怪盗の助手の非日常   作:九戸政景

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政実「どうも、競争相手がいると燃える片倉政実です」
元気「どうも、神野元気です。競争相手はたしかに重要だな」
政実「うん。励みになるし、負けたくないっていう気持ちも沸いてくるからね」
元気「そうだな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第24話をどうぞ」


第24話 休息の中の学び

 シルバーキャット瞳との出会いの後、元気達は真理の提案でフードコートを訪れていた。テーブルの上にはフライドポテトやコーラが入ったカップ、ハンバーガーなどが置かれており、真理はそれらを前にしながら笑みを浮かべた。

 

「三人とも、召し上がれ。遠慮とかせんでええさらね」

「払ったのは僕ですけどね……というか、まだお昼じゃないのにどうして払わされてるんだろ……?」

「綺麗な女性や可愛い女の子に何かを奢れる男性なんてそうおらんよ? さいちゃんは恵まれた子なんやから自慢気にしとったらええの」

「恵まれなくても良いんですけどね……」

 

 孝太郎がため息混じりに言う中、アリスは申し訳なさそうに孝太郎に話しかける。

 

「すみません、西園寺さん……」

「いや、良いよ。これもお昼代も領収書を切ってもらうから。それにしても、さっきのアリスさんはすごかったね」

「あの時も思ったけど、たしかにすごかったなぁ。ゲンちゃん、アーちゃんっていつもあんな感じに大人とも平気で渡り合ってるん?」

「……いや、見たのは俺も初めてだ。ただ、少し前に警戒心が強い犬や猫をすぐに懐かせていたから、警戒心が強い相手や少し興奮気味の相手を落ち着かせるだけの雰囲気を常に漂わせているんだろうな」

「なるほどなぁ……けど、それって中々良い事よ。アーちゃん、それは自慢に思ってええと思うわ」

「自慢に……はい、そうします!」

 

 アリスが満面の笑みを浮かべ、真理はニコニコ笑いながらアリスの頭を撫でると、元気達を見回しながら少し得意気な顔をする。

 

「良い事教えてもろたし、ウチもちょっとお話してもええかな」

「お話って、伊藤さんについてですか?」

「お、ウチについて気になってくれるん? それは嬉しいけど、それはまた今度。ちょっとしたお昼の先払いになるんやけど、ウチから見た怪盗クイーンについて話をしよか」

 

 その瞬間、四人の顔は驚きの色に染まる。

 

「は、話してくれるんですか!?」

「あくまでもウチから見た怪盗クイーンについてやからね。それで、怪盗クイーンなんやけど……」

「怪盗クイーンなんやけど……?」

「アリス、話し方まで真似しなくて良い。それで、怪盗クイーンはどんな人物に見えるんだ?」

「そうやね……よくわからんっていうのが正直なところやね」

 

 真剣な顔から出てきた真理の言葉にアリスはお笑い芸人のようにずっこける。

 

「わ、わからんって……」

「伊藤さん、話すって言ったんだからずるは大人として良くないですよ……」

「いや、よくわからんっていうのが正しいんよ。なにせ中々正体も掴めんし、今回やってサーカス見物に行くなんて世間に言いふらして、警察まで出動する事態になっとるんやで? 世間を騒がせる怪盗やのに、そんな事をわざわざする理由がわからんわ」

「よくわからないってそういう事だったんですね」

「そうよ。さいちゃん達は怪盗クイーンの異名って知っとる?」

 

 真理の問いかけにアリスは少し考えた後に思い出した様子で答える。

 

「異名……あ、たしか蜃気楼(ミラージュ)でしたっけ?」

「正解。アーちゃん、よく知っとるね。その異名の通り、怪盗クイーンはまったく掴み所がない上に異名の由来となった蜃気楼の術っていう催眠術で人の記憶にも残らんように出来る。そうなったらよくわからんっていうのが怪盗クイーンを示す言葉になるのよ」

「実際に見た伊藤さんですらそういう感想になるなら、怪盗クイーンについてわかる事なんてそんなになさそうですよね。ウチの新聞社のデータベースも後はジョーカーという名前のパートナーがいるくらいしかわかりませんし」

「そうやね。でも、なんとなくわかる事もあってな。怪盗クイーンは大人でありながらも子供でもあるのかもしれないわ」

「大人でありながらも子供である……? 大人だけど子供で、子供だけど大人で……?」

 

 アリスがむむむという顔で人差し指をこめかみに当てていると、その姿を見た真理はクスクスと笑う。

 

「簡単に言えば、大人ではあっても子供みたいなところもあるって事よ。今回やってサーカス見物したいんやったらこっそり来ればええのにわざわざ世間に報せとる。この点を考えると、ちょっと子供っぽいところがあるように思えるのよ」

「たしかに……」

「けど、その辺の泥棒みたいにただ金目の物を盗んだり居直って強盗をするわけでもない。盗むにしても何か曰くがあったり盗品やったりするし、自分の仕事のために周囲をパニックにさせるわけでもなく、実にスマートに仕事をこなす。そういうところは大人っぽさがある。つまり、子供の心も持った大人って事やね」

「子供の心も持った大人……それって良い事なんですか?」

「場合によると思うわ。せやけど、子供の目線で物事を考えられたり周囲を良い方に巻き込めたりするのは素直にすごいと思っとる。

大人になるのは良い事で必要な事やけど、精神が子供のままで大人になるのと心身共に成熟して大人になるのは本当に違う。身体だけ成長しても精神が伴わないとただ周囲に迷惑をかけたり悲しませたりするだけの存在にしかならん。そんな大人ばっかりになってきとるのは同じ大人として恥ずかしいしアーちゃん達に申し訳ないんやけどな」

 

 そう言う真理の顔は本当に申し訳なさそうなものであり、アリス達が真理を見つめる中、真理は周囲をゆっくりと見回す。

 

「せやから、怪盗クイーンがサーカス見物をするって世間に言うたのは正解やったと思うわ。このセブン・リング・サーカス自体が結構有名なサーカス団っていうのもあるけど、怪盗クイーンを一目見ようと色々な人が集まって、サーカスの公演で夢のような時間を過ごす。

今の時代やったらテレビゲームとか動画サイトみたいに出掛けんでも楽しめるコンテンツは多いけど、生で観るサーカスの公演はまた違った楽しさをウチらに与えてくれる。画面越しでは伝わらん迫力やスリル、他の観客の生の声が揃って観客は子供の頃に戻ったようにサーカスを楽しめる。ウチはそう思ってるのよ」

「実際に見たり経験したりする事が大事という事ですね?」

「正解や、さいちゃん。たしかに実際に観ても動画サイトなんかの配信で観ても内容は同じやから感想を話し合う事は出来る。せやけど、実際に観た側は画面越しで観ていた側と違って会場内の雰囲気や開始前の観客のワクワクした声、音楽や吠える猛獣達の音圧や団員達の楽しそうな顔まで楽しめとる。

色々な事情があって生で観られん事もあると思うけど、可能なら実際に足を運んだ方がええと思う。ウチらみたいにそこにしかなかった出会いもあるからね」

「たしかに実際に来てなかったら警部さん達にも伊藤さん達にも会ってないですし、こうやってお話を聞く事もありませんでしたからね」

「そういう事。さて、これでウチの話は終わりや。長々とごめんね」

「いえ、すごくタメになりました」

「僕もです。ただ、この話を聞けたのはこの子達のおかげですけどね」

「ウチもこんな風に話す気は無かったんやけど、不思議と話そうと思えたんよ。やっぱりアーちゃん達は不思議な子達やね」

 

 真理はにこりと笑いながら言うと、気持ち良さそうに体を上に伸ばした。

 

「んーっ……それじゃあ食べたらそろそろ取材に戻ろか。公演開始までにもう少し取材はしておきたいし、時間は待ってくれへんからね」

「そうですね。でも、次は誰に話を聞きましょうか? クレール君はマジシャンや鍵師が良いと言っていましたけど……クレール君、どこにその人達がいるかわかるかな?」

「そうだな……公演前だからみんな控え室にいるかもしれない。さっきシルバーキャット瞳と出会った辺りに休憩用のテントがあるから、そこに行ってみたらいるかもしれないな」

「ああ、あの辺やね。ところで、クーちゃんは団員見習いって言うとったけど、いつもは何の練習をしてるん?」

「俺は運動神経に自信があるから、基本的には軽業や空中ブランコの練習をしてる。流石にシルバーキャット瞳みたいにはいかないが、それでも宙返りや綱渡りは出来るようになってきたし、空中ブランコも少しずつ失敗は減ってきてるな」

「へー、そうなんだ」

「ああ。だけど、これじゃあまだ足りないんだ。あっと言わせてやりたい奴はこの程度だとその澄まし顔を変えないだろうからな」

 

 クレールの視線の先には元気がおり、元気は咀嚼していたフライドポテトを飲み込んでから小さくため息をついた。

 

「お前の頑張りは認めてる。実際、前よりも体つきもがっしりとしてるし、雰囲気もなんだか違う感じがしてるからな」

「お、おう……」

「だが、俺だって負けるつもりはない。お前が努力を重ねて俺に向かってくるなら、俺もそれ相応の努力をするのが礼儀で、無様な姿を見せるわけにもいかないからな」

「……へっ、ようやくお前のそういう姿を見られたな。いつもすかしてて気にくわなかったが、これでようやくお前を、元気をちゃんと見つけられた気がするぜ」

「それなら見失うなよ? 見失ったら、今度は二度と見つけさせてやらないからな」

「臨むところだ。二度とどこにもいかせてやらねぇから覚悟しとけ」

「お前こそな」

 

 やる気に満ちたクレールと落ち着いた調子を崩さない元気、と二人の様子は違っていたが、その目の奥には相手に対してのライバル心のような物が燃えており、アリスが二人の姿に安心したような笑みを浮かべる中、真理は面白そうにクスクスと笑った。

 

「それがゲンちゃんとクーちゃんの絆なんやね。見ていて気持ちもええし、ずっとそんな感じでいて欲しいわ」

「僕も同感です。なんだか男同士の友情って感じで眩しく見えます」

「ふふ、そうやね。さてと、エエもんも見せてもらって取材の活力にもなったし、そろそろ食べ終えて取材を再開しよか」

 

 その真理の言葉に四人は頷いた後、再び飲食を始めた。その姿は会話をする前と変わらなかったが、そこにはとても和やかな空気が流れていた。




政実「第24話、いかがでしたでしょうか」
元気「今回は小休止的な回だったな」
政実「たまには良いかなと思ってね。けど、次からはまたストーリーが進んでいくよ」
元気「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それではまた次回」
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