捕縛しようとしたボルサリーノ大将が〝魔弾のエマ〟の妨害を受けて以降、クロエ海賊団は何の音沙汰もありません…」
「むう……」
伝令将校の報告に、センゴクは唸る。
あれ程ロジャーに焦がれた〝鬼の女中〟が、彼の息子に対して興味も関心も持たない訳がないはずなのだ。
だが、エースが公開処刑されるという情報が世界中に流れたにも関わらず、クロエは何もしない。ロジャーの血を引く少年の危機に、何も思わないはずがないのに、だ。
「……センゴク、気持ちはわかるが今は白ひげだ。新世界で不穏な動きがあるんだ、いつ何が起きるかわからんぞ」
「わかってる…だが万が一にも白ひげとクロエが手を組んだら、我々に勝ち目は無い……!!」
センゴクの懸念に、同期であるゼファーをはじめ、元帥室にいる海兵全員が押し黙る。
老齢の白ひげに対し、クロエは全盛期。純粋な戦闘力ならクロエは白ひげをも上回る。少数精鋭で傘下を持たないクロエ海賊団が他の巨大勢力と互角に渡り合っている事実も鑑みれば、彼女が参戦すれば七武海や海軍大将が討ち取られる可能性も考えられるのだ。
だからこそ、〝鬼の女中〟の動向は当日まで注視し続けねばならない。海賊界随一の奔放さで知られる彼女は、神をも容易く殺す大海賊なのだから。
「失礼します!! センゴク元帥、モモンガ中将から連絡が!!」
「ん?」
「〝海賊女帝〟ボア・ハンコック――ついに折れたようで、今こちらに向かっていると!!」
「やっとか…間に合えばいいが…あの女は強いぞ」
大の政府嫌いと知られているボア・ハンコックの参加表明。それはセンゴクとしても数少ない吉報だ。高い身体能力と格闘能力を誇る戦士の国「アマゾン・リリー」の頂点が、海軍の戦力として白ひげ海賊団を迎撃できれば、強者揃いの白ひげ海賊団隊長格でもかなりの脅威となるだろう。
ただ、七武海加盟から間もなくしてクロエに喧嘩を売って返り討ちにされたと知った時は、思わず卒倒しかけたが。
「……それで、監獄へ行った奴はどうだ? そろそろ頭は冷えたか?」
「いえ!! 未だ戦いに断固反対のようで…七武海の称号剥奪も覚悟の上だと…」
「この戦いに最も協力的に参加してくれるものだと踏んでいたが、ここへ来て大暴れとは……!! ジンベエめ……!!!」
センゴクが歯噛みすると、続々と報告が上がってくる。
しかし、どれもこれもシャボンディ諸島の天竜人の事件絡み。肝心の白ひげの情報は一つも上がってこない。
いい加減にしてくれと思った、その時。
「センゴク元帥!! 一大事であります!! 白ひげに動きが!!!」
新たに報告に来た将校の一言に、緊張が走る。
「来たか…監視船の報告だな? ここへ繋げ。直接聞こう」
「いえ…それが…」
「ん?」
センゴクは訝しむと、将校は声を震わせながら答えた。
「〝白ひげ〟の本船「モビー・ディック号」の動きを監視していた海軍船、全23隻…!! つい先程、一斉に通信が途絶えました…………!!!」
「な、何だと…!!?」
「マズいぞセンゴク……!! 奴らがどれ程の規模でいつやって来るか、全く情報が掴めんぞ…!!!」
冷や汗を流すゼファーに、センゴクは思いっきり机を叩いた。
「やられた…!! もう動き出していたのか!! どこで狙って来るかもわからんな…エースを収容している内はインペルダウンでの決戦もあり得ると、皆に伝えておけ!!!」
白ひげが監視船を全滅させた事により、海軍本部に一層の緊張感が走るのだった……。
*
それから4日と半日。
クロエ海賊団は、船長不在のバギー海賊団と遭遇していた。
「バギーが捕まった…!?」
「ああ、おれ達じゃあどうする事もできねェ…!!」
「アルビダ姉さんでも手詰まりで……!!」
「何言ってんだい、さっきは安らかなる処刑をっつってたクセに……」
驚くクロエの前で泣き崩れる副船長のモージと参謀長のカバジに、紆余曲折あって船長代理となった〝金棒のアルビダ〟は呆れ返った。
しかし〝千両道化〟の異名を冠する大物海賊でも世界一の大監獄に囚われた以上、余程の事態にならない限り五体満足の脱獄は不可能。かの〝金獅子のシキ〟でも両足を斬り落としてるのだから。
もっとも、それ以前に五体満足で脱獄している者も実はいるのだが……。
「それにしても、なぜ捕まった? この私に扱かれてんだから、そう易々と……」
「それは……ゼットって海兵のせいで…!!」
「ああ……じゃあ無理もないか」
クロエは仕方ないと言わんばかりに嘆息した。
伝説の元海軍大将の息子となれば、手の打ちようがない。
「全く、世話の焼ける弟だ……」
「え!? 助けに行くの!?」
「当たり前だ」
「だったら少し待って!!」
助けに行く気満々のクロエに、副船長のエマは慌ててストップをかける。
「行くなら、白ひげと海軍の戦争中がいいと思う。私達がインペルダウンに向かっても、海軍はこっちに向ける戦力がなくなるからね」
「成程……確かにそうだ」
エマの提言に、クロエは顎に手を当てて考え込んだ。
別にインペルダウン襲撃など造作もないが、バギーは昔から自分が元ロジャー海賊団であるという事実をなるべく隠し通そうとしている。それは仲間にも厳命する程なので、弟分の意を汲むのも姉貴分の務めだろう。
「そういう事なら、戦争が始まるまで待機だな。機を見計らって、インペルダウンに囚われているバギーを救出に行く」
「結局行くのかよ……」
「諦めろラカム、今更だろう」
肩を落とすラカムに、レッドフィールドは慰めるように声をかけたのだった。
*
その頃、ハンコックの希望で共にインペルダウンへ赴き、エースとの面会に付き合ったモモンガ中将は、マリンフォードへ帰還しようとしていたのだが……。
「モモンガ中将!!」
「どうした」
「新世界にて〝赤髪〟が、少々小競り合いを起こしたそうで」
「〝赤髪〟が!? 何かの間違いじゃないか…なぜ今…」
部下のゾット大尉の報告に、モモンガは訝しんだ。
ロジャー直系にしてクロエの弟分である〝赤髪のシャンクス〟は、暴れられれば手に負えないが自ら動いて事件を起こしたりするような事はほとんどない、海賊界でも穏健派の部類のはず。
一体誰と小競り合いを起こしたのかと質すと、とんでもない名前が飛び出てきた。
「それが……五皇のカイドウです!!!」
「っ!? カイドウだと…!!?」
ゾット曰く。
クロエの永遠のライバルとして有名な〝百獣のカイドウ〟が、この機に乗じて白ひげを討ち取ろうとしたところ、シャンクスが海賊団総出で新世界で足止めしたのではという見解であり、本部の面々は冷や汗を流したという。
本来ならば海軍大将が動き、海軍艦隊を派遣しなければならない非常事態。海軍だけでなく政府上層部も気が気でない案件だ。
「
「――全面対決、ですか……」
敵は世界最大最強の白ひげ海賊団。
迎え撃つは、三大将と王下七武海をはじめとする、海軍全戦力。
結果がどうなっても、大海賊時代開幕以来最大の戦いとして歴史に深く刻まれるだろう。
「…
「はっ!!」
モモンガは部下と共に急ぐ。
――五皇同士の小競り合いに乗じて〝鬼の跡目〟が動き出していたなど、全く気づく事なく。
時同じくして、インペルダウンLEVEL6。
一世一代の悪名を轟かせた超大物や伝説級の危険人物が幽閉されている、「無限の退屈」が与えられるこのフロアで、エースとジンベエは同じ牢に収監されていた。
「エースさん…
ジンベエは嘆く。
政府には海賊嫌いの海賊で通っている彼だが、白ひげとその一味には魚人島をナワバリにして守ってもらっている為、多大な恩義がある。その上、彼は島々を
海賊の親玉だから打ち倒せばいいってものではない。万が一白ひげが死んだら、再び大混乱の時代が来る。
「わしは死んでもこの戦いを止めたかった。あんたを救い出したかった…エースさん…!!」
「ジンベエ…もうよしてくれ…
「……まだ希望は捨てておらん。奇跡とチャンスを、わしは信じている」
ジンベエは、この大監獄の奥底に囚われの身でありながら力強く言う。
すると、ちょうど反対側の牢から愉快そうな笑い声が響いてきた。
「クハハハ……シャバは、随分
「「!」」
二人が反対側の牢に目を向けると、そこに腰掛けるのは元王下七武海である〝砂漠の王〟 サー・クロコダイルだった。
「〝白ひげ〟を討ち取るにゃあまたとねェチャンスってわけか…こりゃあ流石に血が騒ぐ…!!!」
左腕に装着した金色の大きなフックを撫でるクロコダイルは、不敵な笑みを浮かべる。
こちらもこちらで、奇跡とチャンスと己の力を信じているようである。
「貴様!!」
「……お前が、オヤジの首を取るだと?」
「…おれだけじゃねェさ」
すると、クロコダイルの声に呼応するように、フロア全体が一斉に騒ぎ出した。
――白ひげを殺せェ!!
――あの野郎が死ぬって!?
――そりゃあいい!! 最高だ!!
――おれを海へ出せ!! あいつと〝鬼の女中〟の首を取るのはおれだ!!
――おれも戦わせろ!! 白ひげの時代を終わらせてやる!! その次はクロエだ!!
盛り上がる囚人達に、ジンベエは「黙れ貴様らァ!!!」と凄まじい剣幕で一喝するが、相手は世界最悪の囚人。全く意に介さない。
「ジンベエ…〝火拳〟…!! よォく覚えておけ…!! 〝白ひげ〟や〝ロジャー〟、〝クロエ〟に勝てなかった
無間地獄に、クロコダイルの笑い声が木霊するのだった……。
ちなみにインペルダウンLEVEL6には、クロエやバレットとの戦いに敗れて取っ捕まったモブ海賊が結構います。
クロコダイルの中では、〝白ひげ〟〝海賊王〟〝鬼の女中〟が全ての海賊達の頂点に君臨する者達のようです。
次回はバギー身バレ編をしてから頂上戦争当日の予定です。