怪盗の助手の非日常   作:九戸政景

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政実「どうも、キャラクターが決意を新たにするシーンが好きな片倉政実です」
元気「どうも、神野元気です。話の中で盛り上がるところだからな、好きな人は他にもいるんじゃないか?」
政実「だね。そういうシーンを観てると、こっちまで元気が貰える気がするよ」
元気「そうだな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第10話をどうぞ」


第10話 新たな仲間との再出発

「ん……」

 

 澄みきった青空に白い雲が幾つか浮かび、その中を大きな雲に擬態した超弩級飛行船トルバドゥールが飛行する中、窓から射し込む朝日以外の明かりがない薄暗い船室で元気は静かに目を覚ました。

そしてまだ眠気の残る中、ゆっくりと目を開けてから体を起こし、すーすーという寝息をたてながら穏やかな寝顔で眠るアリスの姿を見ると、不思議そうな顔をした。

 

「ア……リス……?」

 

 状況を理解出来ていない様子でアリスの名前を呼んだ後、軽く周囲を見回してからようやく納得した様子で頷く。

 

「……そうだ。昨夜、俺はクイーン達と一緒にアリスを助け出して、様子を見に来たら今夜だけは一緒に寝て欲しいって言われてここに……それにしても、この寝顔を見る限り、だいぶ安心してたみたいだな」

 

 元気の言葉通り、アリスの寝顔は警戒心などが一切ない物であり、その寝顔を見る元気の表情もとても穏やかだった。

 

「……ほんと良い寝顔をしてるな。一緒に寝て欲しいって言われた時は驚いたけど、アリスに安心してもらえたならやって良かったのかもしれないな。

さて……俺はこの後どうしようかな。このまま起きてクイーン達のところへ行っても良いけど、アリスが起きた時に俺がいなくて恐怖心を感じられても困るし……」

 

 アリスの顔を見ながら元気が考えていたその時、元気は船室のドア付近から気配を感じ、すぐにそちらへ視線を向けた。

すると、そこには軽く開けたドアの陰から顔を出し、どこかメガネをかけた老女のような雰囲気を出すクイーンの姿があり、元気は驚きながら体をビクリと震わせる。

 

「く、クイーン……!?」

「……お姫様に目覚めのキスはしてなかったようだけど、まさか一緒に眠っているとは思わなかったよ」

「これはアリスが今夜だけはって言ったからで俺からしたわけじゃ……」

「ふむ……RD、こういう時は“昨夜はお楽しみでしたね”と言うべきだったかな?」

『……いえ、違いますよ。その言葉を言うのに相応しいのはドラゴンを討伐した勇者と囚われていた姫が宿屋で一夜を共にした時です、クイーン』

「ふふ、なるほどね。そういう事まで知っているなんて流石はRDだ」

『お褒め頂き恐縮です。おはようございます、元気。昨夜はよく眠れましたか?』

「あ、ああ……眠れはしたけど、クイーンはいつから見てたんだ?」

 

 未だに驚きが覚めやらぬ中で元気が問いかけると、クイーンはそのままの姿勢で得意気に答える。

 

「つい30分前くらいからだよ。因みに、この姿勢は前に日本のテレビで少しお年を召した家政婦の女性が自分の主人の不貞を覗き見していた時のポーズを参考にしてみたんだ」

『要するに、ドラマの真似事です。元気、アリス・タナーの様子はどうですか? 心拍数やメンタルなどが正常なのはスキャンでもわかりますが、一番この中で親しい貴方の意見を聞きたいです』

「……ああ、すごく安心して寝てるみたいだ。だから、このまま俺が起き出したら起きた時にアリスが不安がるかもしれないと思うんだけど、何か良いアイデアはないか?」

『そうですね……ここまで朝食を運ぶのがいちば──』

「それなら、元気がアリスさんをお姫様抱っこして運ぶのはどうだろう? それなら食堂で元気も朝食を食べられるし、アリスさんが途中で起きても喜んでもらえるんじゃないかい?」

 

 そのクイーンの言葉に元気とRDのため息が被る。

 

「……クイーン、俺がお姫様抱っこをしてもアリスは喜ばないと思うぞ?」

『喜ぶかどうかは別として……何故その考えに至ったのかお聞きしても良いですか?』

「昨夜はお楽しみじゃなかっただろうけど、凶悪なドラゴンよりも恐ろしい存在からアリスさんというお姫様を助け出したのだから、それを成し遂げた元気がお姫様を歩かせないように抱き抱えるのが礼儀だと思うんだ。

 アリスさんだって元気に一緒に寝て欲しいと頼むくらいだから、お姫様抱っこを嫌がるとは思えないし、むしろ安心してもらえると思うよ」

『建前はわかりました。本音はなんですか?』

「ジョーカー君みたいにいつもムッとしてる元気が照れ臭そうにしているところを見たい」

「……そんなところだと思った。でも、俺はやらないからな」

「私も無理にとは言わないよ。けれど、“彼女”はどうだろうね?」

「え……?」

 

 クスクスと笑うクイーンの視線の先に元気も視線を向ける。すると、少し恥ずかしそうに顔を赤くしながらアリスが元気の腕を掴んでいた。

 

「え……お、起きてたのか?」

「……うん、ほんと良い寝顔をしてるなって元気が言ってた時からずっと……私が頼んだ事ではあるけど、元気がすぐそばにいるって思ったらなんだか恥ずかしくなって薄目を開けながら元気達の話を聞いてたの」

「因みに、私は気づいていたよ。だから、お姫様抱っこを提案したのさ」

「クイーン……」

『……元気、諦めてください。クイーンという人物はこういう人なので。アリス・タナー、具合はどうですか?』

「あ……はい、大丈夫です。RDさん、改めて昨日は協力してもらってありがとうございました」

『いえ、礼には及びませんよ。あのくらいならば幾らでも言ってください』

 

 アリスに返事をするRDの声は落ち着きのある優しい物であり、RDが人間であったならアリスに対して微笑みながら答えていたのだろうと考えていた。

そして、アリスの姿を見ながら微笑んだ後、クイーンはアリスに近づいてから元気の手とアリスの手を繋がせた。

 

「え……」

「は……?」

「よし、アリスさんも起きたわけだし、そろそろ朝食にしようか」

「いや、ちゃんと待て! クイーン、どうして俺達の手を繋がせたんだ!?」

「レディーをエスコートするのはジェントルマンの役目だよ、元気。アリスさんもまだ小さいとはいえ立派なレディーだからね。アリスさんをしっかりと案内するんだよ」

「どうせ一緒に行くんだからそうする必要なんて……」

「それじゃあ元気、私が“本物の”怪盗クイーンだという確証はあるのかな?」

 

 その質問をした瞬間、元気とアリスの表情は凍り、RDがため息をつく中でクイーンは妖しい笑みを浮かべた。

 

「昨夜、その目で見たと思うけれど、優れた変装というのは声も体型も本人そっくりに変えられるし、近くにいる人物すらも容易に欺ける。

それなのに、私が怪盗クイーンだと君達は簡単に信じこみ、ここまで近づかせている。もしも私が怪盗クイーンに変装した神製教団の人間だったら、君達を油断させてそのまま連れ去っていてもおかしくないんだよ?」

「そ、それは……」

「まあ、私は本物で間違いないよ。だけど、そういう場合もないわけではない。だから、昨夜も言ったようにアリスさんは君が一番に守ってあげるんだよ、元気。

いつも手を繋いでおけとは言わないけど、今みたいな時は手を繋いでおいても良いと思う。アリスさんもその方が安心するだろうしね」

「え……ま、まあ……」

「という事で、このまま食堂へ行こうじゃないか。朝ごはんを食べるのはその日の自分の体を起こす合図みたいなものだからね」

 

 クイーンのその言葉に元気とアリスが頷いた後、二人は一度手を離してからベッドから体を出し、再び手を繋いで歩き始めた。静まり返った廊下に三人の足音だけが響き、どこか落ち着かない様子の元気と軽く頬を赤くしながらも少し嬉しそうにするアリスが手を繋いだままで歩く中、クイーンはふと何かを思い出した様子で歩きながら二人に顔を向けた。

 

「そういえば、アリスさんの特技って何かな? 元気もアリスさんからは特技を訊きそびれていたと言っていたから、出来れば教えてくれると助かるよ」

「私の特技……元気の一度見たら忘れない事みたいなのですよね。えっと、実は……私は特技ってたぶん無いんです」

「特技がない……?」

「うん。クレール達の特技は教会での生活中に偶然わかったんだけど、私だけ全然それらしいのが見つかってないの。だから、みんなみたいなのは私にはないのかもって思ってたし、元気にも話してなかったんだ」

「ふむ……まだ見つかっていないだけの可能性もあるけど、まあそれならそれでも構わないさ。それが無いからと言って君を放り出すなんて真似をする気もないからね」

『そうですね。元気と一緒に子供役として頑張ってもらったりこのトルバドゥール内で待機してもらいながら時には作戦会議に参加してもらうのが良いと思います』

「うん、そうしよう」

 

 アリスのこれからについてクイーンとRDが話す仲、アリスはその様子を見ながら元気に話しかけた。

 

「……なんだかクイーンさんって変わった人だけど、すごく優しい人なんだね」

「俺達をこうして住まわせてくれるくらいには優しいな。アリス、ミック神父やクレール達と離れてるのはやっぱり不安じゃないか?」

「……不安じゃないって言ったら嘘になるよ。でも、なんだか私達の知らないところで色々な事が起きていて、それを乗り越えないといけないのはわかるし、不安なんか気にせずに頑張るよ。それに、元気がいるから私も安心出来てるしね」

「……そうか」

「私に何が出来るかはわからないし、足を引っ張る事ばかりだとは思う。だけど、そんなんじゃダメなのもわかってる。だから、私は前を向いて歩くよ。私に出来る事を精いっぱいやってクイーンさん達や元気の力になれるように頑張るよ」

「ああ、お互いに頑張っていこう、アリス」

「うん!」

 

 微笑みながら言う元気の言葉にアリスが笑顔で答え、その様子をクイーンとRDが見守っていた時、食堂側からジョーカーが歩いてきた。

 

「みんなここにいたんですか。僕とRDで準備は済ませたのでそろそろ朝食にしましょう」

「ああ、そうだね。一日の計は朝にあり、という言葉もあるようだし、朝からしっかりとしないとその日は無駄に過ごす事にもなりかねないよ」

「クイーン、それは一年の計は元旦にあり、ではないんですか?」

『いえ、その言葉もありますよ、ジョーカー。一般的にはジョーカーが言った言葉の方が知られていますが、クイーンが言った言葉も同じように一日の計画は早朝に立ててしまうべきだといった意味があります』

「そうなのか……」

「ふふ、では朝食を頂きながら本日の予定について話し合おうじゃないか。元気やアリスさんの健康診断や衣服や家具などの購入も必要になってくるしね」

 

 クイーンがウインクしながら言うと、元気はその様子を見ながらため息をつく。

 

「そんなに真面目に出来るならいつもそうしてほしいんだけどな」

「真面目にするのも大事だけど、それだけでは息が詰まってしまうよ。私は遊び心とC調が人生には必要だと考えているしね」

「C調……?」

『調子良いという言葉を逆にした物で、言動が調子よく軽々しい様を指すようです』

「へー、そうなんだ。RDさんは物知りなんだね」

『恐れ入ります』

 

 アリスの言葉にRDが答えた後、クイーンは全員を見回しながら口を開く。

 

「では行こうか、諸君。まだ見ぬ世界が私達を待っているよ」

 

 その言葉に元気達が頷いた後、クイーン達は食堂へ向けてゆっくりと歩き始めた。




政実「第10話、いかがでしたでしょうか」
元気「これで一区切りだな。次回からは原作第1巻の話をやるんだよな?」
政実「その予定だけど、1話だけインターバルを挟んだりその章の導入の回を挟むのも考えてるよ」
元気「なるほどな。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」
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