元気「どうも、神野元気です。高所恐怖症とかではないんだな」
政実「そうだね。高いところから見下ろした時は一瞬ゾワッとはするけど、それだけではあるかな」
元気「そうか。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第23話をどうぞ」
歩き始めてから数分後、真里と考太郎がスタッフ達の様子に目を向ける中、元気とアリスはイヤホンを通じて黒田に関する情報をRDから得ていた。
『──と、今のところはこのような感じですね』
「なるほど。さっきも警察庁のお偉いさんだとは聞いたけど、警察内でも日本政府に近い立場の奴だったなんてな……」
「そうだね。でも、だからと言って上越警部さん達について好き勝手に言って良いわけじゃないよ。やっぱり私はあの人が嫌いだな」
「基本的に関わる事はないと思うけどな。けど、そんな奴がどうして団長に会いに来たんだ?」
「そこだな……RD、お前はどう思う?」
『確信があるわけではありませんが、ホワイトフェイスと黒田には以前から何らかの繋がりがあり、その話をするために訪ねて来たと考えたら辻褄は合うかと』
「ホワイトフェイスと黒田に繋がりが……」
RDの話を聞いた元気が顎に手を当てながら考え事をしていたその時だった。
「え、伊藤さんって本物の怪盗クイーンを見た事があるんですか!?」
考太郎が驚く声が突然聞こえ、元気達が揃って真理に視線を向けると、真理は視線を浴びながら得意そうに胸を張る。
「そうよ。スゴいやろ?」
「はい、スゴいです!」
「ふふん。その時の話、聞きたい?」
「是非!」
「元気君達はどうや?」
「怪盗クイーンと会った話、か……」
「そういえば、クイーンさんも伊藤さんの事は知ってたし、それは本当っぽいよね」
「そうだな。聞いても良い話なら聞かせてもらえると助かる」
「伊藤さん、お願いします!」
元気が静かに答え、考太郎が目を輝かせる中、真理は考太郎の目の前に人差し指を立てた。
「ほな、お昼はさいちゃんの奢りやね」
「……え?」
「同じ情報を集めて発信する職業の者としてタダで話すわけないやろ? 元気君達の分も含めてよろしく頼むわ」
「え、それは申し訳ないような……」
「……ううん、良いよ。伊藤さんの言う通り、何の対価も無しに話を聞くなんて甘いからね」
「西園寺さん……ありがとうございます」
「……ありがとう」
「ありがとうな、西園寺さん」
「どういたしまして」
元気達に考太郎が微笑む中、真理はその光景を見ながらニッと笑う。
「それじゃあそれは後のお楽しみにして、今は取材を頑張ろか。時間は待ってくれへんからね」
「そうだけど、誰に取材をするんだ?」
「そうやね……クーちゃん、誰かええ人知ってへん?」
「取材を受けてくれそうな人……マジシャンのプリズムプリズムと鍵師のジョー・セサミ、後は竹馬男のスタイリー井上と大砲男のロケットマン辺りなら大丈夫そうかもな。他は……催眠術師のシャモン斎藤くらいで軽業師のシルバーキャット瞳は止めておいた方が良いかもな」
「え、どうして?」
「実は今朝から──」
クレールが説明をしようとしたその時、休憩テントの一つからシルバーキャット瞳とスタッフらしき一人の男性が姿を現した。
「瞳さん、それは危険ですって!」
「止めないで!」
「お、噂をすれば……でも、やっぱりそうなってるか」
「やっぱりって、何かあったの?」
「……まあ、せっかくだから本人から聞いた方が早いか。瞳、ちょっと良いか?」
「何!? って……クレール、それとあなた達は……」
少々苛立ちを見せていたシルバーキャット瞳だったが、元気とアリスの姿を見ると、すぐに平静を取り戻した様子でその表情も柔らかくなった。
「久しぶりね、お二人さん。あの夜に会って以来かしら」
「お姉さん、ここの団員さんだったんですね」
「あら、アーちゃん達知り合いなん?」
「はい。お姉さんとはすごく大きな体のお兄さんと一緒にいるところに会ったんです」
「怪力男のジャン・ポールね。クレール、ちゃんと案内はしてる?」
「してるさ。それで、まだ“あれ”をやろうとしてるのか?」
クレールの言葉にアリスは首を傾げる。
「あれって?」
「演目の一つでバランスビームっていう最高難度の奴だ。高さ三十メートルの位置に四本のワイヤーで吊られた平均台くらいの棒の上で連続宙返りをするんだ」
「え……それって本当に危険なんじゃ」
「だから、落下防止のために防護ネットは張るんだけど……シルバーキャット瞳はそれを無しでやりたいって言ってるんだ。大石さんも言ってるけど、そんなのはあまりにも危険だ。おとなしくネットは張っとけって」
「クレール君の言う通りですよ、瞳さん。いくら怪盗クイーンが来るからってそんな事をして本当に落ちたら……!」
「危険は承知の上よ。だけど、怪盗クイーンが見に来るのに、無様な演技なんて見せられないわ」
先程よりも落ち着いてはいたものの、その語気は強めであり、断固として意見を曲げないという意思の強さがハッキリと見て取れた。その様子にクレールは呆れたようにため息をつき、大石が不安と心配が入り交じったような表情を浮かべる中、アリスは真理に話しかけた。
「瞳さん、どうしてこんなにやりたがってるんでしょうね? いくら怪盗クイーンが来るからって危険な事をする理由には……」
「うーん……それはクイーンの噂が理由かもしれんな」
「噂?」
「実は怪盗クイーンは軽業師をしていたご先祖様がいるって言われてるのよ。あくまでも噂で信憑性はあまり無いんやけど、江戸時代にある見世物小屋には竹光で色々な物を切ったという人や目隠しで綱渡りをしながら軽やかに跳ねたりお手玉をお客の着物の袖の中に投げ込めたりする人がおったらしいから、ただの噂として片付けるのは難しいところやね」
「そっか……そんなご先祖様がいる怪盗クイーンの前だから、瞳さんは自分も軽業師として負けていないって見せたいんですね」
「そういう事になりそうやね」
真理が頷きながら答えると、アリスは心配そうな顔をしながらシルバーキャット瞳に視線を向ける。
「瞳さん」
「……何かしら、お嬢さん?」
「瞳さんが怪盗クイーンに見せるためだと言ってとても難しい技をやりたいのはわかりました。それが出来たら、怪盗クイーンだけじゃなくお客さん達からもたくさん拍手を送られると思いますし」
「アリス……」
「そうよ。私は軽業師としてしっかりとした演技をしたい。だから──」
「でも、私も瞳さんには少しだけ考え直してもらいたいって思います。見てみたい気持ちはありますけど、本当に失敗しちゃった時のお客さん達の気持ちを考えたら、見てみたいからやって欲しいなんて言えないです」
「お嬢さん……」
「最終的に決めるのは瞳さんです。だから、これ以上は言いませんけど、防護ネットを張る以外で瞳さんが譲歩出来るところがあったらそれはやって欲しいです。
まだ瞳さんとはあまりお話はした事が無いですけど、あの夜にお話しした時の瞳さんはとても良い人だなと感じたので、怪我をして欲しくは無いですから」
心配そうな顔をするアリスが真っ直ぐな目でシルバーキャット瞳を見つめると、その目にシルバーキャット瞳は力が抜けた様子で小さく息をついた。
「……考えておくわね。お嬢さん、名前は?」
「アリス、アリス・タナーです」
「アリスさんね。ごめんなさいね、アリスさん。まだ二回しか会ってない貴女にそこまで言わせてしまって」
「いえ、良いんです。その演技を見てみたい気持ちはあっても、落ちて怪我をする瞳さんは見たくないですから」
少し安心したようにアリスが言う中、シルバーキャット瞳は一瞬驚いたような顔をした後にクスリと笑った。
「……なんだか貴女って不思議な子ね。さっきまでやらないとって思ってたのに、話をしていたら少しずつ気持ちが落ち着いて、考えるだけの心の余裕が出てきたんだもの。大石君もごめんなさい。止めてくれてたのにやるの一点張りしかしなくて」
「いえ、瞳さんが軽業師として真剣に演技の事を考えてるのは知ってますから。でも、やりたい気持ちはあるんですよね?」
「……そうね。少しは落ち着いたけど、それでも最高難度の技を更に難しくした物に挑戦したいのは変わらない。アリスさんや大石君には申し訳ないけどね」
「瞳さん……」
「でも、しっかりと注意は払うわ。アリスさんの言う通り、見に来てくれたお客さんのためにもね。アリスさん、本当にありがとう。ここで貴女に会えて良かったわ」
「いえいえ。瞳さん、頑張ってくださいね」
「ありがとう。それじゃあね」
そう言ってシルバーキャット瞳は大石を連れて歩き去り、真理と考太郎は驚きながらアリスに視線を向けた。
「アーちゃん、スゴいやん。あそこまでカッとなっとった人を落ち着かせるやなんて」
「別に大した事はしてないですし、瞳さんがちゃんと大人だっただけですよ」
真理の言葉にアリスが笑いながら答える中、その姿を見ながら元気はRDに話しかけた。
「RD、今の見てたか?」
『はい。カメラを通してシルバーキャット瞳のスキャンもしましたが、アリスが話しかける前と後では確実に心身ともに落ち着きが見られました。つまり、アリスが会話を通じてシルバーキャット瞳を宥めたのは間違いないかと』
「……そういえば、犬猫をトルバドゥールの中に大量に乗せてた時もアリスだけは警戒心が強い奴にも懐かれてたよな。あれも今のと同じ現象か?」
『サンプルが少ないので断言は出来ませんが、似たような物だとは思います』
「そうか……」
RDの意見を聞き、元気が答えると、クレールは何がなんだかわからない様子で元気に話しかけた。
「おい、それってどういう事だ?」
「今のところ、俺達にもわからない。ただ、今後も同じような事があるかもしれないし、少しアリスの様子には注意をするべきだろうな。クレール、お前もアリスの様子には注意を払ってくれ」
「……仕方ねぇ、わかった」
「助かる。アリス、そろそろ行くぞ」
「あ、うん。伊藤さん、西園寺さん、行きましょうか」
「そやね」
「うん」
真理と考太郎が返事をした後、再び五人は歩き始めたが、アリスを見る元気の目は少々鋭さを増していた。
政実「第23話、いかがでしたでしょうか」
元気「シルバーキャット瞳と再会した回だったが、アリスについても少し情報があった回にもなったな」
政実「うん。けど、それについては後々のお楽しみという事で」
元気「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしているので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」