怪盗の助手の非日常   作:九戸政景

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政実「どうも、一緒に歩くなら話しやすい人が良い片倉政実です」
元気「どうも、神野元気です。たしかに一緒にいる時に雰囲気が悪いよりは楽しく話せた方が良いかもな」
政実「そうだね。その分、自分も相手に不快感を与えないように話し方とか話題は考えるべきだけどね」
元気「そうだな。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第22話をどうぞ」


第22話 同行者

「伊藤真里……」

「……あ、そういえば前に名前だけ聞いたことあるよね。ほら、『72時間働けますか?』がスローガンの編集さんだって言ってなかったけ?」

「言われてみれば……」

 

 アリスの言葉で元気が真里の事を思い出していると、真理は意外だといった顔をする。

 

「あら、誰から聞いたん?」

「あ、えっと……知り合いからで、バイタリティーの化身のような人だって言ってましたよ」

「取材用の改造したパソコンと車を持っていて、それぞれに名前もつけてるとも聞いたな」

「ふむ……誰やろな、まあええわ。とりあえず改めて自己紹介させてもらうわね。うちは伊藤真里、旅と料理の情報誌、セ・シーマの編集者で、今日は怪盗クイーンがここに来るって聞いたから来たんよ。それで、こっちがさいちゃんやね」

「さいちゃんは伊藤さんが勝手に呼んでいるあだ名ですから! えっと、僕は西園寺(さいおんじ)考太郎(こうたろう)だよ。東亜新聞っていうところの社会部に所属してる新聞記者なんだ。

伊藤さんとはこの前の星菱邸の件で出会ったんだけど、その時も伊藤さんは本当にパワフルでね……」

「なんでかは知らんけど、犬や猫が警察の人やアナウンサー達に襲いかかって来たんよ。けど、あの程度なら苦にはならん。うちらはもっと険しい障害も乗り越えてでも取材をせんとあかんからね」

 

 真里がウインクをしながら言い、その姿にアリスが目をキラキラと輝かせる中、苦笑いを浮かべる考太郎に元気はため息をつきながら話しかける。

 

「その姿勢は悪くないけど、流石に限度があるんじゃないか?」

「あはは……まあそうだね。伊藤さんがたぶん特殊なんだと思うよ。というか、本当になんで旅と料理の情報誌の編集者のはずの伊藤さんが怪盗クイーンを追ってるんですか? どう考えてもジャンルが違うような……」

「世の中はミステリーも求めとるからね。そういった非現実的な刺激も時には必要なのよ。ただ、ある人にミステリーに関する記事を書く仕事をお願いしたら、中身の大半が食いしん坊の美食レポートみたいになっとるのに、結構反響あるのはちょっと予想外やったけど」

「そうなんですか?」

 

 アリスの問いかけに真里は静かに頷く。

 

「ええ。初めて仕事をお願いした時もその地域で起きとった住民の消失事件について書いてもらう予定で、その後も幽霊のシュプールが出たのに取材先のペンションで食べたビーフストロガノフの事書いとったしね」

「ビーフストロガノフ……」

『ロシアの郷土料理で牛肉や玉ねぎなどを炒めてスープで煮込んだ物にサワークリームを加えた煮込み料理です。因みに、ロシアのビーフストロガノフはサワークリームを入れている分、見た目が白っぽいのが特徴ですが、日本でよく見られるビーフストロガノフはデミグラスソースなどを使った茶色い物が主流のようです』

「へー、そうなんだ。RDさんは本当に物し──」

 

 その瞬間、アリスがハッとしながら口を押さえると、真里は一瞬メガネのレンズをキラリと輝かせたが、すぐにアリスに微笑みかけた。

 

「……今、なんか聞こえた気がしたけど、気のせいやった事にしとくわ。貴女にも何か事情があるんやろうしね」

「い、良いんですか?」

「色々突っつけば何か出てくるとは思うけど、そこまでするのも可哀相やからね。それに、うちの事を前に助けてくれた人も同じ状況やったらきっとそうすると思うんよ」

「助けてくれた人……」

「そう。うちが前に道を踏み外しそうになった時、しっかりと見ておきながらもやりたいようにやらせてくれた不思議な人がおってな、その人はいつもみんなが幸せになる方法を考えてそれをやってくれとる。だから、同じようにうちもそうしたいんよ」

「伊藤さん……」

「因みに、その人がさっきから話題に出しとる人なんやけどね。底無しの胃袋を持っとる上に自分の名前すらも忘れる怠け者で、いっつも同じ格好なんやけど、いざという時にはしっかりと決めるから、警察の上越さんも頼りにしてるみたいなのよ」

「上越さんって、もしかして上越警部ですか?」

「そやけど……みんな知り合いなん?」

 

 真里が驚く中で元気は頷いてから答える。

 

「ああ。さっき、外でアリスがぶつかった時に出会って、何かあったらかけてくれって名刺も渡されてる」

「そうやったんか……けど、あの人やったら間違いないと思うわ。その名刺と出会い、大事にしとき」

「はい。そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はアリス、アリス・タナーです」

「……神野元気だ」

「俺はクレール・カルヴェ、このセブン・リング・サーカスの団員見習いで、今日はこの二人の案内を団長から頼まれてるんだ」

「アーちゃんにゲンちゃん、それとクーちゃんやね。よろしく、三人とも」

「はい──って、アーちゃん?」

「三人のあだ名や。さいちゃんと同じで名字から採ろうかとも思うたけど、こっちの方が可愛いやろ?」

「はい! 私、すごく気に入りました!」

「ふふっ、喜んでもらえてよかったわ」

 

 アリスと真里が笑い合う中、それを見ていた元気とクレールは何とも言えない顔をしていた。

 

「……あだ名、いるか?」

「いらない、と思う。けど、アリスが喜んでるし、とりあえず受け入れておくか」

「……そうだな。さて、それじゃあそろそろ行くか。アリス、そろそろ行くぞ」

「あ、そうだね。でも、伊藤さんとももっと話したいし……あ、それなら伊藤さんと西園寺さんも一緒にまわりませんか?」

「……は?」

「ん、ええの? サーカスの関係者が一緒やったらたしかに色々聞けて助かるけど、アーちゃん達も事情があるんやろ?」

「たしかにそうですけど、何かあった時に大人の人が近くにいたら助かるかなと思うんです。元気も頼りになるし、クレールもいるけど、それでも私達だけじゃ力が足りない時もあるかなって」

「ふむ……たしかにそうやね。ゲンちゃんとクーちゃんはどうや? 二人もそれに賛成やったら一緒にまわらせてもらいたいんやけど」

 

 真里の言葉に元気とクレールは顔を見合わせた後、揃ってため息をついた。

 

「……アリスの言いたい事もわかるし、特別断らないといけない理由もないからな」

「だな。俺が団長に言われたのはこの二人の案内だが、俺がいた方が団員達への取材も円滑に進むだろうし、団員見習いとしてそうする方が正しいか」

「二人とも……ありがとう!」

「どういたしまして。ただ、別行動にしたい時は遠慮なくそう言わせてもらう。そっちも時にはそういうタイミングが必要だろ?」

「そうやね。せやから、その時は後で合流する場所を決める事にしよか。クーちゃんやったら集まりやすい場所もわかっとるやろから、その時はお願いな?」

「まあ、それくらいなら……というか、西園寺さんもそれで大丈夫なんですか?」

「うん、アリスさんの思い付きには驚いたけど、みんなと一緒に行動する事には賛成かな。ただ、サーカスの事や団員の人達から話を聞くよりもその時の君達の姿も見ていたらきっとより良い記事が書けると思うんだ」

 

 クレールからの問いかけに考太郎が微笑みながら答えていたその時だった。

 

「おや、伊藤さんに西園寺さんではないですか」

 

 その冷たく落ち着いた声を聞いて元気達が視線を向けると、そこにはスーツ姿の男性がいた。黒い角刈りにスーツ越しでもわかる程に鍛えられた肉体、無駄のない身のこなしの男性に真里は一瞬ウゲッといった顔をする。

 

「……なんや黒田さんやないですか。怪盗クイーンを捕まえなあかんのに、うちらに構ってる暇なんてあるんですか?」

「ご心配なく。お二人も受けて頂いたように入場ゲートでは警察官がチェックをしていますし、警察庁の特別捜査課にもパトロールはしてもらっていますから。もっとも、彼らにはあまり期待をしていませんがね」

「……警部さん達だって頑張ってるのに。私、星菱さんとは別の意味でこの人嫌いかも。警部さん達を悪く言われただけじゃなく、雰囲気が冷たいしなんだか嫌い」

「……同感だな」

「同じく」

 

 元気達が黒田に対して不信感のこもった視線を向けていると、黒田はその冷たい目を元気達に向ける。

 

「……この子達は?」

「さっき出会った子達です。こっちのクレール君はここの団員見習いで、こっちのアリスさんと元気君はクレール君から案内をされとって、色々お話ししてたんです」

「そうですか。まあ子供と戯れるのも良いですが、くれぐれも私達の捜査の邪魔だけはしないように」

「……したらどうなるんだ?」

 

 元気が警戒しながら敵意のこもった視線を向けながら問いかけると、黒田は表情を変えずに答える。

 

「君達には関係ないが、少なくとも伊藤さん達が今度は留置所の体験談を書く事になるだろう。それでは、私はこれで」

 

 そう言って黒田が去っていくと、アリスは汗ばんだ手でスッと元気の手を掴み、真里は去っていく黒田の背へ向けて小さく舌を出した。

 

「ふん、公安部の黒服連れとるからって偉そうに」

「実際、警察庁の中ではお偉方ですからね」

「なるほどな……アリス、大丈夫か?」

「……うん、大丈夫。元気の手を握ってたら落ち着いてきたよ。ありがとう」

「どういたしまして。それにしても、あれが黒田って奴か……クレール、前に見たのもアイツか?」

「ああ、その時もあんな雰囲気だった。もっとも、俺には気づいてなかったみたいだが、あんな奴なら知られてなくても良いな」

「同感だ。だけど、今ので名前も顔も知られたし、あまり目だった行動は出来なそうだな」

 

 その言葉に真里はしまったという顔をする。

 

「そやね……三人とも、本当にごめんな」

「伊藤さんが謝る事じゃないですよ。私達の代わりに説明までしてくれましたし、怯まずに話してる伊藤さんの姿は本当にカッコよかったですよ」

「アーちゃん……ふふ、ありがとう。さて、それじゃあそろそろ行こか?」

 

 真里の言葉に四人が頷いていた時、元気とアリスがつけたイヤホンからRDの声が聞こえ始める。

 

『元気、アリス、先程の黒田という男について情報はまとめましたので、二人が歩いている間にお話ししますね』

「わかった。ところで、岩清水刑事はどうしてる?」

『トルバドゥール内を軽く探索した後、イヴの遊び相手をして、のんびりしているシュルツの姿をボーッと眺めていましたよ』

「……そうか」

「やっぱり、案外悪い人じゃないのかも?」

「もしかしたらな。とりあえず何か変わった動きをしたら教えてくれ」

『畏まりました』

 

 RDが返事をした後、五人はテント内をゆっくりと歩き始めた。




政実「第22話、いかがでしたでしょうか」
元気「今回もそれなりに出会いがあった回だったな」
政実「そうだね。因みに、これからも色々な出会いがある予定だよ」
元気「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」
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