怪盗の助手の非日常   作:片倉政実

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政実「どうも、ライバルキャラが出てくる時はテンションが上がる片倉政実です」
元気「どうも、神野元気です。ライバルキャラか……たしかにそういうキャラクターとの勝負は物語を面白くするスパイスになるからな」
政実「そうだね。それぞれの目標や願いを胸に成長していく姿はなんだか見ていてワクワクするんだよね」
元気「なるほどな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第14話をどうぞ」


第14話 クレールの想い

 敵意を宿した視線を向けながらクレールは元気を見ていたが、そのままシュルツとイヴに視線を移すと、二匹をジッと見てからポツリと呟いた。

 

「……ビーストのとこのではないか」

「え?」

「……なんでもない。お前達、どうしてここにいるんだ? 元気はまだしもアリスがこんなところにいたら危ないだろ」

「元気はまだしもって……私達はお世話になってる人がいて、元気はその人の助手、わたしは助手見習いとして頑張ってるよ」

「クレールはどうしてここにいるんだ? アイツら、クリスティーナやセルゲイ達と一緒じゃないのか?」

 

 元気からの問いかけにクレールは少し答えたくなさそうにしたが、仕方ないといった様子で話し始めた。

 

「……アイツらとは別々だ。神製教団っていうよくわかんねぇ奴らに捕まってからはな」

「……やっぱり神製教団には捕まってたのか」

「ああ。だが、その後に俺達は色々な奴らのところに売り込まれたり俺みたいに派遣されたりしてる。セルゲイやアルテナイもそうだろうさ」

「売り込みや派遣……」

「アイツらの言う事はよくわからねぇし、俺達がこの世界を統べる神候補っていうのも意味がわかんねぇ。ただ、こうして派遣された先で居場所が与えられたなら、俺はその居場所を守るだけだ。ウチの団長や団員達にはだいぶ世話になってるからな」

「団長や団員……?」

 

 クレールの言葉に元気が不思議そうな顔をする中、クレールはアリスの肩にポンと手を置く。

 

「アリス、お前もウチに来いよ。色々変わった奴が多いとこだけど、悪い奴らじゃねえし、アリスだってきっと気に入るはずだ。元気は……まあ、どうしてもと言うなら考えてやらなくもないけどな」

「いや、別に良い」

「早!? せめて考えるくらいしろよ!」

「俺にも居場所があるし、俺はそこで生涯を終える事にしてるんだ。そこから追い出されない限り、俺が他の誰かの下につく事はない」

「ぐ、ぐぐ……!」

「ごめん、クレール。私もそっちには行けないよ」

「アリスまで!?」

「私も助けてもらった恩はあるし、助手見習いとして頑張るつもりなの。それに……」

「それに……?」

 

 クレールが不安そうに聞くと、アリスは元気に肩を軽くぶつけてから真剣な表情で答える。

 

「私達はお互いの一生を賭けた約束をしてるからね。私は元気の一生を貰うためにちゃんと助手として認めてもらわないといけない。だから、クレールと一緒にはいけないよ」

「一生って……お前、アリスとなんて約束をしてるんだよ!?」

「……なにか変か?」

「いや、なにか変かって……」

「とにかく、私もクレールと一緒にはいけないし、元気にもそのつもりはないよ。クレールこそこっちに来てよ。たしかに神製教団の目が光ってるかもしれないけど、私達で力を合わせてクリスティーナさんやみんなを助けて、ミック神父を探しだそう?」

 

 アリスの真っ直ぐな目にクレールは一瞬心が揺らいだような表情を浮かべたが、すぐに気持ちを切り替えると、首を横に振った。

 

「……出来ねぇよ。お前らにも譲れない物があるように俺だってそう簡単に団長達から離れられないんだ。突然来た俺を団長達は快く受け入れてくれて、少し厳しいけどしっかりとした特訓だって受けさせてくれてる。だから、俺だって簡単にうんとは言えねぇ」

「クレール……」

「……それがお前の選択なら仕方ないな。それで、お前はどうしてここにいるんだ? さっきから団長とか団員とか言ってるけど……」

「ここにいるのが俺の役目だからだ。そして、俺が世話になってるのは……」

 

 その時、星菱邸の中が騒がしくなり、パトロールしていた警察官達が何かを恐れるような表情で声を上げ始めた。

 

「……始まったな」

「始まったって……」

「あ、あれって……犬や猫……!?」

「ああ、ウチの猛獣使いが指示を出した奴らだ。ああやって辺りを騒がしくしたり警察官達を翻弄するためにな」

「猛獣使い……」

「今頃、怪力男が軽業師を中に入れて、催眠術師やマジシャン達が屋敷内に入ってるはずだ。『リンデンの薔薇』を手にするのも時間の問題だろ」

「『リンデンの薔薇』って……クイーンさんが狙ってる宝石だよね!?」

「ああ。クレール、もしかしてお前が世話になってるのはサーカス団なのか?」

 

 元気からの問いかけにクレールは静かに頷く。

 

「その通りだ。俺が世話になってるのは、セブン・リング・サーカスというサーカス団で、二ヶ月前くらいから俺はそこにいる。とても優れた技能を持った団員達がいて、この騒ぎも団員の一人がやってる」

「セブン・リング・サーカス……」

「そのクイーンって奴が誰かは知らないが、早くしないとウチの団員達がさっさと『リンデンの薔薇』を持っていくぞ」

「くっ……」

「……それじゃあ俺はそろそろ行くか。作戦の開始をここで見守って、必要そうなら騒ぐのが俺の役目だったからな」

 

 そう言ってクレールは去ろうとしたが、突然足を止めると、悔しそうにする元気を振り向きながら見る。

 

「……元気」

「……なんだ?」

「俺がそっちに行く気がないのは、お前がいるからでもあるんだよ」

「え……?」

「……どういう事だ?」

 

 クレールの言葉に二人が驚く中、クレールは再び敵意のこもった視線を原器にむける。

 

「教会にいた時から、俺はお前が気にくわなくて仕方なかった。初めて会った時もアリスにすら素っ気ない態度を取っていたのに、いつの間にかお前はアリスだけじゃなく他の奴らからも頼られるようになっていた。

俺はそんなお前が気にくわない。そうやって力があるのにそれを自慢すらせずになんて事ない感じで色々な事を簡単にこなしていくお前がいるのがイラついて仕方ないんだよ」

「クレール……」

「だから俺は、お前よりも優れた存在になる。誰かから頼られたいとか自分の力を誇示したいとかそういうんじゃない。純粋にお前なんかよりも優れた存在になりたいだけだ。そうすれば、お前に対してイラつく事もないからな」

「……それじゃあ、俺にイラつかなくなったらそのサーカス団からいなくなるのか?」

「……いや、団長が置いてくれる間は居続ける。だが、俺がお前を認めざるを得なくなったら、その時はお前達と一緒にミック神父を探す事を少しだけなら考えてやらなくもない。もっとも、その時なんて来ないだろうけどな」

「…………」

「それじゃあな、お前達。俺は軽業師達と一緒に帰らないといけないんでな」

 

 そしてクレールが去っていき、アリスが表情を曇らせながら俯いていると、そこにジョーカーが近づく。

 

「……二人とも、大丈夫かい?」

「ジョーカー……ああ、俺は大丈夫だ。だけど、アリスは……」

「……私も大丈夫。そういえば、クイーンさんは……?」

「……さっき、戻るって連絡があったよ。どうやら『リンデンの薔薇』を謎の人物達に盗られ、それをクイーンの仕業だという事にされたようだ」

「……そうか」

「一応、さっきの話は聞こえていた。だけど、これからのためにも戻ってからもう一度聞いておきたい。良いかな?」

「……ああ」

「……わかりました」

 

 元気とアリスが返事をした後、三人は喧騒の中を素早く歩き去り、降り立った時と同じ広場へ向かうと、RDが降ろしていたコンテナに入ってトルバドゥールへと戻った。

リビングへ入ると、そこには先に戻っていたクイーンの姿があったが、その姿はどこか悔しそうであり、元気とアリスがどう声をかけたものかと迷う中でジョーカーはいつも通りの調子で話しかけた。

 

「おかえりなさい、クイーン。今回は流石のあなたといえども堪えたのではないですか?」

「堪えたわけではないさ。ただ、あそこまで見事に掠め取られると、私だって悔しいだけだ。今回の主役も私だと思っていたが、彼らの方が一枚上手だったしね」

「あなたが犬や猫を拾ってくる余裕がない程ですからね。とりあえず、あなたがシャワーを浴びてきてから、今回の件であなたの邪魔をした相手の話をしましょう」

「ああ、そうしようか。その間に……」

「ええ、わかってます。それは任せてください」

「頼んだよ」

 

 それだけ言うと、クイーンはシャワールームへと歩いていき、元気とアリスがそれぞれの動物を抱き抱えたままでソファーに座ると、ジョーカーはため息をついてから元気達に話しかけた。

 

「二人とも、気分は落ち着いたかい?」

「……元々落ち着いてる。だけど、あそこでクレールに対してあれ以上言えなかった自分が悔しくて仕方ない。クレールが俺に対してあんな風に思っていたのに、それにも気づけてなかったしな……」

「元気……」

「君はアリスさん以外の相手にどこか興味がなさそうだからね。そんな姿を見て苛立ちを感じる相手がいてもおかしくない」

「……ああ」

「それで、君はいつまでもそうしているつもりかい?」

「……え?」

 

 元気が顔を上げると、ジョーカーはいつもと変わらぬ仏頂面で元気の事を真っ直ぐに見ていた。

 

「相手に対して興味を持ってこなかった事を悔やむのは悪くない。だけど、そうやって悔やむだけで君は終わらせるつもりなのかい?」

「それは……」

「今回は相手に襲いかかってくるだけの敵意はなかった。だけど、いつだってそうじゃないし、相手の事を知らなかったのが原因でアリスさんやシュルツまで被害を受ける事もあり得る。

本当にそうなった時、ただ悔やんだってしょうがないんだ。悔やむだけなら誰でも出来るし、落ち込んでるだけならそもそもする必要はない」

「…………」

「なら、やる事はわかるはずだ。仮にもクイーンの助手を名乗るのならね」

 

 そう言うジョーカーの声は少し冷たかったが、目には元気への期待がこめられており、元気はジョーカーを見つめてから静かに頷いた。

 

「……ああ、わかってる。このまま俯いて立ち止まってなんていられないからな」

「……そうだね。私だってクレールとの再会がこんな形になったのは悲しいけど、泣いてなんていられないよ。私も私に出来る事をやらなきゃ」

「ああ。だから、まずはクレール達から『リンデンの薔薇』を奪い返す。アイツや他の奴の事を知るのも大切だけど、このまま負けっぱなしではいられないからな」

「うん。クレール達に私達の力を見せて、クレールに私達を認めさせよう、元気」

「ああ」

 

 元気とアリスが頷き合い、それぞれの動物達も鳴き声を上げる中、ジョーカーとRDはその姿を優しく見守っていた。




政実「第14話、いかがでしたでしょうか」
元気「次回からはセブン・リング・サーカスやクレールについて考えていく回になりそうだな」
政実「そうだね。もっと原作らしい雰囲気を出していきたいし、次回からはもっと頑張らないと」
元気「そうだな。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」

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