怪盗の助手の非日常   作:九戸政景

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政実「どうも、手品はいつか習得したい片倉政実です」
元気「どうも、神野元気です。手品は習得するまではだいぶ苦労するだろうけど、色々な場面で披露出来るから覚えておいて損はないだろうな」
政実「うん。ただ、始めるならカードやコインを使った物にはなりそうかな」
元気「そうだな。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第15話をどうぞ」


第15話 セブン・リング・サーカス

 元気とアリスが決意を新たにした数分後、シャワーを浴び終えたクイーンがリビングに戻ると、クイーンは元気達の様子を見て安心したように微笑む。

 

「……どうやらジョーカー君は良い働きをしてくれたようだね」

「おかげさまでな。それで、クイーンの方は何があったんだ?」

「そうだね……君達も知っているだろうけど、突然犬や猫が星菱邸に現れ、警官隊やリポーター達を襲い始めたんだ。ああ、そういえばその中には伊藤さんの姿もあったよ」

「伊藤さん?」

「旅と料理の情報誌である『セ・シーマ』の編集者の伊藤(いとう)真里(まり)さんの事ですよ。メガネを掛けた黒髪のショートボブの20代の女性で、関西弁を操るバイタリティーの化身のような人です。

 クイーンの友人である名探偵に雑誌の企画の話を持ってきた事がきっかけで彼とは知り合い、その後も彼の周りで起きる事件の際には度々姿を見せていますよ」

「……どうして旅と料理の情報誌の編集者がそこにいたんだ?」

「それは彼女のみぞしる事だよ。因みに、彼女のスローガンは『72時間働けますか?』という物で、取材の際には愛車であるポチ一号を駆って現場に赴き、サイクロン一号と名付けた改造パソコンを駆使して精力的に取材をしているようだ」

「72時間って……それ、普通なら死んでますよね?」

「それくらい、彼女のスタミナや熱意がすごいという事さ。実際、さっきも知り合いの記者らしい青年と一緒に犬や猫に翻弄されながらも取材のために走り回っていたしね」

 

 クイーン達から聞いた容姿の女性が犬や猫を物ともせずに取材のために走り回る姿を元気とアリスが想像する中、クイーンは二人の姿を見て微笑ましそうな表情を浮かべてから話を続けた。

 

「私も当然襲われたんだけど、その時に木の上でこちらを見下ろしている少女がいたんだ。恐らく、彼女が犬や猫の操り手だろうね」

「そういえば、クレールも仲間に猛獣使いがいるような事を言ってたな」

「うん、後は軽業師と怪力男がいるって」

「ふむ……因みに、他に何か言ってはいなかったかな?」

「……セブン・リング・サーカス、そこにアイツはいるって言っていた」

「なるほど、サーカスか。RD、頼めるかい?」

『既に調べてます。皆さん、スクリーンに映しますよ』

 

 RDの声がスピーカーから聞こえた後、スクリーンにはセブン・リング・サーカスの詳細や団長のホワイトフェイスの顔写真やプロフィールが映し出された。

 

『セブン・リング・サーカスは一流の団員達が揃っていると高い評判を獲得しているサーカス団でして、団長はこのホワイトフェイスという男です』

「なるほど、たしかにホワイトフェイスだな。けど、団長なのにピエロの化粧をしているのは何でなんだ?」

『ホワイトフェイスが以前はピエロとして演技をしていたからですよ。ただ、ある時から舞台に立つ事を止め、今は団長として団員をまとめたりマジシャンの芸に参加する程度のようです』

「でも、どうしてホワイトフェイスさんはピエロを止めちゃったんだろう?」

『そこについてはまだ調査出来ていません。ただ、セブン・リング・サーカスは各地を巡って芸を披露するサーカスなのですが、紛争地帯などにも足を運んでいた事もあるようなのでそれが何か関係しているのかもしれません』

「なるほど……」

『先程も言った通り、セブン・リング・サーカスは一流の団員達が揃っていると噂されるサーカス団ですが、花形の団員達が他の団員やスタッフに大きな態度を取るような事もなく、団員達は団長の事を本当の父親のように慕っているとの事なので、団員間の不和などはなさそうです』

 

 続いて花形の団員達の顔写真と演技中の写真、プロフィールが映し出されると、レオタード姿で高所での演技を行う女性と平気そうな様子で鉄骨を二本持ち上げている男性の姿に元気とアリスは驚いた様子を見せた。

 

「この人達……さっき会ったお姉さん達だ!」

「……軽業師のシルバーキャット瞳、怪力男のジャン・ポール、か。後はクレールが言っていた猛獣使いのビーストが俺達が知ってる団員って事になりそうだ」

「私は他にもこのマジシャンのプリズムプリズムと催眠術師のシャモン斎藤、鍵師のジョー・セサミを見かけたよ」

 

 スクリーンに映っているマジシャンの服装の小太りの男性と黄色のサングラスを掛けた怪しげな服装の男性、そして開け放たれた金庫の前でピエロの格好で両手を広げている男性をクイーンはそれぞれ指差す。

 

「彼らは上越警部と岩清水刑事、それと星菱氏や他の警官がいた部屋の中に既に入り込んでいて、それぞれ警官の変装をしていたよ」

「警官の変装をしていた……ですが、どうして上越警部達はその侵入に気づけなかったのですか? いくら変装をしていたとしても、見慣れない警官がいれば流石に怪しむ気が……」

「怪しまれる前にシャモン斎藤が催眠術を掛けたんだろう。その後にジョー・セサミが『リンデンの薔薇』が入っている金庫を開けて、受け取ったプリズムプリズムが気づかれないように『リンデンの薔薇』を隠し、その後に私が来たという事になるね」

「クイーンが出ていって数分後に俺達が様子を見に行ってシルバーキャット瞳とジャン・ポールに遭遇した。それから更に数分後にクレールと再会して、話してる最中にビーストが犬や猫を使って陽動した事になるけど、その数少ない時間の中でセブン・リング・サーカスの団員達は『リンデンの薔薇』を盗みだしたわけか」

「そういう事だね。後、この竹馬男のスタイリー井上と大砲男のロケットマンは恐らく裏方要員で、団員達が星菱邸に侵入するためのアシストをしていたんだろう」

『星菱邸の周辺で水道工事のトラックが通ったという情報があるので、恐らくそれがスタイリー井上とロケットマン達が乗ったトラックで、その荷台に侵入用の道具を載せていた物と思われます』

「だいぶ巧妙な手口だよな。それだけ、セブン・リング・サーカスにとって『リンデンの薔薇』は重要な物だったのか?」

「それはまだわからないね。では、次にそのクレール君との再会について教えてくれるかな?」

 

 クイーンからの問いかけに元気とアリスは頷き合ってから話を始めた。

 

「クレールとは星菱邸の門のところで出会ったんだ。その時にあっちも驚いていたけど、こっちの事を話した後に向こうの事も聞いたんだ。俺とアリスがお互いの一生を賭けて約束をしてる事を言ったら何故かだいぶ驚かれたけどな」

「ふふ、そうかい。それで、クレール君はどうしてセブン・リング・サーカスの団員になっていたのか話していたかな?」

「えっと、神製教団からセブン・リング・サーカスに派遣されたって言ってました」

「派遣……?」

「ああ。クレール達は神製教団に捕まりはしたけど、その後は離ればなれにされて、同じような奴らと一緒に色々な奴らに派遣されてるって言っていた。クレールがセブン・リング・サーカスに来たのは二ヶ月程前だとも言ってたな」

「ふむ……クレール君は身体能力が優れていると前に聞いているし、曲芸を披露するサーカス団にはピッタリだね」

「そうですが、何故セブン・リング・サーカスは子供達を派遣という形で各地に向かわせているんでしょうか? 神の候補というのなら、自分達の近くに置いて、それ用の教育を施す方が良いと思いますが……」

 

 ジョーカーの言葉にRDが答える。

 

『推測に過ぎませんが、そうやって売り込む事で神製教団の名前を知れ渡らせ、自分達の協力者を増やそうとしているのかもしれませんね。

 神製教団が作り出している神の候補の子供達はいずれも何か一つの事に特化している子達です。そんな子供達を適切だと思われる団体や個人に売り込んで、その方面で結果を出させれば子供達を受け入れた側は世間からの評価も高くなりますし、秘密裏に子供を受け渡ししていた事を警察に知られるわけにはいかないので裏切る事も出来ません。

 その結果、神製教団の力や子供達の能力を認めざるを得ず、子供達をこの世界を統べる神に相応しいと考える信奉者が増えるといったところでしょう』

「本当は神製教団が裏から操る事になるのにな」

「そういう事だね。クレール君は他に何か言っていたかな?」

「……アリスがクレールにもクイーンの方へ来てくれないかと頼んだ時、団長達を裏切れないからと言っていたけど、俺がいるのも行かない理由だと言っていた。

 アイツからすれば、俺の言動はだいぶイライラする物だったみたいで、俺よりも優れた存在になってみせるって別れ際に言われたな。そして、俺の事を認めざるを得なくなったら、その時は一緒にミック神父を探したりクリスティーナ達を助けたりしてくれるとも言われた」

「なるほど。それにしても、そのクレール君はだいぶ元気をライバル視しているね。君にとっては良い刺激になるんじゃないかな?」

 

 ニヤリと笑いながら聞くクイーンの言葉に元気は首を横に振る。

 

「……そういうのはまだわからない。だけど、アイツが負けないって、俺に負けたくないって考えてるなら、俺も負けるつもりはない。そういう勝負をしたいわけじゃないけど、何故か負けたくないんだ」

「……良いんじゃないかな? 私だってセブン・リング・サーカスにやられっぱなしでいるわけにはいられないし、君もクレール君に負けたくない。それなら、お互いに目標へ向けて頑張ろうじゃないか」

「クイーン……ああ、そうだ──」

「ふふ……なんだかワクワクしてきたよ。一度は退いた怪盗が己の誇りと美学を以て、一流の団員達が在籍するシルクに大切な友人達と共に立ち向かう。実に心踊る展開だ……」

 

 恍惚とした表情でクイーンが想像上の観客を前にスポットライトを浴びる姿を想像する中、元気とジョーカーは呆れたような視線を向け、アリスは苦笑いを浮かべた。

 

「あはは……クイーンさん、スイッチ入っちゃったみたいだね」

「そうだな……ったく、さっきは良い事言ってたと思ったのに、すぐこれだからな……」

『それが怪盗クイーンですから。ですが、やる気になったのは間違いないですし、私ももう少しセブン・リング・サーカスや団員達について情報を集めますね』

「ああ、頼んだ。それじゃあ僕達も自分に出来る事をしっかりとやろう」

 

 ジョーカーの言葉に元気とアリスは頷き、クイーン達はそれぞれのやるべき事へ向けて歩き始めた。

 

 

 

 

 同時刻、セブン・リング・サーカスの団長室には団長のホワイトフェイスやクレール、花形の団員達が揃い、警官の変装を解いたシャモン斎藤が手の中にある『リンデンの薔薇』をホワイトフェイスに手渡した。

 

「親父、『リンデンの薔薇』です」

「ああ、ご苦労だった。さて、次はこれで怪盗クイーンを引き寄せるとするか」

「親父、本当にクイーンは来るんですか?」

「今回、俺達が結構やってやりましたし、流石に懲りたりしてるんじゃないですか?」

「……その程度の怪盗なら用はない。それに、怪盗クイーンは絶対にこの『リンデンの薔薇』を盗むためにここへ来る。それが怪盗としてのプライドだろうからな。おばば、占いはどう出ている?」

 

 部屋の隅にいた老婆は表情を変えずに静かに口を開く。

 

「……勝敗についてはわかりませぬ。ですが、銀色と黒色の狼が黒い猫と白い犬を伴い雲に乗ってこのセブン・リング・サーカスに相対する姿は見えました」

「そうか……クレール、君はどう思う?」

 

 ホワイトフェイスが問いかけると、クレールは本棚を背にしながら答える。

 

「……来るとは思うけど、俺はクイーンなんかよりも元気とアリスが来るかどうかわかれば良い。あそこまで言って何もしないようなら、俺も手伝ってやる義理はないからな」

「……教会で一緒に暮らしていたという子供達か。君はだいぶその子達、特に元気という少年に執着しているように見えるが、ライバル視でもしているのか?」

「……そういうわけじゃない。ただ、アイツが色々な事を簡単にこなしてみせて、そんなに時間をかけずに周囲に馴染んでみせてるのに、大したことないって感じにすかしてやがるのが気にくわないだけだ」

「へえ……」

「……なんだよ、ジョー・セサミ」

「別に? だけど、いつもおとなしく訓練に励んだりスタッフ達にも礼儀正しくしてるお前がその子の事になると、いやに子供っぽいところを見せるなと思っただけさ」

「ふふっ、そうね。あのボウヤの存在が良い刺激になっているようだし、私は良い関係だと思うわ」

「私もそう思う」

「同意だな」

 

 団員達が揃って頷き、その反応にクレールが納得の行かない様子を見せる中、ホワイトフェイスは『リンデンの薔薇』を見ながらニヤリと笑った。

 

「さあ来い、怪盗クイーン。魅せる者同士、共に観客達に夢のような世界を披露しようじゃないか」

 

 そう呟くホワイトフェイスの表情には負けるという不安は一切感じられず、『リンデンの薔薇』もそれに同意するかのように照明の光を反射してキラリと輝いた。




政実「第15話、いかがでしたでしょうか」
元気「今回は前回のおさらいや神製教団とセブン・リング・サーカスについての話になったな」
政実「そうだね。これでもまだ原作の序盤ではあるし、長くなりすぎないようにしながらこれからも書いていくよ」
元気「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」
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