元気「どうも、神野元気です。どっちも和な感じの奴なんだな」
政実「そうだね。洋風な犬と猫も好きだけど、一番好きなのはその二種類かな」
元気「なるほどな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、幕間をどうぞ」
「えーと、ここがこうで……」
『はい、そうです。それでここがこうですね』
ある日の事、超弩級飛行船トルバドゥールにある元気の船室では元気が机に向かいながらRDと会話をしていた。白を基調とした家具が並ぶ中、机の上に設計図や様々な文章が書かれた紙が置かれており、元気はそれにペンを使って書き込みをしたり書いてある文章についてRDに質問をしたりしていた。
二人がそうして会話をしていた時、船室のドアが開き、白い子犬と黒い子猫を抱き抱えたアリスが中へと入ってきた。
「元気……って、何かやってるところだった?」
「ん……ああ、アリスか。今、RDからこのトルバドゥールのシステムや構造について教えてもらってたんだ」
「システムや構造……?」
『その通りです。元気には瞬間記憶能力がありますから、これらやメンテナンスの方法を覚えていてもらう事で、元気にも作業を頼めるようにしていたんですよ』
「ああ、なるほどね。でも、元気には理解出来てるの? たしかに全部記憶しておけるとはいっても、記憶するのと理解するのじゃ違うんじゃない?」
アリスが首を傾げると、スピーカーからはRDの感心したような声が聞こえてくる。
『アリス、その通りです。記憶と理解は同じように脳の領域を用いて行う物ですが、記憶は見聞きした物や体験した物を覚えておく事で、理解はそれらを自分の中でこういった物であるとわかる事です。
まあ、それを理解した上でそのまま記憶しておけるなら良いのですが、人間の脳というのはすべて覚えておけるわけではなく、年月が経つにつれて曖昧になったりすっかり忘れてしまう物です』
「でも、そうじゃないのが元気って事ですよね?」
『そういう事です。元気が持つ瞬間記憶能力という物は、別名カメラアイと呼ばれる物です。このカメラアイはその名前の通りに見た物をカメラで撮影した写真のように記憶して保持し続ける事が出来る能力で、一般的には発達障害の一部としても知られていますね』
「発達障害って?」
『生まれつき他人とは違う脳の働き方をしていて、幼児の内から行動面や情緒面に違いが見られる物です。一般的には滑らかに話す事が出来ない
「そうなんだ……」
アリスが少し心配そうに元気を見る中、RDは天井から伸びるカメラで二人を見ながら話を続ける。
『ですが、世界で活躍する方の中にも発達障害の方はいますし、その特性を人生に活かす事も可能です。元気の瞬間記憶能力で言うなら、一例として演劇に活かすという方法がありますね。
どれだけ膨大なセリフ量でもどれだけ台本を見る時間が少なくとも元気ならば覚えきる事は出来ますし、演技のコツや雰囲気なども先輩俳優や名作達を観て後で
「そっか……つまりは考え方一つなんですね」
『
「それにしても、俳優として活躍する元気かぁ……たしかにすごく似合いそう。元気は顔もかっこいいし、ジョーカーさんに武術の稽古もつけてもらってるから、アクション映画が良いんじゃないかな」
「……別になるって言ってない。俺はあくまでもクイーンの助手として生涯を終えるつもりだからな。それ以外の未来なんて考えてないんだよ」
「そっか。まあでも、クイーンさんの助手としてもその瞬間記憶能力って活かせそうだよね。さっきの演劇の件にも通じるけど、こういう設定だって台本を渡されたらバッチリこなせるだろうし、赤外線レーザーのパターンだって全部覚えてこられるわけだから」
『そうですね。ですが、元気も何か夢を持っても良いんですよ? 元気からすればクイーンの助手として生涯を終える事に決めているかもしれませんが、その傍らで何かをやろうと考えても余程の事でなければクイーンも反対はしませんから』
「これといってやりたい事がないからな。今もクイーンから約束通り貰った辞書を読んで知識をつけたりジョーカーとの稽古で体を鍛えたりする方を優先してるからな。まあ、クイーンが作った方の辞書も読んではいるけど」
「あ、それ私も貰った。書いてる事が面白いから、読んでて飽きないんだよね」
アリスの言葉にRDは首を傾げるようにカメラを曲げる。
『面白い……ですか?』
「はい。元気が持ってる他の辞書とは書いてる内容は違いますけど、こういう考え方もあるんだなぁって思ってます」
『そうですか……まあ、二人が読んでくれているなら、クイーンも喜ぶと思いますよ。そういえば、アリスはどうしてここへ?』
「あ、そうそう。元気と一緒にこの子達をもふもふしたくて探してたんだった」
「もふもふか……それならクイーンと一緒にやってたらどうだ? クイーンが連れてきた犬猫はアリスにもすごく懐いてるしな」
『たしかにそうですね。中には結構警戒心の強い個体もいたはずですが、アリスが抱き上げて少し撫でただけで陥落していましたから。アリス、動物を馴らすコツなどはあるんですか?』
「うーん……特に考えた事はないです。強いて言うなら、抱き上げた子達に対して心の中で怖くないよ安心して良いよって呼び掛けてるからかもしれないです」
「心の中での呼び掛け……心と心で通じ合うみたいな感じか」
『恐らくはそうですね』
元気の言葉に答えた後、RDは何かを考えるようにマニピュレーターを絡ませ、スピーカーからため息を漏らした後に机の上の物を片付け始めた。
「……RD、どうしたんだ?」
『元気、今から休息を取りましょう。そして、アリスが抱き抱えている動物達を思う存分もふもふしてください』
「どうしてだ?」
『あくまでも世界最高の人工知能としての考えですが、今の元気に必要なのはそれだと思ったので。アリスもそうでしたが、元気もこの前までその年にしてはだいぶ精神的にキツイ日々を過ごしていました。そんな貴方にはアニマルセラピーや同い年の子とのふれあいで心を休める時間が必要なんですよ』
「……俺はそう思わないけど、まあせっかくアリスも来たわけだし、その考えに乗ってみるか。ここで断っても、RDは続きをさせてはくれなそうだからな」
『賢明な判断です。アリス、元気にどちらかを渡してもらえますか?』
「はーい」
アリスは返事をすると、黒い子猫を元気へと手渡した。
「はい、元気」
「ああ」
元気が黒い子猫を受け取ると、黒い子猫は元気の腕の中でチラリと元気を見たが、すぐに落ち着いた様子で丸くなり、ごろごろと喉を鳴らした。
「ふふっ、可愛いね」
「……まあな。けど、どうしてこの二匹だったんだ?」
「クイーンさんがノミ取りを終わらせた子の中で誰を連れていってあげようかなと思った時、この子達が仲良く体を寄せ合いながらのんびりしてるのが見えてね。
それに、元気ってなんだか猫みたいだから、連れてく中に猫を入れようと思ったの」
「俺が猫、か……」
『それは同感ですね。元気はあまり慣れていない相手には少し素っ気ないですが、信頼が置けると思えた相手にはわりと心を許してますから。それに、元気も黒くて短い髪でこの子猫もオスの黒猫ですしね』
「そうか。それじゃあその白い犬はアリスか?」
「え、私?」
自分の事を甘えたような目で見つめてくる白い子犬を見ながらアリスが訊くと、元気は静かに頷く。
「ああ。アリスは初めて会った俺にもフレンドリーに接してきたし、協会で生活していた時も中庭で遊ぶ事の方が好きだったからな。運動が好きで人懐っこいアリスは犬と猫なら犬だと俺は思う」
「なるほどね。それじゃあ私は自分でも知らない内に自分っぽい子も選んできてたのかもね」
『そうですね。それに、そんな二人に似ている二匹が体を寄せ合いながらのんびりしていたという点も普段からお互いの事はしっかりと信頼している二人の様子に類似しているように思えますし、二人とこの二匹は縁があったと言えるかもしれません』
「縁、か。けど、クイーンが連れてきた犬猫は後で引き取り手を見つける予定だろ?」
『はい。ですが、もしも二人がしっかりと面倒を見るというのなら、ジョーカーもこの二匹だけ残す事を反対はしないと思います』
「…………」
『まあ、どうするかは二人に任せますよ。私としてもしっかりと面倒を見るなら、文句は言いませんから』
「……わかった」
「はい」
RDの言葉に返事をした後、元気が優しく微笑みながら腕の中の黒猫を撫で、アリスはハッハッと舌を出しながら尻尾を振る子犬を見ていたが、ふと何かを思い出したような顔をすると、元気を見ながらにこりと笑った。
「ねえ、元気」
「なんだ?」
「ミック神父やクイーンさんと約束をしてるように私とも一つ約束をしてほしいの」
「お前もか……それで、どんな約束をしたいんだ?」
「元気のこれからについて。元気がクイーンさんの助手として頑張るように私もクイーンさんから立派な助手として認められるように頑張るから、もしもそれを達成出来たら私に元気の一生をちょうだい」
「……ミック神父が家族になる事、クイーンがロザリオで、お前は俺の一生か。それじゃあお前はダメだった時、俺に何をくれるんだ?」
「え……うーん、それじゃあ私の一生をあげるよ。ほら、これなら等価でしょ?」
笑いながら言うアリスを見ながら元気は静かにため息をつく。
「……そうだけどな。まあ、それだけの覚悟があるなら俺も断る気はない。それじゃあ期間は神製教団の件が片付くまでにするか」
「うん!」
元気の言葉にアリスが嬉しそうに答える中、その様子を見ていたRDは二人に聞こえない程度の声でボソリと呟く。
『……成立でも不成立でも二人が一緒にいるのは変わりませんし、今の言葉は明らかにアリスからの告白のような物ですよね……まあ、それを今言うのは野暮ですし、私はクイーンとジョーカーにこの事を伝えて、元気が自分の気持ちやアリスの気持ちに気づいていくのを楽しみながら見守らせてもらいましょうかね』
嬉しそうにするアリスとその姿を見ながら安心したように微笑む元気を見ながらRDは録画していたその映像を『クイーン特製元気とアリスの日常アルバム』というフォルダに保存した。
「……それで、ウチのサーカス団に何の用なのかな?」
団長室と書かれたプレートが飾られた部屋の中でピエロのメイクをした男性が低い声を出す。ここは世界的にも優秀な団員達を抱えるセブン・リング・サーカスが興行のためにテントを張っている空き地であり、ピエロのメイクの男性の前にはスーツ姿の老齢の男性が立っていた。
「このセブン・リング・サーカスにウチの子供達はどうかなと思い、こうして訪ねさせてもらいました」
「子供達……誰かサーカス団に入りたいという子でもいるのかね?」
「いえ、正確に言うならば売り込みですよ、ホワイトフェイスさん。ウチには様々な能力を持った子供がいますから、その能力を活かせる場の一つとしてこのセブン・リング・サーカスを選ばせてもらったのです」
「…………」
「それで、どうでしょう? 本日はカタログもお持ちしてますから、ウチの子供達を眺めるだけでも……」
「いや、断る」
ホワイトフェイスが冷たい声で言うと、老齢の男性は不思議そうな顔をする。
「おや、何故です?」
「子供達の中にサーカス団に入りたいという子がいるのならば、私もまだ話を聞こうと思った。だが、子供達を売り物として扱うのならこれ以上は聞きたくない。
私にとって子供とは世界のこれからを担っていってくれる大切な存在で、ウチの団員達の演技を観て目を輝かせて笑ったり驚いたりしてくれる大事なお客様だからな」
「そうですか……それは残念です」
「そもそも、そんな人身売買のような話を私にしても良かったのか? 証拠と言える物はないが、私が警察に通報するという可能性は考えてないのか?」
「通報など無意味ですよ。私達は警察だけでなく、あの探偵卿すらも恐れる必要は無いのですから」
「そこまで言うとは……貴方は一体何者なんだ?」
警戒したホワイトフェイスからの問いかけに老齢の男性は首に掛けた“銀色のロザリオ”を煌めかせながら静かに笑う。
「神製教団。この世界の未来を牽引する神の候補達を有する団体ですよ」
政実「幕間、いかがでしたでしょうか」
元気「前に言ってたように章の間にはこういう話を挟むんだな」
政実「そうだね。日常回+次の章に関わる何かみたいな感じで行くつもりだよ」
元気「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」