怪盗の助手の非日常   作:九戸政景

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政実「どうも、誰かの目を見て話すのが少々苦手な片倉政実です」
元気「どうも、神野元気です。まあ、そういう人もいるにはいるよな」
政実「そうだね。あまり目を見ながら話せない方だけど、必要な時にはやっぱりやらないといけないし、少し頑張ってみようかな」
元気「それが良いと思うぞ。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第16話をどうぞ」


第16話 団長との対面

 星菱邸での一件の数日後、セブン・リング・サーカスの興行が行われている広場は多くの人々の声で賑わっていた。

はしゃぐ子供の姿を微笑ましそうに見る若い夫婦や手を繋ぎながら何を楽しみにしているか語り合うカップル、出店などを巡りながら楽しむ学生グループに穏やかな笑みを湛えながらゆっくり歩く老夫婦、とその場にいた人々の種類は様々だった。

しかし、その表情は共通して楽しそうな物であり、これから始まるサーカスへの期待とワクワクで満ち溢れており、その笑顔は広場を包み込む歓声の火種となっていた。

そして、その中に身なりの良い老人とその妻と思われる老女、子供用の中国服を着た少年と白いワンピース姿の少女がいたが、老人は賑わう会場の様子に微笑んでいた。

 

「おお……中々賑やかじゃないか。サーカスをやっていると聞いたから来てみたが、ここまで賑やかだとは思わなかったな」

「たしかに……本当はシュルツとイヴも連れてきてあげたかったけど、この中だと迷子になっちゃうし、後で色々お話を聞かせてあげたいね、お祖父ちゃん」

「ははっ、そうだなぁ。その時は祖母さんと元気もあの子達に話してあげると良い」

「……話してあげると良い、じゃない。“クイーン”、いつまでこんな芝居をしないといけないんだ?」

 

 元気のジトッとした視線に対して老人──クイーンは優雅さを漂わせながら微笑む。

 

「ダメだよ、元気。今の私達はサーカスを見に来た老夫婦とその孫の兄妹なのだから。ちゃんとその役を演じないと」

「そうだよ。ほら、そんな顔してないでサーカスを楽しもうよ、お兄ちゃん。お祖母ちゃんだって文句一つ言わずにやってるんだから」

「いや、言いたくても言う気すら出ないだけだろ。というか、俺達の目的はこのセブン・リング・サーカスの手の中にある『リンデンの薔薇』を手に入れる事だ。それなのに、どうしてサーカスを観る事になってるんだよ。それも、今朝になって急にサーカスを観に行くから準備知ろなんて言うし……」

「だって、気になるじゃないか。私達の強敵(ターゲット)がどのような夢を私達にみせてくれるかが。あの時も実に見事だと思ったが、今日はあくまでも観客達を楽しませるための公演だから、また違った楽しさを与えてくれるはずだよ」

「……建前すら言わないのか」

「言う必要がないからね。ただ、君達と純粋にサーカスを楽しみたいという気持ちもあるんだ。君達という大切な友人達との思い出を残していきたいからね」

「クイーン……」

 

 クイーンの言葉に老女に変装したジョーカーは少し驚いたような声を出し、それに対してクイーンがウインクをする中、ジョーカーは普段と変わらぬ仏頂面で静かに口を開く。

 

「何度も言うようですが、僕はあなたの友達ではなく、仕事上のパートナーですからね」

「俺も仕事上の助手に過ぎないな」

「私は友達でも良いけど……今は仕事上の助手見習いですね」

『因みに、私も世界一の人工知能に過ぎませんよ、クイーン』

「……君達のその返答を聞くと、なんだか安心するね」

「それは皮肉ですか?」

「いいや、本音さ。いつも通りの平穏というのは実に安心するものだからね」

「それはそうだけどな……」

「それに君達、特に元気とアリスさんには今日のサーカスとこの平和で賑やかな雰囲気を心から楽しんで欲しいな」

「俺達に……」

「この雰囲気とサーカスを……?」

 

 元気とアリスの言葉にクイーンは優しく微笑みながら頷く。

 

「ああ。こうしたサーカスのような観る者の心を奪う素晴らしい文化は君達のような子供達に一番楽しんで欲しいんだよ。もちろん、日頃の心身の疲れを癒やすために大人が楽しむのも必要だ。

だけど、君達のような未来が無限大にある子供達に夢のような時間を過ごしてもらい、その時感じたワクワクや感動を後世にも伝えていってもらいたいんだよ。様々な娯楽で満ちていても、今の世の中は本当の意味で皆が楽しめる物が多いわけじゃないからね。この経験や思い出を元にこれからを担う君達にそうした物を作っていってもらえたら私は嬉しいよ」

「クイーン……」

「ふふっ、難しい話はここまでにして、あの大きなテントまで行くとしよう」

「ああ。だけど、クイーン」

「ん、なんだい?」

「俺達のような子供がそんな未来を創っていけるかはクイーン達のような大人の存在があってこそだからな。だから、託すだけじゃなく、必要な時には俺達を引っ張ってくれ。もちろん、正しい方へな」

「元気君……」

「……ああ、もちろんだとも。では、そろそろいこ──」

 

 そう言ってクイーンが前を向いた時、目の前にはピエロの扮装をした男性がいつの間にか立っており、にこやかな笑みを浮かべながら大きく手を広げた。

 

「ようこそ、我らがセブン・リング・サーカスへ。皆さんはご家族ですかな?」

「ええ、そうです。ここでサーカスをやると聞いて、孫を連れて観に来たのですよ。サーカスを観る機会などあまりありませんし、こうした経験は子供達にはとても貴重ですから」

「はは、そうですな。このセブン・リング・サーカスは一流の団員達が揃っていますから、皆さんを退屈させないこと請け合いですし、お孫さん達にも楽しんでもらえる事でしょう」

「一流……ふふ、それならば団員達で協力をすれば舞台を飛び出して様々な人々に夢のような時間を過ごさせる事も可能そうですな。例えば……誰にも疑わせる事なく、怪盗を出し抜いたりとか」

 

 そのクイーンの言葉にピエロの扮装をした男性──ホワイトフェイスはニヤリと笑う。

 

「やはりそうかと思ったが、お互いにこれが初対面だな、怪盗クイーン」

「そうですね、セブン・リング・サーカスの団長、ホワイトフェイスさん。まさか貴方が直々に挨拶に来るとは思いませんでしたよ」

「くく……さっきウチの新入りや軽業師がそちらの二人を見かけたと言っていたのでね。わざわざ来てくれたのなら、直接挨拶をしなければと思ったんだよ。先日、ウチの団員達が天下の怪盗様よりも見事な夜にしてしまったものだから」

「いや、実に見事でしたよ。団員達が連携してあの豪邸を大きな舞台にし、片時も目が離せないような公演をしてくれたのですから。一流の団員達が揃っているのは間違いないようですね」

「お褒め頂き感謝するよ。それで、今日は『リンデンの薔薇』を手にいれに来たのだろう? わざわざそうやって変装までしているのだから」

「出来るならそうするつもりです。ですが、一番の目的はあくまでもサーカスを楽しむ事ですよ」

 

 余裕を崩さないホワイトフェイスに対してクイーンが裏表のない笑みを浮かべると、ホワイトフェイスは一瞬驚いた後にクツクツと笑い始めた。

 

「……そうか、それならばその期待にはおおいに応えねばならないか。どうやら先程の言葉にも嘘はないようだからな」

「ええ。子供達は大人に利用されたり人生を狂わされたりするものではなく、あらゆる物を自分で取捨選択して自分だけの未来を切り開く物ですからね。それに、先程は大切な友人からとても嬉しい言葉をもらいましたから、その期待を裏切る気もありませんよ」

「なるほどな。さて……では、俺はそろそろ戻るとしよう。話だけならば、公演の後でも出来るからな」

「そうですね。ですが……ウチの助手達が何か聞きたそうにしているので、それだけ答えてあげてくれませんか?」

 

 そう言いながらクイーンが元気達に視線を向けると、元気とアリスは驚いた様子を見せたが、クイーンが微笑みながら頷くと、頷き返してからホワイトフェイスに話しかけた。

 

「アイツは、クレールはここに馴染めているのか?」

「クレールはちょっと言い方が乱暴になる事があるから、ここの人達とうまくやれてるのかなって……」

「……ああ、うまくやれているとも。突然ここに派遣されて、彼自身もウチの団員やスタッフ達も神製教団のやり方に不満はあるようだが、彼もここでの訓練には熱心に励んでいるし、団員達も訓練に付き合ったり話しかけたりしている。まあ、彼は少し弄られ側にはなりがちだがね」

「……そうか」

「よかった……」

「……君達は彼の心配をするのだね。彼は君達、特に元気君に対してライバル心を抱いていて、その熱意はすごいのだが、元気君は彼に対して勝ちたいという気はないのかな?」

「……ないわけじゃない。いや、正確に言うなら、もっとアイツ自身を知らないといけないと思ってる」

「彼を知る、か……」

 

 ホワイトフェイスの呟きに元気は静かに頷く。

 

「ああ。別にアイツと争いたいわけじゃないけど、俺はもっと色々な事を競ったり協力したりしてアイツを知らないといけない。これまで俺は、アイツの事を知らなすぎたと感じたからな。だけど、どうせ競うならどんな内容でも負けたくない。別に負けてやる義理もないからな」

「……なるほど、それが君の彼への接し方か。ならば、君達のこれからについても楽しみにさせてもらうとしよう。君達の進む未来がどのような物か興味があるからな」

「……アンタも子供に未来を託したいんだな」

「ああ、そうだな。だが、ただ託すだけではなく、我々が子供達にまだ世界に希望はあるのだと伝え、目から流れる涙を拭った上で笑顔になってもらい、その笑顔を伝播させてもらいたいと思っている。では、今度こそ俺は行こう。セブン・リング・サーカスの公演をこころゆくまで楽しんでいってくれたまえ」

 

 そう言ってホワイトフェイスは去っていき、その姿を元気が見つめる中でクイーンはその肩にポンと手を置いた。

 

「ああ言った以上、彼の期待にも応えていかないといけないね」

「そうだな。それに、ホワイトフェイスも別に悪人というわけじゃないのもわかった。けど、それならどうして『リンデンの薔薇』を盗んだんだ……?」

「そうだよね……クイーンさんが来るのはわかってたから、その日に自分達もっていうのは出来るけど、サーカス団が宝石を盗む理由なんて思いつかないし……」

「そこに関しては私もまだわからないよ。だが、あそこまでの男がただ犯罪に手を染めるとも思えない。だから、その理由も考えていきたいところだね」

「そうですね。それじゃあそろそろ僕達もテント内に入りましょうか。だいぶ話し込んでしまいましたから」

 

 そのジョーカーの言葉に三人は頷いた後、会場内に響く賑わいの声を聞きながら公演が行われる大テントへ向けて歩き始めた。




政実「第16話、いかがでしたでしょうか」
元気「俺達の存在がある分、やっぱり展開が原作とは少し変わってくるんだな」
政実「うん。大きく変える気はないけど、ストーリーに影響が出ないように気を付けながらこれからも少し変えてみたりはするつもりだよ」
元気「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」
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