元気「どうも、神野元気です。そういう考えもあるけど、受けるべきかどうかはしっかりと考えた方がいいな」
政実「そうだね。ただ、自分の成長の機会にもなるから積極的に受けていきたいね」
元気「たしかにな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第18話をどうぞ」
大テントでの公演が終わり、観客達がバラバラと帰っていく中、クイーンは気持ち良さそうに体を上へと伸ばした。
「うーん……良い物を観た後はやはり気持ちが良いね。さて、では帰る前に彼に一言挨拶をしていこうか」
「彼って……ああ、団長のホワイトフェイスか」
「でも、私達は一応部外者ですし、そう簡単には会えないんじゃ……」
「……どうやらそうでもないようだよ、二人とも」
「え?」
どこかを見ながらジョーカーが言った言葉に元気が疑問を覚えながらそちらに視線を向けると、そこには練習着姿のクレールの姿があった。
「クレール……」
「……団長から公演が終わったらお前達を連れてこいって言われたんだ」
「団長さんから?」
「ああ。お前達と少し話がしたいからって言ってたんだが……クイーンっていうのはアンタか?」
老婆に変装していたジョーカーを見ながらクレールが訊くと、それを見ていたクイーンは小さく吹き出す。それに対してムッとした表情を浮かべながらクレールがクイーンの方へ顔を向けると、そこにはいつの間にか変装を解いていつもの服装に着替えていたクイーンが優雅な雰囲気で座っていた。
「え……い、今いたのは年寄りの爺さんだったはずじゃ……」
「初めまして、クレール君。私の変装にどうやらすっかり騙されてくれたようだね」
「変装……それじゃあアンタが……」
「ああ、そうさ。私が怪盗クイーンだよ。もっとも、今は
「蜃気楼……?」
「クイーンの異名であり、得意としている催眠術だよ。自分に関する記憶を相手から消したり自分の存在を目立たなくしたり出来るんだ」
同じく変装を解いたジョーカーが静かに解説すると、クレールは四人を見回しながら驚きを隠しきれない様子で呟いた。
「これが団長達が敵に回した奴らなのか……」
「普段のクイーンは自堕落の化身みたいな奴だけどな。ただ、今回の件で相当プライドを傷つけられたみたいだ」
「だが、今日のところは団長と話をしたらお暇するつもりだ。あそこまで素晴らしい公演を見せてもらえたのだからね」
「それじゃあまた公演を見せたら、『リンデンの薔薇』を諦めて帰るのか?」
「さて、それはどうだろうね。それでは、案内をお願いするよ」
「わかった。こっちだ」
揃って頷いた後、元気達はクレールの後に続いて歩き始める。帰っていく観客達を横目に見ながら五人はサーカスの関係者達が通る通用口を抜け、片付けを行うスタッフ達の間を抜けて歩いていくと、クレールは団長室の前で足を止めた。
「団長、連れてきたぞ」
「ああ、入りたまえ」
ドアの向こうからホワイトフェイスの声が聞こえた後、クレールは団長室のドアを開けて入り、それに続いて元気達が入ると、そこには多くの本が収められた本棚やスーツなどがかけられたクローゼットがあり、中心には机に向かいながら椅子に座って不敵な笑みを浮かべるホワイトフェイスの姿があった。
「ここがセブン・リング・サーカスの団長室……」
「なんだか本当に仕事のための部屋って感じで、背筋がピシッとなるね……」
「くく……緊張などせずに楽にしてくれたまえ。さて……せっかく来てくれたのだから、改めて自己紹介をさせてもらおうか。俺はこのセブン・リング・サーカスの団長であるホワイトフェイスだ。ウチのサーカスはどうだったかね?」
「ええ、とても良い時間を過ごさせてもらいましたよ。この子達もとても楽しんでいたようですしね」
「……楽しかったのは間違いないな。サーカスなんてこれまで見た事無かったのもあるけど、真剣に観客を楽しませようとしてるのが伝わってきた気がする」
「うんうん、マジックショーの時はヒヤッとしたけど、ホワイトフェイスさんの足がくっついて何事もなかったように立った時はすごいって思ったし、最後の一斉に始まるのも夢の中の出来事みたいに思えたよね」
「だろ? なにせウチのサーカス団は一流の団員が揃ってるからな!」
「……クレール、出てないお前に誇られてもな」
「う、うるせぇな! 俺だってすぐに観客を沸かせてみせるっての!」
冷めた目をした元気の言葉にクレールが声を荒げると、それを見ていたクイーンはクスクスと笑った。
「……二人とも、何だかんだで仲が良いですよね」
「別によくはない。ただ、クレールに対して何か言ったらこんな風に返してくるだけだ」
「くく、子供とはそういうものでいいのだよ。お互いに張り合ってみせたり少しからかったらそれに対してムキになったりする。そうやって成長をしていく、それが子供の良いところだと俺は思っている」
「……ホワイトフェイスさん、なんだかお父さんみたい」
「実際、ウチの団員の中には団長を親父って呼ぶ奴もいるしな。それくらい、団長は団員達から慕われてる。突然来させられた俺の事も快く受け入れてくれたし、俺も団長の事は嫌いじゃない。もっとも、本当の親を知らない俺からすれば、ミック神父が親父みたいな物だから、団長の事は団長って呼んでるけどな」
「たしかにミック神父がお父さんでクリスティーナさんがお姉さんみたいな感じだったもんね……」
アリスが不安そうに俯き、元気がその姿を心配そうに見つめる中、ホワイトフェイスはコホンと咳払いをしてから挑戦的な視線をクイーンへと向ける。
「……それで、『リンデンの薔薇』の在りかについてはわかったのかね?」
「わかってない、と言ったら教えてくれるんですか?」
「いいや。それに、その程度の怪盗ならば必要はない。私が勝負をしたいのは、そんなレベルの相手じゃないからな」
「勝負……ホワイトフェイス、貴方は何を企んでいるんですか? リスクを負ってまで『リンデンの薔薇』を盗み出して、クイーンに何を求めているんですか?」
「それも内緒だ。だが……怪盗クイーン、君はなんとなくでもその理由に心当たりがあるのではないかな?」
「ええ、ありますよ。それに、『リンデンの薔薇』の隠し場所についてもわかっていますしね」
その言葉にホワイトフェイスがニヤリと笑う中、元気達は何を言っているんだといった様子でクイーンに視線を向けた。
「クイーン……」
「どうして……さっき、気づかれたら隠し場所を変えられるかもしれないって言っていたのに……」
「……クイーン、説明してもらえますか?」
「単純な事さ。この方が面白いからだよ」
「面白いって……」
「私は隠し場所がわかっていて、それをホワイトフェイスが知った。それなら隠し場所を変えた方が良いかもしれないが、変えたと見せかけて変えずにいて、私がそれに惑わされる事もあり得る。そんなヒリついた駆け引きが私はしたいんだよ」
「なんだよ、それ……アンタ、『リンデンの薔薇』が欲しいんじゃないのか?」
「欲しいというよりは、本来の持ち主に返したいだけさ。今はその価値をしっかりとわかっている人のところにあるけれど、赤き美女は故郷に帰りたいだろうからね。私はその手助けをするだけさ」
「……わかんねぇ。アンタ、本当に何を考えてるんだ……?」
クレールが信じられない物を見るような目でクイーンを見る中、ジョーカーは呆れ果てたようにクイーンの肩に手を置く。
「この人、怪盗クイーンという人はこういう人なんだよ。快楽主義者で遊び心を常に求め続けている本当に掴めない人、それが怪盗クイーンなんだ」
「クイーンの考えを理解出来るようになったら、人生がすごく楽しくなりそうだけどな。もっとも、俺はそこへ辿り着こうとは思わないけど」
「私は良いと思うけどなぁ……」
「くく……君達も中々面白い一団のようだな。では怪盗クイーン、私と勝負をしようじゃないか。次の公演日、君が『リンデンの薔薇』を盗み出せるかどうかというな」
「良いでしょう」
「良い返事だ。時間は公演終了までで、君が『リンデンの薔薇』を盗み出せたならそのまま君達に進呈しよう。だが、盗み出せなかったら……その時は私の願いを聞いてもらう。それで良いかね?」
「構いませんよ。ただ、その代わり……」
クイーンはクレールに視線を向けると、体をビクリと震わせるクレールに対して微笑みかけながら静かに口を開いた。
「クレール・カルヴェ、彼をウチの子達の案内役として当日は任せてもらえませんか?」
「……は?」
「案内役……?」
「アンタ、一体何を──」
「良いだろう。私もそれを提案しようとしていたからな」
「団長!?」
「クレール、君には元気君達を連れてこのサーカス内を案内する役目を与えよう。当日はしっかりと役目を果たすように」
「いや、わけがわからねぇよ! なんで元気達の案内なんてする必要があるんだ!?」
クレールの疑問に対してホワイトフェイスは静かに答える。
「怪盗クイーンとパートナーである彼は変装をしてくるだろうが、そちらの二人はまだそこまでの事は出来ないようだ。だから、当日は関係者の一人として来てもらい、存分に『リンデンの薔薇』を探してもらう。ここまでやらないと流石にフェアではないだろう?」
「だからって……」
「それに、君にとっては彼らに自分の頑張りを披露する良い機会となる。それは間違いないだろう?」
「それは……」
「という事だ、二人とも。当日は大テントの前にクレール君を待たせておくから、関係者用のパスを受け取って中まで来てくれて構わないよ」
「……それはありがたい。だけど、本当にそこまでやる必要があるのか?」
「そうですよ。フェアにしたいと言っても、少しこっちに有利そうな感じが……」
元気とアリスが申し訳なさそうにする中、ホワイトフェイスは肘を机に立てて手を組みながらニヤリと笑った。
「構わないよ。フェアにしたいというのも理由だが、せっかく来てくれるのだから、サーカスの裏側も見て心から楽しんで欲しいのだ。」
「楽しんで欲しい……」
「ああ。華やかな表面だけでなく、裏方達の様々な努力にも目を向けて欲しいからな」
「……わかった。せっかくだからな」
「私もわかりました」
「ああ。では怪盗クイーン、当日はお互いに良い勝負にしようじゃないか」
「ええ」
立ち上がって手を差し出したホワイトフェイスとクイーンは握手を交わしたが、一見和やかに見えるその場の雰囲気はどこかピリついており、二人の目に宿る光も自信に満ち溢れた物だった。
政実「第18話、いかがでしたでしょうか」
元気「次辺りからリンデンの薔薇を盗み出すための話になっていきそうだな」
政実「そんなところだね。もちろん、原作に寄りながらオリジナル要素も加えていくけどね」
元気「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」