怪盗の助手の非日常   作:九戸政景

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政実「どうも、何かをやり遂げた日の夜は安心感でいっぱいになる片倉政実です」
元気「どうも、神野元気です。まあ、肩の荷が下りた感じになるわけだから、安心は出来るよな」
政実「うん。色々抱えた状態で気が張ってたのが無くなるわけだし、その日はだいぶぐっすり眠れるよ」
元気「なるほどな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第9話をどうぞ」


第9話 安堵の夜

 RDが降ろしたコンテナに乗ってトルバドゥール内に戻り、コンテナの扉が開くと、元気はホッとした様子でコンテナから出てきた。

 

「はあ……やっぱりこの出入りの仕方は慣れないな……」

「元気、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。アリス、お前こそ大丈夫か? アイツらに何かされてないか?」

 

 真剣ではあったが、少し焦ったような元気の顔を見たアリスは一瞬驚いた後にクスクスと笑い始める。

 

「……大丈夫だよ、元気。あのままだったら、私はどこか知らないところに連れていかれて、もしかしたら売り飛ばされてたかもしれないけど、されたとしても少し小突かれたり教会やミック神父についてありもしない事を言われてムカッとしてたくらいだから」

「……そうか。けど、知らない内に心にキズを負っている可能性はあるから、少し落ち着いたらメンタルのチェックを受けとけ。良いな?」

「うん、わかった。ところで……ここはどこでこの人達は誰なの? 上がってくる時は助け出された直後だったから気持ちを落ち着けるために訊けなかったんだけど……」

「ここは超弩級飛行船トルバドゥールの船内で、この二人は怪盗のクイーンとそのパートナーのジョーカーだ」

「初めまして、お嬢さん。私は怪盗クイーン、ジョーカー君やRDといった親愛なる友人達と共にこのトルバドゥールで各地を飛び回る怪盗さ」

 

 クイーンが微笑みながら言う中、それを聞いていたジョーカーはため息をつく。

 

「何度も言うようですが、僕はあなたの友達ではなく、仕事上のパートナーです」

『因みに、私も世界最高の人工知能に過ぎません』

「俺も仕事上の助手でしかないな」

「ふふ、友人達は照れ屋さんだね。さて、自己紹介はとりあえず後にして、今はしっかりと一休みをしよう。RD、アリスさんをとりあえず浴場へ案内してくれ。あの環境ではまともに入浴や着替えをさせていたとは思えないからね」

『畏まりました、クイーン。では、私の案内に従ってついてきて下さい、アリスさん』

「あ、うん……」

 

 スピーカーから聞こえてきたRDの声に少し戸惑いながらもアリスが船内を歩いていくと、その姿を見ながら元気はホッとした様子を見せた。

 

「……どうやら本当に大丈夫みたいだな。クイーン、ジョーカー、アリスを助け出せたのは二人とRDのおかげだ。本当にありがとう」

「どういたしまして。でも、これは私がやりたかった事でもあるんだ。大切な友人の友人なら私にとっても友人だと言えるからね」

「だから、俺は仕事上の……はあ、まあ良いか。けど、まさかクイーンがアイツに姿を変えていたなんて思わなかったな」

「クイーン、あなたが強田刀二に変装していたのは、いざという時にすぐ無力化出来そうなのが鷺宮飛李だったからですよね?」

「そうだね。まあ、強田刀二でもよかったけど、少し観察した感じだと強田刀二の方がいざという時には手段を選ばないタイプのようだったからね。

 それに、鷺宮飛李は相手を利用して生き残ってきたタイプだから、元気を家の辺りで見かけたと話して忍び込んでくるのを待ち構えさせて、威嚇にも人質を利用して逃げる際にも使いやすい拳銃を渡せば安心すると踏んでたんだけど、思ったよりもうまく行ったから驚いたよ」

「それくらい単純な奴なんだろ。けど……これで少し肩の荷が降りた感じがする。まだミック神父達は見つかってないし、神製教団についてもわかってない事は多いけど、アリスを助けられてアイツらを警察に逮捕させられただけでもだいぶ進歩したからな」

「そうだね。後は神製教団について警察が聞き出せるかどうかだけど……」

 

 ジョーカーが不安げな表情を浮かべていたその時だった。

 

『その点について一つ疑問があります』

 

 突然スピーカーからRDの声が聞こえ、三人はすぐにスピーカーへ視線を向ける。

 

「なんだい?」

『何故、神製教団はアリス・タナーが強田刀二と鷺宮飛李の手に落ちても何もしなかったのでしょうか?』

「……どういう事だ?」

『元気から聞いた限りでは、アリス・タナーを含む教会で世話をしていた五人の子供達は神製教団が作り上げた神の候補となる子供達だとミック・エルマンが話していたはずです。

それなのに、自分達に協力させたとはいえ、警察に簡単に捕まってもおかしくないような人物達にそのような子供が捕まっても何もしないのは妙ではないですか?』

「たしかに……少なくとも、さっきは他の誰かの気配は感じなかったな。クイーンはどうですか?」

「私も感じなかったよ。となると、神製教団にとってアリスさんは他の子供達よりも重要だと思われていないかもしくは……」

「神製教団が“わざと”アリスを捕まえさせた……?」

 

 元気の口から出た疑問にクイーンとジョーカーは頷く。

 

「あり得るね。そもそもその五人を教会で世話していても、これまで何もなかったのもおかしいんだ。神製教団にとって五人が大切な存在なら、すぐにでも探しだして取り戻そうとしたはず。

それなのに、行動を起こしたのは数年も経ったつい最近で、同じように教会にいた元気に接触する様子もなく、アリスさんを取り戻しに来るわけでもなかった。それはアリスさんを捕まえさせるだけの理由があったからで、私達は今も神製教団の手のひらで踊らされている事になるかもね」

「……でも、アリスをこうして俺達に保護させたのはなんでだ? クイーン達の考えだと、神製教団は俺達がアリスを助け出すのも見ていた事になるだろ?」

「あくまでも予想だけど、アリスさんの特技──いや、能力に関係があるんじゃないかな?」

「能力……」

「ああ。アリスさんはまだわからないけど、他の四人にはそれぞれ特筆するべき物があって、何も知らない本人達はそれを特技だと考えていた。

 けれど、それは神の候補として生まれた事で得た能力で、五人の能力をミック・エルマン達に開花させるためにわざと泳がしていて、今度は私達がその役目を背負わされた、とかね」

「……ふざけんな。自分達の勝手な都合で創り出したアイツらを他の人間に育てさせて、後になって返せだと? アイツらを、ミック神父達をなんだと思ってるんだよ!」

「何とも思ってないのだろうね。強いて言うなら、子供達を自分達の組織をこれからも発展させるための道具として、ミック・エルマン達を都合の良い保育所のように考えていたんだろう。本当に嫌な気持ちになるけどね」

 

 声は落ち着いていたが、クイーンの表情には嫌悪感が露になっており、三人の間にはピリついた空気が流れた。しかし、その中でクイーンは微笑むと、元気の肩に手を置いた。

 

「まあ、とりあえず今はアリスさんを助けられた事を喜ぼうじゃないか。君からしたら、焦りながら無事を確認する程に大切な存在だったようだしね」

「……別にそんなんじゃない。でも……そうだな。変にピリついても良くない方にばかり考えが行きそうだし、今は安心していても良いか。すまないな、クイーン」

「どういたしまして。さて……そろそろアリスさんも入浴を終えたかもしれないし、話でも聞きに──」

『ああ、アリス・タナーなら既に就寝していますよ。話している間に入浴は終わっていたのですが、やはり緊張と疲れで気は休まっていなかったようなので、クイーンが事前に用意していた寝間着に着替えてもらってそのまま今夜は寝てもらいました』

「そうか……でも、よくアリスの服のサイズがわかったな?」

「強田刀二になって近くで見ていたからね。それに、私も色々な人物に変装をするから、服のサイズなら簡単にわかるんだよ。まあ、眠ってしまったなら仕方ないし、話は朝になってから聞く事にして、私達も休むとしよう。元気、君もアリスさんの件で気が張っていただろうから、早く休んだ方が良いよ」

「わかった。でもその前に……RD、アリスの部屋まで案内してくれるか? 寝てるところに行くのは気が引けるけど、うなされてないか気になるからな」

 

 優しい顔をしながら言う元気の姿にクイーンはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。

 

「元気、様子を見に行くのは良いけど、いくら愛おしくても眠っているお姫様に目覚めのキスをしないようにするんだよ?」

「しない。それに、アリスから見ても俺は一緒に教会で過ごした仲間っていうだけだから、そんな事されても困るだけだろ」

「……僕にはそう見えませんでしたが、クイーンはどう思いますか?」

「私もアリスさんは元気に対してそれ以上の信頼を置いているように見えたね。まあ、気持ちは本人しかわからないし、今のところ、これ以上言うつもりはないよ。

だけど、もしもアリスさんの身に何かがあったら、君が一番に守ってあげるんだよ、元気。今の彼女からすれば、君が一番信頼出来る相手なんだからね」

「……わかってる。それじゃあおやすみ、クイーン、ジョーカー」

「うん、おやすみ」

「おやすみ、元気君」

 

 クイーン達と別れた後、元気はRDの案内に従って船内を歩き始めた。そして、アリスの部屋のドアを静かに開けて中に入ると、そこにはベッドの上ですやすやと寝息を立てるアリスの姿があり、元気は近づいて前屈みになって見ながら安心したように息をついた。

 

「……どうやら安心出来てるみたいだな」

『はい。さて……私の役目はここまでですので、後は“貴女”でお願いしますよ、アリスさん』

「……え?」

 

 RDの声に元気が驚いていたその時、急に目を開けたアリスは元気の手を引くと、元気はそのままアリスの上に倒れこんだ。

 

「あ、アリス……!? おい、RD! これはどういう事だよ!?」

『アリス・タナーからのお願いされていたんですよ。貴方が彼女の様子を見に来るようならそのまま案内を、そうでなければ来るように誘導をしてほしいと』

「は……!?」

『……まあ、彼女の気持ちを察してあげて下さい。それでは、私はこれで。元気、アリス、Good Night,And Have A Nice Dream.(おやすみなさい、良い夢を)

「お、おい……!」

 

 元気の声には答えずにRDの声は途絶え、元気が困惑する中でアリスは体を起こしてから元気を静かに抱き締めた。

 

「……ごめんね、元気。でも、なんだか今夜は元気に一緒にいてほしかったから、RDさんにお願いしたの」

「俺に一緒にって……」

「……お願い。今夜だけは一緒にいて」

 

 アリスの目の奥に不安と悲しみの色が見えると、元気は諦めたようにため息をつく。

 

「はあ……わかった、今夜だけだぞ?」

「うん……ありがとう、元気」

「良いよ、お礼なんて別に。ほら、そんな事より早く寝るぞ。寝不足だと起きてから辛いからな」

「……うん!」

 

 嬉しそうにアリスが答え、元気はその様子を見ても少し安心したように息をついた後、二人は毛布をかけてから向かい合い、そのまま疲れと安心感から静かに眠りについた。




政実「第9話、いかがでしたでしょうか?」
元気「ようやく次回で今回の件は終わりそうだな。次は原作第一巻の話を始めるのか?」
政実「そうだね。基本的には原作に準拠した流れになるけど、時々オリジナル要素が入る予定だよ」
元気「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」
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