元気「どうも、神野元気です。夜に歩くのはいつもと違う感じで楽しいのかもしれないけど、足元に気をつけないといけないぞ?」
政実「そうだね。地面の凹凸なんかに足を取られても良くないし、その辺は気をつけるよ」
元気「ああ、それが良いな。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第8話をどうぞ」
空に幾つか雲が浮かび、静まり返った街中を街灯と月明かりだけが照らす夜、一軒の民家の庭に息を潜めたジョーカーと元気の姿があった。
サイズ違いの中国服に身を包んだ二人は何を言わずに頷き合うと、日中に下調べをしておいた窓へ近づき、音を立てないように気を付けながらゆっくりと手を掛けた。
すると、窓はいとも容易く開き、元気がそれに困惑していると、ジョーカーは表情を変えずに服の中に忍ばせていた小型の通信機に話しかける。
「……RD、これは罠かな?」
『それはわかりません。ただ、夜中なのにもかかわらず戸締まりをしていないのは不自然ですし、もしかしたら別行動中のクイーンが何かしたのかもしれませんよ?』
「そういえば、クイーンは本当に何をやってるんだ? 俺達が出発しようとした頃にはもういなくなってたけど……」
「クイーンなら心配いらないよ。どうせ訊いたところで泣き真似をしながらはぐらかしてくるだろうし、今は僕達のやる事をしっかりとやろう。クイーンがこの件を危険だと判断していたなら、そもそも君を参加させていないしね」
「……本当にクイーンを信頼してるんだな」
元気の言葉にジョーカーは少し迷ったように答える。
「……怪盗として優れているのはたしかだ。だけど、人間性は……」
『……最悪、とまでは言いませんが、もう少し改善してほしいとは思いますね』
「少なくとも、今の会話でクイーンについて心配しても無駄なのはわかった気がする」
「それで良いよ。さて……それじゃあ行こうか」
「ああ」
音を出来る限り立てずに窓を開け、二人はそのまま部屋の中へと入る。明かり一つついていない暗闇に元気が警戒しながら辺りを見回す中、ジョーカーは静かに目を瞑り、素早く目を慣らしてから部屋の中を観察した。
「……誰もいないな。事前に元気君から聞いていたような内装ではあるけど、布団も敷かれてないし、人の気配がまったくしない」
「……どういう事だ? 窓の件といいこれといいまるで俺達の計画が知られてるような状況になってるなんて……」
「わからない。ただ、少し警戒した方が良いのはたしか──」
その時、リビングへ繋がるドアが開くと、二人の目の前に醜悪な笑みを浮かべながら強田刀二と鷺宮飛李が姿を見せ、刀二はナイフを、飛李は拳銃をちらつかせていた。
その姿にジョーカーは足を肩幅に開きながら腰を軽く落とし、いつでも攻撃に移れるような体勢を取っていると、元気は二人を見ながらギリッと歯を鳴らした。
「お前達……!」
「……誰かと思えば、アーじゃないか」
「突然いなくなったから心配してたのよ、アー。あの犯罪者の神父に誘拐されたって聞いたから連れ戻しに行っても全然姿が見えなかったし……さあ、こっちに来なさい。アーを連れてきてくれた人には私達がお礼をしておくから」
「そうだぞ、アー。あまり父さん達を困らせ──」
「……うるせぇよ」
「……なんだと?」
静かだがたしかに怒りがこもっている元気の声に刀二が苛立ちを見せると、元気は目の奥で怒りの炎を燃やしながら二人を見据えた。
「どっちが犯罪者だ! 強盗の常習犯と詐欺やスリの常習犯の上に散々俺の事をいたぶり、教会を燃やしたお前達にミック神父を悪く言う権利なんてない!」
「……何を言っているんだ、アー」
「そうよ、アー。私達が犯罪者なわけがないじゃない」
「おおよそ、あの老いぼれ神父に何か吹き込まれたんだろう」
「黙れ……」
「ああ、どこからどう見ても犯罪者面だったものね。アーと同じくらいの子供達と若いシスターもいたようだけど、きっとあの神父に酷い事を──」
「黙れよ、極悪人! ミック神父を、俺の恩人を……穢れたお前達の汚い言葉でこれ以上汚すな!」
元気の心からの叫びは室内に響き渡り、怒りと興奮で息を荒くする元気の目には暗い殺意が宿っていた。しかし、刀二と飛李はその殺意には気づかず、武器を持っているという点に安心しているように余裕のある笑みを浮かべる。
「おいおい、アー。親に対して極悪人っていうのは酷いじゃないか。これは後でしっかりと教育してやらないといけないな」
「俺はアーなんかじゃない! 俺は……神野元気だ!」
「だっさい名前ね。アーの方が何倍もマシよ?」
「てめえ……!」
今にも飛李を殺してしまいそうな程に怒りを見せる元気をジョーカーは冷静に手で制する。
「落ち着くんだ、元気君。今やるべき事は怒りで我を忘れて攻撃をする事じゃないだろう?」
「だけど!」
「君が怒るのはもっともだ。だからこそ、無意味に傷つけるべきじゃない。僕達がやるべきなのは、囚われている君の仲間を助ける事、彼らを警察に引き渡す事。そうだろう?」
「……わかった。落ち着かせてくれてありがとう、ジョーカー」
「どういたしまして。RD、警察への通報は?」
『とっくにしてますよ。およそ五分程度そっちに着くはずなので、それまでには囚われているアリス・タナーを見つけ出さないといけません』
「五分……でも、アリスがどこにいるかなんて見当が……」
RDからの報告に元気が焦りを見せる中、ジョーカーは目を瞑りながら周囲に意識を集中させた。そして何かに気づいた様子でふぅと息をつくと、視線を刀二達からそらさずに元気に声をかけた。
「元気君。君が呼びかけたらきっと反応が返ってくるはずだ」
「俺が呼びかける……」
「ああ。ただでさえ突然拐われて怖がっているところにこの状況だと恐怖で助けを呼ぶための声も出ないかもしれない。だけど、短い間でも一緒に食事をしたり会話をしたりして暮らしてきた君の声が聞こえたら、きっとアリスさんも勇気を振り絞って反応してくれると思う」
「…………」
「元気君、君が──いや、君でなければアリスさんは救えないんだ」
ジョーカーの言葉に元気は何も言わずに頷くと、首から下げたロザリオを握りしめながら静かに目を瞑り、大きく息を吸ってから声を張り上げた。
「アリスー! いるなら返事をしてくれー!!」
「なっ……何をしてるんだ、アー!」
「こんな夜中に大声を出したら近所迷惑でしょ!?」
元気の大声に刀二と飛李は慌てた様子を見せたが、元気はそれには反応せずに更に声を張り上げる。
「俺だ、元気だ! お前を助けに来たんだ! だから、頼む!! 何でも良いから俺達にわかるように返事をしてくれー!!」
両手を強く握りしめながら元気が反応を待っていたその時、背後の押し入れから何かを叩くような音が聞こえ、元気はハッとしながら背後に視線を向ける。
「今の……!」
「ああ、僕にも聞こえた。今の彼の声に反応するように押し入れから何かが聞こえましたが、押し入れに誰かいるんですか?」
「い、いるわけないだろ……!?」
「そ、そうよ! きっとネズミか何かよ!」
「へえ、ネズミだとしたら尚更確認が必要ですね。もしかしたら病原菌を持っているかもしれませんから。元気君、押し入れを開けてみてくれ」
「わかった」
元気は頷きながら答え、押し入れに近づいて静かに開けた。すると、そこには手足を縄で縛られ、口に白いタオルの猿ぐつわを噛まされているアリスの姿があった。
「アリス!」
「んー! んん、んー!」
「……ジョーカー、そっちは頼んだ」
「ああ、任せてくれ。二人には指一本触れさせないよ」
元気がアリスの縄や猿ぐつわを外し始める中、ジョーカーが再び刀二達へ視線を向けると、飛李が元気達を忌々しそうに睨み付ける中、刀二は何の反応も見せておらず、ジョーカーはその姿に疑問を覚えた。
「……RD、やはり何かおかしい気がする」
『私もそう思います。まさかとは思いますが、クイーンの仕業でしょうか』
「……そうかもな。さて……さっきは元気君の言葉を聞いてもとぼけたり元気君を助けていたミック神父に対して幾つもの暴言を吐いていましたが、どうやら本当の犯罪者はあなた達のようですね」
「う、うるさい! こうなったらアンタ達を捕まえて囮にして逃げるしか──」
飛李が拳銃を構えようとしたその時、刀二はナイフを持っていないもう片方の手を素早く飛李の首元に打ち込んだ。
「なっ……ど、どうし……て……」
飛李が信じられないといった様子で倒れこみ、静かに気を失う中、アリスの拘束を解き終えた元気は飛李を見ながら警戒した様子を見せた。
「……死んでは、ないよな……?」
「……死んでないよ。首に素早く手刀を叩き込まれた事で気を失ったんだ」
「そっか……けど、どうしてお前がそんな事をしたんだ? まさか俺達の相手なんて自分一人でも大丈夫とでも言うのか……?」
「……たしかに一人でも問題はないかな。なにせ、私はジョーカー君を鍛えた師匠のようなものだからね」
「……え?」
「……やはりそうだったんですね。そろそろ正体を明かしても良いんじゃないですか? “クイーン”」
ジョーカーの言葉に刀二は頷くと、静かに顔に手を掛けた。そして刀二の顔が音を立てながら粉々に破れると、そこには破れたマスクの雨の中で楽しそうに微笑む黒のタキシード姿のクイーンがいた。
「ク、クイーン……!?」
「
「え……で、でもいつの間にアイツに変装してたんだ?」
「……昨夜、別行動と言って出掛けた時、ですよね?」
「その通り。昨夜の内に強田刀二を捕まえておき、鷺宮飛李に気づかれないようにしながら窓の鍵を開けておいたりそちらのお嬢さんを押し入れに隠すように誘導したのさ。
因みに、本物の強田刀二なら昨夜から夕方くらいまでは眠らせて反対側の押し入れに隠しておいたけど、今頃は警察署にいるよ。警察官達も実に驚いただろうね。強盗の常習犯である男がいつの間にか犯罪の証拠と共に警察署に届けられていて、強田刀二と鷺宮飛李が少女を拉致監禁しているという通報が来たのだから」
「だから、窓の鍵も掛かってなかったし、アリスは押し入れに閉じ込められてたのか」
「ああ、可哀想ではあったけど、縛らないでおくのも怪しまれてしまうからね」
クイーンが笑いながら答えていたその時、外からパトカーのサイレンが聞こえ始め、クイーンはクスリと笑った。
「おや、どうやらご到着のようだ。では、私達はそろそろ帰るとしよう。一応、予告状は出したのだけど、鷺宮飛李は私の事を知らなかったみたいで、予告状を捨ててしまっていたから、捜査の時にでも警察が見つけてくれるだろう」
「そうですね。それじゃあ、RD……」
『話している間に四人を引き上げるためのコンテナは用意してましたよ。早く庭まで出てきてください』
「ふふっ、流石はRDだね。では諸君、行こうか」
アリスが何がなんだかわからない表情で元気の腕をギュッと掴み、ジョーカーと元気が静かに頷いた後、四人は窓から外に出ると、月明かりの中をRDが降ろしたコンテナに乗って帰っていった。
政実「第8話、いかがでしたでしょうか」
元気「アリスは救出出来たし、次でこの件については終わりそうだな」
政実「そうだね。地元ではやらなそうだったから残念に思っていたこの作品の原作の映画も観られる事がわかったし、その話の方にも入っていきたいからね」
元気「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうかな」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」